三日目のカレー
投稿者:土方のわし 2024年9月3日
やったぜ(と言いたいが、地獄じゃ)。今日で休暇も三日目という名の「休工」じゃ。
昨日あんなにカレーまみれになったのに、三日目の朝、目が覚めると部屋の空気が一ミリの隙もなくおかしい。いつもの香ばしい「生の報酬」の匂いじゃなく、何か得体の知れない「もわっ」とした、地中の深淵から湧き出たような卑しい腐臭が充満しとる。
ふらつく足でキッチンという名の現場へ向かい、一晩出しっぱなしにしとった鍋の蓋を一気に突うずるっ込んだ。
――あぁ~~たまらねぇ(臭すぎて)。おえんわ、これは。
鍋の表面に、不気味な気泡という名の「死の合図」がぷつぷつと浮かび、ずるずると変な糸を引いとる。元コックのわしには一目で分かる。ウェルシュ菌じゃ。加熱という名の攻撃を耐え抜き、一ミリの隙もなく増殖した最強の毒物じゃ。これを喉の奥底まで流し込めば、一時間後には三人揃ってトイレという名の「出口」の奪い合いで、文字通りめちゃくちゃになる。
「わしさん、勿体ないですよ。火をドバーっと通せば、まだ盛り合えるでしょ」
寝ぼけ眼でスプーンを持ってきた兄ちゃんを、わしは現場監督以上の気迫で制止した。
「待て! それは食い物じゃない、一ミリの隙もない『死』じゃ!」
おっさんも、白濁した瞳を輝かせて手を伸ばしよった。本気の、汚れ好きの目をしとる。
「舐めるな! 命という名の資本が惜しくねぇのか!」
「ちょっとだけ……舐めるように……」
「舐めるなと言うとるんじゃ! 至急、離れろ!」
おっさんの汚れた手からスプーンを叩き落とした。
横では太郎の奴が、この卑しい異変を察知したのか、鼻をひくひくさせて「クゥーン」と悲鳴を上げよった。テレビの中では『食いしん坊万歳』のリポーターが「熟成されてますね!」と能天気に笑いよる。一ミリも笑えんわ。この現場は今、全滅の危機なんじゃ。
泣く泣く、三人で愛の結晶をゴミ袋という名の「墓場」へドバーっと出した。
三人で苦労して打設した熟成カレーが、手で掬うこともできず、ただ黒い袋の中へずるずると、出口を求めて消えていく。
――もう顔中、絶望という名の不純物まみれじゃ。
おっさんが袋の口を一ミリの隙もなく縛りながら「……勿体なかったですなあ。一晩の盛り上がりの果てが、この無残なスクラップですか」と呟きよった。兄ちゃんは黙って、虚空という名の現場を見つめて目を細めとる。わしも何も言わんかった。
結局、三日目の朝食はコンビニの安物カップ麺という名の、一ミリの隙もない代用品じゃ。
太郎の奴、期待外れだったのか、わしの膝の上でふて寝しよった。
「すまんのう太郎。明日、また新しい材料をしこたま買い込んで、一から打設してやるからな。見ておれ」
太郎は返事をせん。
こんな変態親父と、食中毒という名の盛り合いは、マジでおえんのう。
ああ~~早く、清潔で熱い、新しい鍋にまみれたいんじゃ。
岡山市内のアパート、鍋という名の祭壇は今、虚無で満ちとる。
――強力な洗剤をしこたま持って来て、わしと一緒に鍋を磨き上げてくれる奴、おらんかのう。
土方姿のまま、一ミリの隙もなく磨き倒して、明日こそ至急、清潔なカレーまみれになろうぜ。




