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14話:村人たちの知恵袋  ――リアナ、グレン、エミリアからの助言

――朝の光が畑を照らし始める頃、シオンは鍬を片手に、昨日蒔き直した種の畝を見つめていた。

土の表面にはまだ何の変化もない。だが、昨日までの「ひとりで悩む」気持ちは、少しだけ和らいでいた。


 リアナが、バスケットを抱えてやってくる。


「おはようございます、シオンさん! 昨日の種まき、どうでした?」


「おはよう、リアナ。……君たちのおかげで、気持ちが楽になったよ。今朝も、土の様子を見てみたけど、まだ芽は出ていない」


「大丈夫です。芽が出るまで、もう少し時間がかかりますから。焦らず見守りましょう!」


 リアナは、畝の端にしゃがみ込んで土を指でつまむ。


「シオンさん、土の湿り気はどうですか? 指でつまんで、軽く丸めてみてください」


 シオンも真似して、土を指先で丸めてみる。


「……まだ少し乾いている気がする」


「じゃあ、朝のうちに軽く水をやりましょう。日中は暑くて水がすぐ蒸発しちゃうから、朝か夕方にやるのがコツです」


「なるほど……。水やりのタイミングも大事なんだな」


「はい! それから、畑仕事は“観察”が一番大事です。毎日土や芽をよく見て、変化に気づくことが、上達の近道なんです」


 そこへ、グレンが大きな鍬を担いでやってきた。


「おーい、シオン! 畑仕事、順調か?」


「グレンさん、おはようございます。……昨日、種を蒔き直しました。今は、芽が出るのを待っているところです」


「そうかそうか。芽が出るまでは、土の表面が乾かないように気をつけろよ。あと、畝の間の溝もチェックしろ。雨が降ったときに水が溜まってないか、流れが悪くなってないか見ておくんだ」


「分かりました。……畝と水路の作り方、昨日教えてもらった通りにやってみたけど、合っているか自信がなくて」


「大丈夫だ。最初はみんな不安になるが、何度もやってみることが大事だ。畑仕事は“体で覚える”もんだからな。失敗したらまた直せばいい」


「……ありがとう、グレンさん」


「それとな、農具の手入れも忘れるなよ。鍬や鎌の刃が鈍ると、土を傷めるし、作業効率も落ちる。使い終わったら、土を落として乾かしておく。道具を大事にする奴は、畑もうまくいくもんだ」


「分かった。……道具の手入れも、畑仕事のうちなんだな」


「そうさ。剣の手入れと同じだろ?」


「……ああ、確かに」


 そこへ、エミリアが静かに現れる。手には分厚い本を抱えている。


「シオン、昨日言ってた“土壌改良”の本、持ってきたわ。王都の農業図書館で借りたものよ。土の種類や肥料の使い方、病害虫の対策まで載ってる」


「ありがとう、エミリア。……本当に、みんなの知恵に助けられてばかりだ」


「それが村のやり方よ。ひとりで悩まず、みんなで知恵を出し合うの。……この本には、“作物の選び方”も書いてある。気候や土壌に合った作物を選ぶことが、成功の近道」


「作物の選び方……。俺は、何となく育てやすそうなものを選んでいたけど、ちゃんと土地に合ったものを選ぶべきなんだな」


「そうよ。エルデン村は夏は暑くて雨が多いから、トマトやナス、キュウリがよく育つ。逆に、冷涼な土地向きの作物は難しいこともあるわ」


 グレンが補足する。


「それとな、畑の場所によっても土の性質が違う。水はけのいい場所には根菜、粘土質の場所には葉物や豆が向いてる。いろいろ試してみるといい」


 リアナが、にっこりと微笑む。


「それから、畑仕事は“情報収集”が大事です。村の人や本、インターネットも使って、いろんなやり方を知ることができますよ。最近は村でも講習会や勉強会があるし、困ったときはみんなで相談しましょう」


「……情報収集、か。都会では、本やネットで調べるだけだったけど、ここでは“人に聞く”のが一番の近道なんだな」


「はい! 村の人たちは、みんな自分の畑で失敗も成功も経験してますから。『この時期は虫が出やすい』『この肥料は効きすぎる』とか、細かいコツをたくさん知ってます」


 エミリアが本を開きながら言う。


「それと、水管理も重要よ。水のやりすぎは根腐れの原因になるし、乾燥しすぎると発芽しない。土の表面が乾いたら、たっぷり水をやる。雨の日は控える。……“観察”がすべての基本よ」


 グレンが、鍬を振りながらうなずく。


「あと、病害虫のことも忘れるな。見つけたら早めに対処する。手で取るのが一番だが、どうしてもダメなら村の薬屋に相談しろ。薬の使い方も、最初は誰かに教わった方がいい」


「……分かった。全部、初めて知ることばかりだ」


 リアナが、シオンの肩をぽんと叩く。


「大丈夫です! 最初は分からないことだらけですけど、みんなでやれば怖くありません。畑仕事は、ひとりで悩まず、みんなで知恵を出し合うのが一番ですから」


「……ありがとう、リアナ。君たちのおかげで、少しずつ自信がついてきた」


「それでいいんです。畑も人も、ゆっくり育てばいいんですよ」


 エミリアが、静かに付け加える。


「それと、畑仕事は“計画”も大事よ。どの作物をどの畝に植えるか、時期をずらして収穫できるようにするか。計画的にやれば、失敗も減るし、無駄もなくなる」


「……計画、か。戦いのときは、常に先を読んで動いていた。畑でも同じなんだな」


「そうよ。自然は思い通りにならないことも多いけど、計画を立てて、柔軟に対応することが大事なの」


 グレンが、にやりと笑う。


「まあ、計画通りにいかないのが畑仕事だがな。だが、失敗したらまたやり直せばいい。それが村のやり方だ」


 みんなで畑を囲み、知恵を出し合い、笑い合う。

 シオンは、心の奥底から温かいものが湧き上がってくるのを感じた。


「……ありがとう、みんな。俺は、もうひとりじゃないんだな」


「はい! これからも、みんなで一緒に畑仕事しましょう!」


「困ったときは、いつでも相談しろよ」


「分からないことがあったら、何でも聞いて。みんなで考えれば、きっと答えが見つかるから」


 畑に吹く風が、どこか優しく感じられた。

 村人たちの知恵袋――それは、ただの知識や技術ではなく、支え合い、助け合う温かな心そのものだった。

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