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始まりは小さな正義感とお節介

 目を開けると、そこは開ける前と変わらない暗闇だった。だがそう認識した事が合図だったかのように、十数の明かりが灯り視界を照らした。


「部屋……地下室か?」


 奥に伸びた長方形の石造りの部屋みたいだけど、窓はなく明かりは壁に等間隔に設置されたランプ……いや電灯? 明かりは白いけど火が揺らめいているように見える。


 白い火なんて聞いた事がない、確かめてみようと腰をあげた事で自分が椅子に座っていたことに気がついた。一段高くなった床に備え付けられた豪奢な椅子、あれだ、所謂王様とかが座っている玉座ってやつだ。


 こんなの初めて生で見た。っていうか、何で座ってたんだろう。


 いやそもそも……


「俺って、誰だ?」


――――いやいやいやいやいや!? 何これ記憶喪失ですか!? 


 こんな訳の分からない所で記憶喪失で一人っきり!? 部屋だってかなり広いけど、出口らしいものが何処にもないことぐらいは見て分かるのに!?


「――落ち着け、落ち着け俺。まずは手持ちの物を確認するんだ」


 紺のズボンと白いシャツ、高校の夏服だ。靴も指定の革靴で、ポケットなんかには身元を示すものはおろか紙くず一つ入ってない。


「お手上げだわ、こりゃ……まったく、状況を懇切丁寧に教えてくれる解説のお姉さんキャラでも居ればよかったのーー」

「呼びました?」


 ふおおおおおーーーっ!?


「すいません、ちょっと遅れてしまいました……って、あれ? どしました?」


 突如隣に出現した正体不明のおかっぱ着物美人に警戒!


 二十歳過ぎくらいの和み系な美人による首傾げは警戒心をガリガリ削られるが、眉の上辺りから生えた小さな二本の角は見逃せませんぞ!


「ああ、覚えていませんでしたか。すいません、やはり魂魄の時の記憶は残り難いんですよね。なのに短時間とは言え一人にして申し訳ありませんでした」


 魂魄?……よくわからないけど、この鬼のお姉さん(?)は俺の事もこの状況も知ってるっぽい。それに……俺もこの人の事、知っている? 変に頭に引っ掛かる感じがするんだよね。


「お名前、思い出せますか?」

「いや、名前も思い出せないんすわ。歴史に名を残すビーティフルでクーレストな名前だってことは覚えてるんだけど……」

「山田太郎さんですよ」


 ぶふぉ、思い出した! 山田太郎、享年18歳。高校三年生で顔普通運動普通成績普通のオールアベレージヒッター!


 あまりにやる事なすこと平均過ぎて、『もうそこまでアベレージ狙えるの特技だよ、な』『うんうん』とクラスメイト全員の同意をもらったくらいだ。


 ちなみにテスト平均を知りたい時は、まず山田の点数を聞けと言われるぐらい……ちょっとまった。


………………『享年18歳』?


「えっと、鬼のお姉さん?」

「はい、鬼人の牡丹と言います。改めてよろしくお願いしますね!」

「あ、はい、牡丹姉さん」


 なんか流れで姉さんとか言っちゃったが……ま、いいか。


「俺、もしかして死んだ?」

「はい、一度がっつり死にました。なんでも車に轢かれそうになった幼稚園児を助けたとかで、大変立派なものだったらしいです」

「え、じゃあここあの世?」


 やだなー、どう見てみても天国っぽくないじゃないですかー。子供助けて地獄とか嫌っすよー。


「いえいえ、ここも現世には違いないですよ。ただ、太郎さんの知っている世界ではない、所謂『異世界』と呼ばれる世界ですね」

「な、なんだってーーー!?」


 あれですか、漫画のネタとかではよく見てたけどまさか自分に降りかかって来るとは! っということは、流れ的に神様とか……でも牡丹姉さんって鬼だよね? あんまり神様の使いっぽいイメージがないな。


「ここまで経緯を軽く説明しましょうか? 全部は無理でも、部分部分は思い出せるでしょうし。まだ案内役の方も来てないですからね」

「あ、よろしくお願いしマース」


 案内役って誰か知らんけど説明して貰えるなら助かる。


「太郎さんは死後、あの世へ行って天国(又は転生)or地獄の裁判を受ける為、裁判所前の広場で書類審査の順番待ちをしていたんですよ」

「地味にリアルっぽくてやだね……あ、あの世で裁判と言えば閻魔大王様か!」


 嘘つくと舌を引っこ抜くとか言う。


「いえいえ。一番偉いのは大王様ですが、最初に受けるのは秦公王様の裁判ですよ」

「……あ~、同じ事言われた気がする。確か裁判官が十人いて二年かけて受けるんだっけか」


 そうだ、牡丹姉さんが亡者の列を裁いてて、俺が尋ねたんだった。閻魔大王は五番目の裁判官であり地獄も統括してるとかなんちゃらかんちゃら。


「そうですそうです。ですが、太郎さん達亡者が並んでいる場所の直ぐ近くに、この世界の冥界からの使者が場所を間違えて時空の穴を開いてやってきてしまいまして……」

「どうしてこの世界の冥界――あの世?――からの使者が、日本のあの世に来る事に?」

「この世界は魔法という特殊技術があるものの、文明レベルは中世止まり。来るべき近代化に向けて、小国ながらも多種多様な罪人に対応する日本の地獄を視察したかったようですね」


 妙にリアル設定過ぎて何か信じたくない!――が、なになに、この世界って魔法があるの? もしかして壁の光源って魔法だったりするの?


 おおおぉぉぉーー、なんかテンション上がってきた!


「まぁそれは置いておくとして。使者を接待する筈の担当者が慌てて現場に駆けつけ、『別の世界からようこそいらっしゃいました』とかやっちゃたらしいんですよね」


――あ、思い出した。なんか俺の前に並んでいた歳が同じ位の男が、『俺は異世界に行ってハーレム作るんだ!』とか行ってその時空の穴とやらに駆け出したんだ。


 その穴の前に居た使者とやらは見た目が小学生の低学年くらいで、勢い的に男は止まる気はまったく無さそうで。


「――そこで太郎さんが男に追いつき、男を蹴り飛ばして阻止。ですが太郎さんは……」

「勢いで直ぐ止まれず、女の子に突っ込もうとしたんで避ける為にジャンプしちゃった、と」


 つまり少女の向こう側、時空の穴とやらにダイブしちゃった訳だ……ハハ………


 やっべ、結局やってる事はあの中二病患者と一緒じゃん!?


「そんな顔しなくとも大丈夫ですよ、故意では無い事は関係者も各所もわかってますし。ただ、普通の魂魄が準備もなしにこちら側に来た所為で、少々魂魄に『歪み』が生じまして」

「『歪み』?」

「まぁ大したものではないのですが、その『歪み』を矯正しないとあちらに戻れないのですよね。下手に戻ると魂魄が消滅しちゃいますし」

「それ大問題でしょ!? ……そ、その矯正する方法は?」

「簡単です、この世界で受肉して生を終える。ただそれだけですか」


 ………………………………………………………………………


「さらりと言ったけど、この世界で人生の続きをしろって事だよね?」


 ここから出られなかったら、割と早目に即身仏になってステージクリアだが。


「そうなんですけど、それだと太郎さんがちょっと可哀想だなって。書類を確認するか限り、太郎さんは特にこれといった悪さはしていないんですよね。小さな弟妹さん達がいたせいか、子供に優しい良いお兄さんだったみたいですし」


 お姉さんが袖から出した手帳を見ながら言うって、なんですが、それが所謂閻魔帳ってやつですか? 恥ずかしいから見ないでーー!


「死んだ時の状況も鑑みるに、第一裁判で天国行きが決まってもおかしくない人なんですよね……あ、例の中二病馬鹿は問答無用で地獄行きになりました」

「まぁそれはどうでもいいですけど」


 ぶっちゃけ、報い受けたなら何でもいいや。


「あと冥界の使者さんも、『あの程度の羽虫払うだけで消滅できた。余計なお世話だが、その意気だけは買ってやらねばな』と仰ってますし。あの方、見た目は子供ですけど、この世界の冥界の神の一柱なんで発言力強いんですよ」

「あの子が、ね……」


 俺、何もしなかったら今頃天国じゃないか。


「そこで、少し特典付でこの世界を楽しんで頂こうと……」

「そこからはワタクシが説明いたしましょう」


 二度目だと、さすがに牡丹姉さんより驚きは少なかった。後ろで片膝を着き、見事に燕尾服を着こなしている人物。


「初めまして、太郎様。ワタクシ、冥界の神が一柱アリアリス様の配下でトリスと申します。以後お見知りおきを」


「あ、山田太郎です。よろしく」


 あげた顔は輝くプラチナブロンドの長髪で片目の隠れた、貴公子然としたイケメン青年。しかも見えている方の目にモノクルなんて付けちゃって、似合い過ぎていて嫌味言う気にもならんわ!


「太郎さん、アリアリス様というのがあの時の使者なんですよ」

「ああ、あの時の……」

「アリアリス様は太郎様に随分と関心なされまして。そこで太郎様がこの世界で満足出来るよう、多少転生の際に手を貸しつつ、ワタクシをサポートに派遣したのでございます」

「わたしもしばらく様子を見つつ補助してあげなさいって、上司に言われちゃったんですよね。まぁ半分謹慎みたいな意味もあるんですけどね~」


 あの中二病馬鹿を止められなかった所為で、と牡丹姉さんが恨めしげに言うのは聞かなかった事にする。牡丹姉さん止めてたら俺、今頃天国らしいし。


「さて、太郎様はこの世界に転生なされて間もないご様子。なのでワタクシの方から一通り説明させて頂きたいと存じますが……」


 チラッと許可を伺うように見てきたので頷いてみる。


「太郎様にはこの場所……このダンジョンの、主となって頂きます」


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