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49話 エミリアの新たな居場所 次第に村の共同作業や行事に溶け込んでいくエミリア。

 秋の住みりとともに村は収穫の季節を迎えた。 朝日が霧を裂いて降り注ぐ中、エミリアは畑の隅に立っていた。 リアナたち村の女衆とともに、さつまいもを掘り出す作業に参加する。


「エミリアさん、こっちの畝は根が深いから、スコップより手で探ったほうが早いですよ」

「なるほど……こうやって、少しずつやるのね」


 エミリアの手付きは最初ぎこちなかったが、リアナが笑って手本を見せてくれる。土の幻。こびりついた泥も、太陽の温もりも、彼女には新たな心地よい刺激だった。


「あら、土まみれの魔導士って見たことないかも」

「都会では、魔法で一瞬でしたから……」


 作業は時間がかかる。でも、時間の重なりと会話の層が、村の人々との距離を少しずつ縮めてゆく。



 収穫の合間には、子供たちが駆け寄ってきます。


「ねえエミリアおそば、見て!さつまいもがヘビみたい!」

「ほんとね、これなら怪獣ごっこができそう」


 子供達エミリアの周囲に輪になり、摘んだドングリや不思議な形の木の実を見せびらかす。


「魔法でドングリを踊ってみて!」

「うーん……踊るにはドングリの『やる気』が必要かも」

「お気軽、魔法って何でもできるんでしょ?」

「できることと、やっちゃいけないことはちょっと違うのよ」

「じゃあ、魔法よりダンスのほうがいいね!」


 エミリアの脳裏には、都の堅気な儀礼では得られなかった、子供たちの素朴な好奇心と笑顔が残る。



 昼時。畑の仕事から戻ったエミリアは、パン屋ノルの前で手伝いに呼ばれる。


「エミリアさん、ちょっと手ぇ貸してくれます!この大きな籠、ひとりじゃ持ちれん」

「わかりました。よいしょっ……ずっしりですね」

「魔法使えるなら、バンっと飛ばしてほしいもんだけど」


 ノルは豪快に笑いながら、少しは目の奥の不安が消えていた。


「この村じゃ、みんな体を動かすのが好きなんですよ」

「……魔法は便利だけど、人の手ってやっぱり力強いものですね」

「そうそう!魔法じゃじゃあ“味”もあるからな」


 パンの香りと笑い声に包まれて、エミリアの心も知らず知らずほどッテいた。



 秋祭りの日。村の中心で収穫を祝う輪が組まれる。エミリアには内心、ひそかな不安があった。「自分が輪の内側にあっていいのか」という迷い。


 リアナがそっと声をかける。


「おもい、今日は一緒に踊ろうよ」

「こんな場で……大丈夫かしら」

「何を気にしてるの。だって、もうみんな仲間だと思ってるよ」


 エミリアは少しのためらいながらも、村人たちに手を引かれて輪にかかる。


「エミリアさん、踊り上手ですね!」「いや、お手本見てるだけよ」


 その言葉に、エミリアの心に温かい何かがあった。



 祭りの終わり、焚火を囲んでパンと果実を頬張りながら、グレンがしみじみ話す。


「ここに来て、あんたも変わったな」

「見える?」

「ああ、最初は“異邦人”だったが、今は“仲間”の顔になった」


 子供たちが花冠を編みながら差し出す。


「お考え、これあげます!」

「ありがとう……とても嬉しいわ」


 エミリアは花冠を頭に乗せて、村人たちに囲まれて「私は“誰でもない”、ただの自分でいいんだ」と静かに思う。



 夜更け、エミリアはひとり井戸端に座った。


(「監視者」ではなく、「特別な魔導士」はない。ただ村人として、手を動かし、笑い合い、土を踏みしめる……この時間、私の新しい居場所はないかもしれない)


 ささやかな安心と、明日への期待が胸に灯る。


 秋祭りが佳境に入ると、エミリアは村人の輪に会いに行って、賑やかな声と笑い声に包まれていた。



「エミリアお考え、あの魔法の炎って、どうやって手を抜けないの? 」


「心を込めて火を扱うこと。火も生き物みたいなものだから、乱暴に扱って怒っちゃうのよ」


 子供は目を輝かせて、他の子供たちも寄ってきて興味津々のまなざしを向けています。


「お勝手、魔法ってこわいんじゃなくてやさしいんだ!」

「そうだよ、使い方次第。怖がるばかりじゃなくて、ちゃんと知ってほしい」


 その瞬間、小さな手のエミリアの手をしっかりととった。彼女は少し照れながらも、心の奥で温かな確かな真実を思い出した。



 夜も更けた頃、鍛冶場の暖かい炉の前でエミリアとグレンが静かに話していた。


「お前は村のことをよく考えているな」

「村を見て、魔法をどう使うべきか、自分も考えているの」


 グレンはふと聞こえる。


 言葉に重みがあり、エミリアは静かに感謝の意を伝えた。



 ある日、エミリアは畑で転び、泥だらけになった。 子供達は最初は思ったが、すぐにそっと手を差し伸べる。


「大丈夫?服が汚れたね…」

「ありがとう、助かるわ」


 「都会の魔導士様も、こうやって泥にまみれて生きてるんだね」


 エミリアははにかみながらも、「そういう自分も好きになれそう」と思った。



 村の夜空の下、火を囲む輪の中で、エミリアは静かに語った。


「私にとって“普通”であることは、昔は想像もできなかった。でも今、この場所で、泥の幻も笑い声も、心の安らぎに変わりつつある」


 「『普通』が一番難しい。でも、その一歩を踏み出してあなたはもう、ここに生きている」



 日々の小さな積み重ねが、エミリアを変えていた。

彼女は「監視者」や「特別な魔導士」ではなく、「誰かと共に生きる村人の一人」として静かに居場所を目指し始めていた。


 その足跡は、まだかすかで頼りないかもしれない。 一応、彼女の心は順調に進んでいた。

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