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賞金稼ぎガビの冒険  作者: 秋山春
第二章 カボチャ泥棒
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8話



 ガビの煽りに耐えかねた一匹が、弾けるように駆け出した。長い爪を振りかざしながら、唸り声をあげてガビに迫ってくる。


 小鬼から向けられる殺意にガビの体は硬直した。本気の殺意を向けられたのはこれが初めてだった。


 ガビは圧倒されて一歩下がった。

 小鬼はガビより頭二つは小柄だというのに、恐ろしくてたまらない。


 あの爪はガビの皮膚をやすやすと切り裂くだろう。

 もしかしたら骨まで届くかもしれない。そうなったらどれほど痛いのか。


 ガビはさらに一歩下がった。

 心が恐怖でいっぱいになってしまっていた。迫り来る小鬼をただ見ているしかできない。


 情けなくて泣きそうになった。

 これまでの修行の日々は一体なんだったのだろう。


 すっかり心の折れたガビがもう一歩後ろに下がろうとした、その時だった。


「進むなら前でしょう!」


 エレナの言葉が、ガビの折れた心を立て直した。


 剣を握り直して前を見る。小鬼が、ガビの間合いにまさに入らんとするところだった。

 

 ガビは首元めがけて伸びてくる小鬼の腕を間一髪で弾いた。


 小鬼は悲鳴をあげて後ろに倒れ込んだ。

 剣で殴られたところを抑えてガビを睨みつけている。

 

「やった……」


 興奮して肩で息をしながら、ガビは呟いた。

 恐怖で真っ黒に染まっていた心も、エレナのおかげで晴れた。残っているのはちょうどいい恐怖と緊張感だけだった。


 ガビは小鬼の方へ走り出した。


 転がっていた小鬼が慌てて立ちあがろうとするが、剣の腹で額を叩きつけて夢の中へ送った。


 さらに小鬼が二匹、ガビに襲いかかってきたが、吹っ切れてしまえばなんてことない。ガビはあっという間に二匹を倒してしまった。


「あと四匹」


 ガビはほら穴の方を睨みつけた。

 小鬼達が怯えた顔で後ずさりしたのが見えた。今なら全部まとめて倒せる。なんだって出来る気がする。


 鼻息荒く一歩踏み出して、肩を叩かれた。


「そこまでよ。よくやったわね」


 ガビはハッと我に返った。

 無我夢中で小鬼を倒すことで頭がいっぱいになっていた。


「後のやり方はそこで見てなさい」


「うん……」


 頭に上っていた血が一気にひいていくような感覚がやってきた。手足が震えて立っていられない。ガビはよろよろとエレナにもたれかかった。


「これで実力の違いはわかったでしょう。後ろの三本角、前に出なさい」


 エレナが手招きすると、後ろで守られていた三本角の小鬼がよたよたと群れの前にやって来た。


 怒りの炎はすっかり消え失せ、ひどく怯えた顔になっている。おずおずと下から見上げて、それからゆっくり話し始めた。


「オレタチ、カテナイ……コウサンスル」


「いい判断ね。お前達は勝てない。だから私達の言うことを聞きなさい。さもなくば……」


「キク! イウコト、キク……コロスナ!」


 小鬼は両手を地面についた。


「村からカボチャを盗むのをやめること、他の物も盗まない、村の人を襲わない、これが守れるなら見逃してあげるわ。どうする?」


「ニドトシナイ! ウマイケド……シナイ」


 小鬼はがっくりとうなだれた。


 四本角達は、倒れた仲間をほら穴へ運んでいた。何やらギャーギャー喚いているが、彼らは人間の言葉を話せないので何を言っているかわからなかった。


「全員分の爪をよこしなさい。片手だけでいいわ」


 三本角はほら穴に駆け込むと、しばらくして大きな葉っぱを丸めて持ってきた。


 地面に広げて置かれた葉っぱには、切られた小鬼の鋭い爪がたくさんあった。


「たしかに。約束よ。二度と村に姿を現さないで」


「ワカッタカラ、ハヤクキエテクレ」


 三本角はすたこらとほら穴に逃げ込んだ。


「歩ける?」


「何とかね」


 エレナはガビの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


「よくやったわね」


「エレナのおかげだよ。あそこでエレナが声をかけてくれたから。じゃなかったら……」


 ガビは言葉に詰まった。

 エレナの言葉がなかったらガビはきっと動けなかった。動けたとしても泣いて逃げるのが精一杯だっただろう。


「自信を持ちなさいと言いたいけれど、不甲斐ないと思う気持ちも分かるわ」


 エレナは腰を落として、ガビと目線を合わせた。


「でも逃げなかった。恐怖を乗り越えて怪物に立ち向かえた。ダメだった方に目を向けるより、よかった方をうんと褒めましょう」


 ガビはぐっと深く頷いた。

 木剣が鉄の剣に変わった時と同じで、とびきり恐ろしいのはきっと最初だけだ。


 その最初をガビは乗り越えることが出来た。

 それは凄いことのはずだ。エレナの言うとおり、それをうんと褒めるべきなのだ。


「ありがと、エレナ」


「どういたしまして。さぁ、村に戻りましょうか。こんなものいつまでも持っていたくないわ」


 エレナは小鬼の爪がたっぷり置かれた葉っぱを丸めると、嫌そうにつまんで持ち上げた。


「そういえばそんな物どうするの」


「ちゃんと小鬼をこらしめたぞっていう証拠よ。場合によっちゃあ、耳だったり、指だったり、首だったりするから覚悟しとくのね」


 ガビはゾッとした。


 怪物の多くは人の言葉を話すのだ。

 ウサギや鹿といった食用動物を解体するのとは訳が違う。しかし、賞金稼ぎになるなら避けては通れないのだろう。


 ガビは、そんな初めてはまだまだ先であってくれと、心の底から思った。


 

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