40話 シオンの内面の変化──グレンや村の人々との関わり
シオンは鍛冶場の裏の畑で、ひとり土をいじっていた。 かつて
の自分は「勇者」として注目されつつ、強さと義務に縛られ続けた。
「こんなにも静かな朝を、不安なく迎えたのは何年ぶりだろう……」
グレンの金槌の近くから聞こえ
た。
いつか、新米のタカシが頼りなく声をかけてきます。
「シオンさん、ちょっと手、貸してくれませんか。鍬の使い方が限りで……」
「わかった、今行く。でも俺もコツを覚えたばかりだから、一緒に悩みもう」
二人で土にまみれながら作業すれば、近くの子供達が笑顔で頑張ってくれます。
「お兄、はありがとう!」
「今度は一緒に畑でかけっこしよう!」
都会にいた頃は役割だけで評価され、こうして心を動かして居場所がなかったことに、ふと言われる。
夜。鍛冶場に寄ると、グレンが炉の前で待っていた。
「シオン、君、なんだか最近いい顔になったじゃねえか」
「本当ですか……自信なんて全然ないですよ。でも、前より落ち着くようになった気がします」
「人はな、失敗しても逃げても、何度だってやれる。お前がそうしていい場所が、ここにはある」
グレンの言葉は、過去の傷や「勇者」という重荷をそっと癒やしてくれる。
ある雨の夜、リアナが涙目で鍛冶場に駆け込む。
「一緒に行こう」
シオンは迷わず行動した。 平行村人が集まり、水をかき出し、みんな声をかけた 。
「自分が誰かの役に立っている。さっきで、胸がいっぱいになったな……」
昼下がり、パン職人ノルの店の前で、エミリアが声をかける。
「シオンさんは初めて来たときより、穏やかになりましたね」
「村のみんなは、シオン話すだけでも元気になります」
の存在が「そのままで受け入れられる」場所。
日が沈み、畑に立つシオンは、ふと村の景色を眺める。
「ここは、私の“帰る場所”になれるかも……」
これまでの自分は、強さや役割に追われ続けたばかりだった。
ただし今は、小さな助けや日常の輪に耐えることで、生きていて素直にいいと思う。
「明日もまた、誰かのために何かをしてみよう。そう思い自分がいる」
静かな決意が胸に宿る。
深夜、雨のしずくが鍛冶場の屋根を叩くなか、シオンは炉の火を見つめていた。
「――あの頃は、誰かに弱さを見せるのが怖かった。強く生きていけないって信じてた」
隣に座るグレンが、火箸をいじりながら応じる。
「人間、一人じゃ生きられねぇよ。俺もこの村に来るまで、ずっとそう思ってた」
「グレンさん……。僕にはもう、“何者かにならなきゃ”って焦りません。こうして火を囲んで、みんなの顔を思い出して、明日を考えられる自分になれた気がします」
いつか、エミリアと道を歩くシオン。 エミリアが優しく微笑む。
「私も失敗ばかりよ。でも、誰かと一緒にいると、またやってみようと思っています。
シオンさん、あなたはもう十分、勇気を持っていると思います」
「……昔の僕は、弱さを抱えていることが怖くて仕方なかった。でもいまは、弱いさを隠しながら支え合う方が、本当の勇気だと思います」
夏の祭りの夜。村の人々が大きな焚き火を囲み、パンや果実を分け合っている。
シオンの隣でノルが酒を酌み交わします。
「ここが家族なんだな。村の仲間と笑い合える場所がある。ついでに気づいた時、もうそ者じゃないと思うよ」
シオンは焚き火に手をかざしながら穏やかな声で言葉を続ける。
「ここが僕の帰る場所です。強さより、優しさ、励まし、許しし、そういうことの重みを、この村の人たちに教えてもらいました」
祭りが終わり、静けさの中、リアナがシオンに手を差し出す。
「ありがとう、シオンさん。あなたがここに来てくれて本当に良かった。これからも一緒に、生きていきたいです」
シオンは、かすかな照れとともにしっかり手を握り返します。
「僕も、この村のことで、みんなと歩きたい。『勇者』じゃなくても、誰かを支え、支えられても大丈夫。そのことが、たぶん……一番大切なんだと思います」
シオンはパン屋の前、畑の入り口、鍛冶場の扉の前――村のどこで挨拶を返しても、自然な笑顔を見せている 。
「おはよう、シオンさん!」
「今日もいい一日になりそうだね!」
ほんの少し前まで感じていた迷いも不安も、笑顔の中に溶け込んでいきます。
シオンの心には新しい芽が静かに息づいていた。
「もう自分を無理に大きく見せなくていい。ここにいて、誰かと支え合いながら生きていく。それが僕にとっての『生きる強さ』なんだ」
グレンや村人たちと共に、彼は新しい自分を愛おしむように、一歩ずつ歩み出していきます。
――村人たちの輪の中で、シオンの『新しい物語』が、今始まったのです。




