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ハンターランキング2位のエルフに憧れてハンターになったら人間が1人もいなかった  作者: F.R


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第4話 ハンター試験


三年後


僕たちは、少しだけ大人に近づいていた。


背が伸びたとか、声が低くなったとか、


そういう分かりやすい変化だけじゃない。


走るのが日課になって、

痛みを我慢することを覚えた。


三年前、裏路地で殴られていた僕は、


もう、ここにはいない。


ノクティアも変わった。


相変わらず優しくて、

相変わらずよく泣く。


でも、誰よりも静かで強かった。



試験当日の朝は、空気が澄んでいた。


まだ日が昇りきらない時間。


家の前には、朝露が残っている。


僕とノクティアは並んで立っていた。


母が、僕の服の襟を整える。


「……大きくなったわね」


その声が、少し震えていた。


父は、腕を組んで立っていたが、やがて一歩前に出た。


「無事に帰ってこい」


それだけ。


でも、その一言に、三年分の想いが詰まっているのが分かった。


僕は深く頭を下げた。


「行ってきます」


ノクティアも、同じように頭を下げる。


「……お世話になりました」


母は、ノクティアを抱きしめた。


「あなたも、必ず帰ってきて」


ノクティアは、こらえきれず、

ぎゅっと目を閉じて頷いた。


僕は、その姿を見て胸が熱くなった。


守りたい。


三年前より、ずっと強く思った。



試験場へ向かう道は、長かった。


同じ方向へ向かう者たちが、少しずつ増えていく。


エルフ。

竜人。

ドアーフ。

獣人。


どれも、見ただけで分かるほど強そうな者ばかりだった。


僕は、自然とノクティアの隣に寄った。


「……緊張してる?」


「……ちょっと」


ノクティアは小さく答えた。


僕も同じだった。


歩きながら、試験の話を思い返す。


ハンター試験。


三年に一度だけ行われる、

命を賭けた選別。


過去には、死者こそ出ないものの、

毎年重症者が後を絶たない。


それでも、人は集まる。


毎年、約三千人。


合格者は、平均して十人。


数字だけ見れば、無謀だ。


試験は三つ。


1.サバイバル演習


2.残った者の一騎打ち


3.現役ハンターとの一騎打ち


「……あのエルフといい勝負できるかなぁ」


僕が言うと、ノクティアは意地悪な顔をした。


「なんだよぉ〜」



試験場の門が見えたとき、

胸の鼓動が一気に速くなった。


巨大な石門。

その前に立つ人物。


長い耳。

まっすぐな背中。


見覚えがあった。


「あ……」


あの時のエルフ。


三年前、魔族を一瞬で倒した、

ハンターランキング二位。


僕は、気づいたら走り出していた。


「……あの時は、ありがとうございました!」


声をかけると、彼女は一瞬だけ振り向いた。


僕の顔を見て、ほんのわずかに目を細める。


「……」


何も言わずに立ち去ってしまった。


冷たい態度だった。


でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


(ああ、この人は……こういう人なんだ)


それだけ分かった。


会場には、すでに多くの受験者が集まっていた。


ざわめき。


緊張。


闘志。


僕は、そこで一つのことに気づいた。


人間が、僕しかいない。


視線が、痛い。


侮蔑


エルフ、竜人、ドアーフ、獣人


その中に、ダークエルフの姿も見当たらなかった。


僕は、隣のノクティアをちらっと見て言った。


「……まあ、エルフに見えるもんね」


ノクティアは、少し困ったように笑った。


「……目、赤くないから」


「ばれないといいね」


「……うん」


でも、周囲の視線は、すでに刺さっていた。


特に人間である僕に。


そのときだった。


「……おい」


低い声。


振り向くと、そこにいた。


三年前、裏路地で僕を殴ったドアーフ。


体格は、比べ物にならないほど大きくなっていた。 


肩幅も、腕も、まるで岩みたいだ。


「生きてたか、人間」


僕は、無言で視線を逸らした。


関わりたくない。


そのまま受付へ向かおうとした瞬間


ドアーフの一人が、ノクティアの腕を掴んだ。


「おい、お前あの時のフード野郎だよな」


その瞬間、僕の背中に冷や汗が流れた。


(……やばい)


ノクティアが怒ると

それを、僕は知っている。


次の瞬間。


轟音。


ドアーフの身体が、地面に叩きつけられた。


正確には

地面に、めり込んだ。


会場が、一瞬で静まり返る。


ノクティアは、掴まれた腕をそっと払い、

倒れたドアーフを見下ろした。


「……ごめんね」


その声は、優しかった。


「これで、昔のことは許すよ」


周囲が、ざわつく。


視線が、ノクティアに集中する。


「……ダークエルフだ」

「今の、見たか……」


警戒の色が、空気に混じった。


僕は、小さくため息をついた。


「……目立つの、早いよ」


ノクティアは、はっとして僕を見る。


「……ごめんなさい」


今にも泣きそうな顔だった。


強いのに、泣き虫。


その表情を見て、僕は苦笑する。


「……いいよ」


そう言ってしまう自分に、少し驚いた。


(ああ、僕は……)


この子に、甘い。


その光景と重なって、

三年分の記憶が、頭に浮かんだ。


訓練の日々。


ノクティアは、いつも力を抑えていた。


組み手をしても、

僕が怪我をしないように、

本来の力の十分の一も使わない。


ある日、僕は言った。


「……本気で、やって」


ノクティアは、困った顔をした。


「……だめ」


「お願い」


沈黙のあと、ノクティアは頷いた。


結果。


僕は、泣いた。


痛くてじゃない。

圧倒的すぎて。


力の差が、あまりにも現実だった。


ノクティアは、その横で泣きながら謝っていた。


「……ごめん、ごめん……」


思い出すと、少しだけ笑ってしまう。


僕たちは、何事もなかったように受付へ向かった。


受付の前で、名前を告げる。


「……人間?」


係員が眉をひそめる。


無言で札を渡された。


ノクティアも、続いて名を告げる。


「ノクティア」


係員は一瞬だけ手を止めたが、

何も言わずに札を出した。


僕たちは、並んで立った。


試験は、これから始まる。


三年分の覚悟を、

ここで示すために。


僕は、拳を握りしめた。


隣には、泣き虫で、優しくて、

誰よりも強いダークエルフがいる。


大丈夫だ。


僕たちは、ここまで来た。


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