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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第六章 認定試験

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27話



 ガビはまず、扉横の本棚の前に立った。

 普通に考えれば、本と本の間や、本の中に挟まれていると思うけれど……それだと見つけられるかは完全に運になって、試験が成立しないはず。


 だから、もっと分かりやすくて、見落としやすい場所が怪しい。


 ガビは勢いよく飛び上がると、棚に足をかけて本棚をよじ登り、天板の上を覗き込んだ。


 ブワッと埃が舞って、目を細める。

 ……ない。そこから部屋中の本棚の上を確認したが、紙切れらしき物はなかった。


 次に、本棚と壁の間はどうかと思ったが、壁との間に隙間はなく、本棚は金具で床にしっりと固定されていて動かす事も出来ない。他に隠せそうなところは、本の隙間くらいだ。

 

 だとすれば、まさか本当に運なのだろうか?


「あと四分」 女が呟いた。


 ガビは、慌てそうになる心を落ち着かせる。

 こうなったらもう自分の運に賭けるしかない。ガビは目の前の本棚から調べ始めた。


 本と本の間を上から下まで見て、今度は一冊ずつページをめくっていく。十数冊を見終わった時、女が「あと一分」と言った。

 

 心臓が早鐘のようにうるさい。手が自分のものじゃないように言うことを聞かない。

 ページをめくる指が絡まって、うっかり本を落としてしまった。それを拾い上げた時、女が懐中時計の蓋をパチンと閉めた。


「そこまで」


 女が無慈悲に言った。

 ガビは本を手に持ったまま、その場を動けなかった。


「見つけられなかった……」


 ひどく掠れた声だった。

 女はポケットに懐中時計をしまうと、うっすらと笑みを浮かべてガビを見る。


「残念でした、と言いたいところだけど、チャンスをあげましょう」


「本当に!?」ガビは、期待を胸に女の元へ歩み寄った。

 

 天井から落ちる照明器具の淡い光が女の顔に影を落としている。そのせいで、ガビを見下ろす女の顔がぼやけて不気味に見える。


 なぜだか少し嫌な予感がした。


「チャンスって、どんな?」


 そう尋ねた途端、女は、ねだるように手を擦り合わせ、ニンマリと頬を持ち上げた。


「サンズ金貨二枚で紙を売ってあげる」


「は?」


「悪い話じゃないでしょう?」


 さっきまでより、さらに深いところへ突き落とされた気分になった。


「悪い話だろ。そんなの、ただのズルだ」


 提案を突っぱねると、女は驚いたように口を開けた。


「試験を受けにきたという事は仕事が、お金が必要なんでしょう? 不合格の場合、次に受験出来るのは半年後なのよ。メイン通りで数日物乞いすれば手に入る程度のお金でいいのに、本当に断るの?」


 確かに、ガビはお金のためにスレイニオへやって来て、こうして賞金稼ぎの試験を受けている。だけど、卑怯な事をしてまで試験に合格したいとは思わない。


 それはガビの憧れている賞金稼ぎ像とは大きく離れているし、エレナだって同じ立場なら絶対に断るはずだ。


「おれは、不合格でいいです。また半年後に受けに来ますから。その時は、紙を見つけてみせます」


 女は、スッと表情を消した。

 ガビから目を逸らし、扉を手で示す。


「そうですか。それでは、これにて試験は終了です。部屋を出て担当試験官の指示に従ってください。くれぐれも試験内容は口外しないよう」


 部屋を出て、軋む廊下を通って一階へ降りる。まだ呼ばれていない人達からの視線が痛い。試験前のガビのように、試験を終えた者の様子を見て、少しでも情報を得ようとしている。


 そんなことをしても、何もわからないだろうに……ガビは思わず笑いそうになる。


 一階へ降り立つと、ガビは階段から少し離れた柱にもたれかかった。今になって、不合格という事実がのしかかってくる。


 これで半年間は賞金稼ぎになれない。

 アテにしていた金稼ぎの方法が無くなってしまった。スレイニオは、ポルユスよりはるかに大きな町だし、探せば何か仕事があるはずだ。


 もし見つからなくても、試験官の女が言っていたように物乞いでもすればその日の食いぶちくらいは何とかなるかもしれない。


「はぁ……」


 長く大きなため息をついた。

 ガックリうなだれていたガビは、アブの困惑したような声を聞き、顔を上げた。


「アーチーさん…………アーチーさん?」


 どうやら次の番の人の返事がないようだった。


「次、反応がなければ辞退と判断しますね。アーチーさん」


 アブは最後通告をしてから、さっきまでより大きな声で再度呼びかける。すると、部屋のすみに並べられていた丸椅子のひとつが激しい音をたてて倒れた。


 椅子のそばに仰向けにひっくり返っていた男が、足の反動を使い跳ねるように飛び起きる。


 浅黒い肌をした少年だった。

 歳はガビと同じくらいだろうか。何本にも編み込んだ髪を後ろで束ねて一つにしている。


 少年は、壁に立てかけていた、布を巻いた細長い棒を肩に担ぐ。


「ごめんなさい、寝ちゃってて」


 恥ずかしそうに頬をかきながら、軽い足取りで階段をのぼっていった。



 その後も試験は淡々と進んだ。

 最後の一人だった老人が戻り、二階の部屋にいた女が階段を下りてきた。


 アブが、ベルを鳴らして受験者たちの注目を集める。


「お疲れ様でした。これで全員が一つ目の試験を終えましたね。それでは、これより合否の発表をおこないます。アンネさん」

 

 二階にいた女、アンネは一歩前に出ると、ポケットから折りたたんだ羊皮紙を一枚取り出した。


「それでは私より、合格者の発表をさせていただきます」


 アンネは、淡々と合格者の名前を読み上げていく。

 呼ばれるたびに、部屋のあちこちで喜びの声や落胆の声が聞こえた。


「ガビさん」


「……え?」


 今、名前を呼ばれた。

 ガビは慌ててアンネを見た。だが、アンネは羊皮紙に視線を落としたまま名前を読みあげている。


 気のせいだろうか? 

 でも、他に似た名前の人はいない。期待と不安で心臓がうるさく騒いでいる。


「——以上が、一次試験の合格者です。」


 直後、男の怒声が響き渡った。


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