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ラルフ・サルバン視点

ざまぁ編は終わったと言ったな!あれは嘘だ!


…すいません。まあ行き当たりばったりで思い付くまま書いていればこういうこともありますよね。

皆様も執筆は計画的に。


※異世界ではありますが、ぶっちゃけ面倒なので時間関係は地球と同じにします。太陽は東から上って西に沈み、1日は24時間で1週間は7日、1月は約30日で1年は12カ月です。

 セリアお嬢様が屋敷を去られてから約1カ月後、レーヴェン侯爵領の領都にある屋敷では、現在パーティーが開かれています。

 このパーティーは近隣の領主を招いて行われたもので、ナキア様が新たにレーヴェン侯爵位を継がれたことを公表するものです。今も、ナキア様はにこやかに貴族の方たちと歓談という形を取った腹の探り合いをなさっておいでです。

 お相手の方たちはナキア様を少女と思って侮っているようですが、その感情を私でも見抜けるほど表に出している時点で、ナキア様の相手ではないでしょう。ナキア様は一見、穢れを知らない深窓の令嬢といった外見をしていらっしゃいますが、その内実は貴族として優れた才覚と手腕を持った、正しく清濁併せ呑む女傑です。あの程度の相手なら簡単に掌で転がしてしまうでしょう。


(ナキア様は大丈夫そうですよ、セリアお嬢様)


 窓から月を見上げ、わたくしは旅立って行ったセリアお嬢様に心の中でそう告げました。



* * * * * * *



「お疲れ様です。ナキア様」


 パーティーが終わり、執務室に戻ったナキア様に紅茶を差し出しつつ、そうねぎらいます。


「ありがとうラルフ」


 ナキア様は紅茶を一口(すす)ると、疲れを吐き出すように一度大きく溜息を吐かれました。


「まったく、わたくしの当主継承を祝うパーティーなのに、どの貴族もお姉様のことばかり。どこに行ったのかなんてなぜ私が知っていると思うのかしら?知っていたとしておいそれと話す訳ないでしょうに。まあ私を小娘と侮っていたのでしょうけど、あんな露骨にお姉様を求めれば、今大々的にその捜索を行っている王家に対する叛意とも取られかねないということが分からないのかしら?だとしたら近隣領主は予想以上に愚物揃いということになりますけど」


 そう、自分よりもはるかに年上の貴族たちを痛烈に酷評されるナキア様に苦笑しつつ、私はふと、セリアお嬢様との約束を果たそうと考えました。


「ナキア様、そのセリアお嬢様に関することなのですが…」

「…お姉様?」


 怪訝そうに片眉を上げるナキア様に頷きつつ、部屋にいるメイドに目配せして部屋から退出させます。

 人払いをしたことで内密の話だとお察しになったのか、ナキア様が表情を引き締められます。


「実はここだけの話、一月ほど前にセリアお嬢様がこの屋敷にいらっしゃいました」

「…あぁ、何でも着の身着のままで王都を飛び出したんですものね。その後にこの家で旅の準備を整えていったということかしら?」


 流石はナキア様。セリアお嬢様がいらしたという情報から、瞬時にその目的をご理解なさいました。


「その通りでございます。そして、その際にセリアお嬢様は、私にナキア様への伝言を託されました」

「私に?」


 益々(ますます)怪訝そうにされるナキア様に、私は窓の外に視線を送りつつ、セリア様の伝言をお伝えしました。


「『私はあなたのことを嫌ってはいなかった。あなたの気遣いに気付いてあげられない鈍い姉でごめんなさい。そしてありがとう』…そのように仰いました」


 その時、ナキア様のお顔に浮かんだ表情は何だったのか。それは驚きのようでも怒りのようでも、あるいは呆れのようでもありました。

 ただ、私には何となく、ナキア様が泣きそうになっておられるように感じました。


「……何を言っているのですかね?あの人は」


 しばしの沈黙の後、ナキア様はそうぽつりと呟かれました。


「気遣いとか…意味分からないです。私は…私は!あの人に何も……っ」


 そう力なく零されると、ナキア様は顔を俯けて小さく仰いました。


「ごめんなさい…少し1人にしてもらえるかしら」


 私は無言で頭を下げ、執務室を後にすることしか出来ませんでした。




(もっと早くに…仲を取り持つべきだったのでしょうか…)


 廊下を歩きつつ、そんなことを考えます。

 ナキア様がセリアお嬢様のことを気にかけていらっしゃるのは、ずっと前から分かっておりました。

 ご両親からセリアお嬢様への風当たりが強くなってから、ナキア様はよくセリアお嬢様を庇っておいででした。

 リゼル様との訓練でセリアお嬢様がお怪我をなさった時などは、薬の瓶を握り締めて10分以上もセリアお嬢様の自室の前をうろうろしていらっしゃいました。

 見かねた私がナキア様の元へ向かうと、ナキア様は私に慌てて薬を押し付け、逃げてしまわれましたが。


 当時は微笑ましいものだと思っておりましたが、結局お2人の距離が縮まることなく道が分かたれてしまったことを思うと、あの時に半ば強引にでもお2人の仲を引き合わせるべきだったのではないかと思ってしまいます。

 ナキア様の強情さを見誤っていたというのが正直なところなのですが、私にももう少し何かできることはあったのかもしれません。もし何かしていたならば、ナキア様があのような表情をなさることはなかったのかもしれません。


(今となってはどうしようもないことではありますが、ね)


 それでも、最後に少しだけでもお2人のお心が通じ合えたのなら、私がセリアお嬢様にナキア様のお話をしたのも無駄ではなかったのかもしれません。もしそうならば、それはずっと傍観者でしかなかった私がお2人のために出来た、たった1つの何かだったのでしょう。




 そんなことを考えながら歩いていると、目的地である厨房に着いておりました。

 そこに置いてある2人分の食事を持って、屋敷の離れに向かいます。

 普段はこの仕事は他の使用人に任せているのですが、ナキア様が当主であると公表された今日くらい、私がやるべきだろうと思ったのです。



 屋敷の離れは、本館から離れた裏庭にぽつんと存在する平屋の建物です。

 その造りは決して粗末ではありませんが、装飾や遊びを排した実用重視の印象を受けます。この場合の実用とは、決して生活に適しているという意味ではありません。

 この離れの用途はただ1つ、神術師の監禁です。この建物全体に、一切の神力の放出を妨げる強力な結界が張ってあり、聖人レベルでなければ神術が一切使えなくなっているのです。そして、この離れには現在2人の人間が住んでいます。


 ドアをノックし、持って来た食事をドアの下部に設置された小さな戸口から中へ入れます。


「ルイス様、フィール様、お食事でございます」


 そう声を掛けると、ドアの向こうからルイス様の声が聞こえました。


「ラルフ…か?」

「はい、実は本日近隣の領主を招き、ナキア様が当主の座を継がれたことを公表なさいました」

「そんなことはどうでもいい!!」


 用向きを伝えると、それを遮るように怒声が上がりました。


「いつまで私たちをこんなところに閉じ込める気だ!早くここから出せ!!」


 ドアを叩きながらの予想通りの言葉に、私は冷めた答えを返します。


「それはできかねます。当主であるナキア様のご命令ですので」

「貴様…っ!この恩知らずめ!貴様に領主代行を任せてやった私に対する感謝の気持ちはないのか!?」


 それをあなたが言うのですか?という言葉を呑み込んで、私は言いました。


「『仕方あるまい。侯爵家のためなのだ』…これは6年前にルイス様が私に仰った言葉です。覚えておいでですか?」

「何だそれは!?そんな昔のこと覚えているはずがあるまい!!」

「これはルイス様がセリアお嬢様をここに閉じ込めようとなさっていた時の言葉です」


 そう告げると、ドアの向こうの音がピタッと止まりました。


「結局、王太子殿下が婚約破棄をなさらなかったことと、ナキア様の取り成しによって実行されることはありませんでしたが、あなた様は6年前、学園に入る前に、セリアお嬢様をここに閉じ込めて公の目から隠そうとなさいました。その時、諫言をした私に言われたのが先の言葉です」


 物音1つしないドアの向こうに向かって、私は淡々と言葉を続けます。


「『私に対する感謝の気持ちはないのか?』ですか?逆にお伺いします。あなた様に親子の情はないのですか?」


 ゆっくり踵を返し、離れに背を向けると、背中越しに最後の言葉を放りました。


「あなた様を人として尊敬することは出来ませんでしたが…貴族家の当主としては優秀だったのだと思います。全ては侯爵家のため。どうか最後まで、そのようにあり続けて下さい」


 それだけ告げると、私は屋敷に向かって歩き出しました。


これで第0章、聖女出奔編またの名をざまぁ編終了となります。


あれ?おかしいな?

最近梨沙とハロルドのすれ違いより、梨沙とナキアのすれ違いの方がすごく切ない感じになってるぞ?

こんなはずじゃなかったのに…どうしてこうなった?

皆様も執筆は(以下略)


活動報告の方にQ&Aを載せました。ほとんど設定厨の作者の自己満足の代物ですが、今まで作中でさらっと使っていた神術の触媒や神具についても触れているので、よかったら一読してみて下さい。

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― 新着の感想 ―
ナキアちゃん、つおい。 でもその仮面が外れてしまえばただの女の子な訳で。 現状、彼女を守ろうとしているのはラルフさんしかいないのがツラいなあ。
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