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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第六章 認定試験

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28話


「おいテメェ、ふざけんじゃねぇぞ。なんで俺の名前が呼ばれねぇんだ。この紙を手にしたら合格だっつったろうが!」


 やかましく騒ぎ立てる男には見覚えがあった。受付でガビに絡んできた薄汚い男だ。男は、なだめようとするアブを押しのけて、アンネの前に立った。


「そうだ。金まで取っておいて、どういうつもりなんだ!」


「約束が違う。これは不正よ!」


 あちこちで怒りの声が上がり始めた。

 アンネに金を払い、紙を譲ってもらったであろう人達が、アンネの元にわらわらと群がり、不平不満をぶつけている。


 これはまずいことになるかもしれない……ガビは、気配を消して、受験者達の間を縫うように進む。この距離なら、もし誰かがアンネに手をあげようとしても、その前に割って入る事ができる。


 今すぐ止めればいいのだろうが、生憎、ガビもこの試験結果には疑問があった。なぜ自分が合格なのか。今の状況を考えれば、予想通りの理由だろうが、どうしても確信が欲しい。


「みなさん下がってください! 静粛に!」


 アブが激しくベルを鳴らし、ようやく部屋に静寂が戻ってきた。アブがアンネを見る。アンネは頷いて、それから少し大きな声で話し始めた。


「試験の結果に間違いはありません。名前を呼ばれなかった皆様は不合格です」


 ザワザワと声が上がったが、アブがベルを鳴らすと静かになった。


「どれだけ騒ごうと結果は変わりません。落ちた理由を考察し、半年後にまた受験してください。不合格の皆様はあちらの扉から退室を」


 アンネが手で扉を示した、その時。

 最初に声をあげた男がアンネに詰め寄ったのが見えた。片腕をアンネの胸元に伸ばし、もう片方を大きく振り上げている。


 アンネが一歩下がり、目を大きく見開いた。

 顔がこわばり、瞳が恐怖に揺れる。


 ガビは人ごみから矢のように飛び出して、男が振り上げた腕に掴みかかった。そのまま体重をかけて、男の体勢を崩す。頭の上から男が戸惑う声が聞こえる。


 この後、どう抑え込むかガビが考えを巡らせていると、「そのまま抑えとけよ!」と声がした。


 ガビが不可解な声の方へ視線を向けると、色黒の少年が宙を舞っていた。片手に短槍を持ち、柱を蹴って空中に飛び上がったのだ。


 人ごみを飛び越え、ガビ達のそばに転がるように着地した少年は、すばやく起き上がり、槍の石突で男の顎を掠めるように跳ね上げた。


「がごっ……」


 歯がぶつかる音と悲鳴が混じった声を出して、男は仰向けに倒れ込んだ。顎先に血を滲ませて、ぐったりと動かない。


「お姉さん、大丈夫?」


 確かアーチーと呼ばれていた色黒の少年は、階段にへたり込んでいるアンネに手を差し出している。そちらはアーチーに任せて、ガビは男が本当に気を失っているかを確認した。


 それから人ごみを振り返る。

 ガビが飛び出した時、他にも敵意を見せていた者がいたのだ。気配を感じたあたりを見ると、数人の男が慌てて顔を背けた。


 どうやら、もうアンネに危害を加えようという気はないらしい。ガビは、ホッと胸を撫で下ろした。


「アンネさんに怪我はなかった?」  

 

 ガビが声をかけると、アンネは薄い笑みを浮かべて頷いた。


「おかげさまでね。二人とも、どうもありがとう」


「当然のことをしたまでだから。なぁ?」


「人助けが賞金稼ぎの仕事だもんね」


「そういうこと」


 アーチーは人懐っこい笑みを浮かべて、右手を差し出した。


「おれはアーチー。お前は?」


「ガビだよ。えっと、よろしく」


 差し出された手を取り、ガビはアーチーと握手を交わした。



 その後、アンネが呼んできた他の職員によって気絶した男は運びだされ、不合格者達は静かに部屋をあとにした。


 残ったのは、一次試験を突破した受験者七人と、試験官のアブとアンネだけだった。場が落ち着いたのを見計らって、アブがうやうやしく頭を下げる。


「トラブルによって二次試験の開始が遅くなってしまった事、お詫び申し上げます。さて、二次試験ですが、内容は実技となっております。別の部屋へ移動しますので、私達のあとをついて来てください」

 

 はじめにアブが入ってきた扉をくぐり、廊下へ出た。小さな窓が等間隔で並んでいるが、日の位置が悪いのか、窓から入る光は微かで、廊下は薄暗く冷んやりしている。


 廊下の先には、入ってきたのと同じ扉があり、その先には、ガビの家の裏庭よりひと回り大きいくらいの修練場があった。地面には土が敷き詰められている。


 周囲を木製の壁に囲われ、壁の上には物見席が設けられており、そこから修練場を見下ろせるような作りをしている。


 よくよく見れば、物見席にチラホラと人影が見える。組合の職員の衣装を着ていたり、武装してたりしている。試験官には見えない。自由に見学できるようになっているのだろうか。


 と、アブが修練場の真ん中で足を止め、振り返った。アンネにベルを渡し、両手を組んで上に伸ばしている。それから、屈伸したり、小さく飛び跳ねたり、まるで準備運動をしているようだ。


 まさか、この見るからに動けなさそうな小柄な男と戦うとでもいうのだろうか、ガビは眉をひそめて隣を見た。アーチーは首を傾げて、肩をすくめた。


「さて、時間も押していますから準備運動はこのくらいで……お察しの通り、二次試験は私との模擬戦闘です。私を納得させる事が出来れば合格です。武器の使用は自由、私を殺す気で来てもらってかまいません。どなたから来ますか?」


 ガビの前の、見てくれの良い男がせせら笑った。腰の剣を見せつけるように抜き放ち、アブに突きつける。


「本当に殺す気でいいのかい? 僕はサンドバーク家の三男だ。幼い頃より軍式戦闘術を叩き込まれている。つまり、人を殺すための術を熟知しているという事だ」


「かまいませんから、さぁどうぞ」


 いつの間にか、壁際に移動していたアンネが懐中時計を取り出した。

 

「後悔するなよ!」


 顔を引きつらせた男が、剣を下方に構えて突っ込んだ。幼い頃から習っていたというだけあって、確かに一撃が鋭く、並の相手ならいい勝負が出来そうだ。


 だが、アブは並の相手ではなかった。

 繰り出される激しい攻撃を、涼しい顔でスイスイかわしている。

 

 そして、アブとアンネが視線を合わせた、直後、アブの右手が素早く男の腹を打ち抜いた。男が顔から地面に倒れ込み、アンネが終了を知らせるベルを鳴らした。


 壁の四方に開いた通路から職員がやって来て、倒れた男を回収していく。



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