いざ怪物退治
以前にサリーシャ領主から頂いたワッペン(徽章だっけか?)を見せ内側に入ると、ノーソンとは比べ物にならないくらい人と活気に満ち溢れた光景が目に飛び込んできた。
道もしっかりと舗装されているし、建物もテレビで見たようなレンガ造りのものばかりで、古臭いというより異国に来たという印象を強く受ける。
遠目に薄っすらと見えるのがお城、おそらくサリーシャ領主のいるところだな。
……まぁ、直ぐに行かなくともいいか。元々いつ行くかなんて決めてないし、下手に行くと善意という名の拘束が待ち受けているかも知れない。
どうせならある程度見て回ってからでも……と、思ってたら馬車でお城へ直行ですよ。俺達がきたら予めそういう手順になっていたらしい。
つまり『人の街で好き勝手動き回るな、この危険物どもめ』……と、そういう事だろうか?
「ご主人様の楽しみを奪うとは。この対価、領主如きで背負えるものではないと教えなければいけませんね」
「――街ごと殲滅?」
「やめなさい二人とも」
街ごとやったら観光できないじゃないか。あ、勿論サリーシャ領主に手を出しても駄目だけど。
ちなみに帽子で角を隠した牡丹姉さんはキャーキャー言いながら、馬車の窓からカメラを町並みに向けるだけで制止の言葉もない。……不安だ。
「えーと、写真はブログにアップして、『うさみみ幼女発見なう』と」
え、ここネット環境あるの? というか地獄にそもそもネット環境とかブログとか存在してんの!?
あ、うさみみ幼女の写真は後で見せてもらわないと。
そんなこんなで弱冠騒がしくしながらも、和気藹々と話している内に大きな通りへ出た。店舗や屋台が立ち並び、人の賑わいで酔いそうな感じがする。
「ここはマーズ一番の大通りでね、ここで見つからない商品はないって言われてるんですよ。両隣の国からの輸入品も沢山入ってきますからね~」
御者のおっちゃんが気安く教えてくれる。どうやら俺達の素性なんかは知らないらしい。
「へぇ、それじゃドワーフの職人とかもいたりします?」
「ドワーフ? ドワーフの作ったものが欲しいなら、ここでも色々売ってるよ?」
「物と言うより技術、ドワーフの職人を雇いたいんですよ」
「ほほう、それなら職人区へ行って直接口説き落とすしかないね。でも大変だよ、ドワーフの職人は腕は良いけど頑固者が多いからね。単純な金銭や内容だけじゃ動かない奴も多いよ」
頑固な職人気質って事か? 依頼者の人柄を見て、認めた奴だけに力を貸す……駄目じゃん、俺平々凡々地で行ってるのに。
「ほら、この先ちょっと少し進んだところに『十字路の広場』って言われる四つ角があるんだよ。職人区へ行くならそこを左、東の道を進めば……」
グヴォヴォヴォオオオオオォォォォーーーーッ!!
おっちゃんの親切な説明の途中、突如不気味な咆哮が襲い掛かってきた。よくわからないが、酷い嫌悪感を感じて思わず顔を顰める。
「おっちゃん、うわっ!? ちょ、今のなに!?」
「わ、わかんねえっ! でも前の方が騒がしい!」
咆哮に怯え騒ぐ馬を御しながら言うおっちゃん。状況がよくわからないまま馬車の中に居るのは、何だか拙いような気がする。
「取り敢えず降りるか」
「ご主人様、危険が無いとわかるまでお待ちください。この場はワタクシ達が……」
「大丈夫。いざとなったら守ってくれるんだろ?」
「――ん、当然」
ちょっと自尊心を擽って黒姫とユエの二人を伴って馬車から降りる。牡丹姉さんもおっかなビックリしながら付いて来た。
どうもなにか大きな獣でもいるみたいで、こっちに向かってくるように人が波のようだ。巻き込まれくはないな。
「ご主人様、人混みが邪魔なようなら薙ぎ払いますが?」
「今度はこっちが逃げられる対象になっちゃうだろ、それ。そんな事しなくともどっか高い所にでも……」
「――了解」
先に返事をしたのはユエ。顔を向けたときに僅かに屈み込み、他よりも高めの建物の屋根へ一気に跳躍した。そして、それに続く黒姫。
いやいやいや、俺には無理だから!? どうせなら俺も担いで連れて行って……って、もう人波は直ぐそこ!?
「ええい、やってやれっ!」
屈み込んで両足に力を溜め、二人のいる場所まで跳躍――――ッ!
「――な~んて、届くはず……え?」
気がついたら宙を跳んでいた。余裕とは言えなかったが、なんとか屋根の縁に足が届く。
「おおお、で、出来た……」
「ご主人様ならばこの程度、当然でございます」
いやいや、普通出来ないから。ダンジョンマスターに……いや、この体がそもそも生前と比べて飛躍的に能力が向上しているのか。トリスも注意するよう言ってたっけ。
いや~、それにしてもあんな場所から縦横数メートルの場所に届くとは……あ、牡丹姉さんが人波に飲まれた。
「――主様、あれを」
やっべ、忘れてたと冷や汗をかく俺の肩をユエがトントンと叩き、その指を円形になっている広場のほうへ向ける。
恐らく噴水であろう中央の石像っぽいものは破壊され、貯まった水で喉を潤しているのは……
「うわ、きも……」
体の形を見るだけなら大きなライオンだ。ワゴンサイズのライオンなどそれだけで怖いが、そんな事が些細と思えるほど生理的嫌悪が先立つ特徴が一つ。
顔だ。中心である獅子の顔とは別に、牛・馬・山羊・犬・猫・巨大な蜥蜴等など。大小を問わず様々な動物の顔が、その体のアチコチから生えているのだ。
しかもただくっ付いているだけじゃなく、目も動けば鳴き声もあげる……さっきのはアレ等が一斉に鳴き声をあげたものだったのか? そりゃ悪寒もするわ。
「キメラでございますね」
「キメラ?」
「はい。【合成獣】は生き物の細胞を培養し、人工的に作られた魔石に定着させて生み出される非自然物でございます。定着させる細胞の数が多いほど、その能力が高いほどコントロールは困難だとか。恐らく術者の手を離れて暴走しているのかと」
「は、傍迷惑な……それにしても、人工的に魔石って作れるものなのか?」
「劣化したものですが出来なくはないようです。ただ禁術指定を受けており、どのような目的であれ作成は犯罪のようです」
つまり【合成獣】って存在そのものが非合法な訳か。
それにしてもどうするんだろう、アレ。今のところは人を襲ったりはしていないようだけど、喉を潤したら別かもしれないし。
……猫じゃらしで大人しくなるようにも見えないしな~…
「ご主人様、如何なさいますか?」
「直ぐに衛兵なり騎士なり冒険者なりがくるだろう。サリーシャさんだって、俺達が手を出すのは歓迎しないだろう…し…ね……」
――――――――目が、合った。
キメラまでおよそ300メートル。ただでさえ距離もあるし、顔の数もめちゃくちゃなのに、水を飲んできた獅子の部分が此方を向いたとき直感で確信した。
――のんびり見ている間に、周りに人が全然いなくなってるしね!
『グヴォヴォヴォオオオオオォォォォーーーーッ!!』
再び、今度は視線の先で全ての顔が一斉に咆哮をあげ、その四肢がこちらに向かって走り出した。
て、はえぇぇーーー!! 今から走って逃げたんじゃ幾らなんでも間に合わないって!
馬車……御者のおっちゃん諸共、既にいないーー!?
そんな俺の動揺など全く構わず、キメラは速度を保ったまま此方に向かって大きく跳躍。獲物(=俺)に飛び掛り、
「――主様の前で、頭が高い」
バンッ!!
巨狼化したユエの手(前足?)が無造作に振られ地面に叩き落とされた。
「卑しい混ぜ物如きが、ご主人様に牙を向けようとは……」
いつの間に通りに着地していた黒姫が、キメラの一番大きな獅子の顔に足を置いて踏みつけている。一体どれほどの力が込められているのか、石畳が割れメキメキとその顔が地面に減り込んでいく。
キメラは四肢を振り回して暴れるが、黒姫は微動だにしない……く、黒姫の方なまじ普通の人間に見える分、異様さが際立って恐ろしいな。
そんな黒姫に本来尻尾に当たる部分にいる蛇が、喰らいつこうとその細身を伸ばすが、素が届く前に黒姫は足を上げそのまま蹴り上げた。たったそれだけでキメラの巨体が吹っ飛び、数十メートル通りを転がっていく。
「ユエ、この躾の足りない獣にお仕置きを致しますよ?」
「――ん、今日の夕食は豪勢」
「え、食べるの? あれ食べるつもりなの!?」
「――? 主様はお肉が好きって言ってた」
「ええええーっ!? いや、好きって言ったけどアレはないよね!? そもそもアレ、分類的に何肉になるの!?」
「――色々な味が楽しめておと……く?」
おおおい、不安そうに首を傾げながら言うな! そしてそんなものを仮にもご主人様に食べさせようとするんじゃありません!
でも、その所作はちょっとグッときたでのよし。
さて、黒姫&ユエvsキメラの構図が出来上がったわけだが、二人が負ける場面が想像できないと言うか明らかに戦力過多だ。たぶん、どっちか一人でも楽勝だろう。
「黒姫、ユエ。出来るだけ早く片を付けてくれ! 時間をかけて人に見られたくない!」
おそらく直ぐに、それこそこの瞬間にも騎士や冒険者が来る可能性は高い。それにこうなった以上、逃げても追い掛けてくるだろう。
どっちにしろ見られる危険性はあるのなら、ここで最速で倒して事後処理をサリーシャ領主に押し付けた方がマシだ。
「かしこまりました。では……」
答えたのは黒姫、先に動いたのはユエ。ハルバードを片手で持ちながら疾走しキメラとの距離をあっという間に詰める。
「ゴヴァオォ!」
それを迎え撃つキメラがユエの動きに合わせて前足の爪で狙うが、ユエは爪が掠めるギリギリで回避し、そのまま通り過ぎざまにハルバードで前足を肘から叩き斬った。
それだけでなくオマケの様に尻尾の蛇まで切断していく。これでキメラはバランスを崩して倒れ込み……
ズズズ……
いや、斬られた部分から肉が飛び出し、皮膚の無い前足が再生した。ご丁寧に尻尾の蛇まで再生している。
さ、再生能力付きとは意外に手強いのか? でも、何にしろ……きもい! 俺、スプラッタ苦手なんだってば!
『グヴォヴォヴォオオオオオォォォォーーーーッ!!』
キメラが三度咆哮を轟かせるが、今度は声だけではなかった。
体中にある様々な生き物の顔から、雷が、水が、火が、飛礫が、風が、雹が。まるで雨の様に俺と黒姫とユエに振りそそ……俺っ!?
「うぇ!?」
慌てて屋根に張り付くように身を顰め、頭上を通り過ぎるそれらに気を付けながら頭だけ出して覗き見る。
黒姫は伸ばした爪で、ユエはハルバードでそれぞれ迫る攻撃を蹴散らしつつ、ユラユラと最小限の動きで回避している。
「高い再生能力ですが、無限に続くわけでもないでしょう。攻撃を続ければいずれ再生の為の活力も尽きる、しかしそれではご主人様の意に沿いません。ならば再生も出来ないほど強力な攻撃で周囲ごと殲滅すれば……」
チラッとこちらを見た黒姫に、両手をクロスさせて『×(だめ!)』と伝える。
「では少々気は進みませんが、少し細かくなって頂きましょう」
言った黒姫の姿が白く霞む。盗賊戦で使った霧状化、それをあの時のように周囲を包むのではなく、真っ直ぐにキメラに向かうと……
「す、吸い込まれた……?」
なんと、キメラの口に突っ込むとそのまま吸い込まれてしまった。そして、キメラの動きが一瞬止まる。
ザクッ
キメラの体から、何か細長いものが飛び出た
ザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッ!
立て続けに二本三本四本……合わせて十本? 白く細長い何かは、キメラの体内から外側に向けてその身を貫く。
『グ、グヴォヴ……』
悲鳴か怒りか、或いは断末魔か。キメラの顔が一斉に何かを発しようとした時、十本の何かが一斉に動き回りキメラを数十の肉片に解体してしまった。
血と肉の海の中、その中心で何かがゆっくりと立ち上がる……黒姫だ。
「ふぅ……むせ返るような血の匂い、酔ってしまいそうです」
全身を血で染めながら恍惚な笑みを浮かべる黒姫は、指先を口に運び血の味を確かめるように丁寧に舐める。
こ、怖い……やっぱり黒姫のはるかに怖い! しかも、バラバラになったキメラの顔が個別に呻き声を上げるという演出までついてる。これはちょっと夢に出そうだ。
「――まだ終わってない」
その場にユエがとことこやってきて、血に濡れるのも構わず肉片の中から何かを拾い上げた。血で汚れていまいち判別できないが、内臓とかじゃなく石っぽいもののようだ。
「ユエ、それはなんだ?」
「人口魔石。これを壊せば無理矢理結合させられていた生き物は塵になって消える」
「んじゃ、それを壊せば解決ってわけだ」
「――問題が一つ、ある」
何だか深刻そうにユエが言うが……
「夕飯の材料が……」
「今すぐ壊しなさい、さあ壊しなさい。ハリーアップ、ナウ!」
だから食べないってばっ!
□
「まったく、来て早々派手にやってくれたようだな」
「やりたくてやったわけじゃないんですけどね……」
キメラを退治した直後に衛兵及び騎士が現場に到着。ユエが魔石を破壊した直後だった為、計らずもキメラを倒したと言う証人を作ってしまった。
とはいえ、血まみれで不気味に微笑む黒姫と塵になっていく肉塊を見ながら「お肉……」と呟くユエは随分と不気味だったらしく、拘束されそうになるも(まぁその前に二人が暴れるだろうが)騎士の中に村に来た者がいたため領主預かりとなって事なきを得た。
あ、ちなみに牡丹姉さんは近くの建物のの影で目を回していた。背中に足跡とか残っていたから、一番災難だったのは彼女だったかもしれない。
騎士に案内される直前まで放置する形になった事で、ちょっと怒られてしまったというか現在進行形で不機嫌だ。
そんでもってそのままお城に案内され、サリーシャ領主の執務室に案内されたと言う訳だ。
ちなみに傍に居るのはユエと牡丹姉さんの二人で、流石に血まみれの黒姫はそのまま入れられず湯浴へ連れて行かれた。うん、こちらとしても助かる。
ユエのハルバードなども取り上げられているが、いざとなればそんな物無くても大丈夫だろう、ユエなら。
「あのキメラなんですけど……」
「ああ、既に犯人は自首済みだ。アカデミーの生徒が好奇心で作った産物らしいが……まったく、生徒の管理くらい徹底しても欲しいものだ」
「アカデミー?」
「そうか、太郎は知らないか。アカデミーは錬金術師を育成する機関の事だ」
ほう、錬金術師とな? ダンジョンの設備に【錬金設備・初級】とかあったから、いるのは予想できたが育成機関があるとは。学校みたいなものかな?
「その生徒は?」
「お前達のおかげで幸い目立った被害は無い。その生徒はこれまで優秀な成績を収め国への貢献も著しかったのでな、まぁ放校処分だけで済ませた」
放校……退学か。
可哀想、なんて言っちゃ駄目だな。人が死んでもおかしくなかったし、むしろ退学程度で済んで僥倖だろう。
ダンジョン討伐の証である二枚の赤い札を渡すと少し目を細めたものの、これといった動揺も無く使用人を呼んで渡した。この街に来た時点である程度予想していたと言う事か、多少驚くと思ったんだけど。
「報奨金は鑑定士が魔札を鑑定してから見合った額を払う。さて、太郎。腹を割っては話そうじゃないか。マーズに来たのは何の為だ?」
「う~ん、魔札の換金と挨拶だけと言っても信じられませんか?」
「信じられんね」
おおう、一蹴された。別に隠す事でもないので正直に話しておくか。
「村を整備するのにドワーフの大工職人の手を借りたいなっと。後は面白い物と人とかあったら、買ったり勧誘したりしたいなっと思ってます……止めますか?」
「別に構わない。お前たちが説得して連れて行くのなら、好きにするといい。だがドワーフは頑固の者が多い、なんならこちらから懇意にしている職人を何人か紹介するが?」
「いえ、散策も兼ねてますのでお気遣いなく」
サリーシャ領主とは表向き友人関係にあるとはいえ、息のかかった者を身内に引き込む可能性は避けるべきだろう。
まぁ声をかけた職人が全員、領主の息のかかった者だった……なんてオチも有り得るけど。
「叶うなら私自ら街を案内してやりたいところだが、生憎政務が詰まっている。広場の騒ぎの後始末もあるからな。まったく、爵位を継いでからというのも面倒な事ばかりだ、気ままに冒険者稼業をやっていたのがはるか昔に思える」
「うーん、サリーシャさんってもう結婚してもおかしくない歳ですよね? サリーシャさんってば綺麗だし、地位もあるからよい男なんて選び放題じゃないですか? そうすればお仕事だってお任せできて楽になると思いますよ~」
「ちょ……!?」
悪意は無かったはずだ。牡丹姉さんはただ思ったことを口に出してしまっただけだが、それでも一瞬にして空気が重くなった。サリーシャ領主のが据わった眼つきで牡丹姉さんを睨む。
文明と言うのは早熟なほど早婚の傾向にある。日本男児も昔は十四歳で成人と認めらていたのだ。
おそらく二十代前半か半ばくらいと思われるサリーシャ領主は、この世界の一般的な適齢期でいえば”いきおくれ”と呼ばれる年齢なのだろう。
そして、出会ってから僅かな時間ながら、なんとなくサリーシャ領主が気にしてることもわかってたのに……!
「……私もな、私だって、結婚願望が無いわけではないんだぞっ!」
バンッ!と、机に拳を叩きつけ声を上げるその迫力に、思わず背筋がピンと伸びる。
「別に貴族のボンボンや権力や財産狙いの輩だろうが、正直ところ私は構わないんだ。選り好みするわけじゃないが、何か一つ私より秀でていれば良いのだ。だが、夜会で言い寄ってきたり紹介される奴はどれ一つとして、私にすら及ばない者ばかりなのだぞ!? その癖、文句と陰口だけは一人前ときてる。私にお荷物と伴侶になれとでも言うのか? まったくどいつもこいつも……っ!!」
そ、相当鬱憤が溜まっていたようだ。俺はおろか、ユエですらその迫力にやや目を開いて驚きを表している。
でも牡丹姉さんだけはちょっと反応が違った。
「うんうん、わかりますわかります。男って勝手なんですよね、女に夢見て完璧を求めて。なのに自分より優秀だと、直ぐに気に食わないって文句言っちゃうんですよね~」
「おお、わかってくれるのか!? そうだ、ああは言ったが、別に能力が無いなら無いで、私を精神的に支えてくれる人物ならよいのだ。なのに、貴族と言う性なのだろか? 隙あらば取って代わろうと言う下心を隠せぬものばかりで……」
「そうなんですよね、男って基本的に女を下に見てるから、直ぐに騙せたり出来ると思ってるんですよね」
なにか苦い恋愛経験でもあったのだろうか? サリーシャ領主と牡丹姉さんの話が弾むこと弾むこと。
「――主様」
「ん? どうした?」
「これ、いつ終わる?」
「……さ、さあ?」
二人の恋愛談義(という男叩き?)は湯浴みが終わった黒姫がやってきても続き、執政官のバラムスさんが来るまで続いたのだった。
そしてこのことを切っ掛けに、二人の間で堅い女同士の友情が結ばれたとかなんとか……
□Another Side□
「だからですね、私を置いていくなんて酷いと思うんです。太郎さんたちはマーズに行くの初めてだって言ってたから、行く時は案内しようと思ってたのに……なのに、黒姫さんやユエさん、牡丹さんまで一緒に行っちゃうなんて! 女の子同士で楽しくお話しできるチャンスだったんですよ!」
「お、おう、そりゃ残念だったな……」
「鎧の人、ちゃんと聞いてるんですかっ!?」
「ダ、大丈夫、チャント聞イテイル……」
「なら良いです。だからですね、私だって楽しみにしてたのに置いていくなんて……」
ダンジョンの最下層、昨日宴会に使われた広間。太郎一行に置いて行かれたティルがスラりんに座り、紅牙とシルヴァリオンに愚痴を言っていた……酒精を飲みながら。
「(おい、また話がループしたぞ。何回目だよこれで?)」
「(三十二回目ト記憶シテイル。絡ミ酒トハ少々意外ダッタ)」
「そこ、聞いてるんですかっ!」
ティルに睨まれて慌てて居住まいを正す紅牙とシルヴァリオン。
その戦闘力で無双を誇る二人も、酔った少女の扱いまでは知らないのであった。