更科梨沙(セリア・レーヴェン)視点 2-④
ギ、ギリギリ間に合った…!
いやーやっぱり思い付きで短編に浮気するのはよくないですね。
これからはもっと計画的に浮気します(ここだけ切り取ったら最低なセリフだな…)。
精神系神術。
制御が難しいとされる魔属性神術の中でも特に難易度が高く、適性を持った神術師が少ない系統の神術だ。
全属性を等しく扱える万能型の神術師でも、精神系神術だけは適性が全くないなんてことは珍しくない。いや、むしろそちらの方が圧倒的に多い。
逆に精神系神術に高い適性を持つ神術師は、他の神術に関する適性が低い場合が多い。
目の前に立つ男、ツァオレン・リョホーセンもその1人だ。
彼は近接戦闘型神術師の家系である皇帝家に生まれながら、精神系極特化型という極めて稀な適性を持って生まれた、現皇帝の第一皇子だ。それ故魔皇子などと言う二つ名で呼ばれている。
「覚えておいででしたか。4年前にパーティで一度顔を合わせて以来ですが」
ようやく目が慣れて来て顔が見えるようになったが、相変わらず女と見間違えるような美貌だ。
私ほどではないが、男にしてはやけに白い肌、切れ長な黒目、黒髪を長く伸ばしているのも女性的な印象を助長していた。
「…一応これでも元王太子妃候補だったもので。他国の王族の顔くらい覚えています。それに、今の私を洗脳出来る神術師など数える程しかいませんし」
そう軽く語気を強めて言い放つと、意外にもツァオレンは素直に自分の非を認めた。
「強引な方法を使ったのは謝罪します。ですが、こうでもしなければ交渉の席に着いて頂くことも出来ないと思ったので」
「交渉?脅迫の間違いでは?」
「それは貴方の対応次第ですね」
しれっとそう言い放つツァオレンをよそに、私は密かに周囲に注意を張り巡らしていた。
彼の言い分を鵜呑みにすることなど出来ない。
単純に私と交渉をしたいなら、こんな大掛かりな罠を仕掛ける必要などないのだから。
どんな手段を使ったのかは分からないが、彼らは私の居場所を突き止めていた。しかも、ローデントの外に出ており、この町に戻って来るということまで把握していたのだ。それでなくては、彼が門のところまで戻って来た私に洗脳を掛けることなど出来る訳がない。
洗脳を使ったのは、自分の神術が私に通用するのかを試しつつ、万一私に抵抗された場合にその場で即戦闘に突入しないで済むよう、殺傷力のない神術を選んだ結果なのだろう。まあ即敵認定する程でないにしろ、私の心証はかなり害されたけど。
私と本当に交渉がしたいなら、こんな小細工を弄さずに真正面からお願いしに来た方がよっぽど成功率は高いだろう。彼だってその程度のことが分からないはずがない。
ならば、彼は端から私が交渉に乗る可能性は低いと考え、無理矢理にでも従わせる気が満々だということだ。
流石の私でも物理的に意識を奪われた上で念入りに洗脳を掛けられれば抵抗は難しいだろうし、洗脳せずとも、膨大な神力のタンクとして使えばいくらでも使いようはある。
そして、態々ここまで誘導したということは、ここには私を従わせるための何かが準備されていると思うべきだ。
真正面に立つツァオレンから目を逸らさず、慎重に周囲の様子を探る。
特に倉庫内に神術が掛けられている気配はない。
これくらいの倉庫なら窓があって当然だが、全部板か何かで塞がれているのか、全く光が差し込んでこない。そのせいで、壁際の様子がほとんど分からなかった。
しかし、1つ分かることがある。
それは、壁際に並んでいる人間の多く、あるいは全員が、神具の装備で全身を固めているということだ。これだけは、暗闇の中でもはっきりと分かった。
彼らが何者かは分からないが、帝国の精鋭部隊であることは確かだろう。
付与触媒でありながら武器や防具として使える素材はとても貴重で、全身を神具の装備で固めるなど、王国軍でも部隊の指揮官級か王族の身辺を警護する親衛隊でしか見られない。
その兵が、さっき振り返る時にざっと見た限りでも50人以上。
1人の神術師を相手するのにしては明らかに過剰戦力だ。それだけ私の戦闘力を高く見積もっているのだろうけど。
「なぜ、私がここにいると分かったのですか?」
そう質問しつつ、私は万一に備えてポケットに両手を突っ込むと、こっそりと右ポケットの中で“念動”を発動させた。
「残念ながらその質問にお答えすることは出来ません。まあ色々手はあるということですよ」
やはりそう簡単に手の内は明かしてくれないらしい。
それでも探りを入れつつ、周囲の状況を把握する時間を稼ごうとしたのだけど、その魂胆を見抜いたのか、ツァオレンは一気に本題に入った。
「さて、肝心の交渉内容ですが、難しい話ではありません。帝国を救うため、私たちに手を貸して頂きたいのです」
「…帝国を救う?」
「現在帝国は、未曽有の危機に瀕しています。このままでは多くの無辜の民が死ぬことになるでしょう。その悲劇を回避するため、貴方の力を貸して頂きたい」
「その危機とは何ですか?」
「残念ながら国防上の観点から、ここで詳しい話をすることは出来ません。一応貴方は王国の人間ですので」
「……」
まあ、言いたいことは分かる。
自分の国の窮状を、おいそれと他国に漏らすことは出来ないだろう。
しかし、そんな交渉で私が首を縦に振るかどうかと問われれば、答えはノーだ。
理由?
彼らのやり方が気に入らないから。事の真偽が不明だから。所詮他国の出来事だから。帝国に対する心象が良くないから。いきなり洗脳掛けて来る奴など信用出来ないから。
まあ色々あるが、結局のところ、それら全部ひっくるめて私の心が動かなかったからだ。
自分の生きる道を決めたあの日、私は心のままに生きると決めた。
その心が動かないのだから、私が動く理由などなかった。
それに、彼はこのままでは多くの民が死ぬと言った。つまり、まだ時間的余裕はあるということだ。
ならば、仮に帝国を助けるとしても、彼らと一緒に行動することにはほとんどメリットがない。
それくらいなら、私1人で行って勝手に情報収集して勝手に助ける方がよっぽど面倒が少ない。
なにはともあれ、そうと決まればさっさと逃げることにしよう。
私が神術を発動させようとした時点で向こうも完全に戦闘態勢に入るだろうが、ツァオレンと私では神術の発動速度が圧倒的に違う。
同時に神術を発動させようとしたところで、私の“飛行”の最高速度なら、相手が発動する前に振り切れる。
逃げるならやはり正面だろう。
分かりやすく出口が開いているし、ツァオレンの神術の発動を妨害するという意味でも、真っ直ぐ突っ込むのが一番効果的だ。
それに、暗闇に目が慣れてきて気付いたのだが、どうやら倉庫の壁を何かが覆っているようだ。
それが何なのかは分からないが、恐らく簡単に突破出来ないように壁を補強してあるのだろう。突破に手間取ればその分逃げ切れる確率は落ちるのだ。壁を突破するのはリスクが高い。
(まあ私がそう考えるのを相手も想定しているでしょうけど)
ならば、その想定を上回るまでだ。
「王国の人間とは言っても私は逃亡中ですが?それに、はっきり言って王国に対する愛国心など全くありませんし」
「だとしても、私たちは――」
最後まで言わせず、一気に神力を解放すると、地面を足で蹴り出し、初速度を上げて正面に飛ぶ。
ツァオレン含む正面の7人が動き出すが、遅い。
ツァオレンの神術は間に合わないし、神具の武器を使おうが、結界に守られている私を生半可な物理攻撃で止められる訳がない。
(このまま突っ切る!)
そして更に加速しようとしたところで……
頭上で強大な神力が放出された。
(…っ!!?)
そのまま正面に突っ込む手もあった。
しかし、私は直感的にそれが悪手であると悟った。
そして、結果的にその直感が命拾いとなった。
私が急停止し、逆に後方に飛ぼうとした瞬間。
頭上から落ちて来た男の一撃が私の前方4m先の地面に突き刺さり、半径1m上のクレーターを作り出した。
更に、後方に移動し始めた私を追い掛けるようにして、凄まじい衝撃波が襲って来る。
驚いたことに、既に着弾点から5m以上離れていたにも関わらず、その衝撃波は私の結界で防ぎ切れなかった。
全身に正面から突風を浴びせられたかのような衝撃が走り、息が詰まる。
(なぜ!?神力の気配なんてしてなかったのに!)
そう思ってクレーターの中心に目を凝らすと、その理由が分かった。
そこには、身体強化系神術の1つの完成形があった。
全身に強大な神力を宿していながら、一切周囲に神力が漏れていない。
まるで自分自身が1つの神具となったかのように、自身の肉体に纏う神力を完全に制御していた。
そのせいで、実際に襲撃されるまでその気配に気付けなかったのだ。
私が衝撃波に半ば押し出されるようにして後方に更に3m以上移動したところで、クレーターの中心にいた襲撃者がゆっくりと身を起こした。
地面に突き刺さっていた武器を軽々と引き抜くと、右手で振り上げて肩に担ぐ。
「お~避けた避けた。まあこれで直撃貰うようじゃあ話になんねえけどなぁ」
そこにいたのは獰猛な獣のような雰囲気を持つ男だった。
短く刈り込まれた黒髪、三白眼気味の鋭い黒目、凶暴な笑みを浮かべる口元、みっしりと筋肉の詰まった鋼のような肉体を、薄い革の服で包んでいる。防具らしきものを身に着けていないのは、そんなものに頼らずとも傷など負わないという自負からか、それとも防具が重石になるのを嫌ったのか。まあ恐らく両方だろう。
そして、その手に握られている武器。
外見は槍と斧が合体したような全長3m程の長柄の武器だ。
だが、そこに宿る神力量は周囲の兵が装備している神具の比ではない。
そして、その武器とそれを握る男を、私は知っていた。
「イェンクー・リョホーセンに…崩天牙戟?皇太子と国宝の神器まで出張るとは、危機的状況と言う割には随分余裕があるんですね」
そう、彼は帝国の第二皇子にして皇太子、そしてその手に握られているのはリョホーセン帝国の国宝である、暴君リョホーセンの神器崩天牙戟だ。
ちなみに、第二皇子である彼が皇太子である理由は簡単だ。
第一皇子であるツァオレンが妾腹というのもあるが、それ以上に人間の心を自由に操る皇帝など、民にも臣下にも信用されないというのが一番の理由だ。
それに、帝国では何より武力が重要視される。
そういった点でも、正妃の嫡子であり、皇帝家に相応しい近接戦闘型神術師のイェンクーの方が次期皇帝に相応しいということだ。
「まあそれだけ俺らも本気だってことだ。もっとも、俺は噂の聖女ってのがどんなもんか知りたかっただけだけどな」
そう言って益々獰猛な笑みを深めるイェンクーに、背後から兄の苦言が飛んだ。
「おい、少しは手加減しろ。殺す気か」
「ちゃんと急所は外したっつーの。それより兄貴、これはもう交渉決裂ってことでいーんだよな?」
「…止むを得まい。くれぐれも殺すなよ」
「お~っしお前らぁ、手ぇ出すんじゃねーぞ。こいつが逃げないようにしっかり周り固めとけよっ!!」
そう言うと、凄まじい速度一気に距離を詰めて来る。
しかし、その時には既に私も準備が出来ていた。
左手をポケットから出すと、イェンクーに向けて全力の“念動”を放つ。
イェンクーが、武器を振り上げた状態で止まった。
そのまま正面に吹き飛ばそうと神力を込める。
だが…
「こん、の、だぁらっしゃーーーーっ!!!」
イェンクーの足元の地面が爆ぜた。
と、思った瞬間には、目の前に刃が迫っていた。
避けられたのは、偶々“飛行”を解除していなかったからでしかない。
そして、避けられても無事では済まなかった。
「あ、ぐぅ」
先程以上の衝撃が全身を襲う。
今度はもう完全に吹き飛ばされた。
それでも何とか空中で態勢を立て直そうとする。
そうしなければ、すぐに次撃が来る!
「っ!!」
態勢を立て直した直後、すぐに横薙ぎの一撃が襲い掛かって来た。
何とか伏せて刃自体は避けるが、またしても衝撃波で横に吹き飛ばされてしまう。
そこからはもう一方的だった。
新たに神術を発動させる暇もなく、次々に襲い掛かって来る攻撃を必死に避けるだけ。
もうイェンクーは無視して壁の方に向かおうとしても、そんな素振りを見せた途端逆方向に吹き飛ばされる。
気付けば余波だけで全身がボロボロになっていた。
「はあ、はあ」
「あ~~あ、つまんね。何だよ聖女様ってのはこんなもんなのか?全然大したことないじゃねえか」
何度目かの攻撃を躱した時点で、イェンクーは一旦攻撃を中断した。
そして、崩天牙戟で肩をトントン叩きながら、退屈そうにそう言う。
だが、そう言うのも納得出来るほどに一方的な戦いだった。
いや、私はひたすら逃げ続けていたのだから、最早戦いにすらなっていなかったかもしれない。
しかし、それは私が弱いのではない。イェンクーが強過ぎるのだ。
単純な身体能力、近接戦闘技術、身体強化の神術の技量、どれを取っても私よりも上だ。
これらが高度に合わさっているのだから、単純な白兵戦で私に勝てる道理はない。
むしろ、“飛行”による自由自在な三次元移動が出来なければ、ここまで避けることすら出来なかっただろう。
それに加え、神器崩天牙戟だ。
崩天牙戟は、神術によって様々な強化がなされた神具だが、本質はそこではない。
というより、神術によって強化された武器としての性能は副産物でしかない。
崩天牙戟の本質は、皇帝家の秘術“崩天撃”の補助触媒なのだ。
先程から攻撃の度に発生する衝撃波は、秘術“崩天撃”によるものだ。
神術による強化は、“崩天撃”の最大威力に耐える強度を得るために必要だっただけなのだ。
崩天牙戟は、“崩天撃”の威力を上昇させると同時に、事実上の無詠唱化を可能にする。
より正確に言えば、一度詠唱して“崩天撃”を発動すれば、あとは崩天牙戟に神力を込め直すだけで何度でも即時発動出来るようになるのだ。
つまり、自分の神力が尽きない限りあの威力の攻撃を好きなだけ連発出来る。これが近接戦闘でどれだけ凶悪な能力かは言わずもがなだろう。
余波だけで私の結界を突破するのだ。これが戦場で一般兵が相手なら、文字通りの一騎当千の活躍が可能だろう。
「なあお前さあ、もう大人しく降参してくんねぇ?お前じゃ俺には勝てねぇよ。俺だって殺す気で掛かって来ない奴の相手するのはもう飽きたわ」
「……」
「何で最初の攻撃で拘束系なんてヌルイことしたんだ?普通の攻撃じゃ俺に避けられると思ったからじゃねぇよな?単純に人間相手に殺傷力の高い神術使うのを躊躇ったからだろ?そんな甘ちゃんに俺が負けるわけがねぇ。次からは兄貴も攻撃に加わる。痛い思いする前に降参した方が身のためだぜ?」
たしかに、ツァオレンが援護に加われば私の勝率はガクッと落ちる。
ただでさえギリギリなのだ。戦いの最中に魔属性神術で一瞬でも意識を奪われれば、その瞬間イェンクーの一撃を食らうことになるだろう。
だが、そうはならない。
私はイェンクーが隙を見せるのをずっと待っていたのだ。
次の一撃で勝負を決める。
私はそう決め、右ポケットの中のそれを強く握った。
私に降参する気がないと察したのだろう。
イェンクーはやれやれと言いたげに肩を竦めると、離れたところで待機する兄に声を掛けた。
「しゃーねえ、兄貴、次の――」
その瞬間、私は右手をイェンクーに向けると、もう一度全力の“念動”を発動した。
「っ!またか!」
この拘束も数秒で破られるだろう。
だが、数秒あれば十分。
私が“念動”を発動したのは右手だけではない。
左手でも同時に発動し、右手で握っていたそれを引き出していた。
右手で抜き身にしたまま保持していた、聖剣ゼクセリアを。
突然現れた神器に、イェンクーの顔に驚愕が浮かぶ。
だがもう遅い。
私は抜き放つ動きのまま、横薙ぎの一閃を放った。
狙いはイェンクーではなく、その手に握る崩天牙戟!
「はあっ!!」
ゼクセリアは相変わらず重い。
筋力強化の神術を掛ける暇がなかったためにかなりきついが、“飛行”による移動も利用し、身体全体で回転しながら振る。
その決死の一撃が狙い違わず崩天牙戟に吸い込まれる、その寸前。
私の意識に靄がかかった。
剣線がぶれる。集中が途切れ、神術が切れそうになる。
「ーーーっああああ!!」
雄叫びを上げ、神力を爆発させて力尽くで呪縛を断ち切る。
だが、その時にはもうイェンクーは私の“念動”を振り切り、間合いの外に逃れていた。
深追いはせず、その間に“剛力”を使って筋力を強化しておく。
お互いに武器を構え直して向き合う。
「おいおい、そりゃあまさか剣聖アーサーの神器、聖剣ゼクセリアか?どこで手に入れたんだよそんなもん」
聖剣ゼクセリアの名前に、周囲からどよめきが聞こえた。
今まで黙って壁際にいた男たちが「嘘だろ?」「あれが伝説の?」などとざわついている。
そちらを気にすることなく、イェンクーはまた獰猛な笑みを浮かべた。
「へっ、面白くなってきたじゃねぇか。まさか伝説の神器を相手に出来るとはなぁ」
そう言って、また攻撃態勢に入ろうとする。
しかし、そこで静止の言葉が掛かった。
「いや、そこまでだイェン」
「あぁ?何でだよここからがいいところじゃねぇか!」
その怒声に対し、ツァオレンは背後に視線を向けることで答えた。
すると、ちょうど倉庫の入り口から武装した男たちが入って来た。
神具の装備からして、周囲にいる男たちの仲間だろう。
そして、その中の数人が肩に担いでいたものをツァオレンの近くに投げ落とした。それは…
「なっ!!ローランさん!!皆さん!!」
それは、ボロボロになった“浅黄”のメンバーだった。
全員が防具を剥ぎ取られ、全身のあちこちから血を流して力なく横たわっている。
あまりの光景に呆然としていると、“浅黄”のメンバーを担いでいた男たちが肩を回しながらかったるそうに言った。
「あ~重たかった。全くクソ雑魚のくせして無駄に重たかったぜ」
「本当だぜ。これでもあの有名な虹の傭兵団で上位のチームだってんだから笑っちまうよな?」
「全くだ。これならそこら辺の盗賊団の方がよっぽど手強いぜ。人間相手に碌に剣も振れない腰抜け共がよぉ!」
そう言うと、その男は倒れ伏すローランさんの頭を蹴り飛ばした。
私はその言葉に、昨日のローランさんの言葉を思い出していた。ツァオレンが何かを言っているが、私の耳には入って来ない。
昨日、遺跡からの帰り道で、私はローランさんと色々な話をした。
その中で、ローランさんは言っていた。
全てを救うことは出来ない。それでも出来るだけ多くの人を救いたい。出来る限り多くの人の力になりたいと。
“浅黄”は、その意志の元に集まった最高の仲間たちなんだと。
腰抜けなんかじゃない。剣を振るわなかったのは、ローランさんたちの誇りだ。
自らの武器はより多くの人々を救うため。人々を傷付けるためではない。
その気高い信念を……誇りを……
「あ、あ……」
踏み躙った。
下卑た欲望で。
数の暴力と、神具という他人に与えられたお手軽な力で。
コ、コイツら、は……
「ーーーーーーーっ!!!!」
その瞬間、私の中の何かが切れた。
聖人の子孫である皇子兄弟との戦い!
その最中に現れたのは、ボロボロになった仲間たちだった!
卑劣な手段で傷付けられた恩人の姿に、前世の両親から受け継いだ梨沙の中の暴君の血が目覚める!!
次回、“白銀の修羅”降臨!!
(この次回予告には誇張表現が含まれております)
次回更新は来週の木曜日までにやる予定です。
そして次回更新が今年度最後の更新になると思います。