更科梨沙(セリア・レーヴェン)視点 2-⑤
お待たせしました。
リアルが少し落ち着いたので更新再開します。
本年もよろしくお願いします。
「交渉……?」
「そっ、交渉。っとその前に…」
後ろを振り返って聖属性中級神術“快癒”を使い、転がっている男達の止血をする。
…というか改めて見るとグロッ!!
ナニこのスプラッタ。
誰よこんな惨いことしたのは!私ですね!すみません。
うん、まあ正直少し、いやかなりやり過ぎた自覚はある。
身体を5か所、それも1か所ずつ恐怖を煽るようにゆっくりと潰すとか、我ながらどうかしてたと思う。まあ途中であの男たちに何の大義も信念もないと分かって、何かどうでもよくなって一気にまとめて握り潰しちゃったけど。
えっ?四肢を潰したのは分かるけど、あと1か所はどこかって?
いや、まあそれは………いやいや首じゃないよ?流石にそれは死んじゃうし。むしろ上じゃなくて下というか………………そのぉ、親指使ったのに息子とはこれいかにというか…下品ですねすみません。
いやいや違うよ?冷静な状態だったらあんなことしなかったけど、あの時は理性がほとんど吹っ飛んでたし、私の中で悪魔が…いや、赤鬼がそうしろと囁きまして…え?何言ってるか分からない?安心して?自分でもちょっと何言ってるか分からないから。
でも実際、今でも私の脳内に居座ってるんだよね。妙に親近感覚える赤鬼さんが。コレ何なんだろ?
ま、まあそれはそれとして、裏稼業に手を染めた人間の遺伝子なんて後世に残さない方がいいよね!!ほら!赤鬼さんも頷いてるし!
一応言っておくと、これでも死なないように気を付けてはいたんだよ?
ツァオレンの精神強化の神術は無効化しなかったし、倉庫に仕込まれてた拘束系神術が発動した時はあの男たちが巻き添え食わないように移動させたくらいだし。
そのおかげで私自身が逃げ損なってあっさり捕まったけど。
まあ最初の段階で殺傷力のある神術ではないと分かっていたし、物理拘束なんて“物質変形”と“絶対切断”の前には無力だ。そもそも拘束の際に一定以上の圧力が掛かった時点で結界が発動して弾くし。
神力遮断は悪くなかったけどあんなもの力押しでどうとでもなるし、神力は弾けても神具に込められた神術は無効化出来ないんだからやっぱり無意味だ。
とまあそんなことを考えている内に全員の止血が完了した。
四肢を治すかどうかはこれからの交渉次第ってことで。
ついでに風属性中級神術“風陣壁”を発動。人避けと防音を兼ねて、倉庫の敷地全体を覆うように風の結界を張っておく。
「お待たせ。じゃあ改めて、先ずはどうやって私の居場所を突き止めたのか教えてくれる?」
「…いきなり質問ですか?交渉のはずでは?」
「まあそう焦らず、先ずは軽くお話ししようよ」
え?さっきから人見知りはどうしたって?
それは大丈夫。今の私はやさぐれモード発動してるし。
人見知りモードは相手に対する好感度がプラスマイナス一定の範囲内に収まっている状態で発動するモード。
その一定の範囲を上限突破すると発動するのがノーマルモード。
そしてその一定の範囲を逆に下限突破し、更にいくつかの条件を満たした時に発動するのがこのやさぐれモード。要は、コイツのこと大嫌いだしもうどう思われようと構わないわ~って状態だ。
ある意味こっちのモードの方がノーマルモードよりも私の素に近いかも。なんせ相手に一切遠慮してない状態だし。
「…情報は交渉のカードでもあります。それを私があっさり話すとでも?」
「思わないよ?でもさ、勘違いしてない?」
「勘違い?」
「そっ、交渉っていうのはさっきあなたが言ってた“帝国の危機”ってやつについて。話を聞いて条件次第では手助けしてあげようって言ってるの。でも、いきなり襲撃して来た相手を私は信用出来ないし。交渉にはある程度の信頼関係があるのが大前提でしょ?だから信用を得るための第一歩としてそっちの手札を晒せって言ってるの。お分かり?」
そう言うと、ツァオレンは渋い顔をして黙り込んでしまった。
…というか、何か私テンションおかしくない?やさぐれモードにしたってここまで砕けたというかはっちゃけた喋り方にはならないはずなんだけど……。
ツァオレンが何やら必死に考え事をしているが、時間の無駄なのでさっさと吐かせることにする。
「決断おっそい。もういいや。頭に聞かれるのと身体に聞かれるのとどっちがいい?」
左手にぎにぎ。平伏してるおじさん達ビクビク。
…うん、やっぱりテンションおかしい。誰よこの不良娘。カツアゲしてるヤンキーみたいになってるし。
赤鬼さんは“イイネ!”って感じでサムズアップしてるけど。
しかし、この脅しは効いたのかツァオレンは少し慌て気味に話し始めた。
「っ、貴方の居場所を突き止めるのには神器“ヴァレントの針”を使いました」
「ヴァレントの針?」
「…これです。一定範囲内の神力を感知してその方向を指し示します」
そう言ってツァオレンが懐から頑丈そうな小箱を取り出した。
それを受け取って蓋を開けて中を見てみると、中身は掌サイズの羅針盤のような時計のような道具だった。
羅針盤と言ったのは、上面がガラス盤となっている円盤内の針が、動かす度に一定方向を指し示すため。
時計と言ったのは、普通の羅針盤なら両方向に突き出しているはずの針が一方向に伸びており、長さ別に3本も付いているため。
今はその一番長い針が私を、真ん中の針がイェンクーを、一番短い針がツァオレンを指していた。
…いや、より正確に言うならそれぞれの人物プラスその装備を指しているというべきか。
神器をきちんと装備者と別物だと認識出来ているなら、真ん中の針はゼクセリア、短い針が崩天牙戟を指すはずだ。
もしかしたら人間しか感知しないのかとも思ったが、試しにゼクセリアを“念動”で身体から離してみたらきちんと真ん中の針がゼクセリアを指したので、そういうことでもないようだ。
なるほど、こんな神器があれば、私の居場所を特定出来たのも納得出来る。
この神器が示すのは方位だけだが、自分たちの移動距離と針が動いた角度から計算すれば、目標までの大体の距離も計算出来る。聖人や神器の探索にこれほど打って付けの神具は他にないだろう。
そう納得すると、私は小箱の蓋を閉じ直し、そのまま左ポケットに突っ込んだ。
……っておい!?
「えっ!?」
「おい!?」
皇子兄弟が声を上げる。
うん、まあ当然の反応だよね。というか本当に何やってんの私!?
ハッ!また赤鬼さんの仕業か!?あれ?違う?
「安心しなよ、後で返してあげるから。あなた達が妙なことしないように一時的に預かるだけだよ」
「いや、しかし…」
「あっれれぇ~~?口答え出来る立・ち・場・か・な?かな?」
ゼクセリアの側面でほっぺたペチペチ。
ちょ!?ヤンキー通り越してどこぞの悪の組織の女幹部みたいになってるけど!?ローブを軍服に、ゼクセリアを乗馬用の鞭に替えたら完璧ね。我ながら今世の容姿だと似合いそぉ~~。ってそうじゃなくて!一旦落ち着こう。洗脳された直後にブチギレたせいか、精神の箍がゆっるゆるになってる。とりあえず深呼吸。気持ちを落ち着かせて……。
「ふっざけんな!!」
「うるさいおすわり」
だから落ち着けぇぇぇぇい!!?
激昂して跳び掛かって来たイェンクーに“縛風・改”!!
立ち上がり掛けたイェンクーの身体が正座の体勢で固定される。
ついでに“念動”で背後の金属板を1枚引き寄せると、“物質変形”で形を調整した上でイェンクーの膝の上に乗せる。
日本の古き良き拷問“石抱き”の完成。
まあ本来はギザギザに尖らせた木板の上で正座させるらしいけど。
っていうか本当に待って?何かさっきから本当に身体が言うこと聞かないんだけど?
頭は冷静なはずなのに身体はノッリノリで悪役然とした立ち居振る舞いをする。その度に脳内で赤鬼さんが喜ぶ。
何コレ、私酔っ払ってるの?ハッ!まさかこれも精神操作!?誰だ?ツァオレンではない。となると“操心卿”ショルワッド伯か?それともまさか“破魂の呪術師”ゾレフか!?
あれ?赤鬼さんが首を左右に振ってる。
えっ?違うの?っていうかそもそもあなたは本当に何なのよ。まさかこれが私の内なる本性だとでも?ハハハ、ソンナバカナ。
1人で脳内で修羅場っている間にも、身体は勝手に動く。
「躾がなってないなぁ。弟の手綱くらいしっかり握ってなよ」
「…弟の態度が不味かったのは認めます。しかし、これは少々やり過ぎでは?」
ツァオレンが視線でイェンクーの膝に乗せられている金属板を指す。
デスヨネー。私もそう思います。
赤鬼さんはまた“イイネ!”してるけど。
「そう?じゃあ解除しとこうか」
そう言って、私は“縛風・改”を解除した。
途端、イェンクーの両脚を拘束していた空気の層が消え、その上に乗っていた金属板がイェンクーの両脚の上に落下する。
「うぐっ!」
堪らず漏れる呻き声。そして突き刺さるそっちじゃねーよという視線!
アハハ……もう知~らない。
このままのノリで行けるところまで行ったるわ~い。
あれだ、ちょっと一時的に言動が過激的になってるだけだよ。
一応交渉はちゃんと出来てるし、それでいいということにしよう、うん。
正気に戻ってから悶える未来が見えるけど……まあ後のことはまた後で考えよう。
赤鬼さんも「人間諦めが肝心だよ!」みたいな感じのいい笑顔を浮かべてるしね。
「さってと、じゃあ帝国の危機とやらについて聞こうか?」
「………」
ツァオレンはしばらく何か言いたげな顔をしてこちらを見ていたが、私がまた左手をにぎにぎすると、観念したように話し出した。
「今から1週間前、帝国の南側の国境付近で、ある1体の害獣が北上してくるのが確認されました。その害獣の名はルードベイロン。今回貴方にお願いしたいのは、この害獣の討伐です」
「ルードベイロン……たしか鱗竜種だっけ?」
「はい、その通りです」
竜種。
この世界に数いる害獣の中でも、種としての危険度に関して言えば文句なしのトップに君臨する種だ。
その種類は大きく分けて5種類おり、危険度順に並べると、
先ず甲竜種。
前世で言うとステゴサウルスに近い竜で、体のあちこちに棘やら甲殻のようなものを持っている防御力に優れた竜種だ。
しかし、竜種にしては比較的気性が穏やかであり、こちらから手出ししなければ襲われることはあまりない。
次に鱗竜種。
これは竜と言うより大きなトカゲ、あるいは足の生えた蛇といった感じだ。まあ個体によっては東洋風の竜に見えないこともない。
骨竜種よりも気性が荒いが、全体的にそれほど危険度は高くない。
次に翼竜種。
前世で言うプテラノドンに近い竜種だ。
実際のところそれほど戦闘力は高くないのだが、飛行能力を持つというだけで大きな脅威だし、竜種にしては珍しく群れを作るので、総合的な危険度では3番手に挙げられている。
その次が角竜種。
前世で言うトリケラトプスに近い竜種だ。
縄張りへの侵入者に対して容赦ない突進をブチかまして来る気性の荒さに加え、頑丈な皮膚と鋭い角を持つ。
最後、最も危険なのが牙竜種。
まあ察してるかもしれないが、前世で言うティラノサウルスに近い竜種だ。
とにかく好戦的な肉食竜で、生半可な武器では傷1つ付かない頑丈な皮膚と鋭い爪牙を持ち、神術師の力なしでは、最も弱い種でも討伐するのに百単位で犠牲が出ると言われている。
え?飛龍?
あんな航空力学舐め腐ったような生物存在する訳ないでしょ。
…いや、ゴメン。本当はいる。といっても伝説上の存在だけど。
ある特殊な方法で突然変異した結果、前世で言うドラゴンに近い姿になった翼竜はいる。
まあそんなのは例外中の例外だ。
さて、今回のルードベイロンは鱗竜種。つまり危険度で言うなら下から2番目だ。
しかし、これには例外がある。鱗竜種の持つある特徴によって、危険度が跳ね上がる例外が。そして今回もまた恐らく……。
「それで、その大きさは?」
「話が早いですね……あまりにも巨大なため、正確な大きさは不明です。ですが、恐らく全長1km以上はあるかと……」
「…うわぁ」
鱗竜種の危険度が跳ね上がる特徴、それは成長限界が存在しないこと。
鱗竜種は蛇のように脱皮して成長するのだが、脱皮する度にどんどん巨大化し、鱗もどんどん強固になっていくのだ。
過去に確認された最大の鱗竜は“霊峰の守護竜”ファルズ・オブロン。
何でも8000m級の山をぐるりと取り巻くような巨体だったとか。
そんな前例があるため、鱗竜種は発見次第、まだ小さく危険度が低い内に討伐されるはずなのだが…。今回の場合、国外の害獣の領域にいたため発見されなかったのだろう。
「直ぐに国境に駐留していた軍が迎撃に向かったのですが……咆哮だけで吹き飛ばされる有様で…まともに近付くことすら出来ませんでした。目標は今なお内地に向かって北上を続けています。今は進路上の町に避難を呼び掛けて対応していますが、このままでは…」
「内地の大都市を文字通り踏み潰される、と」
「はい…。報告を受け、帝国の傭兵ギルドは目標を新たな特別指定災害種に認定、目標はナハク・ベイロンと名付けられました」
傭兵ギルドが害獣に固有名を付ける時、その理由は基本的に2つしかない。
1つ“絶対に手を出すな”そしてもう1つは“確実に討伐しろ”だ。今回は後者だろう。
さて、話は分かった。どうやら予想以上に大変なことになっているようだ。そこまで巨大な竜種となると、もはや伝説上の存在だ。それこそ聖人が出張るような。
…聖人が出張る、ね……まあ、行くしかないかな?ここまで聞いといて無視するのも気が引けるし、見に行くだけならタダだしね。
「なるほどね。まあ検討してみてもいいよ、その依頼」
「ほ、本当ですか!?」
「まあ受けるかどうか判断するのはもっと詳しい話を聞いて、実物を見てからになるけどね。倒せるかどうか分からないのに安請け合いするつもりはないし。まあ受けることになったら、報酬については要相談ということで」
「…分かりました。帝国を代表し、感謝します」
まさか色よい返事がもらえるとは思っていなかったのか、ツァオレンが露骨にホッとした顔をする。
でもまだホッとするのは早いと思うけど。
「じゃあそれは別として、賠償請求の交渉に移ろうか?」
「え?」
「いやいや、それとこれとは話が別でしょ?あなた達が私を不当に襲撃したことには変わりない訳だし」
うん、これは当然のことだよね。
「それで?どう落し前付けてくれるの?」
…相変わらず態度が悪役だけど。落し前とかリアルで初めて聞いたワーー。
何でこんな言葉が自然と出るんでしょうね?前世でよく見てた映画とかドラマの影響?
「…今は持ち合わせがありませんが…帝国に戻ってから相応の金銭をお払いします」
「いや、別にお金はいらないから。そうだなぁ…あなた達2人に貸し1つずつってことにしといてあげる」
「っ!?それ、は…っ」
「なっ!?」
まあそういう反応になるよね。
一国の皇子、しかも片方は皇太子様だ。金銭で問題を解決した方が実利的にも精神的にも楽なのは間違いない。
「この条件で納得するなら後ろの男達の四肢も治してあげるよ。良心的だと思うけど?」
「っ…」
うわぁもう完全に脅迫だねぇ。
信じられるか?何か他人事みたいに言ってるけど、アレやってるの私なんだぜ?
赤鬼さんは何か微笑ましそうな顔してる。この人(?)の立場が不明だわ。それはどういう立場からの感情なの?
「あのさぁ、まだ交渉の段階である内にさっさと頷きなよ。私としてはこの場でここにいる8人の名前を剥奪しても一向に構わないんだけど?」
「なっ…」
更に追撃キタァァーーー!というかさっきまでのアレ、交渉のつもりだったんだ。自分で自分にビックリ。
名前の剥奪、それは“名奉じの儀”を無効化するということ。
つまり神術師としても貴族としても事実上の死刑宣告。
当然そんな軽々と使えるような神術ではないけど、まあ私なら1人でも発動出来るでしょ。出来ないとしても、そんなの彼らに分かる訳ないし。
「てめぇ!!」
おっとまたイェンクーが跳び掛かって来た。沸点の低い脳筋君ですね。
素の状態であそこから強引に立ち上がる筋力はすごいけど、神術で強化してない状態じゃ今の私には勝てないよ。
私の首元に向かって伸ばされた右手を素早く左手で迎撃する。
右手人差し指を掴んで外側へ捻りつつ、その爪の根元に思いっ切り爪を立てる。
「っ!!?痛っててててて!!!?ちょ、止めっ」
それだけでイェンクーはその場に膝を着いた。
空いてる右手で何とか私の手を離させようとするが、素の状態では結界に弾かれるだけだ。
あまり知られていないが、爪の根元の少し白くなっている部分に爪を立てると、冗談抜きで滅茶苦茶痛い。神術による筋力強化抜きでやっても割と立っていられないくらいには痛い。今は指を逆方向に曲げつつ爪が割れるレベルで力込めてるから、きっと想像を絶する痛さだろうね。よい子はマネしちゃダメだゾ☆
「分かった!俺の負けだ!!だから手ぇ離せ!!」
「…離せ?」
「…離してくれ」
「え?何だって?」
「~~~~っ!!離して下さい!!!」
「ちょっと何言ってるか分からないです」
「何で分からねぇんだよ!!」
「躾のなってない駄犬なんだから犬らしく“わん”と言いなよ」
「ふっざけ、痛ったたたた!!?」
「ほらほら、爪が割れない内に言うことをお勧めするよぉ~~」
「てめぇ覚えてろったたたた!!?分かった!!わん!!これでいいだろ!!?」
そこでようやくイェンクーの右手を解放する。
うわぁ~何かすっごいこと言わしてるなぁ~~。皇太子に犬の真似させた人間なんてもしかしなくても私が初じゃない?
…赤鬼さんは拍手喝采してるけど。あまり嬉しくないなぁ。
というか本格的に正気に戻った後のことが心配になってきた。
「痛ってぇ……何だ今の?」
母直伝の護身術ですが?
正確に言えば“これでどんな(屈強な)オトコだってイチコロ☆ オトコ(の意識)をオトすマル秘テクニック♡”の1つ、“虎威美砥爪薙”ですね。20年以上前に習った技がキレイに決まって自分でもビックリです。まったく、母の教えは偉大だぜ。
…赤鬼さん何で照れてるの?
「さってと、じゃあこれで交渉は一先ず終了ってことでいいかな?」
「「………」」
もう反論は出なかった。
イェンクーはまだ反抗的な目をしてるけど、ツァオレンはもう諦めたように項垂れてるし、6人のおじさん達はまだ平伏してるし。
でも、ここでなお手を抜かないのが今の私なんだよねぇ~。
「お・へ・ん・じ・は?」
「…はい」
「…ああ」
にっこりと笑って……“念動”発動!!
皇子兄弟がおじさん達と同じように地面に這い蹲る。
「ぐっ!な、なぜ…?」
「が!?」
「さっき言ったでしょ?もう忘れたの?返事は“わん”でしょ?」
「わ、私もですか!?」
「てめぇいい加減にしろよ!!」
お構いなしに出力を上げ、2人を地面に押し付ける。
「お・へ・ん・じ・は?」
「「………」」
「お!へ!ん!じ!は!?」
「…わ、ん」
「ぐ、うぅ…わん」
「よく出来ました。あっ、妙なことしたり約束破ったりしたらやっぱり名前を剥奪するから。そこんところよろしくね」
うわぁスゴイ光景。自分で自分に引くわ。
赤鬼さんは満足そうに頷いてるけど。
2人の皇子のプライドをバッキバキに圧し折った上に更に追い打ちを掛けた私は“念動”を解除すると、もう2人に構うことなく、後ろの男達の四肢を治すべく振り返った。
そして……目が合った。
意識を取り戻した“浅黄”の皆さんと。
その瞬間、恐れていた事態が起きた。
全身の血が下に向かってサーっと流れ落ちて行く感覚と共に、私は一気に正気に戻ったのだ。
急激に全身の神経に意識が行き渡ると共に、脳内の赤鬼さんが「あっやべ」みたいな顔で消えていく。
ちょっ!この状態で1人にしないで!?
「あ…その……」
ローランさん、引き攣った笑みを浮かべてる。
ディーンさんとゲイブさん、ドン引いてる。
ロッドさんとチャドさん、完全に怯えてる。あっ、目を逸らされた。
…どうしよう。
いや、さっきまでのは違くて。普段の私はあんなんじゃなくて。偶々精神の箍が吹っ飛んでて何かおかしなモード発動しちゃってただけで!いや、ホント自分でも何であんなことなってたのか分からなくてぇぇぇぇううぅぅああぁぁぁぁぁ!!!!
「ち…」
「「「「「ち?」」」」」
本当はもっと言いたいことがあった。
「無事でよかった。変なところ見せてしまってごめんなさい」こんな感じのことを言ってから改めてきちんと弁解するつもりだった。
だが、精神的に追い詰められまくって完全にテンパった私の口から出たのは、これまたよく分からない一言だった。
「ちゃうねん」
何でしょう。シリアスの後にコメディをぶっこみたくなるのは作者の性なんでしょうか?
ハッ!まさかこれが精神操s……コホン。ちなみにですが、梨沙は前世の両親の過去について詳しいことは知りません。一応両親が昔ちょっと(!?)やんちゃしていたことは知っていますが、あくまで梨沙にとって前世の両親は、強く優しい母とその尻に敷かれるちょっと(?)親バカな父です。
両親のアレコレについて察していたのは長男の杏助だけです。
更新についてですが、まだリアルが少し忙しいので、しばらくは週一更新を目標にしたいと思います。
よって、次回更新は来週になる予定です。
・細かすぎて需要がない設定資料①害獣の名前について
害獣の名前は大別種名、小別種名、属名の3つで構成されています。
今回登場したルードベイロンの場合は、ロンが大別種名、ベイが小別種名、ルードが属名に当たります。
大別種名は文字通りその害獣の大まかな分類を示し、今回の場合、鱗竜種は全て○○ロンという名前になっています。
小別種名はその個体の生態によって異なります。小別種名まで同じなら、基本的な生態は同じです。
属名は、生息地や生育環境、種によっては成長度や雌雄などによって異なります。今回のナハク・ベイロンの場合、成長度が一般的なルードベイロンと比較して異常な域に達していたため、新たな属名、というか事実上の固有名を与えられました。




