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ナキア・レーヴェン視点⑧

先週は突然更新お休みしてすみません。

『前世餅の少女が願うこと』とかいう悪ノリ短編第2弾を書いていたせいです。誤字るたんびにそれをネタに短編書くとか我ながらどうかしてますが、感想欄で振られたんで仕方ないんです。応えるのが芸人の性なんです。つまり、燦々SUNは悪くない。よし、自己正当化完了。

 社交シーズンの真っ最中、ある日突然その召集は行われた。


 数週間前にも集まった王城の大会議室に入り、わたくしは思わず一瞬足を止めてしまった。

 すぐに何事も無かったかのように歩みを再開しつつも、視線は陛下の隣に座すその方を追ってしまう。


(聖杯公、イミオラ・ユーゼイン様がなぜここに……?)


 その思いは他の貴族も同様らしく、先程からさざめくような話し合いの声があちらこちらから聞こえる。

 神殿の代表にして象徴でもある聖杯公と聖杖公が、聖地から出ることは滅多にない。

 神殿勢力はそれ自体がその他のあらゆる機関から独立した存在であり、この王国において王侯貴族の権力が及ばない唯一の勢力である。

 それだけの特権を有するが故に、その頂点に立つ両聖下は決して軽々しく動くことはない。

 厳しく自己を律し、人生のほとんどを聖地にて民草の安寧と王国の平穏のために費やす。その清廉な生き方が尊敬と崇拝を集め、神殿を不可侵の聖域たらしめているのだ。


(嫌な予感がいたしますわね……)


 全く予定にない王命による緊急招集。その場にいらっしゃる常ならぬ存在。

 偶然のはずがない。つまりこれは、神殿あるいは聖地で何かがあったということ。そしてそれが、神殿内部では収まらない事態だということ……。


 そこで全ての貴族が集まり、緊急会議が開始された。

 そして、そこで語られたのは、わたくしの最悪の予想をはるかに上回る最悪の事態だった。


 真光教団による聖地への突然の襲撃。

 敵戦力の大半を殲滅するも、その中核をなす幹部3名を逃し、聖地陣営は神官長にして聖杖公でもあるビフォン・クーリガン様を含む戦闘員の3割近くが死亡ないしは生死不明の状態。

 何より、聖杖と聖杯を敵に奪われ、しかもその敵は霊廟に眠っていた高位神術師を取り込んで勢力を拡大している模様だと。


「聖杖と聖杯を奪われただと!? なんたる失態! 前代未聞だ!!」

「待て、霊廟の聖人とはどういうことだ! そんな話は聞いたことがない!」

「真光教団など、所詮不意打ち暗殺しか能のない連中でしょう! 対人戦においては正騎士団をも上回ると言われる神殿騎士団が、そんな連中に敗北したのですか!!」


 あまりにも予想だにしない、冗談としか思えない事態に、会議室は騒然としていた。

 わたくし自身、表には出さずとも内心はかなり混乱していた。

 様々な情報を一気に頭の中に流し込まれ、呑み込もうにも呑み込めない。

 と、その時、



 ガツッ!!



 床を激しく打ち付ける音に、室内が一瞬にして静まる。

 音の発生源は、国王陛下。厳密には、陛下がその手に握っていらっしゃる剣の鞘。

 全員の注目を集め、それまで沈黙していらっしゃった国王陛下が初めて口を開かれた。


「静粛にせよ。この場は聖杯公を追及する場ではない。そもそも、我らに神殿内で起きたことに口出しする権利はない」


 陛下のそのお言葉に、貴族達が顔を見合わせて言葉を呑み込む。

 と、そこで1人の貴族が発言を求めて手を上げた。宰相殿がすかさず許可を出す。


「メノニカ侯爵。発言を許可します」

「はい。えぇ~、陛下。そうはおっしゃられてもですよ? その起きたこと、というのが神殿内部で完結しているのならともかく、この度の不祥事……失礼。えぇ~この度王国の要である聖杯と聖杖を賊に奪われた件に関しましては、明らかに王国の根幹を揺るがしかねない事態です。そのような事態を招いた者に対して何もお咎めなしというのは……正直、如何(いかが)なものかと思いますがねぇ」


 メノニカ侯爵のその発言に追従して、貴族派閥の貴族達が次々と声を上げ始める。宰相殿の制止など聞きもしない。

 イミオラ様の辞任を求める声。なんらかの罰を下すべきだという声。果ては、聖地の管理を神殿から国に移すべきだという暴論まで飛び出した。


(貴族派閥……特に神権派の貴族にとって神殿はあるいは王族派閥以上に目障りな存在……この機に勢力を削ぎたくて仕方がないようですわね)


 と、そこで再び床を打ち付ける音が響き、陛下が声を張られた。


「メノニカ侯爵の意見は分かった。だが、繰り返すが我らに神殿に属する者を裁く権利はない。それに、今回の一件の始末に関しては既に聖杯公より提案を受けている」


 そして、陛下の視線を受けてイミオラ様が口を開かれる。


「真光教団の殲滅、並びに聖杯と聖杖の奪還に向け、神殿は王国に最大限の協力をいたします。また、今後真光教団によって被害に遭われた方には、神殿として可能な限りの補償をさせていただきます。更に……協力に当たり、わたくしが率いる対真光教団特別部隊は、一時的に国王陛下の指揮下に入ります」


 その言葉に、わたくしは思わず目を見開いた。

 一時的な措置とはいえ、神殿に属する者達が、聖杯公含めて国王の下に就くというのだ。


(これは……思い切ったことをされましたね。それだけ本気、ということなのでしょうが……)


 しかし更に、そこへ畳み掛けるように陛下が続けられた。


「王家としては今回の事態を重く受け止め、全貴族に対して勅令を下すこととした。真光教団の殲滅、並びに聖杯と聖杖の奪還のため、全ての貴族は最大限の協力をせよ。詳細は追って書面で通達するが、この命令に反する者に貴族たる資格はない。場合によっては“名剥ぎの罰”を行使することもいとわぬ」


 その宣言に、会議室が揺れた。



* * * * * * *



「これは……」


 会議から2日後。王城より届いた書状を読んだわたくしは、その内容に眉根を寄せた。


「ラルフ」

「はい、なんでしょうか」

「領都に連絡を。王命により、領内を非常警戒態勢に。一時的に領軍による巡回と警備を強化なさい」

「はっ、社交シーズンは中止、でしょうか?」

「いいえ。中止ではないし、当分は真光教団の対策会議が開かれる可能性があるから、各貴族家の当主は王都に残るべし、だそうよ」

「それは……」


 その言葉に、ラルフも眉根を寄せる。

 わたくしは書状を机の上に置くと、椅子に深く腰掛けた。

 前回の会議では、真光教団の次の標的は王都。より正確には、王家が所有する七大神器の1つ、聖王剣こと《アズアトラスの剣》である可能性が高いと示唆された。

 これはイミオラ様の証言によるもので、なぜ真光教団が七大神器を狙うのかは不明だが(もっとも、陛下とイミオラ様は何かを察していらっしゃるご様子だったが)、王家はそれを前提として動いていた。

 そこに、各貴族家の当主を残らせるということは、つまり……


「……どうやら陛下は、全ての貴族を強制的に戦場に立たせるおつもりのようね」

「しかし……貴族派閥の者達が素直に言うことを聞くでしょうか? 療養などの適当な理由を付けて自領に逃げてしまうのでは?」

「言うことを聞かざるを得ないでしょう。既に王都周辺は軍による幾重もの警戒網が張られているし、陛下は場合によっては“名剥ぎの罰”を行使するとおっしゃっているのだから」

「ですが、王都に残ったところで彼らは我が身を守ることを最優先とするはず。仮に王都が戦場になったとして、そんな者が役に立ちますか?」

「立たないでしょうね。でも、恐らく陛下はそういった家の者には、逃げないようあらかじめなんらかの役目を与えているでしょう」


 各貴族家の当主とその側近は、そのほとんどが優秀な神術師だ。場合によっては、1人でも一般兵100人分の働きが出来る。

 この非常事態に、それだけの戦力を遊ばせておく理由はないだろう。


「それに、少し目端が利く者ならここで逃げたところで意味などないと察しているでしょう。聖杯公聖下がおっしゃるには、真光教団の首領であるゾレフは、この国の全ての王侯貴族に復讐をすると言っていたそうだから」


 もしそれが本当なら、逃げたところでそれは一時の延命にしかならない。

 万が一王都が堕ちれば遠からず真光教団の粛正を受けるし、王国が勝利すれば国王陛下によって敵前逃亡の報いを受けさせられることとなるのだから。


「なるほど……それで、当家にはどういった役目が与えられたのでしょうか?」

「何も」

「はい?」

「何もないわ。精々、有事の際には王都の民を屋敷に迎え入れて守ることくらいかしら? まあ、当主になったばかりでなんの実績もない小娘にはこのくらいが妥当でしょう」

「ですが……ナキア様の軍勢強化の戦略的価値は計り知れません。特に、前当主様が軍団長を務めてらした第1軍は、その強化を前提とした部隊のはず。そことの協力は必須なのでは?」

「これが、対人戦でなければそうね。でも、今回のように戦線が入り乱れる可能性が高い戦場では大して役に立たないわ」


 レーヴェン侯爵家の秘術“不屈の聖軍”は、効果範囲内の人間を無差別に強化してしまう。それが味方であろうが敵であろうが関係なく。

 それに、強化された肉体による近接戦闘を主とする第1軍は、王都内の警備に当てられるはず。

 そうなれば、ますますわたくしに出来ることなどない。王都全域に強化など掛けたら、数分と持たずに神力切れを起こすだろう。


「失礼をいたしました」

「気にすることないわ。……まあ、王都の民を屋敷に迎え入れた上で、屋敷の敷地内に“不屈の聖軍”を使って立てこもるくらいかしら」


 ただ、それをするくらいなら王城の籠城戦の方がまだ役に立てそうではあるが……そちらを任せられなかったということは、まだ我が家が信頼されていないということか。あるいは、聖王剣との兼ね合いか……。


「まあ、命じられたことを全うするしかないわね」


 そう締めくくり、立ち上がる。


「少し、書庫に行ってくるわ」

「はい、畏まりました」


 ラルフにそう告げ、わたくしは気分転換のために執務室を出た。

 ……別に、嘘は言っていない。主がいなくなった以上、あの部屋(・・・・)は実質書庫のようなものだ。


 廊下を進み、護衛を扉の前で待たせると、わたくしは部屋の扉を開けた。

 すると、本の匂いに微かに花の香りが混じった独特の匂いが、鼻を刺激する。

 わたくしは大量の本が並ぶ本棚の間を真っ直ぐに突っ切ると、ベッドの上に身を投げ出した。

 ドレスや髪が乱れるのも構わずにベッドの上を這い進むと、枕元に置いてあった犬のぬいぐるみを抱き上げる。


「モモ、いい子にしていましたか?」


 その黒い目を見詰めながら問いかけると、丸々としたお腹を撫で、そのふわふわとした感触を楽しむ。


「まったく、当主になってから厄介ごとばかりですわ」


 そう愚痴のようにこぼすと、わたくしはモモを胸に抱いてベッドの上で仰向けになった。


「はぁ……」


 全身を弛緩させると、自然と溜息が漏れた。

 王家は出来る限りの対応をしていると思うが、状況はかんばしくない。

 なにしろ、敵は洗脳というある種究極の統率がなされた高位神術師と呪術師の集団。一方こちらは非神術師の野盗くらいしかまともな対人戦経験がない軍団。

 数はこちらの方が多いが、質は向こうの方が上だろう。おまけに、こちらの貴族達は足並みを揃えられるかどうかも怪しいとくる。


(それでも……早期に敵を発見できればまだいいのですけど)


 緊張状態というのは長く続かない。それに、軍というのは動かすだけでお金が掛かるものだ。敵にどこかに潜伏されてしまえば、いつかは必ず隙が出来てしまう。

 特に最悪なのは、王国各地に散発的な襲撃を掛けられることだ。

 そうなれば襲撃を受けた領の貴族の足並みは乱れ、軍は振り回され、王国の戦力は分断される。その先に待っているのは……


「あぁ……」


 考えれば考えるほど、嫌な想像が思い浮かぶ。でも、わたくしに出来ることなど何もない。せめて、その襲撃の矛先が我が領に向かないことを祈るばかりだ。


(なんとか早期に敵を捕捉し、決戦に持ち込むことが出来れば……)


 無駄と知りつつもつらつらと考えを巡らせていると、だんだんまぶたが重たくなってきた。

 体温が上がり、ベッドに体が沈み込んでいくような感覚。

 その感覚に、身を任せようとして──



 ガチャ



(……?)


 扉が開く音に、ぼんやりと視線をそちらに向ける。

 そこで、いつの間にか部屋の扉に凄まじい神力が宿っていることに気付き、気付くと同時にその人物(・・・・)が部屋に入ってきた。


 白銀色の光沢をまとった前の開いたローブ。そこから前後に突き出す細剣の柄と鞘。

 目深にかぶったフードから覗く、白銀の髪と水色の……


「「え?」」


 そこで、同時に声を上げる。

 聞き覚えのある声。見覚えのない呆けた表情。きっと今のわたくしも似たような表情をしているだろう。


(え? は? え、なんで?)


 頭の中が疑問符に埋め尽くされ、半ば無意識に上体を起こすと、その闖入者としばし見詰め合う。

 そうしてようやく幻でも夢でもないと理解し、わたくしは反射的に表情を険しいものへと変えた。

 そして、無意識に腕の中にあるものをぎゅっと抱きしめながら、冷たい声で言い放つ。


「こんなところで何をしていらっしゃるのですか? お姉様」

「いや、それこっちのセリフ……」


 それに対して返ってきたのは、聞き覚えのない砕けた口調での切り返しだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり妹さん可愛いですねぇ(笑) 流石に人形の名前は姉の名前に寄せなかったか……残念です!
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