プロローグ。
夕闇の中に、ぽつぽつと明かりが灯っている。
村の家々から漏れでる光だ。煙出しの穴から立ち上る細い煙が、あちこちに見える。
女達がちょうど夕飯を用意している頃だ。
山菜をいっぱい詰めた竹籠を背負った男は、森を縫うような細道を転ばぬように急ぐ。すっかり夢中になって取りすぎてしまった。
ようやく、薄闇の中でも村の輪郭がぼんやりと見えてきた時、秋の夜にも関わらず、むわっとする熱気が顔を撫でた。
眼前に広がる異様な光景に、男は呆然と立ち尽くした。村中から黒い煙が立ち上り、雨雲のように固まっている。その下で、炎が踊るように大きく揺らめいていた。
男は、竹籠を投げ捨て、一目散に走りだした。
火事だ。村には親兄弟が、友がいる。身重の妻が帰りを待ってくれている。
木々や土が燃える臭いが、つんと鼻を刺す。
雪のように舞い散る火花に肌を焼かれながら、男は村の中を走り抜ける。
そして、男が家に駆け込んだ時、強烈な異臭に襲われ嘔吐した。嫌な予感が頭をよぎる。恐る恐るあたりを見回して、部屋のすみにそれを見つけた。
男は叫びながらそれに駆け寄った。雑に積み上げられた家族の遺体だ。殴られ、切り刻まれ見るも無惨な姿をしている。
一体誰が、何のために——血が滲むほどの力で鍬を握りしめ、男は家を飛び出した。
友の名前を叫び、熱気に包まれた道を歩く。息苦しい。意識を朦朧とさせながら見知った顔を探すが、誰一人見つからない。
惨殺された家族の姿が頭をよぎる。と、バキッと音を立てて、一軒の家の扉が外へ倒れた。
火に包まれた建物の中から、人影が姿を現した。
純黒のローブを頭までかぶり、顔には怪物を模した仮面をつけている。そして、手には血に濡れた剣。
男は息を呑んだ。
こいつが家族を殺した。きっと村の者達も。途端に理性が吹き飛び、男は鍬を振り上げて飛びかかった。
ゆらり、と仮面がこちらを向く。
すぐ後に、ヒュウと風切り音が聞こえた。喉仏に激しい熱さを感じ、たまらず男は鍬を落とした。
喉を抑えた手のひらが、ベッタリと赤く染まる。
あぁ、切られた。男は膝をついたまま、地面に広がる血の池を眺めた。
いつの間にか、仮面の集団が男を囲んでいた。一様に血染めの武器を手にしている。血を失い、寒さに震えながら、男はそれを耳にした。
仮面のせいでくぐもった声だったが、はっきりと聞こえた。
「パレードは蘇った。いま再び、血の粛清を」




