52話 前世の記憶 ミリィの心に断片的に蘇る前世の記憶。
村での初めての夜。ミリィはひとり、リアナの家の窓辺に座っていた。祭りの残り韻と、見慣れぬ景色の新しさ――だがその心は静かに波立っていた。
「……なんだろう、この感じ」
目を閉じて、村のざわめきが遠くに消えて、小さな自分の内側に、何か懐かしい響きが始まります。 それは「思い出」と呼ぶには不安で、ただ柔らかな光と影の部分だった。
――石造りの高い建物、陽だまりに広がる庭、白い回廊に立つ小さな人物像。
「お姉ちゃん……ここは、前にも見たことがある。ぜったいに」
ミリィはほんの少しかな共視に包まれる。どこか「前世」のような夢の奥底、永遠の時間へ繋がる小さな扉が心に開かれようだ。
足聞こえる。誰かが呼ぶ。名前を呼ばれるたびに、胸がきゅっと締めつけられる。
薄いベールに包まれた「記憶」――昔、手を抜けた優しい手。
「魔法があって、約束があって……」
言葉にならない感情が心を満たす。思い出してはいけない、思い出だけにいられないもの。
「……あれは夢、なのかな。でも夢じゃない気もする」
ふいに涙が滲み、ミリィはきつく目を閉じる。
「わたし、昔、とても大事な人と別れた気がする。お一番だったかな……」
前世の自分が何者であったかは思い残る。でも「家族」だった、という強い信念だけが心に残る。
「わたしは誰?どこから来たの?お兄を守るために……何か、すごく大事なことがあった気がする」
窓の外の星がちらちらと輝く。
明くる朝、村の坂道を歩くミリィとリアナ。
「ねえ、リアナさんって、昔のこと、ぜんぶ覚えてる?」
「うーん……昔のことは、忘れちゃうものよ。どうして?」
「私……時々、違う場所で目が覚めるの。昔の夢の中で、誰かをすごく大事にしてるの」 「夢だけど、とても本当のことみたいに感じるの?」
リアナはそっと微笑む。 「魂は昔の記憶を少し持ってるって、村長老が言ってた。いつか自然とわかるようになるよ」
村の小川のほとり、ミリィは石の上に腰を下ろす。
「前にも、ここで誰かと遊んだ気がする。手が、小さくて冷たくて――でも、すごく安心した」
彼女はそっと手を握り締める。
「お兄…………もっと、昔の誰かだったのかな」
時折、心の奥に現れる「前世の約束」の残像。 それは、ミリィを一人きりの世界に閉じ込めるためにはなく、今は穏やかな光のように背中を押す。
その夜、ミリィは浅い眠りの中に不思議な夢に迷った。
広大な石造りの回廊。 黄色い光と冷たい影が交錯する場所。 自分より背の高い男の子が、ずっと先を歩いている後ろ姿が見える。
「待ってよ——お姉ちゃん!」
――夢の中のシオンは、彼女を守りながらも、何かを背負い、
遠くへ行こうとしていた。
「仕方ないで。私、ちゃんと覚えてるよ。一番大事な約束も……」
その声が宙に溶け、石畳の下から淡い光が溢れる。手のひらに乗せた古いコイン、あの日、兄が握ってくれたのものだ。
回廊には他にも様々な夢の断片、記憶のカケラが広がるばる。
誰かの温かな手の
歌声に乗る子守唄
夜の窓辺で交わった「また会おう」の約束
と血と、涙と——それでも最後にはいつも光の粒が舞っていた。
それは前世で果たなかった約束なのかもしれない。
今世で叶えてほしい祈りなのかもしれない。
「大丈夫。わたし、もう一度お兄さんと歩くためにここへ来たんだ。」
朝、夢からふと目覚めて枕元には、小さな涙の痕。
ミリィはじっと拳をにぎり、窓の外の光を見る。鳥の声、朝焼け、そして村の静かな呼吸——すべてが新しい出発の合図に思えた。
「前世のことはもういい。だけど、わたしは絶対に忘れない。お次と一緒にいた記憶も、この村でみんなと生きる今も」
リアナが「今日は一緒に畑を手伝う?」と言う。
草の匂い、土の温もり、時折よみがえる「どこかで経験した懐かしい動き」。そのすべてが自分の一部であり、目に見える
誰かの一部でもある気がする。
シオン忘れ違うたび、彼に話しかけられた。でも胸の奥では「前世の約束」「再会の意味」「今の自分」を天秤にかけると微かな痛み。
――でも、一応ミリィは思います。
「ほんとの家族になるって、こうやって何度も重ねていくことなんだ」
夕暮れ時、ミリィは川辺の石に座り、空と自分の手のひらをゆっくり見つめる。
前世の光も影も、全部「いま」を照らす道しるべになる。
「大丈夫。わたしはここにいる。何度生まれ変わっても、お姉ちゃんと、みんなと、幸せでいたいから」
冷たい風が頬をなしても、ミリィは笑いながら立ち上がる。
夢と現実、前世と今が重なり合いながら、確かな温もりが少女の心を満たす。 まだ途切れがちな
記憶と成長の——それでも、これから始まる家族の日々を、輝よりけるための鍵になるはずだった。
ミリィは歩き出す。その足音は新しい一歩。
前世の自分に手を振り、今の自分を懸命に生きるため。




