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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第六章 認定試験

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25話


 

2



 スレイニオの四方に伸びる大通りは、町の中央広場で円を描くように混ざり合っている。


 通りからやって来た馬車が、右回りにぐるりと回って別の通りへ抜けていき、すぐにまた別の馬車が回りだす。その光景を目で追いながら、ガビは胸を躍らせた。


「すごいな……」


 思わず独り言がこぼれ出た。

 数台の馬車がぶつかる事なく、円を描くように駆け抜けている。

 

 円道の外周は遊歩道になっていて、朝だというのに多くの人が歩いている。


「お一ついかが?」


 立売り箱を首から下げた、ガビより少し上くらいの少年が声をかけて来た。横長の箱には、紫色のジャムがたっぷり塗られたパンが並んでいる。


 ポルユスでは見たことない色のジャムだった。

 どんな味なんだろう……ガビは興味を惹かれたが、懐事情を考え、断った。



 東の大通りは、南通りほど賑やかではなかった。

 人の通りもあちらに比べるとやや少ない。店構えからして、いかにも高価な物しか取り扱ってなさそうだからかもしれない。


 ガビは、きょろきょろと左右に視線を動かしながら通りを歩く。賞金稼ぎ組合はどこだろうか。ロタルは見れば分かると言っていたが、それらしい建物は——


「あれだ……」


 少し先、通りの左手に一際大きな建前があった。


 外壁は灰色の石造りで、余計な装飾はない。

 周囲の建物と比べて数倍は大きく、異質な雰囲気をまとっていた。


 正面には重そうな両開きの扉があり、その上に大きな紋章が刻まれている。盾の前で剣、槍、斧が交差している意匠だ。


 建物の前を通り過ぎる人は多いが、足を止める者は少ない。

 

 間違いない。ここだ。


 胸の奥がじわじわと熱を持ち始める。

 ガビは、深く息を吸って、ゆっくり吐き出した。


 扉に手を当て、力を込める。

 床が擦れる音がして、扉がゆっくりと開いていく。


 隙間から冷んやりした風が、スゥ、と流れ出て、鼻先をかすめる。一歩、足を踏み入れた瞬間、目の前が一気に開けた。


 天井は高く、見たこともない照明器具がいくつも吊るされており、室内を明るく照らしていた。


 広間の中央には机と椅子がいくつも並べられていて、奥には長いカウンターが設けられている。その向こうで、職員が受付の対応や、書類運びに追われている様子が目に入った。


 ガビは、おそるおそる足を動かして、なるべく人が少ない場所を探してカウンターに向かう。途中、椅子に座って机を囲んでいる強面の四人組に睨みつけられ、ガビは冷や汗をかいた。


 カウンターの向こうに、等間隔で受付担当が並んでいる。どの人も対応中で、どうしたものかと考えていると、右端の受付が空いた。


 順番待ちしていた人がいない事を確認してから、ガビは受付の前に立つ。分厚い天板の向こうで、焦茶色の長い髪をした長身の女が、微かに目を細めてガビを見下ろした。


「ご用件は?」


 突き放すような冷たい物言いに、ガビは喉がキュッと締まるのを感じる。


「あの、えーっと……賞金稼ぎになりたくて」


「試験を受けたいと?」


 さらに目を細めた女が、声を低くして言った。

 ガビは思わず怯みそうになったが、なめられる訳にはいかないと、敢えて女の目をじっと見つめる。


「どうすれば試験を受けられますか」


 ふと、左隣から嘲笑うような声が聞こえた。

 ガビは、眉をひそめてそちらを見る。


 細身の男が天板に体を預けたまま、馬鹿にするような顔でこちらを見ていた。意地悪くひん曲がった唇から、黄ばんだ八重歯が飛び出している。


 ガビは、どうするか少し考えて、相手にしない事にした。


「それで、試験の事なんですけど——」


「お前みたいなガキに務まる仕事じゃねえぞ」

 

 ガビの言葉を遮るように、男が口を挟む。

 腹の底から、ふつふつと怒りが沸いてくる。ガビは男を睨みつけた。


「さっきから何? うるさいんだけど」


「忠告してやってんのさ。虫も殺した事ないような、可愛い顔したボクちゃんによぅ」


 腹立たしい喋り方をする男だった。

 イライラして指の先まで熱くなってくる。ガビも何か言ってやろうと思った、その時。


「その辺にしてください。でないと二人とも、外に放りだしますよ」


 ガビの前に立つ長身の女が、ゾッとするほど冷たい声で言った。


「……すみません」


 ガビは頭をさげた。

 男はつまらなそうに肩をすくめると、それ以上話しかけてくる事はなかった。


 女は何事もなかったかのように、再びガビへ向き直る。


「さて、賞金稼ぎの認定試験を受けたい、との事でしたね」


 ガビは頷く。


「試験は二種類あり、両方とも合格した方にのみ認定の証を授けます。基本的に、命に関わる事はありませんが、場合によっては二度と剣を握れなくなるほどの怪我を負う恐れがあります。構いませんか?」


 まるで、たまに死人が出るような言い方が気になったが、どんな内容だろうと、試験を受けないという選択肢はありえない。


「……はい」


 ガビが答えると、女は横の棚から紙を一枚手にとり、天板の上に置いた。その横にインクの小瓶と羽ペンを添える。


「同意書です。目を通して、最後に署名を。文字が書けないのであれば代筆しますが」


「書けます」


 ガビは書類に目を通し、最後に名前を書いた。

 

「認定試験は毎日、十三時より行われます。お好きな日にあちらから試験場へ向かってください。ただし、受験資格は三ヶ月で失効するので、ご留意を」


 そう言って、女はガビの右側奥の通路を手で示した。

 

「それって、今日でもいいって事?」


 ガビが尋ねると、女は「ええ」と頷いた。

 カウンター奥の柱にかけられた時計は、十時を差している。


 一度宿へ帰って昼食をとる時間はありそうだ。

 ガビは受付の女に礼を言うと、隣の男をチラッと見た。


 担当の受付と何やら言い合いをしている。

 まだ話が終わる気配は無い。また絡まれてはたまらない、と、ガビは足早に組合をあとにした。


 

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