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第捌話 スワンボートは進む

だんだん第○話の漢字を探すのが面倒になってきました。

今から実家に帰るので、本編は日曜日の夜あたりに載せられればいいですね。

第捌話 スワンボートは進む


 結局、休息に2日を要した2人は、3日目の早朝に水路の点検を行うことにした。カップル島にスワンボートを着けると、お互いに水に入れる服装に着替える。真澄は上半身はTシャツ、下はハーフパンツにスニーカーを、土倉光は水着にTシャツ、腰にベルトと妙な格好になった。スワンボートは島に置いていき、2人は泳いで水路に向かう。水底にはどれだけゾンビが沈んでいるか分からなかったが、スワンボートで移動すると本末転倒となる。先を泳ぐ真澄が常に水中に目を光らせ、なんとか水路に辿り着いた。水路は底を青々とした水草が覆い、ヌルヌルとした感触が気持ち悪い。水深は1m弱あり、屈めばほとんど水中に身を沈めることが出来た。


「さて、ここからは逃げ道がありません。気付かれないように慎重に進みましょう。」


「でも、上はずっと金網のフェンスがあるのね。ゾンビは降りて来れそうにないわよ?」


「ですね。しかし、水に沈んでいるのが居る可能性もありますし、橋なんかあったらやばいっすよ。」


「それもそうね。気付かれないに越したことは無いわね。」


2人はとにかく、慎重に進むことにした。上は死者の歩き回る死の街と化している。生者には問答無用で襲い掛かってくるのだ。河川までは直線距離で3~400mと記憶している。水路は若干カーブを描き、河川までの正確な距離など分かるはずは無い。2人は先の見えない道を手探りで進むような気持ちで水路を這うように進んで行った。200mほど進んだとき、視界に小さな橋が写った。橋げたまでの高さは軽く5mはある。スワンボートが通るには十分な高さだった。しかし、問題は橋の上にあった。巨大なトレーラーが事故を起こし、橋は今にも崩れ落ちそうである。街並みに合わせて作られた綺麗な木造の橋が、今の2人にはとてつもなく恨めしかった。


「まずいっすね。急がないと橋が崩れますよ・・・。あれが落ちたら脱出は無理っすわ。」


「雨でも降って水量が増加したら明らかに持たないわ。とにかく先を確認しないと。」


2人は慎重且つ素早い移動を余儀なくされる。さらに200mほど進むと、予想していた通り、河川への入り口に水門があった。大きさは開放すればスワンボートが通れるギリギリである。問題は開放用のハンドルがコンクリートで舗装された道の上にあったこと、さらに開放しても土手の下を潜って暗いトンネルを抜けねばならないことだった。トンネル内は薄暗く、水深も何も分からない。万が一ゾンビに挟み撃ちにでもされれば確実に命を落とすだろう。しかし、迷っていても仕方が無い。2人はとにかく、上に上がって水門を開けるしかなかった。真澄が水門に足をかけ、ゆっくりと登る。そして、土倉光を引っ張り上げた。土手の脇に作られた遊歩道に上がると、ゾンビが徘徊しているのが目に入る。距離は離れているが、やはり不気味だ。残暑の残る9月の日差しに、何もしていなくても汗が噴出してくる。2人は持参した携帯のスプレー缶を取り出し、発汗を抑える。よく理解していなかったが、ゾンビはどうも汗の匂いに反応しているらしい。死ねば発汗は止まる。ゾンビ同士が食い合わないのは、それが大きな要因を占めていると判断していた。


「とにかく汗はまずいっす。水でスプレーがほとんど付いてなかったから、下手したらゾンビに嗅ぎつけられる可能性があります。」


「ええ、私が見張るから、あんたはハンドルを操作してちょうだい。私の力じゃそんなもの回せないわ。」


「了解しました。四方を見張るようにお願いしますよ。」


「任せなさい。あんたは水路を開けることだけ考えて。」


真澄は土倉光の言葉を信頼し、水門のハンドルを回すためにさらに一段高い場所にあるハンドルまでよじ登った。想像はしていたが、ハンドルには鎖が巻きつけられ、南京錠で止められている。どうも鎖に縁があるなと真澄は苦笑した。


「先輩、やっぱり鎖で巻いています。糸鋸を貸して下さい。」


真澄の声に土倉光は無言で頷き、ベルトに装着していたサバイバルナイフの鞘に手を伸ばしたが、何やらあたふたと周囲を見回し始めた。


「先輩、早くしてください。ゾンビが来ちゃいますよ?」


「わ、分かってるわよっ!急かさないで欲しいわ。」


尚も周囲をキョロキョロしている土倉光の様子で、鈍い真澄も状況を理解した。


「・・・・まさか、無くしましたか?」


「えへへへ・・・。」


「まじっすか・・・。」


笑って誤魔化した土倉光だったが、すぐに顔を青ざめさせ唇がゴメンの形に動いた。


「仕方ない、一度降ります。」


真澄は音が出ないように慎重に遊歩道に降りてくる。そして周囲を見渡し、何かを探していたが、やがて土倉光に向き直った。


「先輩、俺が近くの民家で工具を探してきます。見たところ石なんかじゃ壊せそうもないし危険はとんでもなく大きい。何が起きるか分かりませんので、一緒についてきて下さい。もし逃走することになったら、水路に飛び込むようにお願いします。水中に沈めば誤魔化せると思いますので。」


「分かったわ。無駄に危険なことさせて悪いわね。」


「何を言ってるんですか。僕らはもうパートナーじゃないっすか?お互い一蓮托生ですよ。」


「そうね。改めてよろしくお願いね?パートナーさん。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


こうして形として表しお互いの信頼関係を築く。これが今の世界では大事なことだと2人は気付いていた。





 真澄は最も近くにある民家を目指すことにした。土手から50mほど離れた場所が住宅地となっている。ゾンビは市道に疎らに散って徘徊していた。先ほど使ったスプレー缶で十分に誤魔化しが効くだろう。忍び足で歩きながら、目的の民家に近付く。滴り落ちる水音でさえ奴らは気付きかねない。慎重に行動して損は無かった。走ればほんの数秒しかかからない距離をゆっくりと進む。もうゾンビと自分たちを隔離する金網のフェンスは無いのだ。気付かれれば逃げる以外の選択肢は無い。


「今から侵入します。細心の注意を払ってください。」


「分かってるわよ。」


2人は玄関を避け、裏口に回る。表の市道に面していては鍵の破壊などで無駄に注意を払う必要があったからだ。幸運にも裏口にはゾンビの気配は無く、窓も開け放たれていた。住民はとっくの昔に家を放棄して逃走したのだろう。中の様子を窺うが、静まり返った屋内は生き物の気配を感じさせなかった。中に入り工具がありそうな戸棚、靴箱、台所など物色していると、小さな工具箱を発見することが出来た。


「ありましたね。あとは糸鋸があれば最高なんですが、最悪の場合は針金1本くらい欲しいですね。やったことはないけど鍵開けが必要かもしれません。」


工具箱を漁ると、糸鋸の刃だけを発見した。柄の部分が無く、予備の刃だけがドライバー類に埋まっていた。


「これだけあれば布で包んで使えそうね。問題は鉄まで切れるかどうかだけど・・・。」


2人は糸鋸を手に入れ民家の裏口に再度回る。庭に踏み出すと、突如大きな音がした。2人の存在に気付いた野良猫が慌てて逃げ出し、庭のバケツをひっくり返したのだ。


「!!!」


「まずいっ!逃げるわよっ!!!」


2人は急いで市道に出る。すでに先ほど遠くを徘徊していたゾンビ達が家を目掛けて一斉に移動を開始していた。このゾンビは犬の鳴き声などにはまるで反応しないくせに、人工物の出した音なら何にでも反応する。どこで認識しているか分からないが、厄介この上ない。


「やっぱり来たわね・・・。」


2人は出来るだけ迅速に小走りで移動した。水門まで戻って振り返ると、先ほどまで居た民家に10体以上のゾンビが雪崩れ込む様子がはっきり見えて、背筋を冷たい物が走った。





 手に入れた糸鋸でシュコシュコと南京錠を削ると、10分も経たずに南京錠は簡単に外すことが出来た。問題は回す時の音である。少し錆びてくたびれているハンドルは、きっと軋むような音を発するに違いなかった。そのハンドルを回して3m以上は水門を開ける必要がある。潤滑油などは当然無く、真澄は意を決してハンドルを回す。


ギギギ・・・ ギィ~コ ギィ~コ


思ったよりも大きな音が周囲に響く。離れたゾンビ達に変化は無かった。少し安心した真澄はだんだんと大胆な動きになっていく。


ギィ~コ ギィィ~~~コ


水門は少しずつ少しずつ上がっていく。ようやく2mほど水門を開いた時、先ほどの民家からゾンビの大群が出てくるのを確認した。遊歩道のゾンビばかり警戒していたが、民家のほうが遥かに近いことを2人は忘れていた。大群は門を出ると真っ直ぐに水門を目指して歩き出した。真澄は覚悟を決め、手に思いっきり力を込める。


ギョギョギョギョギョギョギョッ!


水門は一気に開いた。土倉光は下でOKサインを出す。上のゾンビに気付いていないのだろう。真澄は大慌てで飛び降りると、土倉光の手を引いて一気に走り出した。


「ちょっ!何するのよ!?気付かれちゃうじゃないっ!」


「もう遅いっすっ!とっくに気付いて真上に来てますよ。出来るだけ急いでこの場を離れないとやられますっ!」


そして、金網の途切れた場所からゾンビが水路に飛び込みだした。2人は水に肩まで浸かって音を出さないように注意しながらその場を離れた。流れに逆らうので水音はどんなに気を配っても辺りに聞こえた。ゾンビ達は音の鳴る方、つまり2人の方向へゆっくりと歩き出した。それでも2人の移動速度が勝り、公園に着く頃には何とかゾンビを振り切ることに成功した。カップル島に辿り着いた2人はヘトヘトに疲れ、スワンボートの出航を延ばしたかったが、途中の橋の件を思い出し装備をすると、荷物を全てスワンボートに移して水路へ向かって漕ぎ出した。





 太陽はまだ真上に爛々と輝き、脱出には十分に時間があった。しかし、水路に落ちたゾンビが上に戻ることはあり得ない。どんなに待っても水路を徘徊するのだろう。現に水路の入り口辺りにゾンビが数体現れていた。2人を見失いながらも、歩く方向を変えずにずっと追ってきていたのだろう。ゾンビは諦めるという気持ちは無い。ただ病的に1つの行動を繰り返す。人を食らうことが奴らの存在理由だ。


「あの水路の入り口のは片して行きましょう。俺が水音でおびき出すので、池に全て沈んだら一気に水路を下ります。」


「了解したわ。操船は私に任せなさい。あんたは念のためクロスボウを装備して。ボルトの回収は出来ないけど、命とどっちが大事か比べる必要は無いわね?近くに居るゾンビは躊躇せずに撃ち殺しなさい。」


「了解しました。ではおびき寄せます。操船はよろしくお願いしまっすっ!うおおぉ~いっ!!!」


足で水をバシャバシャやりながら大声でゾンビの注意を引く。そこら中からゾンビが集まり池に飛び込み始めた。水深は軽く3mはあるが、下から襲われる危険も十分ある。バタ足を止め、声だけでゾンビを引く方法に切り替える。水路にいたゾンビも池に沈んだ。池の底を見ると淀んだ水の中に数十体のゾンビが蠢く様がはっきりと分かる。おぞましい光景にショックを受けつつも、水路付近のゾンビが完全に沈むのを確認すると2人でスワンボートを漕いだ。全速力だとかなりのスピードが出る。水路近くで漕ぐのを止め、慣性に従って舵だけの操船に切り替え水路に出た。まだクロスボウは使っていない。これから水路の途中に居るはずのゾンビが最大の障害だった。


「見ただけで10体は水路にダイブしましたから、少なくとも5~6体は途中で待ち構えています。一気にボートで轢くかクロスボウで確実に殺すか決めておきましょう。」


「轢くわよ。意外にスワンボートは速い。これだけスピードが出るなら轢いて倒れている間に上を抜けられるわ。」


「了解しました。では2人で漕ぎます。スピードはあるほどいい。」


2人は頷き合うと一気に加速した。舵は土倉光に任せ、真澄はいざという時のためにクロスボウを持つ。最初の1匹は比較的池に近い場所で棒立ちしていた。スワンボートで一気にぶつかると、かなりの衝撃と共に水中に姿を消した。上を通り過ぎて後ろを確認すると、ゆっくりと起き上がってこちらへヨタヨタと歩き出した。やはり殺すほどの威力は無い。


「やっぱり生きてますけど、何とかなりそうですね。ボーガンの出番は無いか・・・なっ!?」


「何?どうしたのよ?」


素っ頓狂な声を上げた真澄を怪訝な目で土倉光は覗き込んだ。真澄の目は一点を見据えて口は開いている。視線の先には壊れかけた橋があった。


「どうしたってのよ?まだ橋は生きてるわよ。何をそんなに驚いてる・・・のっ!?」


今度は土倉光が間抜けな声を上げる。橋はまだ原型を残していたが、上にあるトレーラーがユサユサと揺れているのだ。どう見ても下に落とすために何者かが押している。後姿のために、誰かは分からないが、1人でトレーラーを落とすほどの怪力は人間ではない。とにかく2人は全力でスワンボートを漕ぐ。落とされたら一巻の終わりなのだ。途中に2体ゾンビを轢き飛ばしたが、そんなことに躊躇する暇は無かった。スワンボートが橋の下を通り過ぎた刹那、後ろで巨大な水柱が上がる。トレーラーの頭が橋の下に転げ落ちていた。そして、橋の上にはゾンビが居た。たった1体だけ。違ったのは他のゾンビと違って目が黒々と輝いていたこと。瞳を失い光を失ったゾンビとは違い、その目は確実に2人を見据えていた。視認が出来るゾンビ、道具を使う知能があるゾンビ。


「こんな恐ろしいのも居たのか・・・。先輩、もうゾンビだと思って軽々しく近くを移動とか止めましょう。命がいくつあっても足りないっすわ・・・。」


「そうね・・・、でも何であんなのが居るのかしら?これって病気なの?変種としても嫌な感じよね。」


「それは世界が平和に戻らないと永遠の謎っすよ。俺らじゃ調べようがないです。」


「ううむ・・・。」


会話しつつも、スワンボートはさらに3体のゾンビを轢き飛ばしていた。





 水門は呆気なく越えた。トンネルも全く問題なかった。やっと2人の表情から不安が消え、大きな河川の真ん中を悠々とスワンボートは進む。このまま下れば、明日にでも海に出られる。しかし、2人は緊張と疲れで極度の睡魔に襲われ始めていた。河川の中央にある橋の足に僅かばかりの陸地を発見する。河川の流れと深さを考えると、ゾンビはまず来ないだろう。橋の上から落ちてきても、無事には済まないはずだ。2人はスワンボートを着けると、そのコンクリートで出来た橋脚の陸地にスワンボートを固定する。どうやっても解けないのを確認すると、念のために真澄がスワンボートと自分の手首を縄で結びつけ睡眠を取った。





 翌日の夜明け前に真澄は目を覚ました。横で寝ていたはずの土倉光の姿が忽然と消えている。


「せ、先輩っ!?」


ドボーンッ!


橋脚の反対側で派手な水音が聞こえた。何かが川に落下したらしい。慌てて回り込むと、土倉光が片手で必死にコンクリートに掴まっていた。どうやら真澄の声で驚き水に落ちたようだ。流れが速く、上に上がれないらしい。今にも流されそうだ。知らない間に土砂降りの雨が降り注いでいる。橋の真下で寝ていたので気付かなかった。水量は驚くほど増え、水位が50cmほど上がっていた。真澄は腕から縄を外すと、すぐに駆け寄った。


「ガボッ!たっ!助けて桜井っ!!ゴボッ!」


「先輩っ!何やってんすかっ!?早く掴まってっ!」


「早く引き上げてっ!ゴブッ!でも目は開けないでっ!!!!!」


「一体何を!?」


「いいから目を瞑ってっ!!!」


訳も分からず目を閉じたまま土倉光を水から引っ張り上げる。暫く経ってから目を開ける許可が下りた。


「何なんですか一体?」


「・・・用を足してたからパンツもズボンも半分脱げてたのよ。」


「あ・・・、それで俺の声に驚いて落っこちたと。」


「悪かったわねっ!まだまだ慣れるわけないでしょっ!!!」


「ま、まぁ死なずに済んで良かったじゃないっすかっ!うんこしてて死ぬとかダサイっすからねっ!」


「あんたいつか殺してやる・・・。」


「フフフ、それは自分も死ぬって意味っすよ。けっこう先輩は迂闊だから一人では死んじゃいますね。」


「そうよ、だから『いつか』なのよ。落ち着いたらせいぜい夜道に気をつけなさい・・・。」


そう言って真澄を睨んだ土倉光の目には本気の炎が燃えていた。





 その日は豪雨だった。水量はどんどん増え、水かさは増し、スワンボートはギシギシと音を立てている。コンクリートの足場の下50cmほどまで水位は上昇したが、幸いにも足場までは届かなかった。今出航するのは得策ではない。2人はそのまま雨宿りするより仕方が無くなった。ボートは縄2本を使い橋脚にしっかりと結びつけている。その縄に自分達の体を命綱で結びつけた。落ちてしまえば一気に流される。辺りは厚い雲で昼間でも薄暗かった。やることもないので2人は双眼鏡を使って周囲を確認して暇を潰していた。河川の土手の上には、この豪雨を物ともせずに元気にゾンビが徘徊している。その向こうに雨で霞んだ街並みが広がっていたのだろうが、2人の位置からでは確認のしようがない。しかし、大きな建物の上部が土手の向こうに見えていた。多分市内で制服が可愛いと評判の高校である。


「おおっ!私立○◇高校っすよ。制服姿のゾンビがいっぱい詰まってますね。もったいねぇ・・・。」


間抜けな感想が真澄の口から漏れる。土倉光が溜息を吐きながら同じ方向を双眼鏡で覗いた。確かにゾンビのような生徒がたくさん徘徊している姿が目に入る。しかし、最上階にはゾンビの姿は無かった。何か違和感を感じる。霞が邪魔をして詳しいことは分からないが、土倉光はどうしても引っかかった。再度下の階を丹念に調べてみる。すると、ゾンビが一箇所で山のようになっている場所があった。


「あれは何かしら?ゾンビが一箇所に集まってるみたいよ?」


「ん?ああ、階段でもあるんじゃないすか?上に登ってる感じだし。それがどうかしました?」


「いえ、上の階にはゾンビが1体も居ないのよ・・・。もしかして生存者が居るのかしら?」


「ええっ!!!まさか、どんだけ日が経ってると思ってるんすか?もうとっくに餓死してますって。」


「そうよね・・・。でも食料とかあれば生き残ってる可能性も無くは無いわよ。あそこって避難所に指定されてたでしょ?水は井戸か何かあったはずよ。避難所が壊滅した時に誰か食料を持って立て篭もったんじゃないかしら?」


「マジっすか?もし生きてたらどうします?」


「当然無視するわ。」


「ですよねぇ・・・。」


そうこう会話をしていると、最上階に人影が見えた。制服姿の男である。窓を開けた様子を見ると生きている人間らしい。2人は暫く観察することにした。少年は何か探すように窓から周囲を眺めていたが、やがて2人の居る方向で視線が止まり大きなアクションを始めた。その直後に、制服姿が十人ほど現れ、一斉に手を振り始めた。


「あ、やべぇ・・・。気付かれましたね。」


「そうねぇ、若い子がいっぱいだわぁ。」


「女子高生、ハァハァ。」


「甘酸っぱい匂いがこっちまで届きそうねぇ。」


「あの体臭がいいんすよね。あ、あの娘可愛いっすよ。」


「あらやだ、あの男の子イケメンよねぇ。」


必死に手を振る高校生に2人の会話はまるで緊張感が無い。怪しいスワンボートの2人組にも救助を求めるほど高校は切羽詰っているのだろう。下の階の様子を見ると、救助は絶望的だ。結末としては最初に餓死した生徒がゾンビと化し、他の生徒がネズミ算式にゾンビになって終了であろう。それは分かっているが、2人には救助するほど余裕は無い。むしろする気が無い。マシンガンを持っていてもあんな危険な場所に近付くつもりは無かった。


「あ、紙を振り出しましたね。何々?S・・・O・・・Sか。」


「在り来たりね。こっちの人数を見れば無理って分かりそうなもんだけどね?」


「ですよね。謝っときますか。」


真澄は大きく手を交差させて×を作る。そのあとに大きくお辞儀をして手を合わせた。


「無理っす。ごめんなさいねっと。」


「それでいいわよ。どう見ても無理だもの。下はゾンビの洪水だし、命がいくつあっても足りないわ。」


2人は必死な形相の高校生達に興味を失くし、橋脚の反対側に移動して流れる水を眺めて暇を潰した。2人はこの惨劇にも完全に慣れてしまい、人を見捨てるのにも罪悪感すら沸かなくなっていた。

 

「憐憫の情では決して動くな、か・・・。中原さん、僕らはまだ生きてますよ。」


真澄は自分を犠牲にして2人を逃がしてくれた中原太郎の言葉の矛盾を考え、それでも生きることが彼への最大の恩返しだと思うことにした。





 午後になっても雨は止む気配が無かった。季節的に台風が近付いていたのかもしれない。気象予報などやっているわけがないので、その事実は知る由が無かったが、雨の勢いは衰えなかった。高校に目を向けると、学生達はまだ頑張ってアピールを続けていた。勿論声が届く距離ではない。紙に大きな文字を書いて、こちら側に向けて振っているのだ。今度の文字は数枚に分けて「助けて」だった。


「何か不憫ですね・・・。何とかなりませんかね?」


必死の学生達を見ていると、嫌でも憐憫の情が沸いてくる。真澄は土倉光に意見を求めるようになっていた。


「何度も言うけど、こっちからは手の出しようが無いわよ。大体、この川を渡れないでしょう?」


「そうなんですけど・・・。でも脱出の方法くらいは教えられるんじゃ?」


「電話も通じないのよ。あんたが行って教えてくるのかしら?」


「う・・・、それは勘弁。」


「ほら、何も出来ないのよ。」


そして話は振り出しに戻る。すでに何回もやっている問答だった。


「あれ?また別の紙に何か?・・・・・・・171と携帯の番号ですね。」


「171?・・・・・・・・あっ!災害用伝言ダイヤルじゃないかしら?まだ生きているのかも。」


「ええ!?試しにかけてみましょう。電池パックありますか?」


「まぁ常に電源は切ってあったから、1、2時間は使えると思うけど。試しましょう。」


土倉光の携帯電話で、171とダイヤルしてみる。すぐに電話から使用ガイダンスが流れ始めた。生きているらしい。


「驚きだわ・・・。繋がるわよっ!何か伝言をしてるはずだから再生しなきゃ。」


「えっと、080・・9×○5・・3△○1ですね。」


「・・・・なるほどね。」


しばらく電話を聞いていた土倉光は、頷きながら真澄に内容を伝えた。


「彼らは3年2組の生徒らしいわ。こっちの番号をなんとか伝えましょう。あんたがやって。」


真澄は大きく頷いて土倉光の携帯の番号を大きな動作で相手に伝える。体そのものを数字の形にして、四苦八苦しながら学生達に何度もやってみせた。10分ほど繰り返すと、1人の学生が大きく手で○を描いた。紙に番号を書き写してこちらに向けている。双眼鏡で確認するとまさに土倉光の携帯番号が紙に大きく記されていた。こちらからも大きな丸を描く。


「こっちの伝言はすでに伝えてあるわ。あとは彼ら次第よ。」


「何て伝えたんですか?」


「ゾンビは体臭と音に敏感だから、誰かが下に向かって叫ぶなりして校舎内にゾンビをおびき寄せ、その間にパイプでも何でもいいから伝って下に降りて川まで忍び足で逃げなさいとね。それだけっ!」


「まぁそのくらいしか逃げ道は無いっすね。あとは雨が助けてくれるかもしれません。ただ何人死ぬか疑問っすわ。いいとこ3~4人逃げられたら御の字じゃないでしょうか?」





 数分後、学生達は屋上に上がって雨で体中をゴシゴシと洗い出した。こちらの伝言は伝わっていたようである。一通り体を洗い終えると、屋上の隅に散って下を確認している。降りれる物が無いか確認しているのだろう。その時、下の窓から火災用の滑り台らしきものが下へ一気に伸びるのが見えた。普通の学校には無さそうだが、さすがは名門私立である。


「おおっ!いいもんあったな。あとはおびき寄せるだけですね。」


「そうね。でもこれからが大変よ・・・。」


それから、学生達は大きな動作で下に向かって何やらアピールを始めていた。下の様子は橋の下に居る2人からは確認のし様が無かったが、校舎内にゾンビがどんどん増えているのは確認できる。2時間ほど騒いでいた学生達だったが、いよいよ滑り台に集まりだした。リュックのような物を担いで、男女交互に滑り降りている。さらに10分ほどすると、河川敷に5人ほどの学生が現れ、一目散に川に向けて走ってきた。迷いも無く川に飛び込んだ学生達は、何とか岸から一番近い橋脚に辿り着いた。その後を無数のゾンビがヨタヨタと追って現れ、川に入りどんどんと下流へ流されていった。


「半分くらい生き残ったかな?」


その後、他の学生が土手の上に現れることは無かった。


女子高生ハァハァ!

あまり女子高生に興味が無くとも、男なら一度は使う言葉だと思います。


1回くらい女子高生で埋め尽くされた中にダイブして揉みくちゃにされてみたいですね(`・ω・´)

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