表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/52

第拾伍話 命の洗濯

最近、温泉の登場が多いですね。単に作者が行きたいだけかもしれません。

第拾伍話 命の洗濯


 もうもうと湯煙が立ち込める中、キャァキャァという黄色い声が響いていた。


「お風呂なんて久しぶりっ!しかも温泉なんて最高よねっ!」


「命の洗濯だわ・・・。」


「肩こりも酷いから、血行が良くなって助かるわね。」


3人の女性の声がそれぞれに感想を述べていた。乳白色のお湯の中、白い体が並んで座っている。ここはとある温泉宿だった。


「体を洗ってゆっくりお湯に浸かって、それにお酒もあるときたら最高ね。あなた達も一杯やる?」


そう言ったのは成人している土倉光だった。その手には徳利が握られ、お猪口に日本酒を注いでいた。水無月優がもの欲しそうに見ていたが、風紀を正す委員長が毅然とした態度で「いりませんっ!」と断ってしまう。


「お堅いわね~。委員長ちゃんも少しは柔軟になりなさい。この国の法律なんてもう無い様なものなのよ?」


「そうよ未来。お酒は百薬の長って言うくらいだからきっと美味しいわよ?飲んだこと無いんでしょ?」


「断じて要りませんっ!」


また大きな声でハッキリと宣言する。


「もういいわ。光姐さん。私にも一杯くださいな。」


そういう水無月優に土倉光はお猪口を渡し、徳利から日本酒を注ぐ。水無月優は嬉しそうに口に運ぶと、キュッと一息に飲み干した。


「あら、いけるわね?」


「ええ、こちとら伊達にギャルって言われてないですよ。お酒くらいならよく飲んでました。」


「えええええっ!校則違反じゃない。退学になっちゃうよっ!」


「その学校自体がもう無いんだからいいじゃない。あんたも羽目を外したら?」


「そ、そんなことできなぃ・・・。」


最後のほうは声が小さくなってしまっている。今、彼女の中でモラルと好奇心が凄まじい勢いで格闘していた。


「お酒を飲めばこれも成長するわよ?」


水無月優は葛藤で揺れる渡会未来に悪魔の囁きをする。彼女が指差していた物はお湯に浮かぶ2つの丸い物体だった。ボリュームのあるソレはお湯に浮きながらも綺麗な谷間を形成している。ソレを指先で突付きながら水無月優はニコリと笑った。持ち主は当然だが彼女ではない。徳利を持った方である。


「嘘よっ!そんな話聞いたことが無い・・・。」


「嘘じゃないってば。私だって飲み始めたばかりだけど、あんた達優等生よりはあるでしょ?これはお酒のおかげなのよ?」


渡会未来はジトリと水無月優の胸元を見る。そこにも谷間こそ出来ていないが、立派なモノがあった。平均よりは確かにボリュームがある。渡会未来は最後に自分の貧相な胸板を眺めて、決心したように叫んだ。


「私も飲むっ!」


「やったっ!そう来なくっちゃねっ!!!」


「あんた達って楽しそうでいいわね。」


そしてまた黄色い声が湯船に反響した。





 遊覧船で一夜を明かした5人は、いよいよ船を始動させる準備に差し掛かった。指揮するのは船舶免許所持者の銭形慶治、そして真澄が補佐をする。女性3人は主に船内の探索だ。他にやることも無かったので、銭形慶治に頼まれた物資を探していたのである。予備の重油が入った重油缶に、何に使うか分からない様々な工具。それと船上にありったけのペットボトルや鍋などを並べる。水の確保は最優先だった。このフェリーにも水を自動で貯めるタンクがある。それでトイレの水などは賄えたが、ボーフラが沸いていたりして、飲料水にはちょっと不向きな感じだった。衛生上良くないということで、雨水を利用しようと考えたのである。数日前に台風のような雨が降ったきり、空は晴れ渡っていたのだが、海上は天気が変わりやすい為に準備だけはしておこうと結論したのだ。ボートとスワンボートも船の横に縄でしっかりと固定され、いつでも出航は出来る。しかし、まだ行き先が決まっていなかった。人の住める島などは、この遊覧船の燃料では辿り着けそうにない。だからと言って、闇雲に港などに入港すると大変な惨劇が待ち受けているだろう。出航準備だけは事前にして、その後に行き先を考えることになっていた。


「ねぇ、燃料だけで考えると最低でどのくらい航行可能なのよ?」


土倉光が銭形慶治に尋ねる。目下のところ、一番重要なのは航行可能距離だ。それによって避難する候補地が変わってくる。この大きさの遊覧船だと、当然だが広い接岸地も要る。理想は港のような場所だが、深さのある河川なんかもいいかもしれない。岩場だと船の腹を傷つける可能性や座礁の可能性もある。砂地だと乗り上げてそのまま動けなくなるかもしれない。この遊覧船は出来れば住居に使いたいので、使い捨てにするわけにはいかないのだ。


「ん~、最低だと70kmくらいかな。最高でも120kmでいいとこだろう。ふり幅がでかいのは勘弁して欲しいが、そんなに遠くまで行けるとは限らないってことだ。ここから半径50km以内に理想の場所があればベストだな。」


銭形慶治が電卓を弾きながらそう答えた。その解を受けて、女性陣が地図を開く。今居るモモンガ浜から近い島や河川、人気のなさそうな場所を調べるためだ。島関係は海図でも調べているので、地図では陸をメインに調べる。重油はスタンドなどには売っておらず、専門の業者などがいるという。なので重油の入手は諦めた。しかし、分かったことがあった。この船に使う重油はA重油と分別される種類で、これはディーゼル車に使う軽油とほぼ同じ成分らしい。船などに重油を使うのは、安いからだそうだ。軽油は1Lあたりに30円ちょっとの課税がされているため、重油に比べると割高になっている。ならなぜディーゼル車は同じ成分の重油を入れて走らないのかと思うかもしれないが、これはシンプルな答えで「脱税」に当たる行為だからである。検査をされれば軽油か重油かなど一目瞭然で、掴まればアウトだ。


「軽油ならスタンドにありそうね。人里離れた海岸沿いのスタンドがあれば寄りましょう。混ぜて使えるか疑問だけど試す価値はあるわ。問題は運ぶ方法だけど、それはその時にね・・・。」


「では燃料は最悪の場合、軽油に頼るということで、後はこっちの住宅街から離れた高速道路に沿って北上してみますか?サービスエリアやパーキングがあれば食料も調達出来そうですし、問題は無さそうです。島なんかはやっぱり無理そうですし、南下すれば市街にぶつかりますから、死ぬことになるかもしれません。異議があれば今言ってください。無ければ多数決で決めたいと思います。賛成の方は挙手をお願いします。」


そして5本の腕が高く挙げられた。





 次の日の早朝に出航することにした。対岸を観察しながら進むので、夜の間は船を進めるメリットがない。ゾンビには音で察知されるし、暗闇は危険だった。


「エンジン始動。舫綱を切れっ!」


運転室から銭形慶治の指示が飛ぶ。真澄は持っていた鋸で舫綱を切った。下にはゾンビが犇いている。船が少しずつ桟橋との距離を開け始めた。小さな渦が無数に海面に現れる。いよいよ出航だった。少しずつ桟橋から離れていった遊覧船は、十分に距離が開けられるとボーッと汽笛を鳴らして、太平洋に乗り出していった。


「快調だね~。」


「んー、気持ちいい風ね~。」


渡会未来と水無月優が暢気にそんなことを言いながら双眼鏡を覗き込んでいる。もう海の上なので、サメでもゾンビ化していない限りは安全だった。自然と気も緩むのだろう。土倉光と真澄もデッキに上がってベンチに腰を下ろしていた。手にはお土産の残りのスナック菓子とラムネの瓶を持っている。すでに航海を楽しんでいるように見えた。


「何だか久しぶりに羽を伸ばせるわね。」


「そうっすね。いい天気だし、やることは何か見つけるだけ。双眼鏡はあの娘達が持ってるし、僕等はただここから対岸を見るだけですねぇ。気分転換には良いんじゃないでしょうか?」


「そうね。銭形さんには気の毒だけど、私達には休息と同じかもね。」


今頃、銭形慶治は必死に操縦桿を握っているに違いない。昨夜も遅くまで船の操船マニュアルを眺めていた。軽そうなイメージだったが、責任感は人一倍あるのかもしれない。鍵の入手にしても、真っ先に自分が取りに行くと申し出たのは非常に勇気がある証拠でもあった。ゾンビが蠢く地に自ら志願して行きたいなど、普通の神経では言えないだろう。あの時は非常時で誰もそこに気付かなかったが、今思えばとても凄いことと思う。そんな話をしながら笑顔を交わす2人を見る視線があった。


「ねえ、あの2人って・・・。」


「いい雰囲気よね~。羨ましいな・・・。」


「絶対に付き合ってるよね・・・。」


「お互いに好き好きなのは間違いないと思うわよ。じゃないと気絶してる時に見捨てたと思うもん。」


「あと残ってるのはあのオッサンだけか~。泣けるわね・・・。」


「銭形さん・・・、頑張ってるわよ?」


「私達の倍も生きてる人だよ?恋愛対象にはちょっとねぇ?」


「それを言っちゃあ・・・。」


思春期の2人にはゾンビより恋のほうが大切なのかもしれない。





 それを最初に見つけたのは水無月優だった。高速道路は山の中に埋没し、何の変哲も無い緑と崖だけの景色が広がり始めた矢先である。そこにあったのは茶色い建物だった。二階建てのその建物は、崖の間に僅かに広がる砂浜の前に一軒だけポツリと建っている。他に建造物はなく、緑の山肌のなかに一本の道が走っているのだけが確認できた。


「ねぇねぇ未来。あれってもしかして離れた別荘か何かじゃない?」


「え?何々?」


渡会未来も双眼鏡を覗き込む。確かにあの建物以外は何も無い。横に広がる景色は崖と緑だけだった。


「ええっ!?ほんとだっ!あれってゾンビ居ないかもよ?」


その声に反応して、デッキで転寝をしていた2人が顔を上げる。仲良く肩にもたれ合って、今まで寝ていたのだ。緊張の緩んだ気持ちいい航海だ。初秋の柔らかな日差しも重なって、無理もないことだった。


「ん・・・?どうかしたの?」


「何かみつかったかい?」


近寄ってきた2人に双眼鏡を渡す2人の少女。


「ほら、あの茶色い建物・・・。」


「ん~、おっ?あれって旅館か何かだね。」


「ですよね?私がみつけたんですよっ!」


水無月優が少し興奮したように叫ぶ。彼女も何かの役に立ちたかったのだ。


「もしかするともしかするわね。船を泊めてもらいましょう。」


「了解、すぐに言ってきます。」


それから20分後、遊覧船は砂浜の100mほど沖に停泊していた。





 スワンボートで小型のボートを引きながら、5人は砂浜に上陸する。近くに生えていた木にしっかりと縄を縛り付けると、上を見上げた。木々の間から、茶色い建物の上部が顔を覗かせている。浜から30mほど高い場所に、それは建っていた。沖からはすぐ近くに見えたが、近付くとかなり距離がある。建物も小さく見えていたが、この大きさだと旅館か何かの施設だろう。個人の別荘にしては大き過ぎた。


「けっこう距離がありますね。どうします?行きますか?」


真澄が誰とも無しに問いかける。それに土倉光が答えた。


「行く価値はあると思うわよ。もしかしたらゾンビが居ないかもしれない。ここが人里離れているなら、しばらくは安全に暮らせるわ。あんな遊覧船よりは快適なはずよ。」


結局、皆が探索を希望する。問題はゾンビが居るかどうかと、食と水があるかどうかだった。衣服はたっぷりと船に積んであるし、寝る場所も遊覧船で問題は無い。しかし、飲み水だけは海上だと確保が難しかった。


「とにかく近付いてみよう。」


銭形慶治が、金槌とドライバーを愛用の皮袋から取り出しながらそう呟き、皆が頷いた。旅館までは急な上り坂で、曲がりくねっていた。勾配が急なので仕方が無い。蛇のようなその踏み固められただけの道を進むと、すぐに大きな開けた場所に出た。たぶん駐車場なのだろう。軽トラックと四駆が1台ずつ停められている。たぶんこの建物の物だ。近付くと、旅館だと判明した。木造の古い建物だ。茶色く見えた理由も分かった。「涼風山荘」と書かれた丸太を組んだ看板がある。5人は無言で確認すると、それぞれが武器を構えて山荘内に入る。


-ギギギギィ-


軋んだ音と共にロッジ風の扉が開く。中には誰も居なかった。ロビーと思われるカウンターとソファが並んだ空間だった。大きなTVが置いてある。カウンターの横には階段があり、「客室↑」と書かれている。どうやら2Fが客室のようだ。1Fはロビーと食堂、従業員の住居などがあるようだった。当然だが大浴場と書かれた看板も目に入る。ロビーから横に伸びた廊下を見渡すだけでそれだけの情報が見て取れる。


「けっこうあっさりした作りで助かったね。」


渡会未来が山荘に入って初めて声を発した刹那、山荘内に唸り声が響く。皆が一斉に身構えると、階段を3体のゾンビがゆっくりと下ってきた。3体は危険だ。すぐに真澄の声で皆が外に飛び出す。広い場所でないと危険なのだ。


「皆広がってっ!先輩はクロスボウを、銭形さん、1体お願いしますね。」


真澄はそう叫ぶ。2人はコクリと頷いた。しばらく間を置いてゾンビが山荘から出てきた。全員が「涼風」と書かれた法被のような物を着ている所を見ると、この山荘の従業員なのだろう。中年の男2体にオバサンが1体。


「先輩はオバサンを、俺は右のオッサンをやりますっ!銭形さんは左をっ!」


叫ぶ真澄の声に3体が全て集まってくる。真澄は音を出しつつ後退する。不意にオバサンゾンビが倒れる。頭にクロスボウの矢が命中していた。その隙に真澄が大刀を構えてオッサンゾンビの頭を突く。さらに銭形慶治がもう1体のゾンビの頭を金槌で殴打した。ボコンと音がして頭に金槌が食い込む。ドサドサッと音がして残りのオッサン2体も地に伏した。ピクリともしないので完全に死んだらしい。


「ふぅ~、こんなことやっぱり慣れねえなぁ・・・。」


金槌を引き抜きながら銭形慶治がぼやく。真澄も同じ気持ちだが、こればかりは仕方が無い。殺らなければこっちが殺られる。


「慣れとかの問題じゃないわよ。こうしなきゃ生きられないんだから・・・。」


土倉光もそう呟いた。





 結局、山荘内にはあと2体のゾンビが居た。老夫婦のゾンビで、この山荘のオーナーらしかった。仕方ないので2体とも絶命して頂く。山荘内のゾンビを一掃した後、全員で中を調べる。客室は5室あり、海を見渡せる作りになっていた。畳敷きで布団も敷布団が用意されている。食堂はテーブルが3つほどあるだけの簡素なもので、ほとんどの人が部屋で食事をしていたのだろうと推測された。肝心の食料はほとんど残っておらず、皆ががっかりしたが、保存されていた酒類や乾物は貴重だった。麺などもあり、水は井戸水らしく蛇口を捻ると凍るような冷水が流れ出た。最初少しだけ茶色く濁っていたが、流し続けるとじきに澄んだ美味しい水に変わる。そのあと、1Fの雨戸を全て閉じ、それを倉庫で見つけた木材で開かないように打ち付けていく。ゾンビが万が一現れた際に、中に侵入されないような処置だ。補強は半日に渡って続けられ、その夜は魚の干物を焼き、米櫃に残っていた米を炊く。簡単だが久しぶりの暖かい食事に皆が舌鼓を打った。明日は軽トラか四駆の鍵を探して、道の向こうがどうなっているか調べることにして、全員で風呂を掃除し、この旅館の目玉である温泉を堪能して床に着いた。

Qおっぱいは水に浮くのですか?

A浮きます


久しぶりにおっぱいの豆知識を披露してみました。浮力は僅かな物なので、浮き袋にはなりませんが、確かに浮きます。夢が詰まってるからかな?(`・ω・´)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ