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ハロルド・ファルゼン視点①

すみません。梨沙視点の予定だったのですが、ここを逃すといつまで経ってもハロルドのターンが回って来ない気がしたので、一旦ハロルド視点を挟みます。

「セリア…どこだ…?」


 私ははやる気持ちを必死に押さえつけ、馬を駆った。


 私はセリアが王宮を飛び出したという話を聞いてから、すぐにその行方を捜索させた。

 しかし、王都を巡回している警備隊に話を聞いても、空から少女が降り立ったという報告はなく、代わりに王都の外壁を警備する部隊から、空を飛ぶ銀色の光を見たという報告が上がった。その光は王都の外壁を飛び越え、北東の方向に飛んで行ったという。


 私はそれを聞くと、父の許可を半ば強引に得て、すぐに動かせるだけの兵を全て動かすと、セリアが飛んで行ったという方向に馬に乗って駆け出した。


 私自身が捜索に出るのにはかなりの反対があった。側近たちも、捜索は兵に任せて私は王宮で待つべきだと主張したが、私はそれを振り切って出て来た。

 私自らセリアを追いかけたいという私情もあるが、それ以上に、兵たちだけに任せても上手くいかないという確信があった。


 セリアの性格からして、見ず知らずの兵たちに突然追いかけられたら確実に怖がって逃げるだろう。仮にそれで捕まえられたとしても、セリアにそんな怖い思いをさせたくはないし、兵士に捕縛させて連行させるなど、そんなまるで罪人のような扱いをするつもりもなかった。


 …というか、兵士とはいえ、男にセリアの体を不用意に触らせるなど断じて許せない!いや、そもそもセリアは今寝間着姿の可能性が高い。そんなあられもない姿のセリアを見て、女っ気のない生活をしている野獣どもが平静でいられるだろうか?いや、ありえない!何もなかったとしても、野獣どもがセリアに邪な視線を向けるなど断じて看過出来ない!


 なので、捜索に出ている兵には、もしセリアを見付けても不用意に近付かず、声が届くギリギリの距離を保ったまま、私が会いに行くことだけを伝えるように厳命してある。その際、なるべくセリアを直視しないようにすることも伝えておいた。

 本当なら私1人で捜索するか、女性の兵だけを使って捜索したいのだが、流石にそれは現実的ではなさ過ぎるので、断腸の思いで諦めた。




 王都から出て捜索を開始して既に30分が経過した。

 セリアの行方を調べて兵を動かすのに時間が掛かったので、セリアが王都を飛び出してからは既に4時間は経過しているだろう。兵たちは北から東に掛けてかなり広い範囲を散開して捜索しているが、私自身はセリアが飛んで行ったという方向に真っ直ぐ進んでいる。しかし、未だに人がいた痕跡はどこにも見当たらなかった。


 本当なら神力の痕跡を追跡するのだが、遥か上空の痕跡を感知するのは私にも無理だ。しかし、寝間着姿で上空を飛んでいれば、途中で寒くなって一度どこかに着地するだろうと考えていた。そして、着地したならばそこにある神力は感知できる。そこからもう一度飛び立ったとして、その方向くらいは分かるだろうし、方向から目的地が分かればもっと捜索範囲を狭めることが出来る。


 そう考えていたのだが、少し見通しが甘かっただろうか。そんな風に考え出した頃、先行させていた兵が戻って来た。

 何かを見付けたのだろうかと思いながら見ていると、その兵は隊列に合流し、私の隣の親衛隊長のところまでやって来た。


「隊長、殿下、ご報告します。この先の草原に人がいた痕跡を発見致しました。更にその先の林の入り口に不可解な物体が確認出来ました。如何致しましょう?」

「よし!でかしたぞ!…しかし、不可解な物体とは?」


 親衛隊長がそう問い掛けると、その兵は少し答えに迷うように口籠った。


「何だ?見たままに報告しろ」

「…はっ、その…木製のドアのようなものだと思われます」

「…ドア?」


 思わず親衛隊長と顔を見合わせてしまう。

 親衛隊長の表情には只々(ただただ)困惑の色が浮かんでいる。おそらく私も同じような表情をしているだろう。


「…ドアだけか?周囲に他に何か特別なものはなかったんだな?」


 そう兵士に問い掛けると、その兵士は私に直接話し掛けられたからか、少しビクッとした後に返答した。


「はい。周囲には何もなく、ただドアだけが林の入り口に立っておりました。…少し気になることがあるとするなら、そのドアの周りに木が切り倒されたような痕跡があったことでしょうか」

「…ふむ」


 聞けば聞くほど不可解な状況だが、そこに誰か人がいたというなら、調べない手はない。


「よし!その草原に向かうぞ!案内を頼む!」

「はっ!」


 その兵士の案内に従って少し進路を修正すると、私たちは馬を加速させた。




「殿下、ここです」

「…間違いないな」


 辿り着いた草原で、私は強力な神力の痕跡を感知した。そして、その濃度が高い方へ進むと、広範囲に渡って草が踏み倒されているところがあった。


 …いや、踏み倒されたというより、体全体を使って転げ回ったという感じだろうか?あまりにもその幅が広いため、そんな印象を受ける。

 足のない大型の害獣が移動すればこのような跡になるが、それにしては草原の途中で跡が途切れているし、何より王都近郊にそんな大型の害獣は生息していない。


(…何だ?王都を出た解放感にでも浸っていたのか?だとしたら随分子供っぽいことをするんだな)


 その光景を想像して、思わず口元を弛めてしまう。


 …実際はそんな微笑ましい光景ではなく、むしろ阿鼻叫喚の様相を呈していたのだが、ハロルドにそれを知る術はない。


「やはり、ここにセリア様が降りられたのは間違いなさそうですな」

「ああ、それでドアというのは…あれか?」


 親衛隊長に頷きを返しつつ、林の方に目を向けると、遠目にだが木立に紛れて何か不自然なものがあるのが見えた。


 皆でそちらに向かうと、やはりそれはどう見てもドアだった。

 ドアの近くには、幹の一部分だけがきれいに消え去っているという奇妙な木の残骸があり、どうやらこれを材料にドアを作ったのだと推測出来た。


 しかし、一定距離まで近付くと、馬が一斉に立ち止まった。

 理由はすぐに分かった。

 そのドアを中心として、先程の草原とは比べ物にならない量の神力の残滓を感じる。


「…これは…っ」


 貴族であり、一流の神術師でもある親衛隊長も困惑と驚愕が入り混じった表情をしているし、他の兵たちも異様な気配を感じているのか、どこか強張った表情をしていた。


 馬が怯えてしまっているので、やむなく馬を下りて徒歩でそこに近付くと、残滓とは思えないほどの強力な神力を感じた。


(かつて行使した最上級神術でもここまでの神力は放出されなかったぞ?これは間違いなくセリアの仕業だ。しかし、木からドアを作り出す神術でここまでの神力が残るとは思えない。となると、やはりドアを作った上で何かをしたと考えるのが妥当か…)


 そんなことを考えながらドアの前まで辿り着く。

 目の前にすると、やはりドア全体に強力な神力が宿っているということが分かった。

 しかし、いくら調べてもそれが何のために作られたものなのかは分からなかった。


 ドアにはきちんとそれを支える枠もあり、ドアノブを回すことで開け閉めも出来るという、ただの張りぼてではない本格的なものだったが、材質自体は何の変哲もない木と石だった。


 神術の触媒に使う特殊な植物や鉱物を使ったわけではないのにこれほどの神力が宿ったままというのは、尚更セリアが行使したであろう神術の規模が途轍もないものだということが察せられるが、その神術が何を目的としたものなのかが分からない。

 ドアを対象に行使する神術など、精々防御用の聖属性神術くらいしか知らないし、ドア型の神具なども私の知る限りでは存在しない。


 しかし、その周囲をどれだけ散策しても他に神力の痕跡は発見出来ず、結論として、何らかの神術を行使した結果、神力切れを起こして林の中を徒歩で抜けたのではないかということになった。


 その後、兵を集めてその林を中心として重点的に捜索を行ったが、セリアが見付かることはなかった。

 念のためにドアの方も宮廷神術師を呼び寄せて調べさせたが、神力の解析に関しては王国一と名高い神術師を以てしても、既存の属性に当て嵌まらない、完全な固有神術だろうということしか分からなかった。


 結局、その日の内にセリアを見付けることが出来なかった私は、王宮に戻って父上にその旨を報告した。




 するとその翌日、父上は第1軍の10部隊の内、6部隊をセリアの捜索に当てることを決定し、その指揮を私に任せて下さった。

 といっても、これは王家がセリアを重要視しているという対外的なアピールの側面が強く、実際の指揮は副官扱いとなっている将軍が行うことになるだろう。


 その日の内に、王都周辺の再捜索と、それと並行して、情報収集を目的とした近隣の領への兵の派遣が行われた。


(セリア…すまない。君が何を思って姿を消したのか、私には分からない。婚約者なのにそんなことも分からない私に君は失望するだろうか?だが、私は君にもう一度会いたい。たとえ君が私のことをもう何とも思っていないとしても、私にはどうしても君に伝えたい思いがあるんだ!)



 しかし、そんな私の思いとは裏腹に、何も情報を得られない日が続く。

 そしてその度に、私の胸の中で不安と焦燥が膨らんでいく。

 いくらセリアが強力な神術師だとしても、元は深窓の令嬢なのだ。どこに行ったのかは分からないが、ろくに1人で出歩いたこともない令嬢が1人旅をして無事でいれる保証などどこにもない。


 無事でいるのか?情報がないのは、もしや害獣に襲われて運悪く命を落としてしまったからではないのか?

 そんな思いが日に日に大きくなり、身の内からじりじりと焼き焦がされるような感覚がする。


 そんな夜もろくに眠れない日々を過ごし、数週間が経過した頃、ようやくセリアのものらしき情報が入って来た。



 しかし、それは全く予想していなかった場所からのものだった。


読者の皆様にお願いがあります。


感想を下さい!!(切実)


実は、梨沙視点2つに関してまだ1件も感想を頂けていません。

梨沙視点は他の視点と違ってかなりコメディー要素が強いのですが、作者としてはあれがアリなのかナシなのか測りかねております。

別に読者に媚びて内容を変えようという訳ではないのですが、もし「あのノリは寒い」とか「無理にコメディー要素入れるくらいならストーリー進めて欲しい」といったご意見が多いようでしたら、作者としても思うところがある訳です。

なので、今後の執筆のためにも何卒感想をお願いします!

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― 新着の感想 ―
ドアで移動するという発想はドラえもんを慣れ親しんだ日本人じゃないと中々難しいよな~。 ホントにドラえもんのアイディアは凄いわ。 だからこそ梨沙もこんな神術を発動出来たんだろうな。
[一言] 投稿日は遥か昔、しかも完結しているので、あとがきのお願いに答える意味も無くなっているとは思いますが。 ここまで読んで、残された人々の(梨沙の真意が判らない故の)シリアスな雰囲気と、梨沙のコ…
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