幕間④
暗躍する者達
広々とした空間に机とイスが並べられている。そして黒ずくめの者が一人いたのだが、突然魔方陣がいくつも現れ、そこから続々と人が出てくる。
「"千変万化の仮面"ナナシ。ここに」
最初に現れたのは仮面の者だ。仮面の者は黒ずくめの者の隣に移動する。
「"傾国の竜姫"ラディ。ここに」
二番目に現れたのは美しくセクシーな女性だ。彼女は優雅な佇まいで席へと移動する。
「"不滅の剛体"バルバイア。ここに」
三番目に現れたのは筋骨隆々の男だ。彼はどこか不機嫌そうにしている。
「"無明刀"ガンリュウ。ここに」
四番目に現れたのは刀を携えた老人だった。しかし、その目は誰よりも鋭く、強者のオーラを放っている。
「"スペルマスター"リリ。ここに」
五番目に現れたのは貴族の令嬢のような少女だ。幼さが抜けないが他の者に物怖じする様子もない。
「"滅びを見る瞳"カルウォン。ここに」
六番目に現れたのはカルウォンだった。彼はつまらなそうに席へと移動する。
「"悪夢の巫女"シンディア。ここに」
七番目に現れたのは巫女服の女性だった。張り付けたような笑顔が印象的だ。
「"麗しの漢女"メフィス。ここに」
八番目に現れたのは、逞しい肉体を持っている男性だ。だが、その佇まいは女性的な柔らかさを醸し出している。
「"形を持つ厄災"コクテン。ここに」
九番目に現れたのは地味な雰囲気の優男だ。そして、彼が席へと移動するとナナシが口を開いた。
「揃いましたね。それでは話を始めましょう」
全体の進行を務めるのはナナシの役割のようだ。
「事前に通達いたしましたが、邪竜とキーノが倒されました。後はカルウォンの部下の二人もですね」
集められた者達は知っていたことではあるが、やはり驚きはある様子だ。
「信じられないわね。本当にあのキーノが死んだの?」
「同感だ。あいつのことだから死んだふりでもしているんじゃないのか?」
発言したのはラディとバルバイアだ。他の者は言葉にはしていないが、二人と同じ意見なようだった。
「残念ながら本当です。その可能性も考えてボスが探してくれましたが見つかりませんでした」
その言葉に一同は黙った。そして少ししてガンリュウが声をあげる。
「誰がやったのか分かっておるのか?」
「推測に過ぎませんが、邪竜を倒したという二人組の冒険者が現れています。そして、片方の冒険者はシェリルです」
全員の視線がカルウォンへと向かう。彼らの中でもシェリルは上質な個体であった上、カルウォンとキーノがいながらも失敗、さらに巫女が二人出てきたので記憶に残っているのだ。
全員の視線を受けながらもカルウォンは気にせず口を開いた。
「懐かしい名前ですね。しかし、彼女はその前に邪竜に呪われていましたよね。その状況でキーノを倒せるとは思えませんが」
「しかし、状況的に一番怪しいのはシェリルです。才能がある上に巫女二人の指導を受けた本物の実力者ですからね」
彼らの中ではシェリルが何らかの方法を使ったと考えられている。
「そうなるとカルウォン。お前の責任はでかいな。部下だけじゃなく、キーノと邪竜まで失った。お前があの時シェリルの誘拐に成功していればこんなことにはならなかったのにな」
バルバイアはカルウォンが嫌いなようで、責任をカルウォンにとらせようとしている。
しかし、ボスと呼ばれている黒ずくめの者がそれを制する。
「その件に関してはカルウォンは既に罰を受けている。今さら蒸し返す必要はない。だが、シェリルという冒険者が脅威になる可能性は高い。我らの目的のためにも、このような失態を起こすな」
その言葉で一同が黙ったが、カルウォンはマイペースに手をあげて質問をする。
「ところで二人組と言っていましたが、もう一人は誰なんですか? 巫女のどちらかですか?」
質問には再び仮面の者が答える。
「無名の男です。ダンジョンに入る前はDランクの者です。情報を集めましたが、良くてCランククラスの戦闘力でしょうね。一応姿は撮ったので確認してください」
そう言ってギルド前にいる、シェリルとジュンの様子が映し出された。
「微妙そうな男ね」
「強さは感じねえな」
「弱くはないじゃろうが、カルウォンの部下はともかくキーノや邪竜は無理じゃな」
ジュンを見た面々は一様に辛口の評価だ。カルウォンの部下はともかく、キーノや邪竜には間違っても勝てないと思われている。
そんな中で、カルウォンの異変に気がついたのは、近くに座っていた少女だった。目の開けられないカルウォンに直接映像を流してあげていたのだが、それ故にカルウォンの変化を間近で感じてしまった。
「ちょっとカルウォン!? 凄く気持ち悪いんだけど、顔が凄いことになっているわよ!?」
全員の視線がカルウォンにまた集まるが、カルウォンは愉悦の笑みを浮かべたままだった。
カルウォンを敵視しているバルバイアや進行を務めるナナシ、さらにはボスまでが言葉を失っていた。
「ああ。やっと見つけました。また会えるのですね」
カルウォンからは喜びの感情が溢れていた。
「何? アンタこの男を知っているの?」
「ええ、知っております。私の運命の人ですからね///」
さりげなく少女はカルウォンから距離をとる。逆にメフィスは興味があるのか身を乗り出していた。
「そ、そう。良かったわね」
「ちなみに彼がシェリルの誘拐を邪魔した人ですよ。キーノ幻術を破り、私の目が効かず、逃亡用にいただいた"神風の結界"さえも越えてきた」
その言葉にはその場にいる全員が無視できなかった。そして、バルバイアが失言をする。
「こんな男がか? お前、キーノに幻術でもかけられたんじゃねえのかよ。こんな男なら俺なら一撃で殺せるぜ、死体でよかったらプレゼントしてやろうか。原型が残るかは知らんけどな」
その瞬間、バルバイアはカルウォンに殴られ吹き飛ばされる。バルバイアはすぐに体勢を整えるが、カルウォンの追撃は止む様子がない。
「何キレてやがんだよ!」
「彼は私の獲物です。貴方程度の存在が彼を侮辱するのは虫酸が走る」
バルバイアもただやられるわけにはいかず、反撃を開始する。他の者達は巻き込まれないように距離をとる。
「やめろ」
すぐにボスが制止の声をかける。カルウォンもバルバイアもさすがに動きを止める。
「我らの中で争っている暇などない。分かっているのかカルウォン、バルバイア」
「…申し訳ありません」
「すまなかった」
二人は渋々ながら謝る。
「とりあえず、男の方も注意しておけ、見ただけでは分からない力を秘めているかもしれんからな。そしてカルウォン。男に執着するのは構わんが任務が最優先だ。勝手に男を追ったりするなよ」
「…はい」
カルウォンは返事をすると席につく。
「ボス。こいつらが俺の任務区域に入ったら殺して構わないよな」
「許可する。カルウォンもいいな」
「ええ。そうそう殺されるとは思いませんからね」
「何だと」
不穏な空気のなか、仮面の者は頭を抱えていた。そして、微妙な雰囲気のまま会議は終わることになる。
◆
内緒の宴
この話はジュンが戻ってきてから、少し後の話である。
日が落ちて、皆でお風呂に入って夕飯を食べ終わり、後は寝るだけの状態だ。
寝室に向かいベッドに入ると、ジュン達は寝息をたて始める。いつもなら同じようにベル達も眠るのだが、この日だけは違う動きを見せた。
(キュキュー)
ベルが小さな声で皆を促すと、コタロウ達はゆっくりとジュン達を起こさないように寝室を出ていく。
そして部屋も出ていき、隣の部屋へと集まり出す。
「キュキュ」
ベルの指示でテーブルの上には続々と料理やお菓子が並べられる。お酒やジュースもコップや皿に注がれて、皆から楽しそうな雰囲気が漂ってくる。
ちなみに今回の宴の立案者は意外にもリッカだった。ジュンがよく少人数で食べたり飲んだりしているのを知っているので、自分達でもやったらどんな気分だろうと思ったからだ。
ベルにその事を話すと乗り気になり、たまには自分達だけの宴会をしてみようという事になって今に至るのだ。
別に誰かを仲間外れにしたいという思いはなく、秘密の飲み会が楽しそうと思っただけである。
そして全員が席に座ると、飲み物の入ったコップや皿を目の前に置いた。
「キュキュー♪」
ベルが小さいコップを掲げて音頭をとる。
「たぬぬー♪」
「ベアー♪」
「ピヨー♪」
「ニャー♪」
それに合わせてコタロウ達も続く。そして始まる従魔達による宴会。
食べて呑んで歌って踊って。ジュン達に内緒の宴会というのが、背徳感からかベル達を楽しくさせている。
ベル達の話も盛り上がっていく。だけど内容はジュンやシェリルの事が多い。ベルとコタロウはダンジョンに潜る前の話を皆に聞かせていたが、段々と皆のテンションが下がってきた。
理由は単純だ。ジュン達の話をしているうちに寂しくなったのだ。
皆は視線で会話し頷きあった。そしてキチンと片付けを始める。仕上げに"清潔の指輪"を使うことも忘れてはいない。
片付けが終わるとすぐに寝室へと向かう。ぐっすり寝ているジュン達を確認すると、自然と笑みがこぼれだす。
そして寝ているジュン達の布団に潜り込む。満足そうな顔のベル達は甘えるようにくっつきながら眠りだした。
この日以降。ベル達は定期的に従魔の宴会を開き、寂しくなったらジュンの布団に潜り込むのを繰り返すのだった。
ちなみにジュン達はこっそりとベル達の宴会を見ていたりする。
ストックが尽きたので、一旦書き溜める期間に入ります。転職して仕事が忙しくなったので、再開には時間がかかりますが、次の章を今年中には仕上げたいと思っています。
 




