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第参拾玖話 おかしな二人

更新早いですね。


コメントで指摘を受けたので、フォローも入れて下書きを訂正してたら書き終わっちゃったんだ。


矛盾点や強引な点は、どんどん指摘してください。作者も出来る限り無理のない設定を心がけたいので、大変ありがたいです(๑・㉨・๑)

しかし、作者の性能はザク以下です・・・。対処不能な事もあるかもね(´・ω・`)

第参拾玖話 おかしな二人


 コンビニエンスストアは薄暗かった。普段はあんなに明るい空間だが、照明が無いと奥の方はよく見えない程だ。ゾンビを警戒しつつ、じりじりと距離を潰していった二人は高が500m程の移動でも凄まじい疲労感が襲っていた。脇の下にはじっとりと嫌な汗を掻き、反対車線でコンビニの内部を伺っている状況でも緊張状態は解けない。


 光は言葉を発する事を極力避けた。移動中に真澄と散々考えたボディランゲージで次の指示を出す。真澄はそれを確認すると停車している車の陰に身を潜めて車体の下を確認する。倒れている者や陰にいる者が居ないか確認しているのだ。見える範囲に足は見えない。死体は大人だけとは限らないので、背の低い子供などは乗用車でも反対に居ると気付かない事が多い。これも脱出劇で学んだ事だった。


 進路に障害物が無い事を確認すると、二人は背中合わせでコンビニに近付く。店はガラスに皹が入り、正面に配置されている本棚もゴチャゴチャな並びになっている。内部で何かがあった証拠だ。それを確認した光は少しがっかりした。これでは食料品の類は何も残っていないかもしれない。略奪の目的は主に食料だろうから。


 無言のまま、二人はコンビニの入り口に歩を進める。内部はよく分からない。真澄が入り口の二枚扉をゆっくりと押すと、扉は少しだけキィという高い音を発しただけで簡単に開いた。真澄は扉を左右に全開まで開く。閉めると中にナニか居た場合、非常にまずい。内部は思ったよりひどい状態だった。陳列棚から商品が落ちて床に散乱している。それにプラスチックの容器や袋が少しでも触るとガサガサと意外に大きな音を奏でた。


(ち、けっこう長居できると思ったけど甘かったわね。さっさと頂くものを頂いてとんずらしましょう。)


 真澄はすでに内部に入り、棚の影などを丹念に調べている。そして何かを見つけて光に合図した。光は自分の周囲に気を付けながら真澄に歩み寄る。その視線の先には縛られた人間が居た。黙ったまま微動だにしない。間違いなく死んでいるだろう。手足を拘束され動けないが正解だと判断する。


 その人間の衣類から察するに、律儀に店を守って拘束されたに違いない。安い給料で命を失った青年に哀れみを感じつつ、真澄はその転がっている人間に紙くずを投げつける。彼は頭にそれを受けて、ピクリと動いた。やはり死しても尚、その拘束に縛られているだけのようだ。彼も動く屍の仲間と化していた。二人は他に仲間が居ないか丹念に調べたが、他の影は見つけられない。決して油断せぬように気を張りながら二人は物色を開始する。


 まずは地図だったが、これは簡単に発見できた。入り口近くに乱雑に積まれた雑誌や新聞の中に目的のマップが数種類並べてある。光はその中でも○○市とタイトルのつけられた物を選んだ。今要るのは全国版や県内の物ではない。こういう限定的なマップが欲しかったので、満足のいく成果と言える。買い物籠にそれを放り込むと、真澄は食料品の棚を物色中だった。弁当などはすでに何が入っていたか分からないほどカラカラに干からびており、原型すら留めていない。缶詰やレトルトの類は全滅だった。すでに同じ考えの人間に一個も残さずに持ち去られている。仕方なく砂糖や小麦粉、油などを籠に詰め込んでいった。それに見向きもされなかったのか、大量のパスタの乾麺もあるだけ籠に詰め込む。ガサガサという音は静寂の店内に思ったより大きく反響し、真澄は物色もそこそこに入り口へ戻った。


 光が他に必要な雑貨や香料などを選んでいる間、真澄は入り口で見張りを担当する。せいぜい物色できるのは10分程度だろう。今はまだ気付かれていないが、この音ではそれほど遠くない死体には嗅ぎ付けられる。程なくして光が大きなザック一杯に品を詰め込み、入り口に戻ってきた。そして真澄にそれを渡すと、今度は籠を持って現れた。それには大きなペットボトルが入るだけ入れてある。それを真澄のザックにポンポンと放り込み、やっと満足したような笑顔を真澄に向けた。


(持つのは俺なんだけど無茶苦茶やるな、この人・・・。)


 真澄は光の笑顔に微妙な笑みを返し、重量がグッと増したザックを背負う。洒落にならない重さだった。一気に20kg近い増量に、膝が笑いそうだ。真澄は軽く気合を入れると、重い足取りで道路に踏み出した。





 行きに邪魔になりそうな死体を処理していたのが功を奏し、帰りはオールクリアな状態で進む事が出来た。奴らは一定の行動範囲を徘徊するだけの存在なのかもしれない。光の言葉を借りれば、生前にもっとも通った場所に無意識に向かう習性があるとの事。それも映画の受け売りなので絶対じゃないけど、推測にしては面白いなどと自画自賛していた。真澄はその言葉に疑問もあり、100%信頼しているわけではない。しかし、今はそうであって欲しいと思う。それならば、彼らは学校や会社にほとんどが集中するはずだからだ。病院に来るのはお年寄りか職員くらいだろう。大手ドラッグストアなどはかなりの数が居る可能性があるが、それでも毎日通うほどの暇人は限られる。


 無事に海岸へ帰りついた二人は、すぐさまボートに戻り成果を確認する。食料や飲み物が大部分を占めるが、洗剤や小物などもしっかりと選んで持ってきた光はさすがだ。爪切りや剃刀などの日用品もちゃっかりと入手している。実際、伸びた髪や爪は邪魔になる事が多いし処理も面倒だ。常に新しい道具があれば、処理も楽になる。後は電球や電池などの消耗品、ライターも10個ほどあった。火種にする雑誌も一冊ある。あとは飲み物もペットボトルとして再利用する物の他に、インスタントコーヒーや紅茶のパック、スープにココアなど様々な種類があった。あの短時間でよくこれだけ見つけられたものだと感心する。


「私って友達居なかったから、よく暇潰しでコンビニに立ち読みに行ってたのよ。けど何も買わないのも失礼だし、適当な雑貨なんか買って帰るの。そうしたらいつの間にかコンビニの店員並みに陳列を覚えちゃってね・・・。」


感心している真澄に、光は複雑な表情でそう言う。別に聞いてもいないのに言い訳をしだす光を奇妙なものでも見るような視線を向けた真澄に、光はムッとしたような表情で軽くパンチをした。その目が馬鹿にしてるだろうと語っている。


「別にいいじゃないですか?俺もよくコンビニは行ってたけど、ほとんど弁当と飲み物しか買いませんでしたからね。こういう知識も今だと十分役に立ちますよ。」


それを聞いた光は再度ムッとした顔で真澄にパンチをする。しかしそれも照れ隠しの軽いものだった。二人はとりあえず今得た地図で現在地と最寄の店、大規模な建物を探していった。





 分かった事は、どの店舗も住宅地や水路から離れていると言う事だけだった。どれもこれも川や海から遠すぎる。地図で判断すると、かなりの距離を徒歩、または何か車などの乗り物を必要とする場所ばかりだ。個人経営の小さな薬局などもあるかもしれないが、大手の盛行で今や絶滅しかかっているし地図にはそこまで詳細な情報は載っていない。光は穴が開くほど地図を眺め、真澄は半ば諦めた様子でさっき手に入れたコーヒーを啜っている。


「先輩、無理っすわ。」


真澄はまだ地図と睨めっこをしている光にそう声を掛けた。


「まだよ。まだ諦めちゃダメ。」


光は何かに憑りつかれたようにまだ懸命に地図を指でなぞっている。真澄は暇そうにペダルをキコキコと漕ぎ、スワンボートはゆったりと海を前進していた。この先には河川があるはずである。都市を流れる物ほど大きくはないが、スワンボートで逆行するくらいは出来るかもしれない。とりあえずそこまで進もうと真澄は考えていた。今、この街の状況がどうなっているか知るだけでも価値はあるだろう。兎に角情報は欲しい。もう全滅説は否定されたが、もしかしたら密集地帯ではまだ自衛隊や警察が生き残っていて、何らかの抵抗をしている可能性も僅かながらある。


「ねぇ、桜井。」


ぼんやりと夢物語を頭に描いていた真澄は、光の言葉で現実に引き戻された。


「どうしました?」


「ここに鉄道が走っているの。これって地下鉄だっけ?」


真澄は、そう言われ地図を見た。これはこの街を走るJRの線路だ。何度か利用しているが、地下に潜った記憶はない。


「確か地下鉄じゃないですよ。地下鉄は地方で地上に出るんです。何年ここに住んでるんですか?」


真澄はそんな事も知らない光を不思議に思った。


「私、遊びに行く時は車だもの。地下鉄なんて通勤くらいしか使わないし、その先なんて乗った事ないのよ。ここに来たのは4年前だけどねぇ、自分の行動範囲テリトリー以外は覚えないもんよ・・・。」


真澄はその答えにそうかと納得してしまった。よく考えれば、自分もそんなに詳細な地図を頭に書き込んでいる訳ではない。仕事をしていれば、必要な事以外は意外とうろ覚えだ。自分の家の前の道路が何号線だったかも定かではない。


 光はその問いを受けてしばらく考えていたが、真澄を伺うように視線を向けた。何を考えているか予想はつく。しかし、さすがの光もあの地獄を裸同然で歩くつもりはないらしい。当然といえば当然だ。小声で「やっぱりあり得ないわね。」と独り言を呟く。


「ところで、進路はどうするんですか?」


真澄は光の心変わりが無いようにさっさと目的地を定めたい。しばらく待っても考えが纏まりそうにない光をこれ以上自由にすると突拍子も無い事を考えそうな気がする。


「う~ん・・・、どうやっても医療品に辿り着けそうにないわね。この街は諦めようか?」


「次の街ってどこですっけ?」


「ちょっと田舎になるけどこの地図でギリギリ載っている町があるのよ。行ってみる?」


光はあまり気乗りしないような感じで真澄の意見を求める。真澄は人が少なそうなら行ってみる価値があると考えた。


「とりあえずボートで行ける場所なら行きましょう。」


光はまた地図と睨めっこをしていたが、やがて真澄に分かるように地図を開いて道順を指で辿った。河川の先にまたしばらく住宅地が続いていたが、その後は田畑のマークが続く。その先に小さな町の名前が記されていた。距離にして7~8kmで、海岸に沿って行けばそのうちに辿り着く。真澄は最近、何かでこの町の名前を聞いた記憶があったが思い出せなかった。


「良いですね。人は少なそうだ。行けるなら行ってみましょう。この規模なら病院くらいありそうです。」


「あるわよ、小さい個人経営の病院なら数件載ってるわ。」


光はそう言いながら、真澄に任せきりだった船の動力を気だるそうに踏み出した。





 結局、その日は新しい町までは行けなかった。潮の流れが変わり、ボートは思うように進めなかったのだ。真澄と光は、途中にあった砂浜に腰を下ろして焚き火を囲む。辺りに人の気配は無い。安心しきった様子で眠る光を見ながら、小さくなってきた火に拾っておいた小枝をくべると真澄は天を仰いだ。空には満点の星空が広がり、明日も晴れると確信する。寝具は嵩張るので、あるのは毛布一枚だけ。交代に仮眠を取ると約束し、現在は一人で火の番をしている。


「何だかこうしてると危険だとは思えないんだよなぁ・・・。」


真澄は世界が変わっても以前となんら変わりない空を吸い込まれるように見つめながら呟く。


「このまま、どうにかして二人で生活できないだろうか・・・?やっぱ無理だよなぁ。」


当然、それは叶わぬ夢だ。一人で望み否定する。いつか、奴らが全滅する事があるかは分からない。原因が何であるかも分からない。ただ以前と同じ安全で快適な生活は永遠に出来ないかもしれないという漠然とした不安は大きくなるばかりだ。その時、砂に置かれた手に何かが触れた。見ると、細い指が手の甲を摩っている。


「起こしましたか?」


「ううん、途中から起きてた。」


光は目を細めながら、そう呟いた。


「まだ眠ってていいですよ?」


真澄は光を起こした事に苦笑を浮かべながらそう囁くように言葉を繋いだ。


「まだ。」


「ん、何です?」


「まだ私達は生きてるわ。今はそれで充分じゃない?」


「そうですね。」


真澄は光の言葉に安堵を得る。それからふと光に目を戻すと、光はスゥスゥと寝息を立てていた。真澄はまだ重ねられた手を、暖める様に優しく握り締めた。





 真澄は、昨日感じた記憶を辿っていた。これがある事を何故忘れていたのか不思議だったのだ。海沿いの簡素な住宅街から離れた場所にそれはあった。何ヶ月前だったか、郊外に新しい大型のショッピングモールが出来たと山寺茜がはしゃぎながら言っていたのをおぼろげに覚えている。


「そうか、あれの事だったか・・・。」


大型でお洒落なお店が一杯だと言っていたが、それはそこまで大型ではなかった。二階建ての白い建物で、大手のスーパーと合併するようにモールがくっ付いている。この辺りには無かったので、土地の安い郊外に建てても集客には問題ないと誰かが偉そうに解説していたっけとさらに記憶を蘇らせた。


「ああ、そう言えば隣にあった大型デパートは閉店したのよね。その代わりに進出してきたのがアレか。」


真澄と同様に、失念していた光も感心したようにそう呟いた。女性は服だのアクセサリーだのに興奮する生き物のはずなのだが、その新しい店舗の情報を忘れていた光も大した者だと思う。光のプライベートのダメっぷりが伺えた。まぁ男でも居なければそう興味のある話題では無いのかもしれないが、真澄はそれを言葉には出さない。


「生き残りが居たら嫌ですね・・・。俺はもうあんなのはちょっと。」


真澄がそう光に囁く。光も言っている意味は分かった。真澄は晶の事だけを行っているのではない。あのコミュニティーが潰れたのは自分達の責任だと重々承知しているが故の発言だ。光も罪悪感を感じなかった訳ではないが、真澄ほど重くも受け止めていなかった。


「可哀想な事したけど、あれは時間の問題だったわよ。結局救えなかったけ・・」


「違いますっ!」


光が言い終わらぬうちに、真澄の怒号が飛ぶ。顔は怒りで歪んでいた。光は迂闊な事を言ったと後悔したが、遅かった。


「あれは僕らが殺したようなものです。先輩もそれは受け止めてください。時間の問題だったかもとか、たらればの話はもういいです。僕らがちょっかいを出さなければ、少なくともあと一ヶ月くらいはあそこはまともだったはずです。その間に事態が解決したかもしれないし、やはり僕らは罪を意識しないと。」


「それもたらればでしょ?桜井、私達が今言い争っても仕方が無い事よ。」


光は冷めた口調でそう言って真澄の口を塞ぐ。それに反論しようとした真澄だったが、これ以上お互いが責め合っても仕方が無い事であるのも事実だ。


「私もね、悪かったと思ってるわ。それにもう済んだ事よ。今さら未来は変わらない。その事は今の問題が解決してから償いましょう。」


それが光の出した答えだった。無責任かもしれないが、自分達が罪を背負った事実は受け入れて今を生きるしか出来ないのである。裁いてくれる者はどこにもいない。


「いつか、きっと償いましょう。」


真澄はそれだけ口に出すと、後の想いは胸の深くに沈めてしまった。





 海沿いから双眼鏡で建物を観察したが、ゾンビの姿までは確認できない。下の階の様子は海沿いからは角度的な問題で皆目分からなかった。真澄は、近くの道路に視点を移す。この辺りは新興住宅地で、まだたくさんの空き地があり視界は悪くない。店舗の周辺はさすがに家で埋まっていたが、道路には疎らに人影が動いているだけだ。下手すれば昨日のコンビニ周辺より人口密度が低い。


「何だか違和感だらけです。普通はこういった大型の店舗にはゾンビが殺到しているはずなんですが随分人気がない・・・。」


「映画の話でしょ?」


光が真澄にそう言った。確かに、映画ではモールに立て篭もる事が最もメジャーな方法だ。だが、どうやら現実は違うようだ。市街地から離れているこの場所まで、死体は群がるわけでは無かったらしい。


「行けそうなの?どうなの?」


「結論を言えば近くまでは行けそうです。路地や屋内にいるゾンビさえ刺激しなければ消臭でやり過ごせるかもしれない。」


真澄はそう言った。内部がどうなっているか分からないが、少なくとも見える範囲に群れてはいない。


「そうかぁ、でも道が分かんないしなぁ。」


光がそう言うと地図を広げて、ある一点を指差した。そこには一昨年の西暦の年号が記されている。


「ふるっ!!!」


「黙れ、私も迂闊だったわ・・・。」


「さすが田舎のコンビニ・・・、やってくれますね。」


「需要なさそうだもんね。」


そうつまらなそうに言うと、光は地図を後ろの席に放り投げる。真澄も双眼鏡を覗くのを止めて、足を組んで座った。二人でしばらく考えていたが、光が不意に口を開けた。


「いこっか。ここでジッとしてても状況は変わらないし、何かあったら引き返せばいい。ルートだけ頭に入れておけば、いざと言う時にも逃げられるでしょ。」


「準備は念入りに、ブザーや癇癪玉も用意しましょう。体も隅々まで綺麗にしないと。」


「おっけ、じゃあ準備ね。」


光はそう言うと荷物を確認する。電池の有無や電源が入る事を確認し、消臭スプレーも充分に残っているか確認していく。真澄も自分の荷物を確認して、お互いに体を拭き、いつもより念入りに準備を進めた。





 真澄と光は、いつもより慎重に進んだ。一体でいる死体は漏れなく始末していく。クロスボウも使い、出来るだけ一発で仕留めていった。案外、嗅覚さえ潰せば恐くない連中だと言う事も最近は分かってきている。油断さえしなければ、先手で簡単に潰せるのだ。恐いのは不慮の事態だ。いきなり気付かれて襲い掛かってくる奴も居ないとは限らない。それさえなければ、明るい内にいくらでも移動できる。


 光はまた一匹見つけ、真澄に合図を送った。矢は回収していたが、すでに7本が折れてしまっている。貫通して何処かに消えてしまった物を含めると、すでに20本近くが消費された。残りは10本少々という計算になる。さすがに不安を覚えたが、目的のモールまではあと僅かだ。二人は遂にモールの裏手に近付く。うまい具合に、屋上へ登る梯子が見えている。ここは立体駐車場ではないため、屋上は吹きさらしだったはずだ。それは海から確認している。まずは真澄が先行して上に登る。光がそれに続き、屋上へ降り立った。そこは明かり取りの小さな窓が並んだ広いスペースで、鉄の柵がグルリと取り囲んだだけのスペースだった。遥か向こうにドアの付いた小さな塔のようなものが見える。恐らく、何かあった場合に下から屋根へと上がるための階段でもあるのかもしれない。小さな塔は高さもせいぜい2m程だった。ビジュアル的に西洋の塔を彷彿とさせる形をしているだけだろう。ここへ梯子が通じているのは、火事などで屋上に避難せざるをえない時の緊急用だと思われた。


 光が窓から中を覗き込むと、そこにはゾンビが大量に蠢いている。内心、ここまで矢を何本も消費した結果は骨折り損だったと光は地団駄を踏みたい気持ちになったが、真澄が何かに気付いたように声を上げた。


「おかしくないですか?」


「何がよ?下は天国じゃない・・・。」


光は不機嫌そうな声で皮肉を口にする。真澄がそれを手で制しながら、一点を指差していた。


「階段が壊れてます。エスカレーターかな?途中で折れてる。それに、所々にバリケードがある。あれは下から来るゾンビをシャットアウトしてるように見えませんか?それに二階には全く人影が無い。これは生存者フラグが・・・?」


真澄の声に光がまじまじと観察して、それが推測ではなく事実と確信した。


「やばい・・・、誰か居るわね。」


「居ますね・・・、どうします?」


「頂くものだけ頂いて逃げましょう。それが最善だわ。医療品が二階にあればいいんだけど・・・。」


「いや、さっさと逃げた方がいいかもしれない。二階にも血の跡がかなりたくさんあります。何かあったんですよ、ここで。」


二人は顔を見合わせる。接触せずに物だけくすねるのは難しいかもしれない。その時、塔のドアに人影が映った。


「やばい、みつかったっ!?」


光が素早く気付いたがもう手遅れだ。その人影はドアを開けて屋上に踏み込んだ。その格好を見て二人は息を飲む。歳は青年という感じだったが、問題は装備だった。何やらどこかの特殊部隊のような制服を着て、手にはマシンガンのような物を構えている。そして、その後ろに従っている影にも度肝を抜かれた。そこには、首輪を付けられた若い少女の姿があった。





 青年はゆっくりと近付いてきた。その後を、首輪についた縄を引かれて少女が追随する。二人は大人しく手を上げて抵抗の意思がない事を示す。


「お前達は誰だ?どこから来た?」


青年の声は意外に高かった。まだ若い感じだ。


「生存者です。その物騒な物を下げてもらえませんか?」


真澄が恐る恐るそう伺いを立てたが、青年は銃を下ろさなかった。何かを警戒している感じだ。


「あのね、私達も武器を持ってるけど、この世界じゃ当然よね?危害を加えるつもりはないから、鉄砲を向けないで欲しいのよ。」


光もそう言葉を足す。それに青年は無言で首を横に振った。


「それはできない、今すぐここから立ち去ってくれないか?」


どうやら余程人間不信に陥っているようだ。何があったかは知らないが、撃たれる前に撤退した方が正しいと判断した。だが、医療品を欲しいのも事実だ。ダメ元で交渉してみる価値はある。


「分かったわよ。ただ、怪我人がいるの。薬だけでも欲しいんだけど、譲ってもらえないかな?」


光ができるだけ落ち着いた声で嘘を吐く。普通の人間なら、譲ってくれそうな嘘だ。しかし、青年は何か考えている素振りを見せただけで銃を下ろそうとはしない。


「何の薬だ?ドラッグストアは一階にあるから自分で取ってきたらいい。」


青年が低い声でそう言った。その声色に光は違和感を覚える。


「一階かぁ、それだと無理ね。私達も下の状況を見てるもの。じゃあ、今夜の宿だけでもお願いできない?もうじき日も暮れる。」


「ダメだ。」


またも低い声だ。最初は高かった声を急に低くして、こちらを脅しているのだろうか。


「何でその子は良くて私はダメなのかな?それともそっちの趣味なの?」


光がそう言うと胸を強調するように腕を組む。


(お色気作戦のつもりかっ!?銃持った相手に何を考えてんだ・・・。)


真澄は光の愚行にほとほと困った。そのまま帰ればいいのにそこまで医療品に拘る意味が無い。肘で光をつつき、小声で囁く。


「もう帰りましょうよ。やばいですってアレ。」


「待ちなさい、何かおかしいのよあいつら。立ち位置がおかしい。首輪を付けててもあんなに用心深いのが自分の背後に人を立たせるって変よ。私の勘がそう言ってる。」


「当てになるかそんなもん・・・。逃げますよ?」


「ちょっと待ってってば。チャンスはあるから。」


二人でヒソヒソやっていると、青年はイライラしたような素振りを見せる。


「何をヒソヒソやってんだっ!さっさと消えろよっ!」


そう言うと青年は銃を空に構え、パパパパッと連射する。威嚇のつもりがフルオートで撃ったようだ。あっという間に弾が切れてカチンカチンと音が変わった。突然の弾切れに青年が焦ったように「あれ?あれ?」と繰り返す。それを光は見逃さなかった。いきなり走り出すと焦る青年にドロップキックを食らわす。後から続いた真澄が、さっとナイフを抜くと青年の首に切っ先を突きつけた。


「ひ、ひぃ・・・。」


青年が何とも言えない情けない声を上げる。その時、金切り声が響いて少女が落ちていたコンクリートの塊を手に振りかぶった。


「ま、待ってっ!何も殺さなくてもいいわよっ!」


光が慌てて少女を止めようと立ちはだかる。今までどんな目に会わされていたか分からないが殺すのは良くない。しかし、それは光の勘違いだった。拳ほどのコンクリートは光の頭を直撃した。


「あれ・・?なん・・で?」


光はそれだけ口から搾り出すと、頭を抑えてその場に蹲る。その手の間から血が滴った。少女は尚も興奮した様子で今度は真澄にターゲットを変える。


「お兄ちゃんを放せっ!!!」


それが少女が発した初めての言葉だった。

おかしいのは主人公2人ではなくモールの2人でした。


銃を出したのは別の作品に感化されたからです。相応の理由もしっかり説明できればいいんですが、まだ考え中です。


モールのモデルは、映画『Dawn of the dead』の舞台になっているモールです。あれを想像していただければ場面がよく分かると思いますが、三階建てが二階建てに変わっている点などもあるので、ご了承ください。

二階建てにした理由は、二人が失念していた程度の建物だという点を正当化したいがためだけです。他に深い理由はありません。


移動中のゾンビとの戦闘を明確に表現しないのは、それだけで凄まじい量の文章を書く羽目になるからですね。決して手抜きとかじゃな(ry

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