出会いはダンジョン、夢はエプロン
□ANOTHER SIDE□
俺の名前はバッカス、Lv33の冒険者だ。冒険者組合の方には【剣士】として登録している、このレベルでは珍しい方だろうな。
自分でいっちゃなんだが、俺はかなりレベルの高い熟練の冒険者だ。若い頃から終生冒険に費やした猛者でも、レベルは50いけば良い方だろう。だが俺は今年で三十歳、かなりのハイペースと言えるな。
俺ぐらいの歳でレベルが高い【剣士】は、大抵どっかの領主や貴族に勧誘されたり仕官したりして騎士になるやつが多い。登録する職業も【剣士】と【騎士】じゃあ、周りの見る目や待遇もちょっと違う。
同期で俺よりレベルが低いやつが取り立てられ、騎士団の副団長になってる奴もいるが……どうも俺は縛られるのが苦手なのか、名誉や安定した生活ってやつに魅力を感じねえ。
だから定住せず落ち着かず、大陸をあっちこっちしながらダンジョンや遺跡、モンスター退治に精を出している。が、冒険者組合から見れば俺のような物好きは随分と都合が良い、もとい助かる存在らしい。
現に、今日も新米冒険者の初ダンジョン探索の手伝いに駆り出されているからな。ま、断らない俺もお人好しなのだろうけどよ。
「バッカスさん、やりました!」
朽ちかけた剣と盾を持つ骸骨、ボーンファイターを打ち倒した剣士が笑顔で報告してくる。
「まだ戦闘中だ、気を抜くんじゃねえ」
「は、はい!」
やれやれ、既に戦況は決しているとはいえ仲間は戦っているんだ、俺なんか気にしている場合じゃないだろうが。
残り二体いたボーンファイターは、盗賊と僧侶が牽制している間に詠唱を終えた魔法使いの【火炎球】によって力尽きる。
やられたモンスターどもはその場で塵となって消えた。
「やったぜ!」
「ふぅ、終わりました」
「楽勝楽勝♪」
剣士を加えたこの四人のお守りが俺の仕事だ。まだ全員が十代の半ば、レベルも3と4ぐらいの新米も新米。
「スケルトンって強くて初心者は手を出すなって言われていたけど、こいつらよわよわっすね。いや、俺達が強すぎるだけかな!」
「ばーか、こいつらはボーンファイターでスケルトンじゃねえ。スケルトンだったらとっくにお前ら全滅してるっての」
調子に乗った盗賊の頭を叩きながら言う。ボーンファイターは骸骨にスライム種が取り付き動かすもので、呪法によって甦ったスケルトンとは実力が全く違う。
推奨レベルは10から。こいつらが戦えるようになるには数年かかるかもな。レベルは5からが上がり辛れえし。
軽くその事を説明してやってから先へ進む。今まで居た所は石で囲まれただけの部屋、通路も同じだ。これだけでこのダンジョンが出来て日が浅いことがわかる。
ダンジョンってのは放っておくとモンスターを放ち、人を襲い成長する。すると、どんどんダンジョンに個性が出てくる。俺が入った中で珍しいのは、通路も壁も木で出来たダンジョンってのもあった。
「バッカス様は、どうしてその若さでそこまでのレベルになられたのですか?」
隣を歩く僧侶の嬢ちゃんが質問してくる。
「別に。強いて言うならそうだな、ただ面倒そうなモンスターに鉢合わせする機会が多かっただけだ」
強く珍しいモンスターほど貰える経験値が多いからな。モンスターはダンジョンだけじゃねえし、ダンジョン内でも稀にレベルに見合わないモンスターがいることもある。
「おお、つまりじゃんじゃん強いモンスターに挑んでいけば、アッと言う間にレベルも上がっちゃう?」
「あほ、その前に死ぬっての。俺が生きてるのは仲間や状況に恵まれただけだ」
お気楽にものを言う魔法使いの小娘の頭を軽く小突く。
言った通り、どうしてだか俺は面倒なモンスターと関わりになる事が多い。やばい時なんか下級種とはいえドラゴンに襲われた事もある。生きているのは実力よりむしろ運なんじゃねえかな?
「大丈夫だって、俺ら超優秀な冒険者――予定だから、おっさんのレベルくらい直ぐに追い越してやるよ!」
「馬鹿、バッカス先輩になんて口を聞いてるんだ!」
先頭を行く自信過剰な盗賊の兄ちゃんを剣士が諌めているが……ま、別にいいじゃねえか? 若い時は無謀なくらいが丁度いいと思うぜ、俺もそうだったし。
だが、
「いま五階だっけかな……次の部屋を探索したあたりで一旦ダンジョンを出るぞ」
とりあえず探索は終わりだな。盗賊を中心に不満を言い出すが、有無を言わさず決定する。
このくらいのダンジョンだともうそろそろダンジョンの主、ダンジョンマスターの部屋があってもいい頃だ。ダンジョンマスターの姿かたちは様々だが、ダンジョン自体攻略が容易でもボスは一定水準以上の強さを持っている。
俺なら一人でも大丈夫だろうが、今のこいつらには少々キツイ。一緒に戦うにしても、功を焦ったこいつらがいたら『もしも』が起こりかねない……ってか、俺がやったら意味ないしな。
それに俺の予想が正しけりゃ、このダンジョンのボスは俺にとって相性が悪いかも知れねえ。
新米どもを黙らせ次の部屋に……
「おい、後ろからなんか来てるぞ」
肌が粟立つ様な感覚を覚えて反射的に振り返り、新米どもに警告しながら背中の剣を引き抜く。通路を見据える先は光源の届かぬ闇、まだ姿はおろか足音一つしない。
「俺、結構耳良いんだけど。本当にきてんの?」
盗賊が疑惑の視線を背に送るのを感じるが、俺は剣を構えたまま動かない。いや、動けない。額を汗が流れ、正体不明の圧迫感が呼吸を荒げさせる。
おいおい、こんな感覚久しぶりだぜ。一体どんなやつが来てやがる……?
コツ、コツ、コツ……と、足音が聞こえてきたところで、ようやく新米どもが慌てて武器を構える。
そして壁に掛けられた魔法の光源が照らし出したのは、
「――?」
メイドだった。
狼の獣人族のメイドか? メイド服を着たその獣人族の女は二十歳ぐらい、なかなか見ないくらいの美人だ。スタイルも良いし、街で見たならつい目で追って口説きにいっちまうかもしれない。
まぁ身の丈を超えるハルバードが色々台無しだがな。それに、俺がさっきから感じている圧迫感は、間違いなく目の前のこのメイドからだ。モンスターには見えないが、一瞬も気を抜くつもりは……
「お美しいお嬢さん、こんな危ない所にお一人で何を? よろしければ出口までご案内いたしますよ!」
……剣士の馬鹿が警戒も忘れてメイドの前に行きやがった。紳士っぽい事言ってるが、完全に目がハートになってやがる。
後ろで僧侶のお嬢ちゃんが「胸、胸なのですか……?」って呟きが聞こえるが、聞かなかった事にしておくぜ。
剣士はそのままメイドの手を握ろうとして、
ドスッ!
「おぶっ!?」
ハルバードの柄でどつかれた。
「ユエに気軽に触れて良いのは、主様だけ……オマケでティルも可」
倒れた所を更に踏む……よ、容赦ねえな。他に盗賊がフラフラ行くかと思ったが、意外とナイフの柄に手を掛け警戒態勢を解いていない。こいつ、態度はともかく勘は良いらしいな。
「すいませーん、うちの馬鹿がセクハラしようとして。こいつ、胸の大きい美人さん見るといつもこうなんですよ~」
「そ、そんな事なふごっ!?」
盗賊とは逆に完全に警戒を解いた魔法使いが笑いながら前に進み出て、釈明しながら剣士を踏む。最近の若い女って容赦ないな、おい。
「――ん、別に気にしてない」
「そうですか、ありがとうございます♪」
「だったらどいてやれよ、お前ら」
流石に不憫になって剣士から退くように言ってやる。あと、そろそろ「む、胸などただの飾りです……!」とか言ってる僧侶、我に返れ。
「俺は冒険者のバッカス、これが冒険者カードだ。アンタ、ここで何してたんだ?」
魔法で写し取った顔の絵とレベル、職業などが書いてあるカードを見せる。こいつは身分証にもなるし、冒険者組合の登録店で見せれば各種料金が割引になる優れものだ。
「主様に言われて、このダンジョンを潰しに来た」
――ダンジョンを潰しに? 単独でダンジョンマスターを退治しに来たってか?
いや、ここまで一人で潜れる腕と先ほど感じた圧迫感。実力的には不足ない、あるいは過剰かも知れねえけど。
「こんな見目麗しく、胸の大きいお嬢さん一人に危険な事をさせるなんて!」
「馬鹿は黙ってろってか見目も胸も関係ないだろ。で、お前さんはそのご主人様の……」
「――ん、ただの道具」
メイドってわけか、と言いたかったんだが。なんか斜め上の答えが来たな。
「ど、道具扱いするとはなんて輩だ……っ!」
「――? 道具はダメ?」
「あははは、ちょっと冷酷非情な酷い感じはするよねー」
「主様は優しい。――じゃあ、性奴隷」
「ぶふぅ!?」
「じゃあ」ってなんだ「じゃあ」って! 思わず吹いちまったじゃねえか!
ああもう、警戒してるのが馬鹿らしくなってくるやり取りだな……剣士、さっさと鼻血拭け。
「性奴隷か~、胸張って言う人初めて見たよ!」
「でも、まだ伽に呼ばれたことない」
「ええ! こんな綺麗なお姉さんに手を出してないなんて……ある意味凄いね」
「だから、お風呂で背中流して奉仕しようと思ったけど失敗した。次はしくじらない」
「……あ、あの。やっぱり殿方のお背中をお流しするのはポイントが高いのでしょうか?」
僧侶の嬢ちゃん、おまえさんまで混じらないでくれ、頼むから。
「なぁ、もう先進んでいいじゃね?」
「……敵じゃないようだしな、構わないか」
どんどん女達の会話が猥談染みてくるから、さっさと先へ行くに限るか。……剣士の奴が鼻血の出し過ぎで倒れても困るからな。
俺らが歩き出すと僧侶と魔法使いも慌ててついてくる。メイドは……こっちもついてきたか。まぁ、ダンジョンの攻略なら道が一緒なのはしゃあねえか。
トラップに注意しながら進むとほどなく一つの部屋が現れる。中にはモンスターがいるかも知れないから、まずは慎重に中をうかが……
「――どうして立ち止まる?」
って、メイド気にせずいったーーっ!?
モンスターだけじゃなくてトラップもあったらどうするん……
カチッ。ビュン、パシ!……ポイッ
……なんか踏んだ音と一緒に飛んできた矢を見もせずに掴み、投げ捨てるメイド。俺もあれぐらいなら避けるか弾くかはできるが、見もせずに手で掴めるもんなのか?
部屋の中には案の定、三匹のモンスターが待ち構えていた。
半透明の四角い塊、スライムブロックだ。人の頭ほどのサイズのこいつは、普通のスライムと違って堅く斬撃に強いから、やるなら魔法で攻めるか槍で突いて中心の核を攻撃するかだ。
「――じゃま」
スライムブロックの常套手段、固い体による体当たりを――斬った、ハルバードで。三匹とも一瞬で。
そのまま全く歩くペースを変えず、ズンズン奥へと歩いていくメイド。
おいおい、あれホントにメイドかよ? いくら低レベルなモンスターつっても、あんなりあっさり倒すなんてな。
獣人は確かに人間より力があるって言われちゃいるが、狼の獣人は脚力と敏捷性に優れちゃいるが腕力は人間と変わらなかった筈だ……
その後もメイドの快進撃は続く。
立ち塞がるモンスターはハルバードの一振りで蹴散らすわ、落石トラップも落とし穴も壊して飛び越え、挙句に鍵の掛かった扉まで力尽くでぶち破る始末。
そして、いよいよボスの間まで来てしまった……やべえ、途中で入り口に戻れる【帰還石】を使うつもりだったんだが、メイドの姉ちゃんの勢いに忘れちまってた。
「おお、この部屋ボスっぽくないか?」
「いざとなれば僕がお守りします!」
「いやー、なんか途中から凄く楽チンだったよね~」
「私達、後ろから付いて来ただけなんですが良いのでしょうか?」
駄目だ、新米どもの緊張感も既にねえ……元からあったかと言われれば疑問だが。
ダンジョンの最下層の大広間、ダンジョンの主ダンジョンマスター。ダンジョンによってその姿は様々だがここにいるのは……
「やっぱしスライムタイプか、面倒なやつだな」
薄い青色をしたゼリー状の体に赤色の核。核は掌に乗る玉サイズだが、それを守るゼリー部分は天井に届きそうなほどの体積を持っている。
ダンジョンのモンスターにはスライム系が多かったから警戒していたが、やっぱしボスはスライムだったか。ダンジョンのボスと同系列のモンスターが、ダンジョンには良く出る傾向があるからな。
固いタイプや小さい奴と違って、この質量だと刃物はまず効果がねえ。斬る端から元に戻るし、やるなら魔法か攻撃用アイテムだが新米魔法使いのレベルじゃまだ無理だな。
俺もボスやる予定じゃなかったから、アイテムもあまり持ってきてないし。
「おい、メイドの姉ちゃん。アンタが強いのはわかるが、その得物じゃやりづらいだろ? ここは一旦引いたほうが……」
「――ん、平気」
って、やっぱり行くのかよ!
俺の忠告も聞かず歩き出すメイドを敵と認識したのか、巨大スライムが体をゴムのように伸ばしてメイドを取り込もうとする。
それをメイドは片手で持ったハルバードで振り払う。爆発するようにスライムの体が飛散するが、直ぐに飛び散った体はスライムの本体に戻って再生してしまう。
「よっし、こっちも助太刀するよーっ!」
数度同じことを繰り返したメイドの形勢を不利と見て、魔法使いが持っていた杖を構えて魔法の準備に入る。
基本、ほかのパーティの戦闘への横槍はマナー違反だが、明確な危険やヘルプが入ったときは別だ。
「僕達も行こう!」
「ま、元々こいつ倒しにこんな辛気臭いとこにきたんだもんな!」
「はい、参りましょう」
続いて剣士に盗賊、僧侶がそれぞれメイドに加勢しようと得物を構える。……なんだが、どうにも俺は手を出す気にならねえ。
理性はメイドの姉ちゃんが不利と言っている……が、冒険者の勘ってやつかな? 手を出しちゃいけねえような気が……
「――邪魔」
ゾワッ!
「ひっ!」
「うぇ!?」
手を止めぬまま、顔だけ振り向いたメイドの一言。そのたった一言と目から放たれる冷たい眼差しに、全身に鳥肌が立ち動きが硬直してしまう。
俺なんか良い方だ、新米達なんか小さく悲鳴をあげてその場に腰砕けに座り込んじまった。
「――このレベルのダンジョンマスターがどの程度が見定めていただけ。大体分かった、もう終わる」
そう言うとスライムの方に向き直ると、何やら吐息を盛らすような音が聞こえ始め……
パキ…パキパキパキパキパキパキ―――ッ!
スライムの体が急速に凍り始めた。
「つ、冷めてぇ!?」
メイドが口から吐く白い息はスライムを急速に凍らせ、室内をまるで真冬のような冷気で覆っていく。
スライムも危険を悟ったのか、体ごとメイドを押し潰そうとするが……無理だな、凍る方が圧倒的に早い。
「――ん、終わり」
そして、完全に凍って動かなくなったスライムを一振りで粉砕してしまった。転がる赤い核も、柄で突いて真っ二つに割る。
砕かれた核、いや魔石は一度砂のように崩れ寄り集まり一つの形になる。赤い半透明のカード、ダンジョンを攻略した証だ。
どういう原理でそうなるかは不明だが、ダンジョンマスターを倒して出来たこのカードにダンジョンの情報が残されている。これを冒険者組合あるいは関係機関に持っていく事で報酬などをもらえるわけだ。
メイドの姉ちゃんはそのカードを手に取り満足そうに頷くと、未だ唖然とする俺達を他所にさっさと部屋の外に歩き始める。
――違う、こいつは断じて獣人なんかじゃない。獣人にはあんな芸当は出来ねえし、魔法でも断じてない。一体何者で、こんな型破りな奴を部下に持つご主人様ってのはどんなやつだ?
久しぶりに、まるで冒険を始めた頃のように言い知れない高鳴りを胸に覚えながら、俺はただその背中を見送っていた。
□SIDE OUT□
「でよ、そのボスが俺よりでかいゴーレムだったわけよ! そいつがオレ様に殴りかかってきた訳だが、そんな岩の拳程度じゃあオレ様の鱗に傷一つつかねえ!」
「おお、凄いですね! で、で、その後はどうなったんですか?」
「おう、相手が拳で来ているのにオレ様が剣を使うのもいただけねえ。そこでオレ様も自慢のこの拳で応えて……」
ダンジョン最下層にある大広間。玉座の間の直近にあるこの部屋は本来スラりんが守護する部屋だが、今は酒盛りに使われている。
ユエより先に戻ってきた紅牙の武勇伝をティルが目をキラキラさせながら聞き、時折空になった杯にお酌して口を軽くさせる。なかなかの聞き上手さんだな。
「ご主人様、エールをお注ぎいたしましょうか?」
「あ、俺の事は気にしなくていいよ。黒姫達で飲んじゃって良いから」
「左様ですか。ありがとうございます、ご主人様」
黒姫はトリスと牡丹姉さんの傍に戻る。どうやら互いに酒好きらしく、杯を傾けるペースは結構速い。魔人や鬼人や吸血鬼が酔うかは知らないけど、酔っ払われて絡まれるのも嫌だし距離は保っておこう。
「マスター、コノ酒精ハドチラカラ?」
「今日シルヴァリオンは留守役だったから知らないか。ノーソン村に領主から派遣された騎士が来たんだけど、そっからの差し入れ。常駐する事になるからお近づきに印に、だと」
「……監視、トイウ事デスナ?」
「だろうね。おかしな動きが有れば直ぐに動いて殲滅。そうじゃなければ巧く利用できるように。俺が説明したことなんて半分も信じちゃいないだろうしね」
ま、こちらから仕掛けなければ、早々敵に回ることもないだろうけど。
「――主様、戻った」
部屋に入ってきたのは数日振りにみるメイド姿、ユエだ。
「おかえり、ユエ。怪我はないか? ダンジョンはどうだった?」
「――ん、楽勝」
それ紅牙も言った。まぁ事実楽勝だったんだろうけど。
「何か変わった事とかあった?」
「――……冒険者に会った」
「へぇ~。紅牙は会わなかったらしいけど、ユエは会ったのか。どんな人達だった?」
「――ん、特に邪魔にも役にも立たなかったから覚えてない」
あ、そうですか。
「――あ、裸にエプロンで奉仕すれば主様は大喜びと教わった」
「待て、ダンジョンに行ったんだよなっ!?」
「ユエ、その話を詳しくお聞かせ願えませんか?」
「食いつくな黒姫っ!」
「うわ、太郎さんってそういうご趣味だったんですね……」
「俺から振った話題じゃないのに!?」
誤解だ、俺は別に裸エプロンなんて…………………
い、良いかも知れない。黒姫とユエの裸エプロン姿。
「ふむ、裸エプロン。それもまた漢の夢と野望と言えますね、太郎様」
「うぉーい、人の心読むなっ! つかそこまで思ってない!?」
「むう、なんだか太郎さん鼻の下が伸びてました。ところで裸エプロンってなんですか?」
「裸エプロン、其れ即ち素肌に……」
「説明しなくていいからっ!」
「マスターハ、“裸エプロン”ナルモノガ好ミ、ト……」
「そこっ! 何冷静にメモ取ってんのっ!」
ああもう、何がどうして俺の性癖で盛り上がってんのっ!?
まったく、とにかく紅牙とユエのおかげで大量のDPを獲得する事ができただろう。これで最低限の体裁を整える事が出来るだ。
今、いまここからこのダンジョンは本格的にはじま……
「くっ、ここにはエプロンはございませんか。ティル、貴女の村にはありますか?」
「え? あ、はい、普通のエプロンならありますけど」
「――今すぐ、いく」
だがらもういいってっ!