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22話 雑貨屋での交流  ――リアナの仕事ぶりと村の日用品

――朝の光がエルデン村の通りを照らし始めると、村の中心にある小さな雑貨屋も静かに目覚める。

軒先のベルがかすかに揺れ、扉がきしみを上げて開かれる。

この店は、村人たちの日々の生活を支える“心臓”のような存在であり、そこにはリアナがいる。


雑貨屋の朝

リアナはエプロン姿で棚を整え、昨日入荷したばかりの品物を手際よく並べている。

パン、干し肉、塩、村で採れた野菜や手作りの石鹸、釘や布――日々の暮らしに欠かせないものばかりだ。


「おはようございます、リアナさん。今日は早いですね」


「おはようございます、おじいさん。昨日、ご注文いただいた麻袋、ちゃんと届いてますよ」


「そうかい、ありがとう。リアナさんは本当にしっかり者だねえ。店のことだけじゃなくて、村の行事にもいつも声をかけてくれるし――」


「そんな、私一人じゃできませんよ。お母さんや村のみんなが手伝ってくれるから、何とかやっていけます」


老人が去るとすぐ、小さな子供たちが駆け込んでくる。


「リアナお姉ちゃん! あの、昨日のお菓子まだある?」


「あら、リクくん、ちゃんとお母さんにお願いしてきたの? 今日は新しいクッキーが焼けてるわよ。ほら、これが一番人気。シオンさんと畑で採れたトマトが入ってるんだから」


「やったー! お兄ちゃんのトマト、お菓子にもなったんだ!」


シオン、雑貨屋を訪れる

店先の賑わいが一段落したころ、シオンが畑からの帰り道にふらりと店に立ち寄る。

リアナは、すぐに見つけて声をかける。


「シオンさん、お疲れさま! 今日はどんな用事ですか?」


「……リヤナの仕事ぶりを見に来た、といったら怒られるかな」


「ふふ、それなら特別に、一番奥の棚までご案内しちゃいます」


「今日は本当に助かったよ。畑の鎌が欠けてしまって……何かいい替え刃はあるかな」


「もちろん! 鍛冶屋のグレンさんが今朝持ってきてくれたばかりなんです。こっちです、付き合ってください」


リアナは機敏に棚を移動し、品物を見せてくれる。


「これが一番丈夫なタイプです、あんまり重くないからシオンさんにも扱いやすいと思います」


「……ありがとう、リアナ。雑貨屋の仕事、随分慣れてきたんだな」


「最初は緊張しましたよ。レジの計算も、最初は間違えてばかりでしたし……でも、村の人が親切にしてくれるから、私も楽しくやれてます」


村の日用品とささやかな工夫

リアナが選んだ商品棚には、村の暮らしを映す品が並ぶ。


手織りの布や糸


古びたランプ用のオイル


家庭菜園セットの種袋


自家製ジャムとピクルス


子供向けの木製おもちゃ


各種野菜や保存食


「この瓶詰めは? 見たことがない色をしてるな」


「それはね、隣村から仕入れたビーツのピクルスなんです。栄養もたっぷりで、村のお年寄りに大人気なんですよ。小さな村だからこそ、ちょっとずつ新しい物も取り入れたいって、私なりの工夫なんです」


「……こんなに色々な品揃え、都会の店にも負けないな」


「都会の雑貨屋は商品も多かったけど、村は必要なものが違うんです。“どの家にも欠かせないもの”を優先して揃えてるんですよ。あと、“みんなが話し合える場所”にもなれたらいいな、って思ってます」


村人たちとリアナ

昼前になると、村の主婦たちが野菜の籠を持ってやってくる。


「リアナちゃん、今朝収穫した小松菜、置いておくわね」


「ありがとうございます、ユカリさん。お礼に、昨日作った石鹸をどうぞ!」


「この石鹸、本当にいい匂い……。リアナちゃん、村の宝ねえ」


リアナは、村人とのやり取りを心から楽しんでいる様子だ。


「シオンさん、雑貨屋の仕事は“便利なものを売る”だけじゃないんです。村の人と話して、困っていることがないか聞くのが一番大事だって思ってます」


「……リアナのおかげで、みんな助かってるんだな」


「いえ、まだまだです。でも、村のみんなが少しでも楽になればいいなって思って――。たとえば、干し肉の保存袋を手作りしたり、釘に油を塗って錆びにくくしたり……。小さな工夫でも喜んでもらえると、すごく嬉しいんです」


二人で考える、雑貨屋の未来

リアナは、ふと真剣な顔をしてシオンに尋ねる。


「……ねえ、シオンさん。村の雑貨屋って、これから何が必要だと思いますか?」


「そうだな……。この村は、みんなが助け合って成り立ってる。リアナが“みんなの役に立ちたい”って考えてるなら、“困ってること”をもっと拾い上げて、その分だけでも解決できたら最高だろうな」


「うん……そうですね。例えば、お年寄りが重たい荷物を持てないとき、配達をしてあげたりとか……あ、子供たちが勉強するためのノートや筆記具も、都会風のものを置いてみるとか……」


「村長にも相談してみたらどうだ? きっと、新しいことにも耳を傾けてくれるさ」


「……そうします。シオンさんって、やっぱり頼りになりますね」


「俺も、リアナに教わることが多いよ。畑のことも、村のことも、全部」


雑貨屋を中心に広がる村の輪

昼下がり、小さな集会が雑貨屋の軒先で始まる。

村の子供たちが集まり、手作りのおもちゃを手に笑い合い、主婦や老人たちが腰を据えて談笑する。


「リアナさん、お花の種、また入りますか?」


「はい、週明けには新しいのが届く予定です。好きなお花があったら教えてくださいね」


「じゃあ、ひまわりが欲しい!」


村の人々が、自然に雑貨屋に集まり、世間話や悩みの相談をする。

そして、ふとした拍子にリアナがシオンを呼ぶ。


「シオンさん、今度、子供たちに畑の野菜で料理教室とかやりませんか? 雑貨屋でみんなが作ったものを売ったり……」


「面白いな。それなら、俺も手伝うよ」


「やった! みんなで村を盛り上げましょう!」


黄昏の店、変わらない日常の大切さ

一日の終わり、雑貨屋にはまた静けさが戻る。

リアナは店の棚を拭きながら、今日の出来事を思い返す。


「毎日同じことの繰り返しみたいだけど、少しずつ、何かが変わっていく気がします」


シオンがそばに立ち、ささやかに微笑む。


「リアナのおかげだよ。雑貨屋が、村のみんなの“輪”になってる」


リアナは、少しはにかみながら頷いた。


「……もっとみんなの役に立てるように、がんばります」


「俺も、隣人として、友達として、力になれることがあれば、いつでも呼んでくれ」


「はい……今日は、ありがとう、シオンさん」


窓の外では、夕焼けが村を静かに染めていた。

雑貨屋からこぼれる明かりが、村人たちの日々をあたたかく見守り続ける――

小さな交流の積み重ねが、村での新しい幸せのかたちを生み出していくのだった。

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