それでも魔王は倒す
「……正直さ、魔王討伐なんて俺は行かなくてもいい気がしてる」
何か考え込んでいたと思っていたら、不意に疲れた顔を上げてでセルバが言った。
「……別に私もそれでいい気がする。みんなで旅をするほうが楽しいし、今はみんなで旅できることが一番いいかなって。
このまま、ずっとみんなで旅が出来れば、それで私はいい。いいえ、それがいいの」
レティシアもそれに同調する。
だが、それを否定するように、
「……誰が魔王を倒すんですか」
と、ペレーが苦い顔で呟いた。
「……別に魔王なんてほっとけばいいだろ。俺たちが生きてる間になんかが起こるわけでも無いんだろ? 正直俺たちが命賭けるってのは腑に落ちないと思ってるし」
「……貴方の子供や孫、それに民たちはどうするんですか。それに魔王はその聖剣が無いと倒せない」
「別に俺は子供を作ることはおろか結婚する気もないし、聖剣なら他の奴に渡してやるからそいつに魔王を倒させればいいんだろ」
「聖剣は今世紀ではもう貴方しか使えないんですよ!! いい加減なこと言わないでください!」
ペレーが珍しく激昂した。
そう言えばペレーは勇者が魔王を倒すことの重要性について言ってたことがあった。
ペレーは学者で頭がいいからきっと魔王討伐の重要性について知っているのだろう。
「……じゃあ、お前は自分の命賭ける覚悟あんのかよ」
「……ありますよ。それこそ僕がパーティー加わったばかりの頃は、僕はまだ勇者パーティーとして名乗るには力不足でしたからね。
勇者と一緒に入るような危険なダンジョンに行く旅なんて、毎日死の覚悟をしていたから。……それに勇者になったからには、最後はこうなることくらいわかっていたんでしょ?」
「……」
セルバは顔を伏せていた。
「……さっきまでやる気満々だったじゃないですか」
「っ!、それはお前らのために……」
何かを言いかけてセルバは口を噤んだ。
「……」
俺はなんて言ったらいいかわからなくてずっと俯いていた。
この状況でどうすることが一番いいかなんてわからないけど、でもなんていうか……
「……喧嘩しないでよぉ」
俺の心の吐露が聞こえた。
少し驚いて目を聞こえた方に向けるとレティシアは両の手を強く握って、真紅の大きな瞳を潤ませていた。
「……どの道魔王を倒さない限り他の人からは、世界を救えないダメな勇者だと映るでしょう。
民の心象は良くありませんし、今まで通り楽しい旅を続けることは難しいと思いますよ」
「……っ、はぁ……しゃあないなぁ」
セルバは大きくため息を吐くと、急に俺の両肩に手をぼすっと置いて。
「帰ってくるわ。絶対」
「……何フラグ立ててんだよ」
「じゃあ、なんて言えばいいんだよ」
「……わからんけどさ」
「なんだよ……」
セルバがもう一度、小さなため息をついてから魔王城の方に向きかえる。
その横顔はやっぱりイケメンで、バックの魔王城と相まって、今まさに魔王を討伐する勇ましい勇者そのものだった。
「……行くか」
セルバは声を掛け、
少し間を開けレティシアが頷いた。
ペレーは特に反応を示さなかったが、セルバが歩き出すと、その後ろを歩幅に合わせてカツカツと杖をつきながら歩いて行った。
見慣れてていた背中は遠ざかっていく。
言い知れぬ、虚しさを感じた。
「……マレスタラの爺さんが宿をやってるとこだ! 終わったらそこに来てくれ! 待ってるから!」
小さくなっていく背中に、言い忘れていたことを思い出して、俺が大きな声をあげるとセルバはひょいっと左手を挙げて軽く返事を返した。
それが俺が見た勇者一行の最後の姿だった。