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ハンターランキング2位のエルフに憧れてハンターになったら人間が1人もいなかった  作者: F.R


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第1話 憧れの人

普通の朝、終わる日

 


朝は、いつも土の匂いがした。


まだ日が高くならないうちに起きて、

父と一緒に畑へ出る。


露で湿った土を踏む感触は、嫌いじゃない。


足の裏に、ちゃんと生きている感じが伝わってくる。


「重くないか?」


父が振り返って聞く。


「平気だよ」


木箱を抱えたまま、そう答えると、父は少しだけ笑った。


大きな手。


日に焼けた顔。


強くて優しい尊敬する父だ。


母はその間、家で朝の準備をしている。


僕が戻る頃には、いつも温かいスープができている。


それが、僕の日常だった。


特別なことは何もない。


貧しいけれど、幸せなんだ。


僕は、人間の子として生きていた。


その違和感は、最初、胸の奥に小さく生まれた。


何かが、変だ。


息を吸ったとき、

空気が、少し重い。


「……?」


立ち止まった僕を見て、父が眉をひそめる。


「どうした?」


答えようとした、その時。


世界が、きしんだ。


音じゃない。


匂いでもない。


嫌悪感。


吐き気がするほどの、

生き物として拒絶したくなる感覚。


身体が、勝手に震えだす。


「家に戻るぞ!」


父が僕の腕を掴む。


その瞬間


遠くから、足音が聞こえた。


重い。


一歩一歩が、地面を踏み潰しているような音。


黒い影が、道の向こうから歩いてくる。


人の形をしている。


でも、人じゃない。


身体の周りを、黒い靄がまとわりついていた。


見た瞬間、理解してしまった。


近づいてはいけないもの。


「……魔、族……」


父が、絞り出すように呟いた。


僕はその言葉を、ちゃんと理解していなかった。


でも、父の声の震えだけで、十分だった。


母が家から飛び出してくる。


僕を見るなり、強く抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だから……」


そう言いながら、

母の心臓が、早鐘のように鳴っているのが伝わってくる。


魔族は、歩いてきた。


逃げることもできない

足が、動かない。


視線が合う。


目が、合った。


底の見えない、暗い瞳。


その奥で、何かが蠢いている。


まるで

僕の中を、覗いているみたいだった。


「あ……」


声が、出ない。


父が前に出る。


震えながらも、

必死に、僕と母を背に庇う。


「来るな……!」


剣も、魔法も、持っていない。


ただの人間だ。


それでも、父は立った。


その背中を見た瞬間、

胸が、ぎゅっと締め付けられた。


ああ、父さん、


そう、思った。


次の瞬間。


黒い靄が、弾け飛んだ。


衝撃で、思わず目を閉じる。


耳鳴り。


風圧。


恐る恐る目を開けると

魔族は、膝をついていた。


胸から、赤黒いものが噴き出している。


背後に、誰かが立っていた。


長い耳。


しなやかな体。


緑がかった瞳が、冷たく光っている。


エルフの少女だった。


剣を振り抜いた姿勢のまま、

一切の無駄がない。


魔族が、ゆっくりと倒れる。


その瞬間、

魔族は、僕を見た。


死にゆく目で、

確かに、僕を見ていた。


何かを言いたそうに

でも、言葉はなかった。


完全に、動かなくなる。


「……遅くなってごめんなさい」


エルフの少女が、そう言った。


声は、落ち着いていた。


まるで、

こういう場面に慣れているみたいに。


「怪我は?」


父と母は、言葉を失っていた。


僕は、ただ

その姿を、見ていた。


強い。


迷いがない。


恐怖よりも先に、

胸の奥が、熱くなった。


かっこいい。


それだけが、頭に浮かんだ。


少女は、僕と目が合うと、少しだけ驚いた顔をした。


「……よく頑張ったね」


僕は、うまく頷けなかった。


喉が、詰まっていた。


少女は、ふっと微笑んだ。


「大丈夫。もう終わったよ」


その笑顔が、

なぜか、焼き付いて離れなかった。


その日、国は大騒ぎになった。


「魔族が現れた」

「数千年ぶりだ」


大人たちは、難しい顔で話していた。


でも、僕は興奮していた


頭の中に、

あの背中が、何度も浮かぶ。


剣を振るった瞬間。

立ち姿。

迷いのない目。


僕も、あの人になりたい。


人間でも。


弱くても。


そう、強く思ってしまった。


それが、

僕の人生を決めた瞬間だった。


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