第12話 サラvsノクティア
ノクティアとサラの戦いが始まろうとしていた。
闘技場の空気が、明らかに変わる。
ざわめいていた観戦席が、
いつの間にか、静まり返っていた。
僕たちだけじゃない。
この場にいる全員が、
この戦いに注目している。
それは単なる二回戦だからじゃない。
ダークエルフの力を、この目で確認したい。
そんな空気が、会場を支配していた。
天使属が、静かに手を上げる。
「始め」
その言葉と同時に、
サラが動いた。
迷いはない。
溜めもない。
速攻。
サラの掌から、黄色い光が弾ける。
鋭く、真っ直ぐな攻撃魔法。
「……速い……!」
観戦席から、息を呑む音が漏れた。
だが
ノクティアも、速い。
紙一重で魔法をかわし、
次の瞬間にはもう、前へ踏み込んでいる。
ノクティアは遠距離よりも、
近距離の組み手を得意とする。
それは、僕が誰よりも知っていた。
距離が詰まれば、
サラも一筋縄ではいかない。
ノクティアは、次々に飛んでくる魔法をかわしながら、
一気に懐へ入る。
そして
ノクティアの拳が、サラに触れる。
バチンッ!
乾いた音。
だが
その拳は、止められていた。
サラの拳と、
ノクティアの拳が、真正面からぶつかっている。
ノクティアの目が、わずかに見開かれた。
……僕も、同じ表情だったと思う。
遠距離を得意とするエルフが、
組み手で勝負に出ている。
それも
ドアーフを簡単に投げ飛ばす
ノクティアの力と、ほぼ互角。
サラは、少しだけ笑っていた。
「……やっぱり」
二人は、
戦いを楽しんでいる。
拳と拳。
蹴りと蹴り。
スピードが上がる。
目で追うのが、やっとだ。
地響き。
骨と骨がぶつかる音。
会場が、揺れる。
ノクティアが、一瞬の隙を突いた。
腹に、一撃
……行ける。
そう思った瞬間。
罠。
サラの誘いだった。
ノクティアの拳が空を切り、
その直後
カウンター。
ノクティアの身体が、地面に叩きつけられた。
「……っ!」
(……強い)
昔から、強いとは思っていた。
でも
ここまで潜在能力が高いとは、
正直、思っていなかった。
サラは、静かに手を上げる。
魔力が、収束していく。
あの魔法を食らえば、
ノクティアは、ただではすまない。
ノクティアは、立ち上がろうとする。
でも
足が、震えている。
立てない。
(……まさか……)
(……ここで……負ける……?)
気づけば、
僕は、叫んでいた。
「ノクティア!!」
声が、会場に響く。
「絶対に負けるな!!」
「君なら……君なら、必ず勝てる!!」
静まり返っていた闘技場に、
僕の声だけが、残った。
ノクティアが、こちらを見る。
そして
少しだけ、微笑んだ。
「……ありがとう」
そう、口が動いた気がした。
ノクティアは、ゆっくりと立ち上がる。
そして
黒い魔力が、溢れ出した。
空気が、重くなる。
(……来る)
これは
最後の攻撃。
その場にいた観戦者全員が、
同じことを思った。
サラも、覚悟を決める。
黄色い魔力が、極限まで高まる。
二つの力が
正面から、ぶつかる。
次の瞬間。
世界が、白く染まった。
眩しさで、目を開けていられない。
地響き。
衝撃。
すべてが、規格外だった。
やがて
光が、収まる。
目を開けると、
観戦席の前には、巨大な防御魔法が展開されていた。
上空から、天使属が降りてくる。
「試験終了」
砂煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこには
倒れた、二人。
ノクティアと、サラ。
両者、気絶。
天使属の表情が、明らかに動揺していた。
それも、そのはずだった。
二人の間には
底が見えないほどの巨大な穴が、開いていたのだ。
天使属が、ぽつりと言う。
「……ハンター試験で、ここまで高い魔力を見るのは久々だ」
そして、宣告する。
「この試合はドローとする」
観戦席が、ざわつく。
「ドロー!?」
「それって、失格なのか!?」
「合格なのか!?」
天使属は、静かに告げた。
「皆さん、勘違いをしています」
「この試験は、勝てばいいわけではありません」
「戦闘において大切なものを、
我々が感じ取れれば合格です」
「逆も同じ」
「勝っても、
ハンターになれる器と判断できなければ、合格はありません」
そう言って、
再び魔力を込める。
一瞬で、
闘技場は元の姿に戻った。
試験は、続く。
そして。
病室。
ベッドに横たわる、ノクティア。
隣には、サラ。
二人とも、まだ目を覚まさない。
僕は、そっと拳を握った。
(……絶対に……)
(……二人とも……)
その先の言葉は、
胸の中に、しまったままだった。




