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炉中の記憶  作者: Koroku
第一章
3/4

―③― 小雨の依頼


 同日


  狙っていた冷やし中華は限定二十食だったらしく、森崎が行った頃には既に売り切れていた。結局、ランチはいつも通りの醤油ラーメンだった。

 「ごめんねえ、次の発注は来週末なのよ」閉店ギリギリに来た森崎に、食堂のオバちゃんは謝った。どこか和久井映見に似ている彼女は、優しい性格が故に皆から愛されていた。

 「いいえ、こちらこそ。来週は間に合うように来ますんで」

 「じゃあ一つ寄せておくわ。いつもありがとうねえ」

 「こちらこそ。ごちそうさまです」オバちゃんにおぼんを渡して食堂を後にした森崎は、隣の売店でミネラルウォーターとビニール傘を買って病院を出た。

 午後になって雨脚は弱まり、暗かった空も明るくなり始めていた。森崎は傘を差して裏の駐車場へ向かい、一五年式マツダ・アテンザに乗り込んだ。

 ミネラルウォーターを一口飲んで背伸びをした時、グローブボックスの中からブロンディのコール・ミーが流れてきた。森崎は慌ててクローブボックスの中からF-01Fを取り出した。画面には『公衆電話』と表示されていた。

 「もしもし」

 「あっ、先生」聞いたことのある声だった。

 「水沢君? 」

 「すみませんお仕事中に」申し訳無さそうに直実は言った。

 「なんもなんも。何か相談事かな? 」

 「ええ。実は、先生にお願いしたい人がいて」

 「人? 」お願いしたい『事』なら分かるが『人』とは何だろう? と思いながら、森崎はメモの用意をした。「誰だい? 」

 「タケウチミズキって奴です」森崎が初めて聞く名前だった

 「タケウチ……武器の方のタケ? 」

 「いえ、植物の方です。ミズキは、瑞鶴の瑞に、樹木の樹です」

 「なるほど。簡単に、どういう人か教えてもらえる? 」

 「ええ。大学からの友人で、最近久しぶりに会ったんですがね。なんかこう、やつれた様子だったんです」

 「ほう。何か悩み事とかは聞いた?」

 「いいえ。何も」

 「そうか。連絡先は分かる? 」

 「携帯の番号なら」電話番号を教えた後、直実はあることを思い出した。「夜、七時過ぎぐらいなら確実に出ると思います」

「七時過ぎ……」『一九時過ぎにかけるべし』と殴り書きし、森崎はメモ帳を閉じた。

 「とりあえず、今日の晩電話してみるよ」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ。それじゃ、また」

 「どうもです」

 「うい」森崎は電話を切り、左手首のセイコー・レグノを見た。

 一四時〇八分。時間まで、あと五時間だった。

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