28話 村人たちの個性紹介
鍛冶屋グレン――《炎と笑いと、村の要》
「おい、シオン! まさかまた鍬を折っちまったのか? 今度はギザ刃で強化仕上げだ!」
グレンの鍛冶場は朝から火花が舞い、焼けた鉄と煤の香りで満ちている。
大きな体躯と豪快な笑い声で村の子供たちも親しみをこめて「グレンじいちゃん」と呼ぶ。
「すまない、グレンさん。また世話になる」
「へっ、気にすんな。鍛冶屋の仕事は、困ったときこそ本番だ! 道具の命は手入れ。お前はだいぶ泥だらけで頑張ってるが、この村じゃサビにも強くならなきゃな!」
グレンは、村に来たばかりの頃のシオンの不器用な手付きを、今では笑い話にしている。
「この鉄みたいに、どんなに叩かれても鍛え直せるのが人間ってもんさ。お前も道具も、みんな一緒に育っていくもんだぞ!」
彼の鍛冶場には、時々リアナや子供たちも「火の番」や「釘拾い」を手伝いにやってきて、グレンの流儀と冗談に村の生命力が宿る。
薬屋エミリア――《知と優しさ、観察のひとみ》
薬屋の店内はいつもハーブと蜜蝋の香り。
エミリアは白衣姿で、忙しく調剤や処方を書きながらも、誰にでも等しく落ち着いた声で答えてくれる。
「シオン、昨日ミリィが蜂に刺されたって聞いたけど、大丈夫だった?」
「エミリアが作ってくれた軟膏で、すぐ腫れが引いたよ。本当に助かった」
「村の薬屋は“ちょっと困った”の相談所。畑の害虫も、子供の夜泣きも、まずはここに持ち込んで。悩みも処方も、一緒に探していくのが私の流儀なの」
エミリアは、“観察ノート”に細かく村の変化や人々の健康状態、天気や作物の出来なども記録している。
「医者じゃなくても、毎日の小さな違和感に気付けるのが、村の薬屋の強みよ。いつでも遠慮なく来てね」
パン職人夫婦 ノルとカネ――《焼きたての香り、分かちあいの幸せ》
村の通り一番の朝はパン屋のオーブンの音で始まる。ノルは黙々と生地をこね上げ、カネは明るい声で店番をしながらお客と世間話。
「おはよう、シオンくん。今朝は“カボチャとヒマワリの種のカンパーニュ”だよ。一切れどうぞ」
「カネさんのパンは本当に皆に愛されてますね」
「うちは村の畑やグレンさんの試作品の粉なんかも使ってるの。何が入ってるか、食べてからのお楽しみ」
「みんな、パンを口にして“ああ、今日も村だな”ってきっと思うんだ。村の暮らしに溶け込んでるのは、カネさんたちの優しい味だからかな」
「パン作りはね、難しいなんて思う必要ないの。粉と水と、村のみんなで混ぜればきっと大丈夫!」
ノルとカネ夫妻のパン屋には、毎朝新しいおしゃべりと笑顔が生まれる。パンを分かちあいながら、それぞれの家の“今日”が始まる。
子供たち――《小さな勇者たち、日々の発見》
広場では今日も子供たちの笑い声がこだまする。
「ねえシオンお兄ちゃん! 見て見て、オケラ捕まえた!」
「パン屋のおばちゃん、今日もレーズンパン余った? ぼく一個ちょうだい!」
「グレンじいちゃんの話、本当は全部“うそ”なんでしょ?」
「エミリアお姉ちゃん、ほら、こないだ転んだとこ、ちゃんと治った!」
子供たちは村のあちこちで秘密基地を作り、畑の端で木登りして、パンをかじりながら時には大人びた顔で村の将来について語ってみせる。
「大きくなったら……きっと村長さんになる!」
「ぼくは、グレンじいちゃんと同じに“鉄の剣”作りたい!」
毎日が新しい発見。大人たちは、その眩しさに目を細めて見守る。
夕暮れに溶け込む、それぞれの想い
村の人々がそれぞれの場所で汗を流し、互いの仕事をたずねあい、ときに助け、支えあう。
パンを焼く音、鎚を打つ響き、薬瓶を置く音、子供の駆け足と笑い声――
どれか一つ欠けても、村の日常は成り立たない。
「村の暮らしは、誰か一人の手じゃつくれないよな」
「そう、本当に“みんな”がいるから毎日が生きてくる。うちのパンだって、畑と鍛冶場と、あの子たちの好奇心が隠し味さ」
「それぞれの得意と失敗、家族も親友もよそ者も、全部“村の色”になる」
本当に大切なのは、職人の技や道具だけじゃない。
村人たちは、笑い合い、語り合い、困難を分け合いながら、毎日のささやかなできごとをていねいに積み重ねている。
そんな営みが、村を一つの“かぞく”にしていく。それがエルデン村の日常なのだ。




