第肆拾陸話 I respect a certain movie : Dawn of the dead ④
ぶーんぶーんしゃかぶぶんぶんぶーん
久々にニコ動で爆笑しました。ごきげんよう作者です。
また短いですが、極力一ヶ月以上開けない方がいいと思い載っけときます。
誤字脱字は勘弁(´・ω・`)
第肆拾陸話 I respect a certain movie : Dawn of the dead ④
床下に潜って来る強盗団をやり過ごすという作戦にあたって、問題点は多かった。一番まずい状況は、やつらがここを拠点に冬を越す可能性だった。とっつぁんに聞いた話だと、数十人が船で移動しながらイナゴのように食料を奪って去るというのがやつらの常套手段だ。当然、コミュニティを作って何とか死体の猛攻を耐え忍んでいた生存者もいたが、武器を持った人間に攻められればあっという間に皆殺しになる。抵抗せずとも女以外は皆殺しにされるらしい。とっつぁんが捕まえた一人を拷問して聞き出した情報で全てが正しいか分からなかったが、脚色されてはいないと思う。
「やつらがここに何ヶ月も逗留するとは思わないわよ。だって、何十人も冬を越すのなら相当な食料が必要になるし、何もないモールに立て篭っても何も得はしないと思う。なら何もないと思わせる用意さえ事前に徹底していれば、目を欺く事も可能だと思うわ。」
それよりは、この先の都市に目を向けるはずだ。斥候が数名行方不明になるなんて日常茶飯事だろうし、武器の補充なども日本ではままならないだろう。実際に、真澄達もここで初めて銃器を目にしたのだ。警官の持つ拳銃くらいは確保できても、重火器は絶望的だ。この間斎藤が手に入れた弾薬など、僥倖だと言っていい。そんな状況なら、無駄に弾を消費する事はやつらも避けたいだろう。ならば、ここは事前に何者かに襲われたと見せかけるほうが妥当だった。そのために、多少の危険はあっても、ここで芝居を打つ準備を始めなければならない。とっつぁんが言うにはもう一ヶ月も猶予はないだろうとの事だ。
「まず、下の見取り図を作りました。あとは食料を貯蔵するための広い空間の確保ですね。俺はここがいいと思うんですが。」
何ヶ月もモールの二階地下を這いずり回っていた真澄は、ある程度の地図は完成させていた。光はまだ入ったことがないが、地下は思った以上に複雑に入り組んでおり、大人なら中腰でないと移動できないと言う。そして、真澄が言う広い空間というのが、最も深い部分にある空洞だった。斜めに走るモールの屋根の下がけっこうな空間になっているらしいのだ。そこなら立って生活できるし、何より下への入口からかなり離れている。床もそこそこ強度があり、かなり重い物を置いても問題はないだろうという事だった。あとはトイレの問題もあるが、これは仮設でも作って凌ぐ他ないだろう。
「まずは食料を運び込むわよ。その後に医療品、衣類、雑貨は本当に必要な物だけ。選別は私がやるわ。桜井と斎藤君は物資運搬、鈴子は私の助手、役割が分かったらとっとと作業に移りましょう。」
光の言葉にそれぞれが作業を始め、とっつぁん一行がフェリーで現れた日にはすでに作業の2/3は終えられていた。
★
前回、とっつぁんと優の二人が簡単にモールにたどり着いたのには理由があった。斎藤の努力でモール近辺に潜んでいた死体はかなり数が減らされていたのだ。前は密集するように一階を徘徊していた死体も疎らになってきている。倒した死体は真澄と斎藤の二人で屋上に運ばれ燃やされていたため、屋上にかなり大きな焼き跡が残っていたがそれ以外は特に腐敗した死体もなく衛生上は問題なかった。死体は何故かよく燃え、後には白い灰しか残さない。これは試しに屋上を使って火葬して分かったことだ。放置しても腐敗する様子は無かったのだが、いくらなんでも気味のいい光景ではない。それに耐えかねた光の意見で屋上で燃やす事になったわけだ。重労働だったが、いくらかやる内に二階まで死体を引き上げるのもお手の物になってきて、何日もかけて処刑マシン(例の上から物を落とす滑車付き装置)近辺に散らかっていた死体は処理され、今は殺した端から引き上げて火葬している。
フェリーからスワンが出航し、かなり離れた場所に数名を下ろしてまたフェリーに戻る。その作業を二回繰り返すと、降りた人間から合図があった。今から向かうという合図だ。真澄と斎藤は屋上に移動し、双眼鏡を覗きながら一発銃を発砲する。その音で、かなり離れた場所を徘徊していた死体もクルリとモールの方を向いたことを確認し、死体がゆっくりとこちらに群れ出すのを見ながら一行の到着を待った。途中にいる死体は銭形が斎藤に預かった槍とネイルガンで片付けるだろう。あの改造ネイルガンも今や釘が心許なくなっていると聞いた。バッテリーもかなり弱っているのでそろそろ潮時じゃないかという話だ。
一時間もしないうちに、六名の姿が確認される。久しぶりに未来と飛鳥ファミリーを見たが、髪が伸びて随分と雰囲気が変わっている。爆竹を投げて死体の注意を引き、その間に六人は梯子を登って屋上に降り立った。
「お久しぶりです。変わりはないですか?」
飛鳥が懐かしそうに真澄と光を見た。腰に花梨がべったりとくっついている。光は久しぶりに見た幼子の頭をよちよちと撫でながら変わりないわと答えた。その応えに飛鳥はニコリと笑顔を返す。この女性も母親が板についてきた感じだ。かつて母を見殺しにしたと甥に責めたれてへこんでいた面影はすっかりなくなっている。
「そっちも相変わらずね。んー、いい匂い。」
花梨の髪に鼻を埋めながら光が目を細める。子供は不思議といい匂いがするものだ。男には分からない母性を刺激するようなフェロモンでも出ているのかもしれない。真澄はそんな事を考えながら、子供を愛でる光を見ていた。キツイ性格だとばかり思っていたが、やはり女性だなと感じる。元々、彼女は過去の経験から男性に対してだけ過剰な警戒心を抱いていた。それが無くなってきた今、普通の女性に見える光が新鮮だ。
「で、隠れられる場所は大丈夫なんですか?」
飛鳥が少し心配そうな顔をしながら真澄に尋ねる。真澄は、何とかなると思うと返すと、飛鳥はすぐに場所を確認させて欲しいと言い出した。それに銭形も相槌を打つ。
「分かりました。すぐに案内します。準備は半分以上終わっていますが、まだ改良の余地はあると思うので。」
真澄はそういうと二人を案内し、七〇センチ四方の正方形をした床板を開け、中に入っていった。
★
中は暗かった。薄暗いというレベルではなく、灯りがないと十メートル先もよく見えない。それに天井も低い。銭形はもちろん、飛鳥でさえ直立で歩くことは不可能な高さだ。真澄は小さなペンライトを銭形と飛鳥に渡し、先導しつつ暗闇を進んでいく。所々に蜘蛛の巣が張ってあり、それを躱しながら真澄は進む。手で払おうとした銭形だったが、真澄に制されて手を止めた。
「蜘蛛の巣を払ったらダメですよ。それは万が一入口を見つけられた時のための保険です。誰かが中に入った形跡を残すと、危険になりますからね。」
「けっこう考えてんだな。だけど埃に残る足跡はどうすんだ?」
「それは大丈夫だと思います。俺も最初入った時に、足跡って結構くっきりと残ってたの覚えてるんで、最初は誰かいると思ったんですよ。でも、蜘蛛の巣を見て数ヶ月は誰も入ってないんだなと思いました。だから、この辺りだけ見て終わると思います。部屋はかなり先ですから。」
そう言うと真澄はまた歩を進めた。慣れない銭形と飛鳥は悪戦苦闘しながら中腰で後を追う。それからが長かった。真澄は頭の中にすでに地図が出来上がっているのか、迷う事なく進んでいくが何度も何度も障害物を避けるように曲がる。屋根裏などガランドウだとばかり思っていたが、ダクトや機械が所狭しと行く手を阻んでいた。そうこうする内に、真澄は壁に突き当たる。銭形は頭に?が浮かんだ。行き止まりだ。そこはライトに照らされる白かったであろう板壁があるだけだ。よく見ると、その壁は横にライトが届かなくなる距離までずっと張り巡らされていた。隠れるスペースなど何処にもない。
「おい、行き止まりだぞ。道間違ったか?」
銭形が眉を顰めながら真澄にそう言ったが、真澄はそれにニヤリとした笑いで応える。
「だと思いますよね?でもね・・・。」
ごそごそと真澄が壁の下の板をペロリと捲った。その下から、明るい光が漏れ出る。
「お?」
「まぶし。」
「ここが入口です。」
真澄は剥がした板の下にスルリと入る。そこは深さが一メートルほどの溝があった。そこを潜ると、明るい部屋に出る。正確には薄暗いのだろうが、今まで暗い屋根裏にいた二人には随分と明るく見えた。そこはかなり広い屋根裏部屋だった。遠目にモールの屋根が斜めに走っていたのは確認していたが、かなり大きな空洞がその下にあったのだろう。小さな窓が開いていて、外の光が入ってくる。丸い窓はロックを外し上に押すとゴトンと音を立てて外に倒れる。
「あ、そこはストッパー取ってるんで出入り出来ますよ。俺でも何とか抜けられるんで飛鳥さんなら楽勝じゃないかな?とっつぁんは諦めてくれ。」
銭形はそうかいと言いながら、窓から頭を突き出して外を確認する。斜めに走ったスロープは、遠くで急激に駆け上がりモールの二階へと続いている。移動は無理そうだった。例えるなら、筋肉のランキングの番組でやっていた忍者の名前のようなアトラクションにそっくりだ。忍び返しや反り立つアレだ。駆け上がりは屋上まで一気に十メートルほどの高さで展開され、好き好んで降りてくるやつも居ないだろう。下への階段のある塔の様な物の遥か向こうに高さ三メートル以上の壁があったが、あれが恐らくこの屋根に繋がっているはずだ。だとすれば結構な距離がある。
「すっげぇ無駄な作りになってんだなここ・・・。」
銭形がそんな事をボヤいている。それについては真澄も同意見だが、そもそも本来は三階建て以上の大型モールを二階建てで展開する事自体ナンセンスで、デザイン重視で空間設計を蔑ろにしたのかもしれない。よって生まれた無駄な空間が、今は真澄たちの役に立っているのだから分からないものだ。
「なんで綿がこんなに大量に・・・?それにこれ発泡スチロール?」
飛鳥がそう呟く。先ほどから歩くたびにガサガサ音がしているのだが、原因は床いっぱいに敷かれた綿だ。それを銀色のビニールが覆っている。おそらく温度を保つための措置だろう。下が大型の量販店なので、特殊な理由があるのかもしれないが今の自分達に知る術はない。壁にも一面に同じような綿が配置され、その裏は発泡スチロールのような材質の壁があった。
「かなり広いな。何畳あるんだこれ?」
銭形が真澄にそう尋ねたが、真澄はこれに首を振る。分からないのだろう。だが、十人ほどで生活するのも問題はなさそうだ。すでに一角にうず高く積まれている荷物は全てが食料だという。飛鳥達がここに辿り着く間に、真澄と斎藤の二人でここに運び込んだのだそうだ。一体何往復したのか聞く気もおきないくらい重労働だった事は容易に想像できる。光は一度も入ってないと言っていた事を思い出し、飛鳥は苦笑した。
★
トイレの問題はあっさり解決した。銭形が配管を調べ、簡易式のトイレを取り付けたのだ。かなり長いパイプを何本も取り外し、下水の配管までバイパスを通したのだ。それと別に、蛇口もトイレに一つ、屋根裏に一つ通す。電気屋だと言っていたが、本当はこの男が何者なのか謎が深まったが有難い事だった。ちなみにトイレは完全に個室で外に明かりが漏れないようにしっかりした物だった。わずか五日ほどの工事でこれを成し遂げた事が驚嘆に値することだ。さすがに水洗ではないが、蛇口から水をバケツに貯めて流す様にしている。清潔さは保たれるだろう。屋根裏も綿が取り除かれ、板を幾重にも敷き詰めて踏み抜かないように工夫された。幾重にも重ねられた板にはちゃんと意味があった。流れ弾が天井を突き破っても被弾しないような処置だ。まずは下の死体の群れを殲滅するために大量の銃弾が放たれるのは目に見えている。
他にも、外の様子を見る事ができるように二階の壁内を移動できる通路が作られた。万が一屋根裏に誰か侵入してもそう見えないように通路の入口はカムフラージュする事も忘れない。そして、最大のカムフラージュとして縛り付けた生きた死体をある部屋に数体放置した。彼らはここで略奪に会い、縛られたまま取り残された哀れな犠牲者だ。前の略奪者達は、奪うだけ奪って彼らを残したまま消えた。そう思わせるように比較的外傷の少ない死体を選んでいる。部屋には鍵が掛けられたが、常に銃を携帯した見張りを一人つけた。物資はほぼ全て屋根裏に運び込み、食い散らかしたレトルトのゴミや缶ジュースがそこら中に転がっている。バリケードはそのままにしていたが、縄梯子を数箇所に配置し、それで二階へ移動したようにも見せた。そのあたりも銭形があたかも本当に賊が侵入したようにドアノブを銃で撃った跡などの傷をつけて回った。貴重な弾は減ったが、これで素人にはすでに何もない廃墟に見せることができるだろう。
様々なケースを想定し、奴らが現れる前に何度もシミュレーションを重ねる。そして、寝食も全て屋根裏で行うようにした。火の使用は厳禁だ。煙はかなり遠方からも発見される可能性がある。もし見つかれば、これまでの準備が全て無駄になる。人間の居る可能性を少しでも認められれば、奴らは草の根を分けても自分達を探すかもしれない。屋上にも、出入りは禁止された。奴らが現れるなら海からだ。陸路をとる理由がない。と言うより、陸路は不可能だ。このモールこそ街の中心からかなり外れた住宅地に位置しているものの、近隣の都市を経由しないでもかなりの数の死体が徘徊しているのは確実だ。陸路の移動となると、大型のバスや10トンダンプなども使うだろう。大きな道路は放置車輌でまともに走れない状況であるし、裏道に逸れても袋小路に入り込んだら全滅も有り得る。そんなリスクを負うような連中がこれまで生き残れるような甘い世界ではない。
★
「本日も快晴、海は凪いでるし良い航海日和だな。桜井よ、姐さんとの仲は進展してんのか?」
カフェ跡の放置された革の椅子に腰掛けてパノラマ状に広がる窓から海方面の見張りをしていた銭形が唐突にそんな事を口走る。いやまあなどと曖昧な返事を返しながら、真澄はペットボトルのキャップを捻った。喉が渇くような話題だ。
「まぁ、あの兄妹とずっと一緒だったらなかなかそんな雰囲気にもならんだろうしな。焦んな、そのうちヤれるさ。」
「う~ん・・・。」
出来れば避けたい話題だ。実のところ、光は妊娠のリスクは絶対に負いたくないと頑なにセックスを拒んでいる。こんな自分の命が保障できないような状況で子を産み育て、地獄のような世界で我が子にどのような希望を語るのだろうか。今いる人間は生きていくしかないが、新しい命はしばらくゴメンだわと言う光の横顔がチラリと頭に浮かんで真澄は渋い顔をした。その表情から察した銭形のフォローが先の言葉だ。
「ま、人間は本能には勝てんよ。姐さんも女だ、そのうち・・・な?」
銭形の全く信憑性のない話を上の空で聞き流しながら、真澄は海を眺める。二階の窓から見える範囲は限られるが、湾の全域は無理でも大型船舶を見逃すことはない。海は今日も穏やかで確かに航海には適した天気だ。何十人も乗るような船なら大型の漁船数隻か真澄達のようにフェリーでも使っているはずだ。まさか手漕ぎボートで大行進なんてことはないだろう。
「そう言えば、フェリーはどうしたんですか?」
真澄は話を逸らそうと気になっていたフェリーの所在を訪ねた。銭形達の下船から死体の注意を引く作業に移ったので、フェリーのその後を確認はしていなかったのだ。気が付いた時にはすでにフェリーは消えていた。
「ん?ああ、あれは今頃遥か沖だな。舵を固定して全速で沖に走らせたよ。ガスも切れただろうし、今頃どこを漂ってんだろうな?」
知りませんよと質問に質問を返された真澄は曖昧な笑で答えた。あのフェリーにもかなりお世話になった。山荘も一応戸締りはしているが、廃屋同然だと銭形は続ける。
「もう食料もやばかったんだ。冬に近付くと魚も釣れなくなって、近くに鹿でも熊でもいりゃあなんとかなったかもしれんが、狸や兎すら見たこともねえ。あのままあそこにいたら雪が降る頃には餓死してたかもな。」
「ですねー、最初は快適だったけど、自給自足の厳しさはよく分かりました。銭形さんも頑張ってくれたけど、女子供を五人も養うのはやっぱりキツかったですよね?」
不意にそう言われて、銭形は声の主の方を見もせずに軽く手を上げてそれに応えた。飛鳥だ。そろそろ交代の時間になったので、呼びに来たらしい。縛り付けている死体の監視だ。監視と言っても、スタッフルームに続く長い廊下の入口で死体が監禁されている部屋のドアを破って出ていないか確認するだけだ。一時間毎に一人、夜間は二人が異変が起きていないか確認している。今は真昼間ゆえに飛鳥が一人で誰もいない廊下をぼんやりと座って眺めていたが、時間になっても銭形が来ないので痺れを切らして呼びにきたのだ。
「んじゃ、行ってくっかな・・・。飛鳥、桜井の相手してやってくれ。まだ姐さんとヤってないもんだから欲求不満になってんだコイツ。」
あらやだとオバちゃんみたいに口に手を当ててコロコロ笑う飛鳥に冗談ですよとボヤく真澄を尻目に、銭形はいつもの皮の用具入れを片手に吹き抜けの端にある長い廊下へ歩いていった。銭形が去ってまた海を眺めながら雑談をしていた二人は不意に気配を感じてカフェの外に目を走らせた。足音が聞こえたのだ。しかも乱れた足音は一人ではない。野太い声が複数聞こえる。
「どうなってんだ・・・?」
非常事態だと悟ると真澄は飛鳥に目配せしてすぐにカフェのバックヤードに回ると、大きな口を開いていた換気口に滑り込んだ。ここは二階に作った通路の出入り口の一つで、横に立てかけてあった板を中から固定して完全に外見は壁と同化するように作られている。これも器用な銭形の仕事だ。これは見張りがすぐに逃げ込めるように作られていたので合計で二つあり、片方の出入り口を発見される恐れがあったため真澄は急いでもう一つの出入り口を閉めに向かった。飛鳥はいち早く地下に降り、報告に向かわせている。壁の内部は狭く、体を横にして音を出さないように慎重に進むしかなかったが、すぐに誰かが反対からやってくるのを感じた。
「よう、えらい事になったぜ。」
小声で話しかけてきたのは銭形だった。廊下に座った直後に、向こうから何人もやってくるのを感じすぐさま出入り口に身を隠したのだ。二人は状況を確認するため、今度は二階の天井に登る。これも作られた通路の一つで簡単な梯子を登ることで二階の天井部分に出られるのだ。音を立てないように慎重に天井裏を這う二人は、遂に複数の話声を聞きつけた。下の様子を見るために所々に開けた小さな穴から伺うと、どうやら斥候の数名が裏の梯子からモール内に侵入したらしい。海側からは何も確認できなかったので、陸路で来たようだ。そうだとすれば、かなりの精鋭だろう。
「こんなとこにもでかいショッピングセンターがあったんだな。」
「地図には乗っていない。Xデーの少し前にオープンしたっぽいぜ?」
「何にせよ遅かったようだな。下はまだ見てないが、どうやらかなり派手な戦闘があったらしい。エスカレーターが吹っ飛んで散乱したガラスが散らばってるのを確認している。」
「まだ何か収穫があるかもしれないぜ?」
「本隊は今どこにいる?」
「無線の調子が悪いんだが、多分ここから100キロ以内にいるはずだ。」
「とりあえずここを根城にして次の目標を探すか?」
「やめようぜこんなとこ。」
「食料なし、缶詰一個落ちてません。」
「下は?」
「まだ感染者が多すぎて確認が取れない状況です。」
不意にパンパンパンと数発の銃声がホールに響き渡る。真澄と銭形はピクリとしたが、自分達に発砲されたわけではないだろう。誰かが戯れに下を徘徊する死体を撃ったのかもしれない。どっちにせよ、これで地下にいる皆には異常事態だと知る事は出来たはずだ。飛鳥の報告もそろそろ着いている頃だろう。
「感染者が四名、空き室に閉じ込められていたため射殺しました。」
「さっきのはそれか?」
「はい、縄で縛られてここに置き去りにされたようです。」
「ふむ、状況としてはどうだ?」
「自分が鑑みるに何ヶ月か前にここで戦闘行為があったようですね。先住者が後から現れた賊に物資を奪われたという所でしょうか。」
「おかしくないか?」
「は?」
「おーい、便所は水でるぞー。久しぶりに糞を水で流せるぜー。」
「ふむ、水はある。下からの攻撃もない。こんな場所を手放してどこに行くのだ?」
「食料が尽きたのでは?」
「こんなでかいモールで四人、下の食料もほとんど食い尽くすには無理があるぞ?」
「しかし、二階はほぼ調べましたが人っ子一人いません。相当大きな賊が相手だったのではないでしょうか?」
「それならさらに厄介だな。本隊と接触すれば多大な被害を被るぞ。まずここを徹底的に調べろ。連絡はそれからだっ!賊の戦力が分かるような痕跡があるかもしれん。」
「了解、各自散開だ。」
「へーい。」
「りょうかーい。」
「誰もいねえっての・・・。」
★
敵は五人だった。会話の内容から無線連絡が可能な装備を持っているらしい。ただのゴロツキ集団だと考えていたが、どうやら自衛隊か警察あがりの人間が混ざっている。全員が銃を所持している模様で、今全員で上を洗っている最中だ。大人達は大部屋に集まってヒソヒソと会議を続けていた。花梨と健太郎が泣いたりすると大変危険なため、未来が二人にこっそりと風邪薬を飲ませて今は寝かしつけている。
「どうやらかなり訓練された人間がいるみたいです。」
真澄と銭形の報告で、敵の戦力は五名だが精鋭部隊、なかなか鋭い隊長に若いのが四名で若干だが戦力にムラがありそうだ。万全だと思っていた工作もあっさり違和感を見抜かれているし、斎藤は強攻を提案していた。
「大丈夫だ、寝込みを襲おう。こっちも数だけはいるんだ。俺がマシンガンを散打するから後は全員でフォローしてくれ。」
「待ちなさいよ。銃はあるけどこっちは素人よ。死人が出るような事は極力避けたいわ。」
「まずは落ち着いて出方を見ましょう?」
「俺は斎藤に賛成だ。殺しちまおうぜ。」
「物騒ですよぉ・・・。」
腰の引けている真澄以外の男は二人共寝込みを襲って殲滅した方がいいと言い出している。話し合いはしばらく続いたが、結論は出ず仕舞いだ。しばらくは相手の出方を見ようという意見が採用され、今夜は真澄が一人で監視をする事で話がついた。チャンスがありそうなら教えてくれと斎藤に何度も念を押され、真澄は一人闇に包まれ始めたモールに寝床の準備を始めた斥候の真下に潜り込んだ。
★
連中のテントはやはり事前に準備していた部屋になった。見通しのいい立地にベッドを集めてある部屋だ。もし奴らがここを拠点にする場合は、情報収集しやすいように予め盗聴しやすい仕掛けを施した部屋を用意しようと提案したのは光だった。まんまと光の思惑に嵌り、奴らはそこを寝床に選んだ。見張りを立て、一人はすでに横になっているようだ。部屋の真ん中に鉄のバケツを置き火を燃して暖を取っている。そして隊長と思わしき男と補佐役らしい若い男の会話が続いていた。
「特に変わった様子はありませんでした。下へのルートは全て物量によるバリケードがあって、塞がれています。下の感染者が上がってこないのは、物をどかす知恵がないからでしょう。」
「なら、ここには異常感染者はいないと言うことか?」
「そのようですね。下の感染者も疎らですし、年越しにはいい場所かもしれないです。」
「だが、食料がなくては話にならんなぁ・・・。」
「本隊との連絡はつきましたか?」
「いや、ノイズがひどくてまともな通信はまだだな。モールスで少しだけ現状報告はしておいたが、聞いているかどうかは不明だ。」
「ちっ、我々に危険な任務を押し付けて優雅にクルージングでもしてるんでしょうね。上はお気楽なもんです・・・。」
「連中は無能だからな。元々はお偉いさんだ。その名残で皆従っているにすぎない。でなければこんな汚れ仕事など俺だってゴメンだ。」
「生きるためには仕方ないですけどね。もう何人殺したか数えるのも止めましたよ。」
「愚痴るな、これも任務だ。」
「愚痴っても仕方ないですね。で、これからどうします?」
「とりあえず人間の居る痕跡はなかったんだな?」
「トイレも干上がっていたし、最近火を使った痕跡も見当たりません。若干床が綺麗すぎる気もしますが、埃が溜まるほど人がいなくなって久しくもないかもですね。」
「不自然な点もいくつかあるしな。だが、こんなにインフラのしっかりしている場所も珍しいぞ。海沿いだし交通の便も申し分ない。」
「ここを拠点にしても兵糧が足りないですって。」
「移動しなければ飯も食えないからな。」
「このまま南下しても、あとは大都市にぶつかるわけで無事にはすまないでしょう。この先厳しいですよ・・・。それにもし我々のしている事が機能している軍なんかに知れたら銃殺刑ものですからね。いっそ独立愚連隊でもやりますか?」
「それもいいが、どっちにしろ食料と安全地帯と女の確保だな。それがないと人生楽しくないぞ。」
「この間襲ったデパートも女は数人しか居なかったですからね。それも年増ばかり・・・。それすら上に味見で持っていかれて壊されましたしね。」
「うむ、若い女と美味い酒、美味い料理。懐かしいな・・・。」
「そういえばオメガの連中は全滅したんでしょうか?二人しか生き残らなかったって話ですけど。」
「知らんよ、連絡もないしおっちんじまってるだろ。」
「ルート的にはここにぶつかっているはずなんですが・・・。」
「ここを襲った連中と鉢合わせして殺されたんじゃないか?それの確認も我々の任務だからな。目印は見つけたが生死は不明っと。お、返事きたぞ。」
「・・ざ・・り・・ぴぴ・・・、はやぐつぎのばそ・・ざり・・・。」
「うわ、ノイズひどいっすねっ!」
「早く次の場所に移動しろってとこだろ。了解っと・・・。」
「明日の早朝に発ちましょうか?ぐずぐずしているとすぐに感染者が集まってきますし。」
「・・・そうだな。」
★
真澄の報告を聞いた皆は、ホッと胸をなで下ろした。
「じゃ、黙ってれば明日には消えるのね?」
「ええ、無線でも早く次にいけって。」
「よかったぁ・・・。」
真澄、光、飛鳥はそう言って少しだけ明るい声を出す。しかし、一人神妙な顔をしている男がいた。
「やはり殺そう。一人だけ何とか生け捕りにして・・・。」
そう言ったのは斎藤だった。
「バカ言わないでよ。奴ら明日には黙ってても出て行くのよ、あんた死にたいの?」
呆れたような光の声が斎藤に向けられるが、斎藤はそれを黙殺する。それに銭形が賛成を唱えた。
「俺もやっぱり斎藤に賛成だ。」
「ぜ、銭形さんまで・・・。」
今度は飛鳥が困ったような声で反論の意を示す。
「理由を話そうか?」
「正当な理由があれば言ってみてよ。」
斎藤の声に少し怒気を含んだ光の声が重なる。
「まず、奴らすでに移動の件を報告してる。ここで連絡が途絶えても、死体の襲撃にあったとでも考えられるはずだ。だから殺しても問題ない。」
「そんな理由?」
呆れ果てたと言わんばかりに光が息を吐きながらそう言うと、斎藤はさらに言葉を続けた。
「異常感染者・・・と言っていた、な。それってあの黒目の事じゃないのか?」
斎藤の言葉に光はハッした顔をして息を飲んだ。連中はあの黒目の情報も持っているのだ。多少危険を冒してでも、その情報には価値がある。
「今、奴らは休息している。下から銃を乱射してやれば、何人かは殺せるはずだ。生き残ったやつも姿の見えない襲撃者に勝目なんかあるまい?奴らにしてみれば急襲なんだよ。アドバンテージはこちらにある。絶好の好機なんだ。汚れ役は俺が引き受ける。だからやろう。」
斎藤の言葉は静かで淡々とした口調だったが、そこにあるのは覚悟だった。例え誰か死ぬような事になってもこの情報にはそれだけの価値があると。
連休ってなんだっけ?
うちの職場は残業も月に○○時間までと決まっていますし、就業日数も○○日以内と決まっていますが、最近は土曜日も仕事が多いです。というか仕事なのが当然といった空気。皆さんも似たようなもんでしょうか?(T ^ T)
というわけで書く時間がなかなか取れませんで、何か毎回謝っている気がします。すまなんだm(_ _)m
書けない間の苦肉の策とでも言いましょうか、昔書いた恋愛モノを適当に貼ってみようかなと思っています。書きあがってますが、あくまでも場つなぎなので毎週更新とかではないです。嫌な人は適当にコメでも書いてちょ(๑╹ڡ╹)╭ ~ ♡




