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第肆話 脱出

作者は猪木さんの大ファンです。


道はどんなに険しくとも、笑いながら歩こうぜ!(`・ω・´)

第肆話 脱出


 ついに9月2日に水が止まった。発生が8月27日だったので、6日もライフラインが生きていたのは奇跡であると言える。真澄の家の浴槽は蓋をされ封印となっている。ペットボトルの水を使用して何とか生活するしかない。自衛隊の暴挙を目撃した時から、救助は諦めている。問題は、水が無くなるのが先か、ゾンビの栄養失調か、餓死するのが先かという点だった。


「先輩、朝の儀式をしてきます・・・。」


「行ってらっしゃい。たっぷり出してきなさいっ!」


こんな会話が数日前から始まっていた。このアパートは水が止まると、屋上にある貯水タンクの水がトイレにだけ使用されるように出来ている。故にトイレだけは流すことが可能であった。最悪の場合は、トイレのタンクから水を抜き取って生活も出来るのだが、気分的に辛いだろう。それは問題ないのだが、問題があったのは、溜まる男の性欲である。男性だと数日に1度くらいは自分でガス抜きが必要となるのだ。現在、先輩である土倉光と同居状態だったために、真澄はガス抜きが出来なかったのである。そのことに気付いた土倉光が、遠慮はいらぬと、朝の儀式の時間を設けたのだ。ちなみに土倉光は、この時間を神の時間と呼んでいた。何でも賢者になれる素敵な時間だからだそうだ。とにかく、真澄はトイレに入る。


(何で自分ちでコレにこんな苦労が要るんだ・・・。先輩も分かってんなら手伝ってくれてもいいじゃないか・・・。せっかくいいものがあるんだから、挟んで擦るくらいできねぇのかっ!)


毎朝のことながら、情けなくて愚痴も出ると言うものだ。部屋には豊満な体をもてあました妙齢の女性がいる。性欲も蓄積が早くなる。故に毎日の儀式である。真澄1人だけならこんな苦労は無いだろう。コトが済むと、真澄はトイレットペーパーを引っ張り出す。ジャーッという音と共に、流れていく紙くずを見つめながら、人生とは何ぞやと哲学的な疑問が頭をよぎり、消えていった。





 自衛隊は、3日に1度くらいのペースで、けっこう頻繁に現れていた。空家を物色して、食料や衣類などを奪っていくのである。その度に2人は息を潜めてやり過ごすしかなかった。存在を知られれば、食料は奪われ、真澄は殺され、土倉光は慰み者にされることが分かっているのだ。2人とも生きた心地がしなかった。ドアノブの補強は強化され、絶対に開かないように工夫されていたし、明かりは決して点けないようにしていた。無論、電気系統は全て死んでいたが、懐中電灯や蝋燭の光でも即みつかるに違いない。


「また来ましたよ・・・。」


「しっ、黙って・・・。」


9月も半ばに入ったある日、また自衛隊がやってきた。2人は息を潜めて、クローゼットに入る。もし自衛隊が部屋に入ってきても、机の上に遺書を置いてある。窓は全開に開け放って、下には血糊を撒いてあった。これは殺された直後のマンションの彼氏さんを使ってつけたものである。うかうかしていると動き出すので、焦ってつけた。遺書の内容も、かなり病んだものにしてある。食料だけ持って帰ってくれれば、御の字であった。クローゼットの上の天井を開け、そこに潜んでいる2人。このアパートに目をつけられれば、相当に危ないのである。脱出こそ出来ないが、かなり見つかりにくい場所と言えた。無論食料と水も5日分くらいは確保して常備している。ウイダーとカロリーメイトは、全て天井に隠している。


「このアパートはボロだから目を付けられにくいですけど、このままじゃ危険ですね・・・。」


「そうね、ゾンビより人間に怯えるってのも妙な話だけどね・・・。」


「このままじゃダメですね。そろそろ脱出しましょう。食料が無くなればどうせここには居られないし。」


「幸い自衛隊の連中がこの辺のゾンビはあらかた掃討してくれてま・・・、来ましたね・・・。」


アパート内でドアが蹴破られる音が響いた。一部屋ずつ物色しているらしい。ついに3Fに足音が登ってきた。どんどんドアは蹴破られ、ついに隣の部屋にくる。自衛隊の声が聞こえた。


「やっぱ貧乏人の家ばっかりだな。ここで最後にしとくか?見るだけ無駄な気がしてきたぞ。」


「まぁあるものはもらって行こうぜ。ここに住んでた女が、3Fに殺人鬼が潜伏してると言ってたじゃないか。それも調べておかないとなぁ。ちっ、この部屋もハズレだぜっ!」


壁をガンガンと蹴る音が聞こえる。まるでヤ○ザだ。そして足音が遠ざかっていく。しかし、次の瞬間、真澄の部屋のドアがガンガンと蹴られた。ドアノブをガチャガチャと回そうとする音が聞こえる。かなり頑丈に縛っていたはずだが、銃の乱射音が聞こえ、あっさりとドアが破られた。


「なんだ?随分厳重にしてたな。ここが殺人鬼の巣か?」


「シーンとしてるぜ?お、見ろよ。カップ麺が大量にあるぞっ!」


「水も随分あるぞ?ここの奴はどこ行ったんだ?」


「おい、遺書が置いてあるぜ。何だコレ・・・。ここが殺人鬼の部屋で間違いないなっ!相当頭がおかしい奴みたいだぞ。読んでみろ。」


「・・・・・・何だよ、自殺しちまってるじゃないかっ!俺がぶっ殺してやろうと思ってたのにようっ!!!」


「こっから飛び降りたみたいだな。死体がないからその辺でぶっ殺したゾンビがそうだったんだろう。」


「まぁいいや、飯だけもらっていくぞ。水は重いから運ぶのも面倒だ。井戸もあるし要らないだろ。」


ガラッとクローゼットが開く。


「お、ポン刀があるぞっ!何だ・・・、刃引きかよ。」


「そんなもんいらねぇだろ、もう行くぞ。」


クローゼットが開いた瞬間、心臓が止まりそうになったが、自衛隊は去ったらしい。車のエンジン音が完全に聞こえなくなるまでクローゼットの天井に潜んでいた2人は、ようやく降りてくる。


「もう立て篭もれませんね・・・。強制脱出ですよ。」


「だね。お風呂の水を使って体を綺麗に洗うわよ。それからリセッ○ュで消臭したあと出発よ。」





 体をしっかりと洗い、消臭した服を着て、2人は食料をバッグに詰め込み移動を開始した。武器は3本の模造刀である。他に武器になりそうなものは無かった。ゾンビの数はかなり減っており、そこら中に死体が転がっていた。全て頭を撃ち抜かれており、嫌な腐敗臭が周囲に撒き散らされていた。もうすぐ日が暮れる。まずは安全な場所を確保しなければならない。


「どの家もドアを蹴破られています。安全に篭城できる場所はほぼ無いですね。」


「仕方ないわよ。最悪の場合、ゾンビの手が届かない木の上とかになりそうだわ。」


「それは危険っすよ。ちゃんとした隠れ家を見つけましょう。」


しばらく歩くと、繁華街が見えてきた。食品系の店は無残なくらいに荒されていたが、幸いなことに消臭系のアイテムは売るほど残っていた。これでしばらくはステルス状態を維持できそうだ。それでも繁華街はゾンビが多く、かなり回り道をすることになった。辺りは暗くなってきていた。ふと見ると、シャッターが閉じたままの店を発見した。そこはアウトドアショップであった。対ゾンビ用の武器などがあるかもしれない。なぜシャッターが下りているかは分からなかったが、ラッキーである。用心深く裏口に回った。しかし、裏口は鉄で出来ており、1Fには他に窓すらなかった。頑強なシャッターに鉄製の裏口、どうやら侵入を放棄した店舗のようである。しかし、入れれば身を守る要塞になる。2Fを見ると、小さなベランダが目に入る。あそこまで上がれれば侵入できるかもしれない。2人いるので、真澄が肩に土倉光を乗せる事で、なんとかベランダに手が届いた。あとは引っ張り上げてもらうだけである。しかし、所詮は女の力、壁をガリガリと蹴ることで、なんとか真澄もベランダによじ登ったが、かなりの時間を要した。今日はベランダで一夜を明かすことにする。万が一だが、中にゾンビが居た場合、真っ暗ではかなり危険だからだ。夏だったが、その夜はかなり冷えた。Tシャツしか着ていない2人は身を寄せ合って寒さをしのいだ。雨が降ってもこの繁華街はアーケードであり、歩行路には屋根があったので安心であった。





 次の日の早朝、目を覚ました土倉光は周りを見回して昨日のことを思い出した。真澄はまだ眠っている。小さなベランダは2人で身を寄せ合ってやっと入れる大きさだ。ずっと密着していたらしい。少し気恥ずかしい。座った体勢で眠っていたため、体中が痛かった。


「ほらっ!いつまで寝てるの?起きなさい。」


真澄を揺り起こしながら下をみると、ゾンビが10体ほど蠢いていた。ゾッとする。手が届かない場所に居なければ、昨夜の内に殺されていただろう。ここは完全に死角になっているはずなのだが、やはり嗅覚が異常に発達している。すぐにリセッ○ュを2人の体中に吹き付ける。冷たい霧の感覚に、真澄はようやく目を覚ました。


「うわぁ、冷たいっすよ先輩。」


「静かにしなさい。下にゾンビが居るんだから騒がないで・・・。」


真澄も下を覗き込んで青ざめた。やはり消臭を怠ると、簡単にゾンビの餌食になってしまう。そのことを再認識した。


「とりあえず体をほぐしてから、中に入ってみましょう。鍵がかかっているはずっすから、ガラスをどうにかしないといけませんね。」


ベランダの窓はかなり厚いガラスがはめ込まれている。ワイヤーのような線が斜めに走り、ダイヤ状の模様が見えた。


「これはかなり頑丈なガラスねぇ・・・。壊せる?」


「石でもあればいけると思うんですが、ちょっと下に降りられませんからねぇ。」


「鍵が開いていれば簡単に入れるんだけどね。」


土倉光は試しに窓をスライドさせる。カラカラと音がして窓はあっさりと開いた。


「やってみるものね・・・。」


「ですね・・・。」





 ショップの2Fは明るかった。窓は1Fとは比べ物にならないくらいたくさん付いている。このベランダは店の事務所の窓に取り付けられた実用性のないデザイン的なものらしかった。広くもなかったが置いてある植木鉢などを見るとガーデニングなどに使われていたようだ。しかし、荒れ放題なので相当前に放棄されているらしい。ベランダから事務所に入る。人の気配は無い。食料の空き箱などが無いところを見ると、ここで篭城していた人間は居なかったようである。店を閉めて従業員が全員帰宅したあとに事件が発生したのだろう。


「ここだけ見ると人は居ないようね。」


「そうみたいですね。でも油断は禁物ですよ。」


事務所はかなり広く、経理や発注などをしていたと思われるパソコンを置いたデスクが4つほどあった。他にも試供品のようなものが詰まったダンボールや新製品の広告ポスターなど、壁際にゴチャゴチャと置いてある。使えそうなものは無かったので、廊下に出る。スタッフの控え室にも人の気配は無かった。2人は一応中を物色する。真澄は右、土倉光は左のロッカーを1個ずつ開けていく。真澄は次々にロッカーを開けて中を覗き込む。土倉光は呆れて真澄に振り返って注意した。


「そんな簡単に開けないのっ!中に何か居たらどうするのよっ!これは人間が入れるサイズなんだから少しは注意しなさいよ。」


「その通りだ・・・。」


いきなり後ろのロッカーから人影が現れ、土倉光は凍りついた。手には大型のアーミーナイフが握られていたからだ。それを喉元に突きつけられる。


「動くなよ。そっちの兄ちゃんもだっ!」


ナイフを構えた男がゆっくりと土倉光の背後に回る。ナイフをずっと喉元に突きつけられているので、土倉光は動けない。背中に鋭い何かが当たってチクリとする。それでも動くことは許されない。


「ゆっくり膝をつけ、2人ともだぞ。」


2人は大人しく従う。男は土倉光の両手を後ろで組ませ、片手だけでロープを使い拘束していく。続いて真澄にロープを投げ、2人の足を二人三脚のように結ばせた。これで完全に動きを封じられた。あとは2人まとめてロープでぐるぐる巻きにされ、完全に捕獲された。


「食料を持っているみたいだな。悪く思うなよ。この店に入ったお前らが悪いんだからな。」


男は2人のリュックとバッグを開け、中の食料をテーブルに全て並べ数を調べている。ペットボトルに入った水も没収される。よほど空腹だったらしく、次々とパックを破いて腹に詰めていった。


「先輩、どうしましょう?」


「これじゃ動けないわ、しばらく様子を見ましょう。殺す気は無さそうだし。」





 男はようやく腹が満たされたらしく、ゲップをしながら2人に向き直る。そしておもむろに自己紹介を始めた。


「いきなり悪かったな。俺はここのオーナーの猪木寛至(いのき かんじ)だ。アントンと呼んでくれっ!よろしく。」


「絶対嘘ですよね?ここってナカハランドって名前だし。」


「うむ、嘘だ。本名は中原太郎(なかはら たろう)だ。改めてよろしく。」


中原太郎と名乗った中年はそう言ってニヤリと笑う。2人を拘束しておきながら自己紹介を始めるあたりの意図が分からない。


「鍵は開けておいたから簡単に入れただろう?これでも招き入れたつもりなんだぜ?」


「鍵が開いてたのはそういうことだったのね・・・。何の目的で私達を拘束するの?」


土倉光は用心しながら質問する。割とフランクな態度だが、すでに精神に異常をきたしている可能性もある。挑発したら豹変するかもしれない。


「特に理由はないよ。今の世の中、初対面の人間が信用できない。それにあんたら、俺が頼んだって食料を分けてくれる保証が無い。だから拘束して無理やり食わせてもらった。うちのベランダに一泊したんだから、その料金みたいなもんだよ。だから最初にちゃんと謝っただろう?」


「つまり、確実に食料を手に入れるためってことね?ならもう拘束を解いてくれないかしら。私達はあなたに危害を加えないと誓うわ。」


「悪いがそれは出来ないよ。お前らが俺に危害を加えない保証がどこにある?」


「無いわね、それでも拘束を解いて欲しいんだけどダメかしら?」


傍若無人な土倉光の要求に、中原太郎は口をあんぐりと開けていたが、おもむろにナイフを握った。2人は後退りしそうになったが、拘束されているため、ほとんど動けない。2人の怯えた表情にも構わず、中原太郎は近付いてきた。


「ちょっとっ!何するつもりなのよっ!やめなさいっ!!あ・・・。」


中原太郎は無言で土倉光の前に座り、胸の辺りで手をモゾモゾと動かしている。背中合わせで縛られているため、真澄には何をしているか確認できない。首を捻って少しばかり確認できただけだった。


「おいっ!先輩に何するんだっ!やめろっ!」


真澄が叫ぶ。


「やめていいのか?」


中原太郎は手を止め、ニヤニヤと土倉光に問いかける。そして真澄は信じられない言葉を聞いた。


「・・・・・・やめないで。」


あの勝気な土倉光が、男に懇願したのだ。悪夢を見ているような感覚に陥る。一気に現実感が無くなり、真澄は呆然とした。





うな垂れる真澄だったが、すぐに開放感を感じた。拘束していたロープがフッと緩んだのだ。


「ロープを切ってただけだよ。変な想像しやがってっ!若いなぁ。アッハッハッハッハッハッハッ!!!」


中原太郎は腹を抱えて笑っている。土倉光も笑いを噛み殺している。


「な・・・、な・・・、からかっただけかあああああああああああああっ!!!」


真澄は絶叫し、そのまま気絶してしまった。緊張状態が長く続いたあとに、この仕打ちである。無理もなかった。





 真澄は後頭部に柔らかい感触を感じながら目を覚ました。ソファに寝かされ、土倉光が膝枕をしていた。気のせいか少し心配そうな顔をしているように見えたが、真澄が目を覚ましたことを確認すると、スッと頭を持ち上げて立ち上がった。


「やっと目を覚ましたわね。私はちょっと外に出てるから、ゆっくり休みなさい。」


そう言うと部屋を出て行った。真澄は周囲を確認する。ソファにベッドもある。ここはまだ探索していない部屋のようだ。生活感のある部屋なので、もしかすると中原太郎の私室なのかもしれない。オーナーだと名乗っていたので、店舗内に私室の1つくらいあってもおかしくはないだろう。外を見ると、荒れた繁華街の町並みを見ることができた。昨日は薄暗くなっていたせいもあり、荒れ具合を確認していなかったが、明るい太陽の下で見ると、一目瞭然であった。コンビニやリカーショップ、ファミレスなどは窓ガラスを叩き割られ、商品はほとんど残ってはいなかった。自衛隊だけの仕業ではないだろう。一般人も暴徒と化している可能性は十分にある。


「こうやって目の当たりにしちゃうと現実だって嫌になるな・・・。」


「ひどいもんだろう?俺が君らを拘束した気持ち、分かってくれたか?」


急に後ろから声をかけられた。中原太郎が顔を顰めて立っている。そのまま真澄の横に並んで立つと、あの日何があったか話してくれた。





 中原太郎は、8月27日の夜、店を閉めたあとにコンビニへ買い物に出かけたのだという。ここは店舗兼自宅で、アルバイトと社員を送ると、毎日ビールを買ってきて一杯やるのが習慣だったそうだ。


「あの日もいつも通りに裏口からサンダルをつっかけて外に出たんだ。俺はまだ何も知らなかった。ニュースなんて見てなかったからな。多分22時くらいだったと思う。ビールにツマミ、それに夕飯の弁当を買って店を出ると、興奮した男がコンビニに入っていくのが見えたんだ。俺は恐ろしかったんだろうな、そのままここに戻って鍵をかけ、上から見てたんだ。その男はコンビニのカゴにあるだけの缶詰や栄養食みたいなやつを入れ始めたんだ。さっき君らも持ってたあのお菓子みたいな四角いやつさ。それによくCMでやってるゼリーみたいなやつとか、とにかく手当たり次第にね。そしてそのまま店の外に走って逃げたんだ。あんな大胆な万引きは見たことなかったよ。すぐに店員が走って追いかけた。すると男は包丁を出していきなりザックリとやりやがった。店員さんはそのままお陀仏だよ。」


そこで中原太郎はタバコを出して火を点ける。真澄にも1本投げてよこした。真澄はありがたく受け取り火を点ける。普段は吸わないが、たまに無性に吸いたくなる時があるのだ。今がまさにそうだった。


「話を続けようか。どこまで話したっけ?」


「男が店員を刺し殺したところまでですよ。」


「おお、そうだったな。悪い悪い・・・。その男は店員を刺し殺すと、そのままカゴを持って逃げようとしたんだが、頭が弾け飛んだ。他の男が鉄パイプみたいな棒で男の頭をぶん殴ったんだ。いくら殺人犯でもそこまでやるかと驚いたよ。人間の頭が弾け飛ぶとこなんか見たのは初めてだった。そこでだ、その鉄パイプ男の取った行動にも驚いたよ。カゴを奪って逃走しちまったんだから。明らかに食料を狙ってやったんだな。何が起こってるか分からなかった。」


「その時はまだ知らなかったんですね?」


「ああ、そんなことになってるとは全く知らなかったよ。それからがひどかった。コンビニにたくさんの人間が押し寄せてきたんだから。そして我先に食料を持って出て行ったよ。ここから丸見えだから全て見てた。ひどいもんさ、本当に食料を奪い合って殴りあいをやってるんだから・・・。」


「俺たちはそうなる前に食料を買い漁ったんです。一緒に居た先輩が先読みしてくれて。だからまだ食料を持っていたんですよ。」


「みたいだな。君が倒れてる間にボインの姉さんが色々教えてくれたぞ。」


「だから食料品を扱う店がこんなに荒されてるんですね。」


「ああ、それもあるんだが、殺された店員が起き上がってそこら中の人間を噛み殺したんだ。ひどいパニックだったよ。うちの店はセキュリティが万全だったから、何とか襲撃に耐えたんだが、閉めてない店や窓の薄い店なんかはゾンビと人間の両方に手ひどい目に会わされたみたいだな。それに自衛隊がおかしくなってるし、この世はもう終わりだよ。」


中原太郎は自衛隊の件をすでに知っているようだ。この繁華街にも襲撃に来たに違いない。


「俺が分かってるのはそれで全部だ。情けない話だが、ずっとこの店に篭ってたから外の状況はさっぱりさ。」


「失礼ですが、食料はどうしてたんですか?」


「ああ、うちの店は少量だが缶詰やカンパンが売ってるからな。それを食ってた。水は水筒に溜めておいたんだ。」


「そうですか、でも生き延びられてよかったっすねっ!」


それを聞いた中原太郎は苦笑した。


「生き残ってよかったとは思わないよ。もう復旧がどうとか無理だろうし、希望が何も無い。あとは餓死するだけだ・・・。」


「そんな・・・。」


「もう食料も水も3日前に無くなってるんだ。だから俺はここで静かに人生を終えることにしたよ。最後に君達に会えて良かったかもしれない。店の物は自由に使ってくれ。脱出を計画してるならきっと役に立つ。」


「ちょっとっ!何言ってるんですかっ!?これも何かの縁です。一緒に脱出しましょう。」


「いや、俺はいいわ。ゾンビに食い殺されるのだけは勘弁だ。悪かったな、大事な食料食っちまって。最後に腹いっぱい食いたかったんだよ。やっぱり空腹で死ぬなんて惨めだからな。」


「諦めるんですか?」


「ああ、諦める。睡眠薬がかなりあるから、君らが出て行ったら飲むつもりだ。」


「分かりました。止めませんからね?その代わり、必ず僕らが出て行ってから死んでください。死んだら問答無用でゾンビになります。今死なれると困りますから・・・。」


「いいぜ、君らも達者でなっ!」


そういうと、中原太郎は真澄を部屋の外に出して、鍵をかけてしまった。


書きあがると載せたくなる。最早病気かもしれません。

今回は会話も多く、読みにくかったのではないでしょうか?


要望などは可能な限り話に反映させますので、遠慮なく言ってください。


ただし、エロを抜くのは絶対やりません。リアルじゃないと思うからです。




作者がエロいのも病気かもしれませんね(´・ω・`)

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