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死地には連れてけない

変なところがあったら言ってください


「……こっから先は本当に危ないんだ」


そう言って切れ長の瞳で俺を見つめてくるのは、男の俺でも目を奪われそうになるくらいのイケメンだった。


通称魔王城。


広大で生臭く、薄暗く、時折死を具現化したような黒い靄やら朽木やらが散乱する荒野の中央。


聳え立つはこの世のものとは思えないような建築物。

周囲に闇の衣を纏い、常人では近づくこともままならぬほどの邪悪な存在。


俺たちがそれを見上げるようにして立ち尽くしていた時に掛けられたのがこの言葉だった。


「……ここまで来て引き返したくない」

「でも、正直言ってお前じゃ実力的に厳しい」


そいつの瞳には冗談なんて微塵もなかった。


わかってる。俺の実力不足なのは。


途中から気づいていた。 自分の成長が限界に近いと


だけど、こいつは幼馴染であり、親友であって、ずっとこいつの近くいたいと思っていたから他のみんなには内緒で毎晩筋トレしたり、魔物を狩ったり、追い付けるように努力はしていた。


なのに届かなかった。


「……私もここから先に行くにはテイルには厳しいと思う」

「最後までみんなで一緒に行けたら良かったんですが…」


いつもならその無邪気に大きな紅瞳を向けて、面白おかしくからかってくるレティシアも、今は目を伏せていた。

丸眼鏡に小さな背丈に似合わないような大きな杖を突いたペレーも、少しうつむき気味で残念そうな声音でそう言ってくる。


「くんぅ?」


真っ白の毛並みの大型犬くらいの大きさを持つ聖犬バルカンは意味がわかってなさそうに俺を見上げてきた。


俺たちは男3人女1人犬1匹の、巷では「煉獄の勇者パーティー」と呼ばれるパーティーを組んでいる。


始まりは俺とこのイケメンと一緒に冒険に出たことからだ。


最初は別にセルバは普通の人間で、勇者ではなかった。


あの頃は、剣の腕は俺と互角ぐらいで、よく練習がてらに打ち合いもしていたもんだ。


転機はパラスカラ王国最南端のダンジョン「審議の剣」に訪れた時だった。

大岩に刺さった聖剣の柄をセルバが握ったことから運命は変わった。


その聖剣には代々勇者の素質がある人間にのみ、岩から引き抜くことが出来ると伝承されていた。


当時の俺とセルバはそんな話はありがちのお伽話か何かで、経験値を稼ぐついでで、興味本位の軽い気持ちを持って最奥まで探索したんだっけ。


そこにはマジで剣が岩に刺さってて、興奮したことは今も鮮明に覚えている。


『剣が抜けたら勇者パーティー結成な』


なんて冗談半分でセルバが剣の柄を握った瞬間、剣が刺さった大岩が眩く光ったと思ったら、次に見た時には、すっぽりとセルバの掌に剣が収まっていた。


『……マジか』

『……お前勇者になったの?』


そんなやり取りを、今なお忘れてはいない。

そして、その後聖剣の加護を受けたセルバは勇者となり、飛躍的に強くなった。


セルバの噂を聞きつけたパラスカラの国王に正式に勇者パーティーとして認められ、初めての王宮で豪勢な食事を食べた。すげぇ美味かった。


噂を聞きつけた隣国テルペン共和国に呼び出され、代々勇者パーティーに付き添い、共に旅をするという聖犬、バルカンと会ったんだ。

当時はここまで大きくなくて、一緒の布団で寝たりしたっけな。

朝起きるとバルカンのお漏らしで布団が濡れてたこともあって、それをセルバが指をさして

俺が漏らしただのと言いながら笑われたこともあった。


そして、バルカンが仲間に加わってから2年ぐらい経ってからだっけか。

この男2人犬一匹のむさ苦しいパーティーに初めて女が加わったのは。


確か、あの時は帝国オルマンでの会食のときだったっけ。


『勇者パーティーやってるんですよね?私はオルマンで聖魔騎士をやってるんですけどよかったら話を聞かしてくれませんか?』


なんておずおずと訪ねてきたのは赤髪、赤瞳の美少女だった。

話をしている間に、レティシアだという名前だと知って、当時まだ童貞だった俺はこんな可愛い女の子と話すなんて、と内心ドキドキしていた。


レティシアは最初こそ敬語で緊張していたが、オルマンに滞在してる間に仲良くなって、最後の方には互いに敬語無しで話すようになり、たまに俺を弄ってくるぐらいに親しくなった。


『よかったら、その、私も一緒に行きたいなぁ、なんて……』


俺とセルバが国から立つ日。

頰を薄く染め、髪を耳にかけながらそう言ってきたレティシアは物凄く可愛かった。


その後、パーティーに華が加わって内心ルンルン気分で浮いた気持ちで挑んだダンジョンで、戦闘中に足を踏み外して落ちたところにいたのがペレーだった。


勇者一行として、身体は普段から鍛えていたから怪我は大した事なかったが、完全にセルバ達とはぐれてしまって途方に暮れていた時に、ダンジョンの遺跡調査に来ていたペレーにバッタリと会ったんだ。


最初会った時は背が低くて、なんで子供がこんなところにいるんだろうと思って優しく接していたら、


『見た目は子供ですけど、一応20ですので』


と言われ、年上だったことが判明し、敬語に直して後もちょっとギクシャクしたのはいい思い出だ。


ペレーに出口まで案内され、丁度戻ってきたセルバ達と合流した時に、ペレーは勇者パーティーだということに気付いたらしく、凄い勢いで色々と聞いて来たっけなぁ。

その後の話の流れでペレーも仲間に加わった後は、ペレーの膨大な知識を活かしながら、世界各国を回った。


色んな街を回って、色んな狩場に行って。

ペレーが居ない時には名前すら知らなかった美しい街や、効率のいい狩場。


全部ペレーが案内してくれたっけ。


実力的には、当時はちょっと強い魔導師ぐらいだったのに、今では大陸で名を知らない者はいないくらいの大魔導士になって、すっかり俺では敵わなくなってしまった。


……本当に、色々あったな。


「お前とは一緒にいたいけどさ、だからこそ確実にヤバいところまでついて来てもらうのはやめてほしい」

「……」

「……」

「……」

「くぅう、がるっ!」


場の空気を察したのか、バルカンがセルバに短く、強く吠えた。一番近くにいたペレーがその毛深い頭を優しく撫でる。


「……別に俺たちだって絶対に安全ってわけじゃないんだよ。だからお前がなんていうか、俺たちが帰る場所に居てさ、

絶対に生きて帰りたいって俺たちが思うようにさ。

留守番って言うと聞こえは悪いが、お前が待っててくれるから死なないって思えると思う」

「……くさいこというなよ」

「別にふざけてるわけじゃねーけど」

「わかってるけど」


そう言って拗ねるように顔を地面に向けた。

黒がかかった茶色をした、見るからに栄養がなさそうな土だ。そこにひょろりと黒緑の雑草が地面の割れ目から生えていた。


そこで、今までずっと口を閉じていたレティシアとペレーが、俺の方を見ながら淡々と、でもどこか慰めるように言ってきた。


「……またさ、帰ったらみんなで楽しく旅をしようよ」

「そうですよ。別に今回は特別力がないと攻略出来ないダンジョンってだけです。

向き不向きなんて誰にでもあります。

僕だって体力に自信はありませんし、

テイルさんみたいに料理をしたり、

その他細かいことに気を回すのは苦手です。正直テイルさんに憧れてるような節だってありますし。


……今回だけは本当に危険なダンジョンです。失礼ですが、テイルさんでは適正に届いていないと思います。

はっきり言いますが、貴方では多分……いえ、確実に死んでしまう。貴方には死んで欲しくないんです。


だから、今回だけは一緒に来てほしくはないんです」


「……わかってるけど」







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