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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第三章 古い友人
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12話



「ありがとう。私はいつでもかまわんよ」


 ランバートは突っ立ったまま、両手を大きく広げている。飛び込んで来いと言わんばかりだ。


 舐めているのか、煽って思考を鈍らせようとしているのか……どちらにせよ、向こうに来る気がないなら、行くしかない。


 ガビは思いきり大地を蹴って、最速で正面から突っ込んでいった。


 こちらに武器はないので手段は徒手と蹴り、ランバートも同じと仮定すると、間合いを詰めなければどうにもならない。なにせ身長差が三十センチはあるのだ。


 ランバートの間合いに入り、さらに詰めようとした、その時、視界の下方で何かが動いた。


 ガビは咄嗟に顔を引いた。

 その鼻先をランバートの足が掠めた。ノーモーションでの蹴り上げだ。肝を冷やしたが、ガビが想定した反撃のうちのひとつに過ぎない。


 片足なら取れる選択肢は少ない、ガビは右の拳をランバートの腹に叩き込む。だが、ガビは目を剥いて飛び退いた。


 大きく後ろに三歩下がったのとほとんど同じタイミングで、ランバートの足が地面についた。


 エレナならきっと手で受けていたであろう攻撃をランバートはまともに受けて微動だにしなかった。しかも片足の状態でだ。


 それに、あまりにも頑丈すぎる。

 殴りつけたガビの手の方がダメージを受けている。


「なにそれ」ガビは変な笑いが出た。


「いい攻撃だった。痛くはないがね」ランバートはウインクをした。


 ガビは頬を引きつらせて、ふたたび突撃した。

 それに合わせて、ランバートが一気に前に出てきた。ガビの予期せぬタイミングで互いの間合いがかち合ってしまう。


 飛んできた拳を咄嗟に手のひらで受ける。

 容赦ない威力だった、衝撃が骨を伝って肩まで響く。数発受けたら腕が使い物にならなくなるだろう。


 ガビは次の攻撃を腕を使っていなした。

 これなら負担はゼロではないものの、はるかにマシだ。


 攻撃をかわし、いなし、隙を見てこちらも攻撃をいれる。対等ではない攻撃の応酬が続く。しかし、威力も手数も負けているガビは、あっという間に限界が訪れた。


 腕は痺れ、感覚がほとんどない。

 途中、脇腹にくらった膝蹴りのダメージが大きすぎた。

 

 とうとうガビは繰り出した腕を戻せなくなった。

 あっと思った時にはすでに遅かった。足を引っ掛けられ、後ろ向きに倒れ込んだ。


 この腕では受け身を取ることも出来ない……ガビはやってくる落下の衝撃に目を固く閉じた。しかし、その時はやって来なかった。大きな腕がガビの体を支えていた。


「すまない、つい楽しくなってやりすぎてしまった……大丈夫か?」


「ありがとう、ランバート。大丈夫……いい経験になったよ」


 ランバートに支えられながら、ガビは倒れている丸太に腰を下ろした。口の中が切れている、溜まった血を吐き出した。


「大したものだよ、ガビ。その歳でその強さは誇っていい。同年代なら間違いなく十本の指に入るはずだ」


「そうかな、ランバートほどの人にそう言ってもらえて嬉しい気持ちはあるけど……手も足も出ずにあしらわれた直後だから素直に喜べないや」ガビは苦笑いした。


「ふむ、謙虚な姿勢も良し。調子に乗ると足元を掬われるからな」ランバートはにんまりして眉を動かした。


「試したの?」


「言葉は間違いなく本心だよ。それに私の知るかぎり、エレナは最高の賞金稼ぎの一人だ。彼女に師事出来ている君はとても運がいい。これからも研鑽を怠らないようにな」


 ランバートはにっこり笑って言った。

 ガビは何だか誇らしい気持ちなった。笑顔を返して力強く頷いた。

 

「さて、そろそろエレナも起きたかもしれないな」


 ランバートが明るくなった空を見て言った。


「一人で立てるか?」


「立てるよ」


 ガビは丸太を支えにして立ち上がった。

 脇腹が少し痛むが、腕の痺れはもうない。ただし、あちこちに痛そうなアザが出来ていた。


 村への帰り道、ガビはランバートに質問の嵐をあびせた。なにせ、エレナ以外の賞金稼ぎと会ったのは初めてだ。聞きたい事が山のようにあった。


「どれくらい鍛えたらそうなるの?」


 ガビの視線を感じたのか、ランバートがお腹を軽く叩いた。


「気の遠くなるほどの時間さ。鍛錬を積み、死戦をくぐる。それをずーっと繰り返した先に圧倒的な強さがあるんだ」


「それだけ? 特別な修行とかじゃなくて?」


「そうとも。口にするのは簡単だが、それが出来ない者は多い。心が折れてしまったり、死んでしまったりしてな。だが、だからこそ、たったそれだけの事をずっと続けられる者は強いのさ」


 ガビは乾いた笑いが出た。

 

「参考になるよ。つまり、死なずに戦い続ければいいってわけだね」

 

「簡単だろう?」


 ランバートばくつくつと笑った。

 



 二人が村に戻ると、家の前でエレナが腕を組んで待っていた。ムスッとしている。


「朝起きたら二人ともいないから、何事かと心配したのよ」


 それから、エレナは二人の、主にガビの汚れ具合を見て眉をひそめた。


「傷だらけじゃない、何してたの」


「ランバートと組手をね」


「その様子じゃ、コテンパンにされたみたいね」


「うるさいな」


 エレナとランバートがケラケラと笑った。


「朝食の前に体を綺麗にしてきなさいね」


 キッチンに行くと、すでに料理がテーブルに並べられていた。二人は手をつけずに待ってくれていたようで、ガビは急いで椅子に座った。


 朝食を食べている間、エレナの様子がおかしかった。ガビが食べているところじっと見つめてきて、食べにくい事この上ないし、ひと口食べるごとに「おいしい?」と聞いてきた。


 それになんだか、よそよそしさを感じた。

 理由は皿洗いを終えて、食後のコーヒーを味わっている時に判明した。


「とても大事な話があるの」


 ガビはマグをテーブルに置いた。

 エレナはすごく深刻そうな顔をしていた。こんな顔は、幼いガビが高熱を出したとき以来だった。


 ガビは鼓動が早くなったのを感じた。

 話ってなんだろう……何だかソワソワする。ガビはなるべく平静をよそおって尋ねた。


「話って?」


「あのね……私、明日からしばらくの間、留守にしようと思ってるの」絞り出すようにいうと、エレナは眉間にシワを寄せて、辛そうに目を細めた。



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