オレは死ぬときは、ありときりぎりすの寓話のきりぎりすのように孤独で悲惨な餓死をすると思うのだ。
もう、
幸せなんてどこにもないと気づいたから、
ありときりぎりすのきりぎりすのように
歌を歌って生きていこうと決めたのだ。
せめて、歌を歌って楽しいふりして
生きて行こうと決めたのだ。
その頃、
オレは広く大きな海には
まだ出ていなかったので、
こんな狭い川は俺には似合わないぜっと
早く大きな海に出たいもんだぜっと
俺の未来は前途様々だぜっと
意味もなく信じ込むことこそだけが、
夢をこの手にすることができる唯一の方法だと
何も知らないくせに、
場末の小さな酒場で、
バラ色の酔多話をしては、
ゲラゲラ笑って、不安を笑い飛ばして、
1人帰った部屋で、布団に包まり、
眠れない日々を過ごしていた。
人生なんてこんなもんさと、
なぁ、そうだろう、マイロード。
信じない神に尋ねては、
その問いかけが
うそ寒い部屋の壁に吸い込まれて行くのを
小さな目をショボ付かせながら
見つめていた。
ほんとうにそうなのかい、マイロード。
返るはずのない答えを、
なぜか真剣に待ちわびながら。
そうした日々が続き、
続き、続き、続き、
オレはいつのまにか、
幸せなんて、絵空事だと、
ただ言葉として存在するだけの
淡く儚い夢なのだと
間違うことなく知ってしまったのだ。
そこからのきりぎりすは
血を吐きながら歌ったぜ。
もう、幸せなんてどこにもないと気づいたから、
ありときりぎりすのきりぎりすのように
歌を歌って生きていこうと決めたその、
不幸を前提のハッピーデイズのフリだった。
老後なんて知らねーし、
何の期待もしちゃいないけど、
それでも突然幸せ色の、夢を見たがる日もあって
アローン、オレら、一人ひとりの孤独を噛み締めて
生きて行く気なんじゃないの
アローン、オレら、不平不満垂れ流してひとりっきりで
死んでいく覚悟できてるんじゃないの
だから歌うさ、きりぎりすとして、
いずれ暗くて狭くて寒い部屋で、
むかしばなしをなんどもなんども擦り切れるまで
繰り返しつぶやき続けるさ、
その声が、あゝ無情の壁に
吸いこまれ続けていくって、しっていながら。
そしてオレは死ぬときは、
ありときりぎりすの寓話のきりぎりすのように
孤独で悲惨な餓死をすると思うのだ。




