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薬を作りましょう


 新しく仲間に引き入れた錬金術師ことリーズ、彼女は黒姫が管理する第三階層の一角に仕事部屋と私室を置くことになった。

 必要なDPはキメラ退治や錬金術師を仲間にした事による獲得DPを流用、こじんまりとした一人部屋とガラス器具や蒸留装置などが置かれた理科実験室のような錬金部屋が新たにできた。


件のリーズだが、最初は勤め先がダンジョンである事に大いに驚いていたものの、金銭的にも身の上的にも後には引けない状況だ。

 引き攣った笑いを浮かべながらも、表向きはにこやかに受け入れ……


「何なんですかあの階はーっ!? 寝ても起きても真っ暗でお肌があれちゃいますよ!」

「そうは言われてもな、一階は紅牙の好みで火山帯で常駐するのに向かないし、四階はシルヴァリオンが女人は近くに置きたくないって言ってるし」


 留守の間に何かあったのか、女性と酒はなるべく近くに置きたくないとシルヴァリオンに言われた。

 どうにもティルの機嫌が悪い事とかんけいしているようだが、一体なにがあったんdなか。


「だったら二階のユエの階にすればよかったじゃないか。別に嫌がられたわけでもないんだろ?」


 フラスコに入った透明な液体を眺めながら、この錬金部屋に来た目的の物を取り出す。ピンポン玉サイズのぷにぷにした球体だ。

 ザルにざっと数十個乗っかっている。


「あ、わざわざありがとうございます。二階も悪くなかったんですけど、お城みたいな場所に憧れていたんで三階が良かったんですよ。ただ、まさか一日中真っ暗とは思いませんでした……」


 玉を受け取ったリーズは項垂れながら実験台の上に置き、緑色の液体が入ったビーカーの中に一個を指先で摘んで入れる。

 すると青汁のような濃緑色だった液体が、透き通った青色に変わった。


「わ、凄い効果。これなら物凄く質の良い物が出来そう」

「取りあえず見学がてら持ってきたけど、それは何を作ってるんだ?」


 俺が持ってきたのはスラりんが体内から排出したゴムみたいな球体だ。なんでもスライム種は余分な栄養素をそうやって大概に排出するのだそうだ。

 本来はスライムを倒したり、偶然落ちているのを見つけるぐらいしか入手方法はないが、スラりんくらいになると面白いぐらいに出してくれる。


 ここらで作れるもので、商品になりそうな物……と試す意味で大雑把な注文を出したのだが、その為に頼まれたものだった。


「これは回復薬です。薬草を煮込みスライムの肝を加え、濾過を繰り返し不純物を取り除く事で出来る物です。冒険者の必需品の一つですよ」

「へぇ、これがねえ~」

「私も作ったことはあるんですけど、スライムの肝の効果によって色の染まり方が違うんです。肝の大きさも然ることながら、ここまで一瞬で色を変えられるほど質が良い物なんて目にした事がありませんよ」


 ま、そりゃスラりんはそこらのスライムと格が違うからな。


「やっぱり、飲んだら怪我が治ったりするの?」

「えーとね、疲労回復に軽い外傷なら治っちゃうかな。スライムの再生能力を利用してるから、もっと上位の薬草を使えば欠損した部位も生えてくるよ」


 言いながらガラスのピペットでフラスコから回復薬を吸い取り、近くに置いてあった大根のような野菜に一滴垂らしてピペットの先で伸ばした。


 垂らした場所には予め一文字の傷が刻み込まれていたが、その傷が瞬く間に消えて綺麗な根野菜へと修復されてしまった。


「おおう、これは凄い効果……こんな便利な物を冒険者は持ってるわけか」

「いえいえいえいえいえ、普通の肝と薬草を合わせただけでこんなになりませんよ! ……薬草は森に生えてるのを取ってきただけだから、やっぱりこの肝が凄いんだ。あんなスライム図鑑にもなかったし……」

「まぁそれはいいけど、この回復って量産は出来そ?」


 考え込もうとしたリーズの先手を打ち問いかけると、彼女はハッと顔をあげて答える。


「ちょっと難しいと思います。肝はともかく、薬草は森にある分だけではそう量はないですし、作るのは簡単ですけど時間はそれなりに掛かります。冒険者組合のように専用の設備と人員がいれば別ですけど、この場所で私一人だと身内で作る分だけで結構な時間取られちゃいますね」

「工場生産みたくルーティン化するしかない、か。わかった、色々考えとくから見本として一つ貰えるから? それから別に作れそうな物があったら頼む」

「どうぞどうぞ、お任せください」


 ちいさなガラスの容器に入れられた回復薬を受け取り懐に入れる。


「いや~、最初はどうなる事かと思いましたけど、こんな良い職場を頂けるとは思いませんでした」

「ん? さっき文句言ってなかったっけ?」

「あはははは、それはともかく。いきなりダンジョンで働け、同僚はみんなモンスターって聞かされて気が遠くなりましたけど……まさか試用期間でこんな立派な研究室もらえて、そのうえご飯もとても美味しい物ばかり」


 食事は主にユエが作っているが、余ったDPでここらでは手に入らない食材や調味料、各種レシピなんかを仕入れており、腕も良い事から大変頼りにされている。


 ちなみに昨晩のメニューはオムライスだった。オムライスという料理自体が無いのか、驚きつつもがっつくようにリーズも食べてたっけ。


「自分だけ研究室って錬金術師として一人前の証みたいなものですからね。まさかアカデミーを追放された身で、こんな立派な研究室とお給金が貰えるとは思いませんでしたよ」


 リーズに出した条件は週休一日(一週間という概念がないので三日働いて休日と説明)に、基本給が月に銀貨二十枚だ。

 物価と見合わせて感覚的に銅貨が一枚百円、銀貨が一万円、金貨が十万ほどの価値だと判断。月二十万くらいを目処に提案したら、凄く食いつかれた。


 どうやら平均的な所得に比べて、かなり多かったようだ。まぁ言いだしっぺなのにやっぱ止めと言う訳にもいかないので、その条件のまま通したが。


 とは言え、


「試用期間って事を忘れずにな?」

「了解ですよ、ボスさん」


 何時の間にか呼び方が太郎からボスに変わっている今日この頃。そういえば黒姫達の呼び方も主様とか大将とかバラバラだっけか。


 部屋を出て夜の闇の中(室内だけど)、ポータルに向かってそのまま四階層へ移動する。


 四階層はシルヴァリオンの管理下だが、ここは他の階層と違って部屋と部屋の集合体だ。具体的には正方形の形をした部屋がいくつも隣接し、通路というものがなく扉だけが部屋と部屋を繋いでいる。


 壁も床も鈍い光沢を放つ銀色の金属で出来ており、妙な冷たさと威厳が同居しているような印象を受ける。


「お、やっぱりいたかシルヴァリオン」

「マスター、何カ御用デ?」


 ポータルは階の主の居室に近い、なので扉を一つ潜ればすぐに会える訳だ。他の部屋と比べて二回りほど広い部屋で、一心不乱に剣を振るっていたシルヴァリオンに声をかける。


「ちょっとノーソンまで行くから付いて来てくれるか?」

「心得タ」


 ノーソンには一日一回は足を伸ばして村人と交流をはかっている。護衛は黒姫達から日替わりで適当に選んでいるが、今日はシルヴァリオンだな。


ポータルを使ってダンジョンの入り口に移動、そのままノーソンまで歩いて移動した。


「あ、太郎さん。こんにちは!」

「ああ、ティル。こんちわ」


 村に入ると野菜が入った籠を背負ったティルと遭遇。どうやら畑の収穫手伝っていたみたいだ。

 うん、偉い偉い。偉そうに踏ん反り返っていまいち働いている実感が無い俺より偉い。


「ティル、村長さんいる?」

「はい、家にいらっしゃると思いますよ」

「ありがとう。あ、シルヴァリオン、ティルを手伝ってやってくれない?」

「了承シタ」

「わぁ、ありがとうございます!」


 シルヴァリオンにティルの手伝いを任せて一人村長宅へ。家に行くと丁度村長のカールさんが出てきたところだった。


「おお、太郎殿。何か御用でしょうか?」

「ええ、ちょっとお聞きしたい事が。あ、でも何処かに用事がお有りで?」

「いえいえ、少し畑の様子を見に行くだけです。よろしければ一緒に歩きながらお話でもいかがですかな?」

「それでは言葉に甘えます」


カール村長と一緒に村の奥、居住区を抜けた畑で埋められた広いエリアへ。


「盗賊騒ぎで足りなくなった食料はどうにかなりそうですか?」

「太郎殿のおかげで、どうにかなりそうですよ」

「それは良かった……ところで、これが何かご存知ですか?」


 歩きながら回復薬の小瓶を出して渡すと、カール村長はううむ…と唸りながらそれを空にかざして見る。


「回復薬のようですが、随分と綺麗に澄み切った青ですな……ふむ、質はかあんり良さそうです」

「ええ。実はこちらで作った物なんですよ。そこでカールさんにお願いがあるんですけど、その試供品を差し上げますから、村へくる商人に勧めて渡して欲しいんですよ。この村で生産を始めるって言葉を付けて」


 ノーソンは田舎だが、それでも月に一度は買い付けの商人が訪れる。この村では野菜などの食料品だけでなく、一部茶葉などの嗜好品も作っているのだ。

 そしてここで作られるその茶葉はその質と生産量の少なさからある種のブランドと化しており、貴族の間でも流行っているという。


 まぁ栽培の難しさや気候を選ぶ事で大量生産できないおかげで、こんな田舎でも定期的に商人がくるのだが。


「ほお、これをですかな?」

「ええ。どうでしょう? カールさんから見て商品になりますか?」

「ふむ、これが見た目通りの効能を持つなら、充分な商材となるでしょうな。しかし、やはり売り込むとすれば一定量の生産が条件となってきますが?」


 そこだ。リーズも行った通り、現状のままでは大量生産は難しい。元々材料はただ同然か安価なので、数を敢えて絞ってブランド化するという手もある。

 それでもやはりある程度の量は作らないといけないだろう。


 問題は薬草の確保、回復薬を作成する人員、生産のための設備だ。


リーズは割りと優秀な錬金術師みたいだから、生産より開発方面に力を注いで欲しい。なので、別途回復薬作成を指示する役割の者も必要になる。


「もし色より返事が貰えたら、村の一角に薬草用の畑を頂きたいんですよ。柵の拡張、畑の開墾、人員の確保はこちらでやりますので」


 まずは一歩ずつ、薬草を確保からだ。村で安定して数を確保できるようになれば、採取なんて不確かな方法に頼ることも無くなる。

 その為の人員は……人型のモンスターでも作り出すか。


「そこまでしてくださるのであれば、こちらとしては問題ありませぬな」

「ありがとうございます」


 よし、とりあえず下準備はこれぐらいか。


後はDPを貯めて再度錬金施設の拡張とモンスターの確保、もしかしたら生産用に新たな階層を用意した方が良いのかも知れないな。

今のDPの手持ちは二十程度、かなり心許ない。毎回の事だが、俺ってばちょっと衝動的に使いすぎだ。


 何とかDPを貯めたいけど……またダンジョンを潰してきてもらうか?


「あ、太郎さーん!」


 軽く畑の様子も見終わったところで、ティルが手を振りながらやってくる。傍らにはシルヴァリオン……の姿が見えない。


「たたたた太郎さん、大変です! 太郎さんのい…えっと、ダンジョン? でも太郎さんが暮らしてる場所だし家で、でも普通に見ればダンジョンだし……」

「家でもダンジョンでもいいけど、どうしたんだ?」

「あ、そうです。とにかくやってきたんですよ! それでシルヴァリオンさんが私に伝言を頼んで、一足先に帰って……」

「来たって何……いや、シルヴァリオンの伝言から聞くよ。何て言ってたんだ?」


 慌ててるティルの話は要領を得ない。しかし、俺を置いてシルヴァリオンが戻るという事は、それなりの事態のはずだ。


「は、はい。えっと『我ラガ住処ニ侵入者アリ。マスターガ戻ラレル前ニ此レヲ排除イタシマス』って。冒険者の方が入って行ったみたいなんです」


……冒険者だって?




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