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賞金稼ぎと怪物の仮面  作者: 秋山春
第三章 古い友人
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11話



「それで……今どこに?」

 

 エレナの声だ。


「わからん……だが……このままでは……パレードが再び……罪のない人々が……大勢、死ぬ」


 ランバートだ。

 えらくおっかない話をしている。


 パレード、聞き慣れない単語だった。

 それに人が死ぬだなんて……ガビは不謹慎だと思いながらも、夢中で聞き耳を立てた。


 しかし、急に声が聞こえなくなった。

 きっと声のボリュームを落としたのだ。ガビは耳の位置をあちこち変えて、なんとか聞こえやすい所を探した。

 

 さっきよりも声が遠く、より途切れているが、何とか聞こえる場所を発見した。


「無理よ……だって、まだ子ども……」


「気持ちは……わかる。だが……ティルザ……命令だ」


 ティルザは、確かランバートと初めて会った時にも聞いた名前だった。昔の仲間だろうか。


 そのあとは沈黙が続いた。

 しばらくして、やっとエレナが口を開いた。


「風を……頭を冷やしてくる」


 ガビは背中から冷や水をぶっかけられた気分になった。まずい、エレナがこちらへやって来る。


 盗み聞きをしていた事がバレてしまう。

 トイレに向かえば入るところを見られてしまうかも……ならば部屋に戻ろう。


 ガビは大急ぎでその場を後にした。

 隙間から部屋へ飛び込んで、ガタガタの引き戸を静かに急いで閉めた。


 その時、向こうの方で床が軋む音が聞こえた。

 ガビは慌てて布団に潜り込んで息を殺した。心臓がうるさいくらいドキドキしている。


 軋む音がだんだん近づいてくる。

 ゆっくりと……部屋の前で止まった。バレているかも……ガビの頭はどう言い訳するかでいっぱいだった。


 どれくらい止まっていただろうか。

 ガビが観念して自ら出ていこうか迷っていると、軋む音が玄関の方へ遠ざかっていった。


 微かに玄関が開く音がして、ようやく深く息が出来た。どうやらバレていなかったようだ。ガビはほっと胸を撫でおろした。


 心臓が落ち着きを取り戻し、冷静さを取り戻したところで、ガビは盗み聞いた会話の内容を思い出していた。


 パレードとはなんだろう……ティルザとは誰なんだろう……それに人が死ぬだなんて……一体どこで……どういう風に……


 そんなことを布団の中であれこれ考え込んでいるうちに、ガビはふたたび眠りに落ちていた。



3



「ごめんなさい……」


 そう口にして、その声にびっくりして、ガビは飛び起きた。最低な目覚めだった。


 盗み聞きしていた事がバレて、エレナにこっぴどく怒られる夢を見た。心臓がバクバクしている。


 おかげですっかり目が覚めてしまった。

 二度寝という気分でもなくなってしまい、ガビはベッドから降りた。窓の外はまだうっすら明るくなった程度だった。


 気晴らしに散歩に行くことにしたガビは、昨晩と同じように引き戸を開けて、隙間から抜け出ると玄関から外へ。


 思いきり朝の空気を吸って、全身をぐーっと伸ばす。ガビは簡単なストレッチをしてから、村の中を適当に見てまわった。


 古い厩舎の屋根裏に鳥が巣を作っていたが、中身は空っぽだった。もう少し早く気付いていたら小鳥を見れたかもしれないと思うと、少し残念な気持ちになった。


 ひと通り見たあとは、丸太打ち場につながる獣道を登った。この道はガビが一人で踏み固めたようなものだ。たまに野うさぎが快適そうに歩いているとちょっとだけ誇らしくなる。


 しばらく行くと、一面に丸太が見えた。

 この場所はガビが六歳になってすぐ、エレナが作ってくれた場所で、最初はすべて打ち終わるのに昼過ぎまでかかっていた。


 最後の方なんて泣きながら木剣を振り回していたっけ……


 恥ずかしい過去を思い出してしまったガビは、つい目の前の丸太を殴りつけた。


「痛っ」


 赤くなった拳をさすっていると、背後に人の気配を感じた。振り返ると、驚いた顔でこっちを見ているランバートがそこにいた。


「おはよう、ランバート」


「これは驚いた。気配を消していたつもりだったんだが」


 ランバートはにこやかに挨拶した。

 昨日ずっと着ていた黒いローブ姿ではなく、上下ともに灰色の太糸で編まれた、ゆったりした服を着ていた。


 ランバートは今しがたガビが殴りつけた丸太をまじまじと見た。


「立派な丸太だな。これを殴りつけるのが日々の修行なのか」


 ランバートが感心したように言ったので、ガビは首を横に振った。


「今のはたまたま殴ってみただけ。普段は木剣を使うんだよ」


「そうなのか。しかし、今日は修行は休みだと言われてなかったかな」


「目が覚めちゃったから散歩に来たんだ。ランバートはどうしてここに?」ガビは尋ねた。


「私も早くに目が覚めてね、何となしに外を眺めていたら君が村を出て行くのが見えたから、脅かしてやろうと後を付けたんだ。見ての通り失敗してしまったが」ランバートは肩をすくめた。

 

「残念だったね」


「私が気配消しがあまり得意でないという事を差し置いても、君の気配察知能力は実に素晴らしい。何かコツでもあるのかな」


 気配を読むのは初めからエレナに褒められたくらい得意だった。特に何かを意識したことはない。ガビは少し考えて、首を振った。


「なるほど、才能というわけだ」


 ランバートは少し残念そうだった。


「エレナとは仲良くやれているかね」


「うん。ケンカはした事ないよ、怒りの鉄槌はたまに落ちるけど」ガビは肩をすくめた。

 

「彼女は怒ったら怖いからなぁ。一緒に旅をしていた時、私も何度か逆鱗にふれて木に縄で吊るされたりしたよ」


「いったい何をしたの……」


 ランバートは思い出を噛みしめるように何度か小さく頷いた。何をしたのかは教えてくれなかった。


 ガビは食い下がったが、ランバートはわざとらしい大きな咳払いを何度もして無理やり話題を終わらせた。

 

「ところで、ガビはこの後、何か予定が?」


「別にないよ。何か手伝う?」


 ランバートは、ふるふると首をふった。


「よければ私と一試合どうかな。エレナが愛弟子と呼ぶ君の実力を知りたい。嫌なら別にかまわないが」


 ランバートは変わらず人懐こい笑顔のままだが、発する空気が変わったのが分かった。すでにやる気満々という様子で、断ってもかまわず襲ってきそうですらあった。


「もしかして、最初からそれが目的で着けてきたんじゃない?」ガビが聞くと、ランバートはニヤリと口元を歪ませた。


「バレたか。それで、どうだね」


 ガビは笑みを浮かべた。

 エレナ以外の人と戦うのは、小鬼を除けば初めてだ。それもエレナと同格の相手……こんなチャンスを逃す手はない。


「喜んで胸を借りるよ」


 ガビは戦闘態勢をとった。



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