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10話:「明日もきっと、平和でありますように」  ――新しい日常の始まりと、村での第一歩

――夜明け前のエルデン村は、まだ静寂に包まれていた。

東の空がわずかに白み始め、鳥たちのさえずりが遠くで聞こえ始める。

シオンは、眠りから覚めると同時に、ゆっくりと体を起こした。

窓の外には、昨日までと変わらぬ村の景色が広がっている。

だが、心の中には、確かな変化が芽生えていた。


 昨夜の静かな独白――

 戦いの日々を思い返し、過去と向き合ったことで、シオンの心は少しだけ軽くなっていた。


「……今日も、いい天気になりそうだ」


 そう呟きながら、シオンは家の外に出た。

 朝露に濡れた畑が、朝日を受けてきらきらと輝いている。

 空気はひんやりとしているが、どこか新しい一日の始まりを予感させる清々しさがあった。


 ふと、隣家の窓が開き、リアナが顔を出した。


「おはようございます、シオンさん!」


「おはよう、リアナ。今日も早いな」


「はい! 今日は雑貨屋の手伝いをする前に、畑の様子を見に来たんです。昨日のトマト、すごく美味しかったです!」


「それはよかった。……君のおかげで、畑仕事も少しずつ慣れてきたよ」


 リアナは、にっこりと微笑んだ。


「今日も一緒に畑仕事、頑張りましょうね!」


「もちろんだ。……それに、今日は村の広場で何か集まりがあるとか?」


「はい! 村長さんが“新しい仲間の歓迎会”を開くって言ってました。シオンさんのこと、みんな楽しみにしてますよ」


「……そうか。少し緊張するな」


「大丈夫です。みんな優しい人ばかりですから。困ったことがあったら、私が助けます!」


「頼もしいな。ありがとう、リアナ」


 しばらくして、グレンが大きな声でやってきた。


「おーい、シオン! 今日も鍬の調子はどうだ?」


「グレンさん、おはようございます。鍬は最高です。昨日も、おかげで畑がずいぶんきれいになりました」


「そうかそうか。……よし、今日は新しい草刈り鎌も持ってきたぞ。使い方は後で教えてやる」


「ありがとうございます。グレンさんのおかげで、道具の扱いもだいぶ慣れてきました」


「ははは、何でも聞いてくれ。お前ももう立派な村人だ」


 エミリアも、静かに現れた。


「おはよう、シオン。……昨日の夜は、よく眠れた?」


「ええ。おかげさまで、久しぶりに穏やかな気持ちで眠れました」


「よかった。村の朝は静かで、どこか魔法みたいに心が落ち着くわよね」


「本当に。……エミリアも、村の暮らしには慣れましたか?」


「少しずつ、ね。でも、あなたがいるから心強いわ」


 ミリィが、家の中から元気よく飛び出してきた。


「お兄ちゃん、おはよう! 今日も畑で遊んでいい?」


「ああ、いいぞ。ミリィも、畑の手伝いをしてくれると助かるな」


「うん! 今日はカブを抜いてみたい!」


「じゃあ、一緒にやろう。……ミリィ、昨日より大きな声で“おはよう”って言えたな」


「えへへ、だってお兄ちゃんが褒めてくれるから!」


 村長バルスが、のんびりとした足取りでやってくる。


「おはよう、みんな。シオンくん、今日の歓迎会は昼前からだから、畑仕事が終わったら広場に来てくれよ」


「分かりました。ありがとうございます、村長さん」


「はっはっは、楽しみにしてるよ。みんなでご飯を食べて、歌って、踊って、村の伝説の勇者様の劇もあるからな。リアナが主役をやるんだ」


「えっ、私、主役なんですか?」


「そうだとも。リアナの“勇者ごっこ”は、村の子供たちにも大人気だからな」


「もう、おじさんったら……。でも、シオンさんも一緒に見てくださいね!」


「もちろんだ。……楽しみにしてる」


 畑仕事を終えた後、シオンはリアナたちと一緒に村の広場へ向かった。

 広場には、すでに多くの村人たちが集まっていた。

 手作りの料理や果物が並び、子供たちの笑い声が響いている。


「シオンさん、こっちこっち!」


 リアナが手を振り、シオンを輪の中へと招き入れる。

 村人たちは、思い思いに声をかけてくる。


「シオンさん、畑仕事は慣れましたか?」


「都会の人なのに、すごく手際がいいって評判ですよ」


「これからも、よろしくお願いしますね!」


 シオンは、ひとつひとつ丁寧に答える。


「まだまだ分からないことばかりですが、みなさんに助けてもらってます。これからも、よろしくお願いします」


 村人たちは、温かい笑顔でうなずいた。


「シオンさんが来てくれて、本当に嬉しいです」


「村が賑やかになるのは、いいことだよ」


 グレンが大きな声で言う。


「さあ、みんなで乾杯だ! シオン、これがエルデン村流の歓迎だぞ!」


「……ありがとうございます。こんなに歓迎されるのは、初めてです」


 エミリアが、そっとシオンの耳元で囁く。


「あなたがここにいるだけで、みんなが少しずつ変わっていくのが分かるわ」


「……そうですか?」


「ええ。村の人たち、あなたのことを本当に大切に思ってる」


 ミリィが、シオンの手をぎゅっと握る。


「お兄ちゃん、ずっと一緒にいてね!」


「ああ、約束するよ」


 村長バルスが、のんびりとした声で締めくくる。


「シオンくん、これからもエルデン村の仲間として、みんなで楽しくやっていこうな。困ったことがあったら、何でも相談してくれ」


「……はい。ありがとうございます、村長さん」


 やがて、村の子供たちによる“勇者様の劇”が始まる。

 リアナが勇者役で登場し、子供たちが魔物や村人を演じて、広場は笑い声と拍手に包まれる。


「シオンさん、どうでしたか?」


「とても楽しかったです。……勇者役のリアナ、かっこよかったよ」


「えへへ、ありがとうございます!」


 日が傾き始めるころ、村人たちはそれぞれの家へと戻っていく。

 シオンは、家の前でリアナと並んで夕焼けを眺めていた。


「……今日一日、あっという間でしたね」


「そうだな。村の暮らしは、静かだけど、どこか温かい。みんなが支え合って生きているのが、よく分かる」


「シオンさんも、もうすっかり村の一員ですよ」


「……ありがとう。君たちのおかげだ」


 リアナは、少しだけ真剣な顔で言った。


「シオンさん、これからもずっと一緒にいてくださいね。村のこと、もっともっと知ってほしいし、たくさん思い出を作りたいんです」


「……ああ。俺も、ここで生きていきたい。みんなと一緒に、平和な日々を重ねていきたい」


 リアナは、安心したように微笑んだ。


「じゃあ、明日も一緒に畑仕事しましょうね!」


「もちろんだ。……明日もきっと、平和でありますように」


 シオンは、静かにそう呟いた。


 夜が訪れ、村の家々に灯りがともる。

 シオンは、今日一日の出来事を思い返しながら、静かに眠りについた。


 新しい日常の始まり――

 それは、戦いの日々とはまるで違う、穏やかで温かな時間だった。


 シオンの心には、確かな希望が芽生えていた。


「明日もきっと、平和でありますように」


 その願いは、夜空の星々へと静かに溶けていった。

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