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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第四章 ひとりぼっち
16/26

14話



1



 翌朝、ガビが日課の丸太打ちを終えて家に戻ると、玄関の前に大きな荷物を背負ったエレナとランバートが待っていた。

 

「もう行くの?」


「せめて朝ごはんは一緒に食べたかったんだけど、ランバートが急かすのよ」エレナは隣のランバートを睨みつけた。


「仕方ないだろう。本当なら一泊してすぐに出る予定だったんだ。二泊した分、少しでも早く出なければ」


 ランバートはガビを見て申し訳なさそうに微笑むと、さらに続ける。


「すまないな、ガビ。慌ただしい別れになってしまって……」


「気にしないで、仕事なんだし。二人が無事に戻ってくれたらそれでいいからさ」


 ガビが言い終わるなり、エレナが覆いかぶさるように抱きついてきた。


「すぐに戻ってくるから。ちゃんと待ってるのよ」


「約束だからね」


 ガビもエレナを強く抱きしめ返した。


「さて、別れは済んだな」


 ひっきりなしに懐中時計を覗いていたランバートが時計の蓋を閉じて言った。エレナが頷く。


「それじゃあ……いってきます」


「いってらっしゃい。留守は任せてよ」


「私が戻った時に家が無事にあるといいけど」エレナがイタズラに笑ってガビの頬をつついた。


 それから、エレナは名残惜しそうにたびたび振り返りながら、やがて林の中へ消えていった。


 夏の日差しが容赦なく照りつける中、ガビは林の方をじっと見つめ続け……額から垂れた大粒の汗が目に流れ込んできた事で、ようやく我に返った。


「いてて……」


 ぴりりと沁みる目を擦る。

 それから、両手で頬をぱちんと叩いた。


 しっかりしなければ。

 なぜなら、ガビはこれから長くて二ヶ月もの間、一人で暮らさなければならない。人の心配をしている場合ではないのだ。 


 家へ帰ると、エレナが作ってくれたであろう、いつもより豪華な料理がキッチンテーブルに並べられていた。


 まだほんのり温かいスープを飲みながら、ガビは改めて実感した。これからしばらくの間、一人で暮らすのだと。


 食事を終えて部屋に戻ると、机の上に置かれているノートをめくった。エレナが留守の間の修行プランを書き記してくれたものだ。


 とはいえ、ガビが一人で出来ることなどたかが知れているので、やる事は筋力トレーニングと素振りが主だった。


 目立つように書かれた『勉強もすること!!』は見なかったふりをした。

 


 しばらく経ち、ガビはいよいよ退屈でどうにかなりそうだった。筋力トレーニングも素振りも新鮮な気持ちで出来たのはせいぜい三日。


 朝昼晩、ひたすら同じ事の繰り返し……それもたった一人きりで。ひとりぼっちというのは思っていたより何倍も寂しく、辛く、しんどい事だった。


 エレナが出発してから、朝を迎えるたび扉につけていた傷跡が今日で十三本になった。早ければエレナが帰ってくるまで折り返し、遅ければまだ四分の一だ。


 一日がこんなに長く感じたのは初めてで、勉強だけの日ですらここまで長くは感じなかった。ゆっくり沈む太陽に腹が立ち、石を投げつけたほどである。


 すっかり上達しきったつもりでいた料理でさえ、いざ一人で作ってみたらエレナの料理とは天と地ほどの差があり、食事のたびに気分が落ちこんでしまう。


 布団に入ってもなかなか寝付けず、そのせいか、ガビはずいぶん久しぶりに嫌な夢を見た。


 ごうごうと燃えさかる炎と、怪物の仮面をかぶり黒いローブをまとった人々が、ぐるりとガビを取り囲んでいるのだ。


 人々は不快な笑い声をあげながら、剣や斧、槍にナイフといった武器を振り回している。


 仮面の人々と炎はだんだんガビに迫るようにやって来るが、逃げようとどれだけ頑張ってもガビの体はピクリとも動かない。

 

 肌が焼ける音が聞こえ、同時に痛みに襲われる。

 呼吸もままならなくなり、いよいよ死んでしまうというところで、ガビは汗だくで飛び起きた。


 体の奥底がゾワゾワして落ち着かない。

 なぜだか震える体をぎゅっと抱きしめて布団にくるまり、ガビは眠れぬまま朝を迎えた。


 一人暮らし二十日目。

 この日もいつもの日課を終えて朝食を作ろうとしたガビは、食糧を保存している棚を開けて目を丸くした。


 もうほとんど残っていない。

 てっきり奥の方にまだあると思っていたが……きっとランバートの分と、旅路のお弁当として使ってしまったのだ。

 

 ガビは、ひとまず残っていたベーコンの切れ端やしなびた野菜などをまとめて炒めると、さくっと平らげた。


 体をキレイにして他所行きの服に着替えると、エレナの部屋へ向かう。お金は全てエレナが管理していた。出ていく前に、もし必要になれば好きに使っていいと言われている。


 部屋の隅っこの床板が外れるようになっていて、そこに小さな鍵付きの箱が入っていた。金庫だ。ガビはエレナから預かっていた鍵を使って箱を開けた。中には金銀銅貨がこんもりと入っていた。


「わお……」


 これだけあればおやつのリンゴが一体何個買えるのだろうか。ガビは必要な分だけ袋に取り分けると、再び箱に鍵をかけて床下へしまい込んだ。


 ガビは、大きめの肩掛けカバンにお金と昼食のパンをひとつ入れると、ポルユスへ買い出しに向かった。


 

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