ロッド視点
予定を急遽変更し、短い別視点を入れます。
え?なぜかって?
読者に辛抱するよう言っておきながら、作者が真っ先にドシリアスに耐えられなくなったからさっ!!
というのは半分冗談で(半分は本気なのかよ)、結局のところいつものやつです。
思い付いちゃったのだから仕方ないっ!
ドドッドドッドドッ
広い荒野を、6騎の馬が駆ける。
俺たち兄弟は、依頼人であるサラ様の後方を2人並んで走っていた。
俺の前方にはディーンが、チャドの前方にはゲイブがおり、サラ様の前方をリーダーが走っている。
ちょうどサラ様とリーダーを中心として四角形を形成する隊列だ。
元々は俺たち兄弟がサラ様の左右を固め、ディーンが先頭を、ゲイブが殿を務めていたのだが、最初の害獣との遭遇を経て、今はこんな変則的な隊列に変わっていた。
なぜこんな隊列になっているのか。それは偏にサラ様の射線を妨害しないためだ。
今回の依頼では速度を重視するため、サラ様が積極的に戦闘に参加するということは、最初の打ち合わせの時点で聞いていた。
しかし、俺たちは一応サラ様に雇われた傭兵として、サラ様の身の安全を守ろうとしたのだ。
だが、最初の害獣との遭遇を経て、そんなものが全く不要だということを思い知らされた。
岩陰から害獣が現れ、リーダーが警告を発した数秒後には、俺の頭と馬の頭の間を駆け抜けた一条の光が、現れた害獣の頭をぶち抜いていた。
俺たちは戦闘態勢に入る暇すらなかった。
結果、サラ様の神術の邪魔になるだけだということで、俺たちはサラ様の斜め前後左右に別れて走ることとなった。
実際、あれから2度害獣と遭遇したが、そのどれもがサラ様の神術で瞬殺されている。
それにしても…
俺はフードを被ったサラ様の後頭部を眺めながら、“紅”の連中に彼女について頼まれた時のことを思い出す。
「サラ様は感情表現は乏しいが、思い遣りに満ちた優しい方だ。どうかあの方の力になって差し上げて欲しい」
「俺たちの命の恩人っすからね。くれぐれもよろしく頼むッす」
「た~だ、超美人だからってうっかり惚れたりすんなよ?ウチのリーダーみたいにな」
「なっ、バカなことを言うな!惚れてなどいないっ!!」
「またまたぁ~~あっ、ローランさん実はウチのリーダー野営した時にですねえぶっ!!」
「コホン、とにかくよろしく頼む」
なかなかに愉快な会話だった。
だがまあそれはそれとして…思い遣りに満ちた優しい方…うん、まあ自分の事情も顧みずにカロントの救援に駆け付けたのだ。その通りなのだろう。
「右前方に敵影!推定ネルウェル種!数は1、接敵まで10秒!」フゥン、どさっ
うん。まあ。
「右方に敵影!推定ネルウェル種!数は3、接」バリバリバリッ!!バァン!!
思い遣りに満ちた優しい方…うん。
「右後方に敵影!推定」びゅおっ!どさっ
お、思い遣り、に……。
「左方」バオッ!ドドドドドドッッッ!!!!
思い遣りって…何だっけ?
あれか?思い遣りじゃなくって重い殺りなのか?
濃密な殺意に満たされちゃってる方なのか?
というか何だ今の。
10体以上いた害獣の群れがそれ以上の数の火球に跡形もなく吹き飛ばされたんだが。
目の前を無数の火球が通り過ぎた弟は若干涙目になってしまっている。
気持ちは分かるぞ弟よ。安心しろ、兄ちゃんも既に泣きそうだから。
さっき目の前を雷撃が横切り、身体の横を風の刃が通り過ぎた時から、馬の振動とは関係なく足の震えが止まらんよ。
何より恐ろしいのは、その時一瞬振り返ったサラ様の顔が見えたのだが…サラ様が相変わらず無表情だったこと。
その無表情が、妙に恐ろしかった。
なんとなく、触れるな危険!という文句が頭の中に浮かんでしまった。
害獣と戦わなくて済むのは楽なのだが、その分すごく胃にダメージが行っている気がしてならない。
(こんな調子であと2日間大丈夫か?)
そんなことを思いながら、俺はそっと右手で腹部をさすった。
ロッドとチャドの兄弟は図体の割に小心者です。強面のくせしてビビりです。
次回更新は明日になる予定です。
※神術の触媒を補助触媒と付与触媒の2つに分けました。一緒くたに触媒と呼んでいるとややこしいので。
その名の通り、補助触媒が神術の発動を補助する触媒で、付与触媒が神術を込めることの出来る触媒です。