51話 ミリィの登場 古い林道を歩く少女ミリィが村に勢いよく着く。
秋が咲き、朝の霞が林を淡く染める季節。 エルデン村へと続く古びた林道――その端に、小さな影が揺れていた。
少女はまだ近い。 短い髪、よく日に焼けた頬、年季の入ったマントに厚い手のブーツ。 身なりは粗末ながら清潔で、その動きには目に見えない気安さが漂っている。
「ふぅ……、もうちょっと、もうちょっとで村!」
軽い息をあげて、ミリィは道端の石をひょいと飛び越える。小柄な体に不思議な生命力。林を抜ける風。木々の葉がうす黄色にゆれて、少女の薄紫のスカートがふわりと広がる。
「おっきい村じゃなくてもいいんだよ。シオンがいるなら、それでいいの」
本能的で真っ直ぐな口調は、長い旅路を物語っている。背を伸ばし、前方へ迷いながらミリィは足を早める。その背中には小さな布の鞄。自分で縫ったという刺繍が、かろうじて許されるくらいの文字で「ミリィ」と記されている。
「お兄ちゃん、今頃何してるかな」
ぼそりと呟く声は誰にも聞こえない。でも、彼女自身には十分な勇気を与えていた。
「きっと、変な顔して待ってる。起きてるかも。もしかして、ぜったい泣きそう」
その顔には、幼いながら慈しみと少しだけ大人びた寂しさが見える。林道の先に見える石橋、川のせせらぎ、突き当たりの小さな村の案内板――。
「はやく会いたいよね、シオン」
風が少女の服を広げ。心に結んだ色あせたリボンが、まるで誰かの思い出を空に返すように揺れていた。
踏み固められた土の道。 子供の背丈ほどの雑草が左右に伸びる。 ミリィはそれらを押し分けながら、眩しい日差しとともに村の入り口へ飛び出す。
「ここが……エルデン村?」
村の全景に目を凝らせば、秋の収穫でにぎわう畑や、遠くに煙を上げるパン工房の屋根。
「うわー、すごい!こんなにいっぱいおうちがある!」
声は意図せず高い。村人たちが驚いて振り返る。 一部の農婦は笑顔で迎えてくれるが、多くは注意の目を向ける。
「誰か来たぞ」
「なんだか小さな旅人だね」
「この道は危ないのに……」
ミリィは怯える傍ら、大胆と胸を張る。
「こんにちは!えっと、シオンって人はいませんか!お兄さんに会いにきました!」
その真っ直ぐな大声が、村に新しい風を呼び込む。
村人たちはミリィの服装を興味深く眺めていた。
「やっとくたびれたマントだなぁ。自分で縫ったのか?」
「その靴、もう何度も修理した跡があるね」
リアナが優しくて。
「大きな旅をしてきたの?」
「うん、すっごく長く歩いた。でも、お腹はぜんぜんすいてない!……今はちょっとすいてるかも」
リアナは笑って、「疲れたでしょう?パンを焼いてるから、少し休もうね」と手を出しました。
ミリィは「あ、でもシオンに伝えてほしい!」と何度も念を押した。その姿は村に溶け込むというより、前向きに波紋を広げる強さがあった。
焼きたてのパンをならべるノルが、ニコニコと伺います。
「お兄さんに会いに来たって?シオンの妹かい?」
ミリィは大きく聞こえます。
「どこから歩いてきたんだ?」
「んーっと……いっぱい遠いところ。途中でちょっとだけ本当に寝ちゃったけど、大丈夫だった!」
村人の誰もがその元気さと素直に微笑を許せる。
「シオンなら、今畑にいるはずだよ。パンをごちそうしてから案内してあげる」
ミリィはパンを片手に、ご機嫌で村を見回す。
林道から村への流れ。ミリィの到着は、静かな村の日常に色鮮やかな変化をもたらしていた。背伸びした声と弾む足取り。彼女が歩くごとに村に小さな渦が進んでいた。
(この村で、始まろう。お兄ちゃんと、みんなと、幸せになれるといいな!)
ミリィは焼きたてのパンを頬張り、目を輝かせて村の奥へ進んでいく。
焼きたてのパンを頬張りながら、ミリィはリアナに手を出してひかれて村の中心部へ向かう。 「こっちが水車小屋よ」「あ、川がぴかぴか!」と指さしてはしゃぐミリィ。
「お兄、ちゃんとご飯食べてるかな」
「シオンはすごい食いしん坊だよ。村に来てから、おかわり盛り上がってる」
「ふふ、やっぱり!」
パンを分けてくれたのノルの妻マルタが、「あんた、村までひとりで歩いてきたの?」と優しく声をかける。
話すたびに笑顔を見せ、強がりと無邪気さが村人たちに染み渡っていく。
「見て!旅人だ!」
「本当に女の子一人で来たの?」
「すげー!」
「ねえ、君も鬼ごっこする?」
ミリィは胸をドキドキさせます。見慣れない風景、人々のまなざし、少しの不安とたくさんの期待が胸いっぱいになります。
「お兄、早く……お兄……」と呟きながら、また歩みを進めた。
「今、ちょっと畑だね。場所がシオンの仕事なの」
リアナの指さす丘の向こうに、畑の小さな人影が見える。
「すぐに戻ってくるから、お茶でも飲んで待ってて。」
「うん、待ってるよ!久しぶりだもん」とミリィは大きくうなずく。
「パン、おいしい!」
「このお花、かわいい!」
「こっちの道、ふかふかだ!」と興味津々、村の空気を全身で堪能していました。
リアアナの家で温かいミルクとビスケットをもらい、ミリィはふと窓の外を見ながら、心の奥で小さな回想を楽しんでいた。
(ここまで来るの、大変だった。でも、また会えたとしたらきっと、新しい毎日が始まる……)
「……ミリィ?」とリアナがそっと問いかけます。
「大丈夫、私は強いんだから。二人でまた、あったかいご飯が食べたい。いっぱい話したい。……おっと、きっとびっくりするだろうな」
ミリィは机の上で一度だけ小さな拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がる。
リアナがそっと背中を押します。
パンくずを払い、胸を張ってミリィは畑の方へ歩き出す。 子供達の背を追い、村人が遠くで見守る。 柔らかな午後の光の下、小さな少女は初めての「家族への道」を――ひたすらたじろがず、足早に駆けていく。
その日初めて村に生まれた新しい風と共に、エルデン村の物語は新章になって静かに理解していました。




