第陸話 犠牲
やっちまった。また連投だYO!
だが反省はしていな(ry
第陸話 犠牲
ナカハランドに立て篭もって早くも3日経っていた。中原太郎はすでに脱水症状で限界を迎えている。何度か水を差し入れたのだが、頑なに受け取ろうとしなかったのだ。自衛隊の連中は現れる気配がない。そろそろ来ても良さそうなものだったが、銃声すら聞こえなかった。ゾンビはどんどん数を増し、繁華街はすでに脱出不可能なくらいゾンビが溢れている。
「困ったわね。自衛隊が来ないとマズイ状況になってるわよ。あんな屑が待ち遠しくなるなんて思わなかったわ・・・。」
土倉光も腕組みをしている。ペットボトルの水はもう10本を切っていた。もって2日である。無くなる前に脱出を決行しなければ間に合わなくなる。中原太郎が死ねば、まさに前門の虎後門の狼となる。
「ここまで増えると、逆に来れないんじゃないですか?さすがに数が多すぎっすよ。」
「そうね、とりあえず明日まで待って来なければ、多少無茶でも脱出しましょう。ルートを考えるわよ。」
2人は仮にも営業職である。この辺りの地理には詳しいのだ。すぐに地図を描き、2人でルートを導き出していく。もう繁華街は進めない。完全に自殺行為となる。裏口から出て裏道を通るしかなくなっていた。裏道は道も狭く、ゾンビと遭遇すれば戦闘になる可能性もあるが、繁華街を突っ切るよりは遥かに危険は少ない。2人はとにかく川を目指すルートを取ることにした。ゴムボートで一気に海まで出る作戦である。この繁華街から2kmほど南に大型の河川がある。そこに着くことが目標だった。いくつかのルートを描いた地図に書き込む。それを頭に完全に叩き込んだ。
「覚えたかしら?」
「大体は・・・。」
「ルートAを言ってみて。」
「ルートA、裏口から国道○号を目指し南下、薬局の通りを西に辿り、河川敷に出るルート。」
「ルートDを言ってみて。」
それを延々と繰り返し、何とか2人とも完璧に記憶した。後は自衛隊が来るかどうかが問題だった。奴らがゾンビを多少なりとも掃討してくれれば、作戦の難易度も遥かに下がる。
「中原さんの様子を見てきますね。」
「行ってらっしゃい。武器は持って行きなさいよ?」
「当然です。他人は信用するな、ですよね?」
「そうよ、私も信用しないこと。」
「了解っす。」
真澄は脇差を持つと、中原太郎の私室の前に立つ。数回ノックをしたが、反応が無かった。
「マジかよ・・・。中原さん、開けますからね?」
真澄は慎重にドアを開け、中の様子を窺う。中原太郎はベッドに突っ伏していた。恐る恐る脇差を構えながら足でつつく。
「・・・・まだ生きてるぞ。」
「ふぅ・・・、安心しました。僕らは明日経つことにします。自衛隊が来ても来なくてもね。」
「そうか、何なら今から行ってもいいぞ。奴らは来ない。」
「どういう意味っすか?」
「窓から外を見てみろ。」
その言葉でピンときた真澄だったが、確認のために窓から外を覗く。数百のゾンビに混じって、迷彩服のゾンビが数人歩き回っていた。アパートの前でマンションの住人を撃ち殺した自衛官も確認できる。どうやら暴徒は襲撃に会い壊滅したようだ。もう奴らを期待できない。
「すぐに先輩に知らせてきます。お邪魔しましたっ!」
「・・・待て。」
「何すか?」
「お前たち、この数のゾンビを相手にどうやって逃げ延びるつもりだ?」
「裏口から出るしか方法がないっすね。」
「間違いなく死ぬぞ?」
「でもここに居ても餓死確定ですからねぇ、どっちにしろ死ぬのかもしれません。」
「そうか・・・。俺にいい考えがあるんだが聞くか?」
「一応聞いておきます。」
「この部屋から、アーケードの屋根付近にある工事用の通路見えるだろ?」
「見えますね。でも狭い上に落ちたら死ぬ高さです。あんなところを荷物を持って通れない。それにアーケードの終わりでデッドエンドですよ。」
真澄は繁華街の上にある屋根部分を眺めながら顔を顰める。
「あの高さならゾンビは手が出せない。俺がアーケードの端まで行って奴らを引き付けるから、その間に安全圏へ脱出しろっ!」
「本気ですか?あそこに登っちゃうとここに戻れなくなりますよ・・・。」
「もう死ぬんだ。どこで死んでも同じさ。水を1本くれ。ある程度の時間が経ったら睡眠薬を飲む。」
「そうですか・・・。なら今1本渡しておきます。もう体はあまり動かないでしょ?」
「なんだ・・・、お見通しだったな。」
「誰が見ても分かりますよ。気が狂ってないだけ賞賛に値します。」
「そうかもしれんな。不思議と心は穏やかなんだ。気が変わらんうちにボインの姉さんに知らせて来い。」
「では先輩に報告してきます。すぐ戻りますからね。」
真澄はそう言うと私室を後にした。
★
真澄の話を聞くと、土倉光はすぐに準備を始めた。中原太郎にペットボトルとウイダーを届ける。少しでも体力を戻してもらわなければ作戦が失敗する可能性があるのだ。2時間ほど待って、中原太郎が立ち上がった。熊避けのブザーを持ち、窓の所に向かう。そして、意を決してアーケードの柱に飛び移った。ゾンビ数匹が気付き、中原太郎の飛び移った柱の下に殺到する。中原太郎は気にもせず取り付けてある梯子を登った。上の通路に辿り着くと、窓から心配そうに見つめる2人に目配せをした。1時間後に出発という合図である。そのまま、中原太郎は振り向きもせずにアーケードの端へ歩いていった。
「あのオジサンに感謝しなきゃね・・・。」
中原太郎を見送って窓を閉めた土倉光は小さく呟いた。
★
2人はすぐに今まで着ていた服を脱ぎ、体中をウェットティッシュで拭いていく。無論別々の部屋である。そして体中に発汗防止用のスプレーをし、清潔な装備に着替える。さらに服の上から消臭スプレーを施していく。完全に消臭を済ませた2人は、私室から中の様子を窺った。繁華街のゾンビは激減していた。その代わり、遥か彼方でゾンビ達が大騒ぎしている。微かに歌声が聞こえた。中原太郎が大声で熱唱しているらしい。彼は2人のためにその身を賭してゾンビを引き付けてくれている。2人は私室を後にして、裏口の周囲を確認する。ゾンビの気配は無かった。すぐに1Fに降り、恐る恐るドアノブを回す。改めて確認したが、ゾンビの姿は見えなかった。
「今が好機よ、行くわよ桜井。」
「はい、汗を掻かない様に小走りで抜けましょう。繁華街を離れればゾンビは普通に居ます。出来るだけ早く川に出るんです。」
2人はゆっくりと焦らないように小走りで進む。ゾンビ数体と遭遇したが、5,6mの距離で気付かれない。消臭の効果は絶大のようだ。まだ市の中央付近であるので、ゾンビの数はかなり居るはずだ。自衛隊が掃討したとしても、市内にはまだ何万ものゾンビが徘徊していて当然だろう。出来るだけ大きな通りを、ゾンビとの距離を取りながら進む。1kmほど進むと、とある店の前で土倉光が立ち止まった。
「何してるんですか?早く行かないと日が沈みますよ。」
「桜井・・・、少し待っててくれないかしら?」
「何言ってるんですか?いくらなんでも舐めすぎですよ。何か欲しいものがあるんですか?」
「・・・・・・・・・下着を。」
「は?」
「ブラが欲しいのよっ!あんたには分からないと思うけど、揺れると先が擦れて痛いのっ!」
声を荒げた土倉光の口を慌てて塞ぐ。
「むぐぐぐぐぐ。」
「静かにしてください・・・。分かりました、10分だけ待ちますので、手早くお願いしますよ。」
「ありがとう、恩に着るわ。」
「あと選ぶのはいいですけど、試着なんかする時間はありません。今もう17時を回っています。急がないとほんとにヤバイっす。」
「分かったわ。とにかく待ってて。」
そう言い残して土倉光は店内に消える。ここも襲撃された跡が残っていた。
「ランジェリーショップなんか襲って何考えてんだ・・・。明らかに自衛隊だろ、弾痕が残ってるし。」
真澄はブツブツと呟く。ゾンビは30mほど離れた場所に1体、100mほど離れた場所に4体うろついていた。15分ほどして土倉光は戻ってきた。
「ただいまっ!待った?」
「待ちましたよ。声が大きいです・・・。」
「ごめんねぇ、Gだとヌーブラとかサイズないから普通のになっちゃって、着けるのに手間取っちゃった。」
「あんた着けてたのかっ!命がけで下着なんか着けてどうするんだよ・・・。待ってた俺がどれだけビクビクしてたか・・・。」
「だから謝ったじゃない?下着は大量に補給したからしばらくは大丈夫よ。」
「とにかく急ぎますよ。さすがに日が短くなってます。あと1時間もすれば真っ暗ですよ。」
とんだ道草を食ったが、日が落ちる前に河川敷に辿り着いた。散歩道のような歩道が続いており、ゾンビの数は少なかった。
「この先に桟橋があってボートが何隻かあったわよね。行けそうかしら?」
「どうっすかね?ボートが残っているとも思えませんよ。やっぱりゴムボートでしょうね。」
2人は小型のゴムボートを持参していた。ただ荷物を乗せて移動となると浮力が心配である。
「とりあえず行くわよ。ここで止まるわけにはいかないわ。」
2人はゾンビを避けながら桟橋を目指す。もう周囲は薄暗くなり始めていた。もう電気はとっくの昔に無くなっている。街灯の無い街の暗さは確認済みだ。暗視ゴーグルが1個だけあったが、周囲を警戒する目が半分になるのは痛い。ゾンビは暗闇など関係なく襲ってくるだろう。スプレーを再度施して、2人は桟橋の側まで移動していた。やはりあったはずのボートは忽然と消えており、桟橋は閑散としていた。
「ちっ、やっぱり無いっすね。ゴムボートを出してみましょう。」
ゴムボートを収納袋から出すと、空気を入れていく。シュコシュコという音が思いのほか大きく、近くを徘徊していたゾンビが寄ってきた。1匹だけだったので、土倉光がクロスボウを構える。見事に外した。やはり初心者である。貴重なボルトを失い、真澄が仕方なしに虎徹を構え忍び寄った。ゾンビの背後に回り、音が立たないように忍び足で距離を詰める。大きく虎徹を振りかざして、ゾンビの脳天に強烈な一撃をお見舞いした。しかし、ゾンビは頭蓋骨を粉砕されたにも関わらず、むっくりと起き上がって真澄に向かってきた。
「ちょっ!死んでないっすっ!」
慌てて距離を取ろうとした真澄は、草に足を取られて無様にすっ転んだ。そこにゾンビが悠然と襲い掛かった。ゾンビと交錯した真澄は、ゾンビの頭部を押さえて必死で手を突っ張っている。この手が外れたら終わりだ。噛まれただけでアウトだという情報があった。
「桜井っ!」
土倉光が全力でダッシュしてきて、ゾンビに両足でドロップキックをお見舞いする。ゾンビは勢いをつけた全体重を横っ腹に食らい、呻き声を上げて吹き飛ぶ。ホッとした真澄の上に、土倉光がドサリと落ち、真澄は悶絶した。土倉光は意に介さずに虎徹を拾うと、未だ起き上がれないゾンビの頭部に突きを繰り出す。ガシュッという嫌な音と共に、ゾンビはピクピクと痙攣しながら倒れ、動かなくなった。
「はぁはぁ・・・、助かりました。」
「ふぅふぅ・・・、安心してる場合じゃないわ。今の騒ぎでゾンビがどんどん集まってくる。」
周りを見回すと、四方八方からゾンビが歩み寄ってきていた。2人は大慌てで荷物を持つと、ゴムボートを諦め桟橋から離れた。随分離れてから、真澄と土倉光はスプレーをシュコシュコやり、河川敷に沿って歩き出した。まともにゾンビと戦闘したのは初めてで、2人とも興奮気味に荒い息を吐きながら歩く。辺りはすでに夕暮れも濃くなっている。じきに日が落ちるだろう。
「マズイっすね。このままだとゾンビに嗅ぎつかれたら一巻の終わりですよ。早いとこボートを探しましょう。」
「でもボートが残ってる可能性があるかどうか・・・。ゴムボートは無くなっちゃったし、私達詰みじゃない?」
「何を諦めてるんですかっ!?そうだ、車はどうです?」
「声が大きいわよ。車は考えたけど、放置車輌が多すぎるわ。音でゾンビはわんさか寄ってくるし、すぐにひっくり返されて私達なんかペロリよ。美味しく頂かれて終了だわ。」
「嫌な表現を使わないでくださいよ。とにかく川から離れるのは得策じゃないと思うんです。このまま下るっすよ。」
そう言ったところで、真澄はもう日が暮れたことに気付いた。
★
暗視スコープは真澄が付けた。土倉光はいざと言う時に戦闘は出来ない。不安そうに真澄の腕に掴まりながら歩いている。暗視スコープは電池式である。辺りは真っ暗のはずだが、真澄には緑色に染まった街並みがはっきりと見えていた。ゾンビは昼と同じように徘徊をしている。無休で活動しているらしい。
「先輩、真っ暗っすか?」
小声で土倉光に話しかける。
「当然よ。私は足元すら見えてないわ。あんた大丈夫なんでしょうね?」
「ええ、俺は大丈夫です。あ、そこ石があるんで気をつけ・・」
ガンッ
「いったいわね・・・、もっと早く言ってよ。」
「すんません、周囲にばかり気を使ってるもんで・・・。」
相変わらず河川敷は続いていた。標識を見ると、近くに公園があることが分かる。真澄は記憶を頼りに公園の景色を思い出していた。かなり昔にデートで一度だけ行ったことがあった。公園の内部に池があり、スワンボートや手漕ぎボートがあった気がする。
「先輩、城跡の側に森林公園があったの覚えてますか?」
「ああ、あるわね。・・・・・そうか、ボートがあったわ。少なくともゾンビに怯えずに寝られる。急ぎましょう。」
「理解が早くて助かるっす。あの池には確か『カップル島』があったでしょ?」
「あー、あるある。いつもカップルがボートで乗り付けてベンチでイチャイチャしてる島でしょ?見るたびに死ねばいいのにって思ってたからよく覚えてるわ。」
「・・・それはどうでもいいですが、あの島なら間違いなく休めると思います。池の魚を釣って、少し腹ごしらえも出来るかもしれない。行く価値あるでしょ?」
「決まりね。よく思い出してくれたわ。グッジョブよ桜井。」
「あざっす、でもまさか先輩と行く羽目になるとは・・・。トホホですね。」
緊迫している空気を和ませようと冗談を口にした真澄は後悔することになった。土倉光が途端に黙り込んでしまったのだ。無反応だと不気味である。気のせいかもしれないが、腕に掴まっている手に力が入り、ギュッと握り締めている気がした。
「先輩、どうかしましたか?」
「・・・・・何でも無いわ、急ぎましょう。」
★
公園内にも当然ながらゾンビが徘徊しており、真澄がクロスボウで3体ほど必殺した。5mまで近付けば、いかに素人でも当たるものである。池までの道のり、ゾンビを倒してはボルトを回収という作業を繰り返しながら進む。すでに1本は土倉光のノーコンで失っており、1本は衝撃で折れ曲がってしまった。残り28本、大事に使わなければならない。
「もうすぐ池ですね。ボート乗り場ってどこでしたっけ?」
「えっと、確かこっちだと思う。」
真澄から暗視スコープを受け取り周囲を確認した土倉光の先導に従う。確認した土倉光は真澄に暗視スコープを返すと、また腕に掴まる。すぐに『ボート乗り場』と書かれた小屋が見えてきた。周囲にゾンビは居なかったが、困ったことが起こった。ボートは全て鎖で繋がれ、乗れなくなっていたのだ。
「参りましたね、どうしますか?」
「これで切れないかしら?中原さん曰く鉄でも切れる糸鋸よ。」
ナイフの鞘に装備されていた小道具の1つらしい。試しに使うと、確かに鎖に少しずつ刃が食い込んでいく。10分ほどで鎖を断ち切ることに成功した。ボートは手漕ぎでオールが全てどこかにしまわれていたため、2人はスワンボートを選択した。真っ暗な湖面にキコキコとペダルを漕いで進んで行くと、すぐに『カップル島』が見えた。そこで初めて真澄は異変に気付く。人がベンチで眠っているのだ。
「先輩・・・、人が居ます。」
「まさか?どんな人なの?」
「何と言えばいいか・・・、分かりやすく言えばホームレスです。ベンチに寝ています。」
「何人くらい居る?」
「2人ですね。小汚いオッサンが2人。あそこに行くのは止めましょう。池の中央なら1人が寝て1人が見張りをできます。」
「分かったわ、あなたから寝なさい。交代は5時間、今が20時10分だから、1時30分まで寝ていいわよ。それから私が6時まで寝るわ。」
「いいんですか?」
「あなたの方が周囲を警戒したり戦ったりで疲れてるでしょ?また膝枕してあげるから、ゆっくり眠りなさい。」
珍しく優しい言葉をかけた土倉光に感謝しつつ、真澄は柔らかい膝に頭を乗せて眠りについた。
★
朝の5時を回ると、周囲は明るくなり始めていた。まだ土倉光は真澄の膝に頭を埋めて寝入っている。相当疲れているはずだ。寝具など持ってくる余裕は無かったので、真澄は持参したダウンを肩にかけている。意外に広いベンチシートだったので、1人なら足を曲げて横になることができた。だから膝枕なのである。
(明るくなってきたな。けっこうゾンビが居やがる。どうにかしてここからボートを運び出せないものかな・・・。)
真澄は周囲を見渡す。アーチがかかる幅4~5mの水路が川まで繋がっているが、入り口に金網が張られ、ボートで出るのは不可能そうだった。撤去するにはゾンビが徘徊していて危ない。しかも途中に何があるか分からない。どこかで足止めされれば、それこそ命に関わる。
「おーーーーいっ!お前らどっから来た!?」
不意に大声が聞こえた。何事かと振り返ると、ホームレスが起き上がってこっちを見ている。その声で周囲のゾンビが池の周りに集まってきた。真澄は出来るだけ大声を出さないように手だけ振り返した。
「どっから来たか聞いてるだろうがっ!食いもん持ってたらくれっ!」
真澄はどうしていいか分からずに無言でいる。大声に土倉光が目を覚ました。
「煩いわねぇ・・・、何よあいつら?自分達の態度がどれだけ愚かか気付いてないのかしら?これだから頭悪いやつは嫌いなのよ。」
安眠を妨げられ、頭にきているようである。なおもホームレス2人は叫ぶ。
「おほっ!ボインの姉ちゃんも居るのか。こっちおいでっ!」
やはり男だ。即座に土倉光のチャームポイントに気付き、猫なで声に変わる。
「こっちおいでっ!取って食ったりしないからっ!」
(取って食う気満々じゃねぇか・・・。ほんとに面倒だな。あいつらのせいでゾンビが池に入ってきたらヤバイぞ。)
「ちょっと近付けるわよ。」
土倉光がペダルを漕ぎ出した。慌てて真澄もそれに倣う。
「近付いて危なくないですか?あの目を見れば何を考えてるか分かるでしょう?」
「ええ、分かってるから近付くのよ。」
真澄は訳が分からない。しかし、島まで20mほどに近付くと、土倉光は足を止めた。
「うほっ!ほんとにボインだな。別嬪だねぇ。」
ニヤニヤしながら土倉光の胸の膨らみを見ている。1人が我慢できずに池に飛び込んだ。野獣のようになっているらしい。バシャバシャと音を立ててホームレスの1人が近付いてくる。そしてついにスワンボートに辿り着いた。勿論、土倉光のほうに居る。真澄は気が気ではなかったが、いきなりホームレスは悲鳴を上げた。
「うぎゃああああああああああっ!!!」
土倉光はナイフで足に掴まってきたホームレスの手を突き刺したのだ。
「早く逃げなさい。次は頭を刺すわよ?」
「ひええええええええええええ。」
ホームレスがカップル島に逃げ戻る。ホームレス2人は怯えた目をしてスワンボートを見ていたが、今度は悲鳴を上げた。土倉光がさらにボートを島に寄せたところでクロスボウを構えたのだ。
「あなた達は今すぐ島から立ち去りなさい。でないと殺すわよ。10数えるからさっさと泳いで逃げるのね。準備はいいかしら?い~ち、に~い、さ~ん・・」
滅茶苦茶だ。ホームレス2人は慌てふためいて池に飛び込み逃走した。土倉光はさらにボートで追随する。真澄は訳も分からずボートを漕ぐ。なんとか岸に辿り着いたホームレスは、一目散に駆け出した。大声で周囲に集まってきていたゾンビが駆け足の音に反応し後を追う。ホームレスはゾンビの大群に追われすぐに姿が見えなくなった。もうここに戻る余裕は無いだろう。十中八九食われて終了である。
「ふんっ、小汚いし逃げ切るのは不可能だわ。さぁ桜井、島に行くわよ。」
やっと真澄は理解した。土倉光は2人のホームレスをゾンビを散らすための餌に使ったのだ。哀れな末路が待っているのを承知でだ。
「先輩・・・、いい死に方しないっすよ。やりすぎなんじゃ?」
「馬鹿ね桜井。あいつらは私の体を狙ってたのよ。当然の自衛じゃない。ゾンビに追いかけられたのはあいつらの勝手よ。ゆっくり上陸すれば、気付かれずに逃げられたかもしれないのにね。」
わざと音が立つ逃げ方を強いておいて、とんでもない言い草であったが、真澄は助かるために仕方の無い犠牲だと諦めることにした。他人は信用しない。出来るならうまく利用する。これがこの世界の鉄則であると改めて心に刻んだ。あの親娘と同僚を失った日から、自分の中にあった暖かい気持ちが急速に失われていっているのは、気のせいではないだろう。
今回はけっこう非道だったんじゃないでしょうか?
この辺りから、本編と登場人物の差異がハッキリしてきたと思います。やっぱり都会っ子は冷たいのね。
作者は田舎者ですので「俺の心はオープン24時間」くらい言いたいですが、やっぱり極悪非道なのかもしれません。
読者の皆さんに質問です。光姉さんみたいな女は好き?嫌い?踏まれたい?
答えは作者に向かって念で飛ばしてください。絶対受信します(`・ω・´)