第13話 クマvs人間
次は、僕の試合だった。
闘技場の中央に立ちながら、
対戦相手の名前を、もう一度確認する。
ダゴン・マルク
「……やっぱり、ドアーフかなぁ」
観戦席の方を見ると、
ラビとルビの様子がおかしかった。
二人とも、明らかに動揺している。
「……やっぱり、その名前……」
ルビが、ぽつりと呟く。
ラビは、歯を食いしばった。
「ルーク……気をつけろよ」
その声が、やけに重い。
僕は、改めて相手を見る。
普通だ。
長い耳もない。
鋭い爪も見えない。
筋肉はあるけど、竜人ほどじゃない。
「……獣人?」
そうは見えない。
どんな動物なんだろう。
狼?
虎?
それとも、全然違う何か?
天使属が、手を上げる。
「始め」
その瞬間だった。
視界が、消えた。
「――っ!?」
次の瞬間、
背中に衝撃。
空気が潰れる感覚。
僕は、そのまま吹き飛び、
壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!!」
息が、抜ける。
なにが……起きた……?
頭が、真っ白だった。
(……今のは……?)
観戦席が、ざわつく。
ルーシィが、ラビとルビを見る。
「ね、ねぇ……」
「ルークの相手って……何者なの……?」
ルビが、震える声で答えた。
「……獣人の中で……」
「……最も、戦闘能力が高いって言われてる一族……」
ラビが、続ける。
「熊だ」
その言葉が、遅れて頭に落ちてくる。
「……っ」
意識が、戻った。
(……あぶな……)
一瞬、気を失っていたらしい。
背中が、熱い。
(……今の……前蹴り……だよな……)
感触が、まだ残っている。
速さ。
重さ。
破壊力。
(……やばいな……)
でも
なぜか。
「……どこまで、やれるかな」
口角が、少し上がった。
怖いはずなのに、
心の奥が、ざわついている。
(……少し、楽しみになってきた)
僕は、踏み込んだ。
一気に、距離を詰める。
拳。
蹴り。
連続攻撃。
だが
ダゴン・マルクは、
すべて、受け流す。
「……っ、くそ……!」
隙が、ない。
動きが、読まれている。
(……なら……)
僕は、歯を食いしばる。
力を、込めた。
筋肉が、悲鳴を上げる。
ガードごと、
吹き飛ばすつもりで
渾身の一撃。
「――っ!」
ドンッ
……止まった。
「……なに……?」
僕の拳は、
片手で止められていた。
しかも――
変な感触。
毛……?
(……あ……)
ダゴンの腕だけが、
黒い毛で覆われている。
「……やっぱり、獣人か……」
ダゴンは、真顔のまま言った。
「それで、終わりか?」
その瞬間。
ぐっ……!
拳が、潰される感覚。
「……っ、ぐ……!」
このままだと、
拳が壊れる。
瞬時に、蹴り。
顔面へ
「――っ!」
当たった。
確かに、当たった。
……のに。
倒れない。
ダゴンは、微動だにしない。
次の瞬間、
腕が振られた。
視界が、回る。
また、吹き飛ばされる。
「……まずい……」
強い。
(……熊の獣人か……)
(……人が……熊に勝てるわけ……)
普通なら。
「……どうやって……勝つ……?」
頭が、回らない。
その時。
背後。
気配。
振り向くより、早かった。
激痛。
背中が、裂ける。
「――っ!!」
身体が、宙を舞う。
地面に、叩きつけられる。
動けない。
「……おい……」
「……こんなにも……差が……」
視界が、滲む。
(……嘘だろ……)
(……ここまで……来たのに……)
(……勝たなきゃ……)
心臓が、跳ねる。
苦しい。
(……心臓……?)
(……やられた……?)
「……死ぬ……?」
その瞬間。
体が、軽くなった。
痛みが、消えていく。
力が、湧いてくる。
(……なんだ……これ……)
背中の痛みが、
完全に、消えた。
身体の周りに、
黒いオーラが、立ち昇る。
観戦席が、どよめく。
天使属が、目を見開いた。
ダゴンが、初めて動揺した表情を見せる。
「……なんだ……?」
(……やばい……)
(……気分……いい……)
心の底から、
高揚が、湧き上がる。
(……勝てる気がする……)
ダゴンが、瞬時に踏み込んだ。
懐。
だが
僕には。
スローモーションに見えた。
「……遅い」
無意識に、身体が動く。
蹴り。
次の瞬間。
ダゴンが、壁にめり込んだ。
闘技場が、静まり返る。
「……え……?」
ルーシィが、声を失う。
「……なにが……起きたの……?」
ラビとルビも、目を見開いている。
「……熊が……」
「……吹き飛ばされた……?」
僕は、ゆっくりと息を吐いた。
身体が、軽い。
力が、溢れている。
「……すごく……いい気分だ」




