表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/61

52話 前世の記憶 ミリィの心に断片的に蘇る前世の記憶。

 村での初めての夜。ミリィはひとり、リアナの家の窓辺に座っていた。祭りの残り韻と、見慣れぬ景色の新しさ――だがその心は静かに波立っていた。


「……なんだろう、この感じ」


 目を閉じて、村のざわめきが遠くに消えて、小さな自分の内側に、何か懐かしい響きが始まります。 それは「思い出」と呼ぶには不安で、ただ柔らかな光と影の部分だった。



 ――石造りの高い建物、陽だまりに広がる庭、白い回廊に立つ小さな人物像。


「お姉ちゃん……ここは、前にも見たことがある。ぜったいに」


 ミリィはほんの少しかな共視に包まれる。どこか「前世」のような夢の奥底、永遠の時間へ繋がる小さな扉が心に開かれようだ。


 足聞こえる。誰かが呼ぶ。名前を呼ばれるたびに、胸がきゅっと締めつけられる。



 薄いベールに包まれた「記憶」――昔、手を抜けた優しい手。 


「魔法があって、約束があって……」


 言葉にならない感情が心を満たす。思い出してはいけない、思い出だけにいられないもの。


「……あれは夢、なのかな。でも夢じゃない気もする」



 ふいに涙が滲み、ミリィはきつく目を閉じる。


「わたし、昔、とても大事な人と別れた気がする。お一番だったかな……」


 前世の自分が何者であったかは思い残る。でも「家族」だった、という強い信念だけが心に残る。


「わたしは誰?どこから来たの?お兄を守るために……何か、すごく大事なことがあった気がする」


 窓の外の星がちらちらと輝く。



 明くる朝、村の坂道を歩くミリィとリアナ。


「ねえ、リアナさんって、昔のこと、ぜんぶ覚えてる?」

「うーん……昔のことは、忘れちゃうものよ。どうして?」

「私……時々、違う場所で目が覚めるの。昔の夢の中で、誰かをすごく大事にしてるの」 「夢だけど、とても本当のことみたいに感じるの?」


 リアナはそっと微笑む。 「魂は昔の記憶を少し持ってるって、村長老が言ってた。いつか自然とわかるようになるよ」



 村の小川のほとり、ミリィは石の上に腰を下ろす。


「前にも、ここで誰かと遊んだ気がする。手が、小さくて冷たくて――でも、すごく安心した」


 彼女はそっと手を握り締める。


「お兄…………もっと、昔の誰かだったのかな」


 時折、心の奥に現れる「前世の約束」の残像。 それは、ミリィを一人きりの世界に閉じ込めるためにはなく、今は穏やかな光のように背中を押す。


 その夜、ミリィは浅い眠りの中に不思議な夢に迷った。

 広大な石造りの回廊。 黄色い光と冷たい影が交錯する場所。 自分より背の高い男の子が、ずっと先を歩いている後ろ姿が見える。


「待ってよ——お姉ちゃん!」


 ――夢の中のシオンは、彼女を守りながらも、何かを背負い、

 遠くへ行こうとしていた。


「仕方ないで。私、ちゃんと覚えてるよ。一番大事な約束も……」


 その声が宙に溶け、石畳の下から淡い光が溢れる。手のひらに乗せた古いコイン、あの日、兄が握ってくれたのものだ。



 回廊には他にも様々な夢の断片、記憶のカケラが広がるばる。

 誰かの温かな手の

 歌声に乗る子守唄

 夜の窓辺で交わった「また会おう」の約束

 と血と、涙と——それでも最後にはいつも光の粒が舞っていた。


 それは前世で果たなかった約束なのかもしれない。

 今世で叶えてほしい祈りなのかもしれない。


「大丈夫。わたし、もう一度お兄さんと歩くためにここへ来たんだ。」



 朝、夢からふと目覚めて枕元には、小さな涙の痕。

 ミリィはじっと拳をにぎり、窓の外の光を見る。鳥の声、朝焼け、そして村の静かな呼吸——すべてが新しい出発の合図に思えた。


「前世のことはもういい。だけど、わたしは絶対に忘れない。お次と一緒にいた記憶も、この村でみんなと生きる今も」



 リアナが「今日は一緒に畑を手伝う?」と言う。


 草の匂い、土の温もり、時折よみがえる「どこかで経験した懐かしい動き」。そのすべてが自分の一部であり、目に見える

 誰かの一部でもある気がする。


 シオン忘れ違うたび、彼に話しかけられた。でも胸の奥では「前世の約束」「再会の意味」「今の自分」を天秤にかけると微かな痛み。


 ――でも、一応ミリィは思います。


「ほんとの家族になるって、こうやって何度も重ねていくことなんだ」



 夕暮れ時、ミリィは川辺の石に座り、空と自分の手のひらをゆっくり見つめる。

 前世の光も影も、全部「いま」を照らす道しるべになる。


「大丈夫。わたしはここにいる。何度生まれ変わっても、お姉ちゃんと、みんなと、幸せでいたいから」


 冷たい風が頬をなしても、ミリィは笑いながら立ち上がる。



 夢と現実、前世と今が重なり合いながら、確かな温もりが少女の心を満たす。 まだ途切れがちな

 記憶と成長の——それでも、これから始まる家族の日々を、輝よりけるための鍵になるはずだった。


 ミリィは歩き出す。その足音は新しい一歩。

 前世の自分に手を振り、今の自分を懸命に生きるため。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ