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賞金稼ぎガビの冒険  作者: 秋山春
第一章 ガビという少年
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3話



 家の裏手に大きな庭がある。

 かつては畑として使われていたようだが、今では訓練場として活用されている。


 ガビとエレナは、食後の休憩を取ったあと、この場所へやってきた。

 

「かるく遊んでやりますか」エレナが煽る。

 

「言ってなよ。後悔させてやるからね」ガビも負けじと言い返した。


 二人はそれぞれ木剣を持ち、距離をとって向かい合った。


「勝利条件はいつも通り、私に一撃当てること。準備はいい?」


「いつでもいいよ」


「それじゃ……」


 互いに戦闘体勢に入ると、先に動いたのはエレナだった。剣は脱力させたまま、正面から突っ込んでくる。


 素直にカウンターを狙いたいところだが、そうはさせてくれないのがエレナだ。これまで全戦全敗のガビはよく知っている。剣と見せかけて拳や蹴り、飛び道具や暗器が襲ってくるのだ。


 じきに間合いがぶつかるというのに、いまだ脱力させている剣が、ガビの思考を惑わせる。


 迷いを見抜いたのか、エレナは小さく笑うと、剣を強く握りしめる。そして、そのまま下から斜めに斬り上げた。直後、木剣同士がぶつかり合った鈍い音が響く。

 

「くぅっ……」


 何とか受けることが出来たものの、腕が大きく弾かれた。おまけに、衝撃で体がわずかに浮き上がり、つま先だけが地面に着いているという状態だ。


 当然、エレナがその隙を見逃すはずはなかった。

 すぐさま剣を引き戻し、流れるような動作で、ガビの胴目がけて真横に振り抜いた。


 直撃したエレナの一撃は、ガビの体を吹き飛ばした。地面を跳ね、転がり、ようやく止まる。


「痛ったぁ……」


「ついこの間まで、泣きながらのたうち回ってたのに。ずいぶん強くなったもんだね」


 脇腹を抑えながら立ち上がったガビをみて、エレナは感心した様子でいった。

 

「な、何年前の話だよ」ガビは顔が熱くなるのを感じた。


「つい最近の話よ。よしよしして慰めてあげてたのに忘れちゃったの?」


「うるさい」


「じゃあ、黙らせてごらん」にやにやと挑発するエレナ。


「もう怒ったから」


 ガビは剣をかまえて走りだした。剣先で地面を削りながらエレナに詰め寄っていく。


 間合いに入る手前で、剣で土くれを巻きあげた。目くらましだ。


 わずかに目を細めたエレナが、数歩下がる。

 ここだ、とガビが身をかがめて踏み込む。エレナのみぞおち目掛けて渾身の突きを繰り出した。


 完璧なタイミングで放たれた一撃は、勝負を決するに十分な威力だった。しかし。


 エレナは身を傾けて、ガビの攻撃をかわしていた。


 とどめのつもりで突き出した右腕は、限界まで伸びきり、まだ戻らない。その一瞬が致命的な隙となった。


「おかえし」

 

 ゆるりとガビの懐に入り込んだエレナは、木剣の柄で、ガビのみぞおちを突いた。


 衝撃で呼吸が止まり、ガビはたまらず膝を折った。

 息が吸えない。視界がチカチカと点滅して、胸の奥がズーンと響くように痛む。


「まだ……」


「いいえ。ここまでよ」


 体を丸めて苦痛に耐えるガビの首筋に、エレナの木剣が当てられた。


 戦闘訓練はいつものように、ガビの敗北で終わった。



「まだまだ修行がたりないねぇ」


 庭木の下でぐったり寝そべっているガビに、エレナが家から持ってきた水を渡す。ガビは礼を言うと、それを一気に飲み干した。


「ぜんっぜん、エレナに届く気がしない」


 口をとがらせて拗ねた声を出すガビ。エレナは慰めるように、ぽんぽんと頭をなでる。


「そんな事ないよ。私がものすごく高みにいるだけなの」


「自慢かよ」


 エレナがくすくす笑った。


「でも、実際ガビは強くなったよ。だから、そろそろ次の段階に進もうと思うんだけど。どうかしら」


「ほんと?」


 ガビは跳ねるように飛び起きた。

 目を輝かせて、懇願(こんがん)するようにエレナを見る。

 

「剣! 本物の剣を振りたい!」


「そのつもりよ。でも修行はその分、厳しくなるわ。耐えられる?」


「うん!」


 ガビは、ブンブンと風切り音が聞こえる勢いで首を縦にふった。


「ならいいわ」エレナは苦笑いした。


「さっそく明日から始めようと思うけど、心の準備は?」


「いつでも出来てるよ。早く強くなって、エレナみたいな賞金稼ぎになるんだから」


 ガビは力強く言った。


 その日の夜、夕食を終えたガビが部屋で休んでいると、扉がノックされた。


 ガビが返事をすると、エレナがにこにこしながら部屋へ入ってきた。両手を後ろにして何かを隠しているようだった。

 

「どうしたの?」


 ガビが聞くと、エレナは「じゃーん」と、隠していた物をこれみよがしに見せつけた。


 ガビは押しつけるように渡されたそれを、まじまじと見た。古びた布が巻かれていて、細長くてずっしりとしている。


 エレナの方をチラリと見ると、にこにこしたまま「開けてみて」と言った。


 言われるまま布を取り去ると、ガビは目を丸くした。


「うわぁ……!」

 

 鉄の剣だった。

 刃は薄く、しなやかで、そして木剣より倍は重い。  

 持ち手には黒くて硬い皮が巻かれていて少々不格好だが、握ると不思議と手に馴染(なじ)んだ。


 長さは、今のガビに合わせて作られた木剣より少し長い。これをどうしたのかと聞くと、エレナのお古だといった。


「思い出の物でしょ。いいの?」


 ガビは、ワクワクした気持ちを隠しきれず、口元を(ほころ)ばせながら聞いた。


「ええ、私の大切な剣よ。それをあなたに託すの。大事にしてちょうだいね」


「もちろんだよ」


 ガビは大きく頷いた。

 自然と剣を握る手に力がはいった。


 エレナはにっこりしてガビの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。それから、浮かれるガビに釘を刺した。


「さっきも言ったけど、これからの修行はもっと厳しくいくから覚悟しなさい」


「う、うん」


 ガビは、喉をごくっと鳴らした。

 エレナはくすりと笑って、「おやすみ」と部屋をあとにした。



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