61話 「村長の訪問」 朝、バルスが無い真剣な顔でシオン宅を訪れる。
朝の光が柔らかくエルデン村の小さな家々を包み込む頃、シオン・アーデルの家の扉が静かにノックされた。
リビングで即席の農具の整備をしていたシオンが顔を挙げて、そこには村長のバルス・ドランがいつでもなく真剣な表情で立っていた。
「おはよう、村長。こんな朝早くどうしたんだ?」
バルスはにこやかな顔を見せているもの、その瞳の奥には複雑な思いが隠されている。
「おはよう、シオン。すまんな。今日はちょっと、村のことで相談があってな……」
シオンは農具を脇に置き、椅子を一つ暖かくして村長を座らせた。
「ミリィ、茶を持ってきてくれます」
10歳のミリィが少し茶碗と湯呑みを盆に乗せてリビング続けてきた。 彼女のいたずらっぽい目が村長を一瞬見つめて、無言のままお茶を差し出した。
バルスは軽く下げて、「ありがとう、ミリィ」と返します。
「さて、本題ですが……」
彼は重い口調で言葉を慎重に選びます。
「この村をもっと良くしていきたいと考えている。戦いのないこの静かな土地に、若い人の未来をしっかり作り直してやりたいと思っているんだ」
シオンは黙って村長の言葉を受け止める。
「具体的にはどういうことだ?」
「うん、農道や水路の整備、若者が村に出ていなくても暮らせるような環境作りのことだよ。村のトラブルも増えてるしな……」
「なるほど。確かに農業のやり方やインフラ整備が村の未来に直結するな」
ミリィが興味津々でバルスに挑む。
「村長さんは、毎日どんなことを考えているの?」
バルスは穏やかに微笑み返します。
「それはね、ミリィ。村が平和で幸せでいられるように、皆が助け合って暮らせるようにってことだよ」
シオンは心の中でかすかに笑う。戦わない勇者として選んだこの道は、こんな日常を守ることなの。
「シオンさん、あなたの経験がここで役に立つと思います。何か知恵があれば、ぜひ教えてほしいです」
バルの目の差しは真剣であり、またどこか期待があった。
「そうか……村をもっと良くしたいとな」
シオンは軽く聞いて考えを巡らせます。
「確かに、このままじゃ若者たちも夢を追うために村に出て行くしか道はなくなる。俺もかつては世界を救うために旅立ったがな」
バルスは肩をすくめ、勝手に続ける。
「なんだかんだで、試合の無い暮らしが一番だ。でも、そこへ続く道は恐ろしかった」
部屋の隅でミリィが小皿のお菓子をつまみながら顔を上げた。
「村長さんは、なかなか村のことを考えますか?」
バルスは柔らかい声で不安。
「それはな、村で生まれ育った者として、みんなの幸せを守りたいからだよ。うちのような若い力がなければ、未来は開ける」
「ふむ……シオン、ここで暮らすことを選んだあなたの知恵は、必ず村の助けになるはずだ。何かいい案はないか?」
シオンは少ししかめつつも、やや曖昧に答えた。
「戦えなくなったからと言って、無力になったわけじゃない。農業や村の道、問題は多いだろうが、罠の設置や罠を使う代わりに排水溝を改善するとか、機械まで無理でも簡単な土木の工夫なら俺でもできる」
バルスは目を輝かせて、「それは頼もしい。近々村で言っておいて、みんなと一緒に方法を探ろうじゃないか」と言った。
シオンはふと、村長の家族写真の飾られた壁をちらりと見る。 そこには笑顔の妻と孫たちの姿があった。
「家族がいてこその村長なんだな……」
と、心の中で真剣を抱きながら、戦わずとも守りたいものがここにあることを確認した。
「ありがとう、バルス。俺もお前に頼られたなら、とことん力を貸す」
バルスは満足そうですにきき、「これからも色々と相談に乗ってくれますよ」と微笑んだ。
ミリィも満面の笑みで、「私もお姉ちゃんの力、もっと見たいな!」と元気に話しました。
その日の訪問は和やかな空気の中で終わり、新しい日常の一歩が静かに刻まれたのでありました。




