プロローグ01
───暑い暑い、夏の日のことだった。
学校の帰り道。
燦々ときらめく太陽に照らされた、アスファルトに描かれた白と黒の二本線の手前。
人通りで混雑したその場所で、半袖姿の僕達は変わる気配のない信号にうんざりしていた。
梅雨明けの蒸すような暑さに不快そうに顔をしかめた僕は、「明日は学園祭だね」なんて、君と他愛ない雑談を交わしていた。アスファルトの放射が身体にこたえる。これからまだまだ暑くなると思うと、それだけで憂鬱な気分に浸れる。
ようやく信号が赤から青へと切り替わる。それは当たり前で、されどその日は当たり前ではなく。
手元で携帯を見ていた人も顔を上げ、一斉にゾロゾロと動き出す。君もそれに釣られ動き出し、君の小さな歩調に合わせて僕も歩き出す。
横断歩道の真ん中に差し掛かる。
確か、この時の僕は「人間は死んだらどこに行くのか」という、少々ぶった答えの出ない命題について考えていたのをよく覚えている。
もうすぐ横断歩道を渡り切る。
突然君は会話を止め、一歩後ろに下がる。釣られて僕も止まってしまう。
そして、強く僕を抱きしめた。
僕達はまだ、近づきつつあるトラックの存在に気がつくことはない。
「───」
君は耳元で甘く囁く。
僕の意識がはっきりした時には既に遅く、運転手が気絶して暴走したトラックは僕の目の前、君の真後ろまで来ていた。
鳴り止まないクラクションの音、逃げ惑う人々、その悲鳴。
そんな中、君は僕を押し飛ばした。
君はトラックに轢かれる直前まで、その魅力的な微笑みを崩さなかった。
───君が僕に囁いた言葉も、その笑顔も、伸ばした手も───誰に届くことはなかった。