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1話:静寂の朝、新たな人生の始まり  ――転生999回目、シオンがエルデン村に降り立つ

『転生勇者のスローライフ計画 ~絶対に戦わないと決めた日~』


ジャンル:スローライフ/日常ファンタジー

あらすじ:

何度も異世界で勇者として戦わされてきた男が、ようやく「転生回数999回目の特典」で自由な人生を手に入れる。目指すは農業ライフ、そして静かな余生……でも世界がまたしても彼を放っておかない。


主要登場人物


1. シオン・アーデル(主人公)

 見た目25歳(実年齢不詳・転生999回目)/男性/元・勇者/温厚で平和主義、内心は皮肉屋

 転生勇者。今度こそ戦わず静かに暮らしたいと願う。農業に目覚めるが、周囲のトラブルに巻き込まれる。


2. リアナ・フェルグリム

 18歳/女性/村の雑貨屋の娘/明るく世話焼き、好奇心旺盛

 シオンの隣人。彼の正体にうっすら気づきつつも、何かと手助けしたがる。


3. グレン・バルドー

 32歳/男性/村の鍛冶屋/豪快で面倒見が良い

 シオンの農具を作る職人。過去に魔物に家族を失い、勇者に憧れている。


4. エミリア・ルーン

 21歳/女性/元・王都の宮廷魔導士/理知的で冷静、やや人見知り

 訳あって村に流れ着いた。シオンの正体を知る数少ない人物。


5. ミリィ・アーデル

 10歳/女性/シオンの義理の妹(前世で家族だった少女)/天真爛漫でいたずら好き

 シオンの家に転がり込む。兄を慕い、時々トラブルメーカー。


6. バルス・ドラン

 45歳/男性/村長/温厚で村思い、だが少し抜けている

 シオンの農業を応援しつつ、村の問題を何かと相談しに来る。


7. フェリシア・ノルン

 19歳/女性/旅の吟遊詩人/陽気でおしゃべり、噂好き

 村に滞在し、シオンの過去を探る。物語の語り部的存在。


8. ディアス

 外見30代/性別不詳/謎の来訪者/飄々として掴みどころがない

 シオンの転生の秘密を知る存在。時折助言を与えるが、真意は不明。


- 舞台:王国辺境の小さな農村「エルデン村」。四季豊かな田園地帯。

- 時代背景:中世風ファンタジー世界。魔法や魔物は存在するが、村は平和。

- 設定:

 ・「転生勇者制度」:世界の危機ごとに勇者が転生して召喚される。シオンは999回目で「自由な人生」を選択できる特典を得た。

 ・村にはかつて勇者が住んでいたという伝説がある。

 ・王都や魔王領など、外の世界には未だ不穏な動きも

――エルデン村の朝は、静かで、どこまでも澄んでいた。


 新緑の香りが、ほのかに鼻腔(びこう)をくすぐる。遠くで鶏が鳴き、土の匂いが風に乗って流れてくる。俺――シオン・アーデルは、村外れの小さな家の前に立ち尽くしていた。手には、まだ使い慣れない(くわ)。目の前には、荒れ果てた畑。これが、俺の新しい人生の始まりだ。


 「……さて。これが“自由な人生”ってやつか」


 思わず、独り言が漏れる。誰もいないはずの朝の空気に、俺の声が溶けていく。だが、心の中は妙にざわついていた。


 「まさか、だよな。九百九十九回も転生して、ようやく手に入れた“戦わなくていい人生”が、こんな田舎の畑いじりだなんて。……いや、悪くはない。むしろ、贅沢だ。だが、どうにも落ち着かないのは、俺が勇者だった頃の癖か、それとも……」


 鍬を握る手に、かすかに力が入る。土の感触は、剣の柄とはまるで違う。だが、どこか懐かしい安堵があった。


 「……おーい、そこのお兄さん!」


 突然、背後から元気な声が響いた。振り返ると、栗色の髪を揺らした少女――リアナ・フェルグリムが、手を振りながら駆け寄ってくる。


 「おはようございます! 昨日引っ越してきたシオンさんですよね?」


 「……ああ、そうだけど。君は?」


 「私はリアナ。村の雑貨屋の娘です。これ、うちの母から。引っ越し祝いのパンとチーズ! それと、畑を始めるなら、これもどうぞ!」


 リアナは、かごいっぱいの食べ物と、手作りの手袋を差し出してきた。俺は、思わず苦笑する。


 「親切だな。ありがとう。……でも、こんなにたくさん、悪いな」


 「いいんです、いいんです! 村の新しい人には、みんなでこうして挨拶するのがエルデン村の決まりなんですよ。……それに、シオンさん、都会から来たんですよね? 畑仕事、初めてでしょ?」


 「……まあ、そうだな。畑なんて、触ったこともない。剣なら振れるが、鍬は初めてだ」


 リアナはぱちくりと目を丸くした後、くすっと笑った。


 「剣より鍬の方が、村じゃ役に立ちますよ。……あ、でも、シオンさんって、なんだか不思議な雰囲気ですね。都会の人なのに、どこか懐かしい感じがするっていうか……」


 「そうか? ……まあ、見た目は普通のつもりなんだが」


 「ううん、なんていうか……うまく言えないけど、すごく遠くから来た人みたいな……あ、変なこと言っちゃった。ごめんなさい!」


 「気にするな。俺も、自分がどこから来たのか、たまに分からなくなるくらいだ」


 リアナは、少しだけ首をかしげてから、にっこりと笑った。


 「でも、エルデン村はいいところですよ。みんな優しいし、空気もきれいだし、畑の野菜はとっても美味しいし……。あ、そうだ! 畑仕事、私も手伝います!」


 「いや、さすがに悪い。初日から世話になりっぱなしじゃ、男が廃る」


 「いいんですって! それに、私も畑仕事は得意なんです。父が昔、教えてくれて……。あ、でも、鍬の使い方はコツがいるから、まずは土を柔らかくするところから始めましょう。シオンさん、ちょっと見せてもらえますか?」


 リアナは、俺の手から鍬を受け取ると、軽やかな動きで土を掘り返し始めた。


 「こうやって、土を持ち上げるときは、腰を落として……そうそう、力を入れすぎないで、リズムよく。ほら、シオンさんもやってみて!」


 俺は、リアナの真似をして鍬を振る。思ったよりも、土は重い。汗が額を伝う。


 「……なるほど。これは、剣よりも体力がいるな」


 「ふふ、慣れれば大丈夫ですよ。村の男の人たちは、みんなこうやって畑を耕してますから。あ、そうだ。グレンさんって知ってますか? 村の鍛冶屋さんなんですけど、農具作りの名人なんですよ。シオンさんも、何か困ったことがあったら、グレンさんに相談するといいですよ」


 「グレン、か。覚えておくよ。……しかし、村の人たちは、みんな親切なんだな」


 「うん。エルデン村は、みんな家族みたいなものですから。困ったときは助け合うし、嬉しいことがあったら一緒に喜ぶし……。あ、そうだ! 今度、村のお祭りがあるんです。シオンさんも、ぜひ来てくださいね!」


 「祭り、か……。久しぶりだな、そういうのは」


 「え? 都会にはお祭りがないんですか?」


 「……いや、昔、いろんな場所で祭りを見たことがある。けど、どこか、遠い昔の話のような気がしてな」


 リアナは、少しだけ俺の顔を覗き込むようにして、そっと声を落とした。


 「シオンさんって、時々すごく遠くを見てるみたいな顔をしますね。……何か、辛いことでもあったんですか?」


 「……さあな。いろいろあったと言えば、あった。けど、今はこうして、平和な村で畑を耕せる。それだけで、十分だよ」


 「……そうですか。じゃあ、これからは楽しいこと、たくさん作りましょうね! 私も、シオンさんの“初めて”をいっぱい見てみたいです」


 「“初めて”か……。そうだな。九百九十八回目までは、戦ってばかりだったからな。……いや、なんでもない。ありがとう、リアナ」


 「え? 今、何か変なこと言いませんでした?」


 「気のせいだろう。……さあ、もう一度、鍬の使い方を教えてくれ」


 リアナは、くすくすと笑いながら、再び鍬を手に取った。


 「はい、じゃあ、次は土を平らにならす作業です。こうやって、優しく……。シオンさん、力を抜いて、土の感触を楽しんでみてください。畑仕事って、すごく奥が深いんですよ。毎日違うし、土の状態も、天気も、全部違う。だから、飽きることなんてないんです」


 「……なるほどな。戦いは、いつも同じだった。敵を倒して、世界を救って……それだけだった。でも、畑は違う。毎日、違う顔を見せる。……面白いものだな」


 「そうですよ! 畑も、村も、毎日ちょっとずつ変わっていくんです。だから、シオンさんも、焦らずゆっくり慣れていけばいいんですよ」


 「……ありがとう。君のおかげで、少し気が楽になった」


 「えへへ、どういたしまして!」


 リアナの笑顔は、朝の光のように眩しかった。俺は、ふと空を見上げる。雲ひとつない青空が広がっている。


 「……さて、今日も一日、頑張るか」


 「はい! 一緒に、頑張りましょう!」


 こうして、俺の“戦わない”新しい人生が、静かに、しかし確かに始まったのだった。

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