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第九十一話 動きだす者達

「とりあえず密猟者達を引き渡しに行かないといけないわね」


 結局、妖精リスの正体は分からないままだが、密猟者達を放っておく訳には行かないので俺達は王都へと戻ることにした。


 そして準備をしていると、大勢の人間がやってきた。


「おや? このような場所で何をしているのですか?」


 現れたのはエルメシア教の神父とシスター。それと武装している教会騎士団だ。


「少し狩りをね。そしたら密猟者に遭遇したのよ。貴方達はそんなに大勢で何をしているのかしら?」

「見回りですよ。シェリルさんこ件もありましたからね。こうして定期的に確認しているのです。……よろしければ、その密猟者達は私共で連行いたしましょうか?」

「…そうね。お願いしようかしら。ただ、魔物は私達の方で解放しておくわ」

「…分かりました。お願いいたします」


 互いに何か考えていたようだが、話はすんなりと終わった。そして、密猟者は引き渡して魔物達はこちらで面倒をみている。


「良かったんですか?」

「ええ。どのみち私達だけだと手間だしね。ただ、エルメシア教は魔物を処分する可能性があるからそこだけは阻止させてもらったわ」

「……あいつらがシェリルの件に関わっていた可能性は?」

「ゼロじゃ無いけどあいつらは捨てゴマ程度よ。どのみち有益な情報はないでしょうね」


 そう言ってシズクさんは魔物達の状態の確認を行う。暴れている魔物もいるのだが、シズクさんが声をかけて撫でると徐々に大人しくなっていく。


「凄いな」

「ロクサーヌ教は慈愛に満ちているからの。魔物であっても落ち着くのじゃろ。敵として相対すれば鬼神のごとき強さじゃがな」


 ツバキとシズクさんを見ていると、シェリルがじっとシズクさんに抱き着いた。


「あらどうしたの?」

「…何でもない」


 そう言いながらもシェリルはシズクさんから離れない。俺達は微笑ましい光景を見ながら、魔物達を元の場所に返す作業を手伝う。


 作業は長くなるが、途中でツバキがロクサーヌ教の人達を呼びに行き、残りの作業は引き継いでもらえた。



「おい! 俺達を解放しろ!」

「そうだそうだ。お前ら許さねえぞ!」

「俺達を誰だと思っているんだ」


 森の中を歩くエルメシア教と密猟者達。何も答えない教会関係者とは反対に不自然なほど密猟者達は騒いでいた。


 何故ならば、その光景は誰かが見せている幻影で、実際の光景とは異なるからだ。


「だからさ。例の魔物をどうしたのか聞いているんだよ。心の広い俺っちでも、いい加減切れちゃうよ。こんな風にな」


 檻の中には密猟者達以外にもう一人男がいる。その男が密猟者達を問い詰めている。


 密猟者達の前に投げ捨てられたのは、原型をとどめていない肉塊だ。


「「「ひぃ」」」


 檻の中には密猟者達の悲鳴が響き渡るが、周りは何も気がつかない。


「そいつはこの前、とある女の子を逃がした三流以下の幻術使いだ。言っておくが俺っちが殺したわけじゃねえぞ。今回の計画の立案者がご立腹なんだよ」


 密猟者達の目には涙が浮かんでいた。


「もう一度聞くぞ。さっきの魔物の集団中には例の魔物はいなかったが、どうしたんだ? お前達が捕まえた話は聞いているんだよ」


 迫力に押されて、一人の男が小さな声で話を始めた。


「逃げたんだ。あいつらが檻から出したから。翼を生やしてどこかに消えちまった」

「……そうか。逃げちゃったか」


 問い詰めていた男は哀れみの視線を密猟者達に向ける。


「隠していたら良かったのにな。まあいい。正直者の君にご褒美だ。他の者は眠っとけ」


 すると喋っていた男は切り裂かれ。音もなく死んでいく。


「生きていたら実験材料だからな。俺っちでも目を瞑りたくなるレベルのな。さてと、それじゃあもう一つ仕事をしないと」


 男は肉塊や死体と共に姿を消した。



 密猟者達を捕まえた翌日。俺達はいつも通りの生活を送っていた。


「ジュン。今日は何するの?」

「そうだな……」

「修行はやるとして他に何をするかじゃな」

「また、街でも見て回る?」


 過去に来てから何回も経験した日常だ。背中に乗ってくるシェリルもいつも通りのはずだ。

 だが今日は何故か違和感がある。ツバキもシズクさんも気にしていないが、俺は何かに引っかかっていた。


 そして反射的に俺は走り出して何も無い空間に手を伸ばした。


「何しようとしてんだ」

「あれ? 気付かれちった?」


 俺が掴まえたのは忘れもしないキーノだ。俺が掴まえた瞬間に、先程まで俺達と話をしていたシェリルは消えて、キーノのに捕まっている。


 キーノはシェリルの口を塞いでいたが、俺に気づかれた事で手を緩めたのかシェリルが大声をあげた。


「助けて!」


 ツバキとシズクさんもすぐに動く。もちろん俺もシェリルを助けるために手を伸ばした。


「させないよ」


 キーノは俺の手を振り払うと、ツバキ達の追撃も避けきってみせた。


「イヤー。俺っち久し振りに驚いちまったよ。でもこの子は渡せないんだよね」

「逃げ切れると思っているの」

「一歩でも動いたら死ぬと思え」


 ツバキとシズクさんから凄まじい殺気が放たれる。


「おお、怖い。俺っちガクブルだぜ」


 キーノは二人の殺気を受けてもふざける余裕があった。

 その時俺は、ドアへと走り出していた。そして強く握った拳を振るう。


「三流の道化が」


 おれの拳はキーノを捉えた。先程までのキーノは消え、ツバキとシズクさんは驚愕の表情だった。だが、誰よりも驚いていたのはキーノだった。驚きのあまりシェリルが逃げ出したのすら気が付いておらず、ただ俺を見つめていた。


「ククク。フフフ。アハハハハハ♪」


 キーノは狂ったように笑い始めた。


「惜しいな。あの狂人の依頼じゃなきゃ、今すぐにでも遊びたい気分だ♪ お前はここで死んじゃダメだからな」


 するとキーノは黒い大きな布を取り出して手に乗せる。そして勢いよく布を捲ると、逃げたはずのシェリルがいた。


「え!?」

「「「待て!」」」

 

 驚くシェリルに手を伸ばすも届かなかった。

 キーノは一瞬のうちに逃げていた。ついでにナイフを何本も投げてきたので俺達は完全に足止めをされてしまった。


「逃さん!」

「待ちなさいツバキ! 闇雲に探してもアイツは見つけられないわ。教会に手伝ってもらうわ」

「そんな時間はないじゃろ!」


 二人が言い争う中、俺は"導く鬼火"を取り出した。


「これでシェリルを追える」


 二人とも頷きあい、俺達はすぐに鬼火の後を追った。街を抜けて森の中へ入っていく。そして俺達は一軒の小屋の前にたどり着いた。


「ここにいるのね」

「恐らく」


 周囲には他に隠れられるような場所も無い。キーノなら上手く誤魔化している可能性もあるが、怪しい場所は調べる必要がある。


 ツバキが先頭になり扉をゆっくりと開けた。


「あら。キーノ様に来るかもしれないと言われておりましたが、こんなに早く来るなんて。……可哀想な人達ですね」

「自業自得だろ。どのみち邪魔な存在だからな」

「……貴方達は」


 小屋の中にいたのはエルメシア教のシスターと教会騎士団の男だ。その後ろには眠っているシェリルがいる。


「お主等は何をしているのか分かっておるのか?」


 ツバキが殺気を放ちながら話しかけるが、女も男もクスクスと笑っている。


「勿論ですよ。分かっていないのは貴方達の方ですよ。崇高な行為には犠牲や生贄は必要でしょう」


 悪びれる様子もなく女は言い切った。


「話すだけ無駄じゃな。先程の奴と関係があるようじゃし、タダで済むとは思わぬことじゃ」

「巫女と崇められて調子に乗るなよ。こっちが何の勝算も無くここにいると思っているのか」


 そう言うと地面から大きな蛇が現れた。その大蛇はただの蛇ではなく、人間の集合体が蛇の形を作っている。


「悪趣味だな」

「はん。貴様の様な無能な冒険者には理解できまい。我々は価値のない者達にも価値を付けてやったのだ。お礼を言ってもらいたいくらいの事だぞ」


 今すぐにでも殴り飛ばしてやりたい言葉だが、シェリルがアイツ等に囚われている以上下手には動けない。キーノの仲間である以上、幻魔法への対策もされていそうだしな。


「それでその蛇もどきで妾達を倒せると思っておるのか?」

「ふふふ。私は貴女達の事は過小評価しておりませんわ。貴女達を私達で倒すのは無理でしょう。でも時間稼ぎは可能です」


 すると女は二つの小瓶を取り出した。


「異空間系のアイテムね。させないわよ」

「貴女達は人間の生への渇望を甘く見ていますね」


 その言葉と同時に大蛇の口から人魂が飛び出してくる。


「コロシタイコロシタイ」

「カネヲオイテイケ」

「オンナオンナオンナ」

「バラバラバラバラ」

「タベタイタベタイ」


 人魂から聞こえる怨嗟の声。強い思いがこもったその声は僅かにツバキたちの動きも止めてみせた。そしてその隙に小瓶が投げられる。ツバキ達は小瓶に吸い込まれるように消えていった。


「幹部の方々が用意してくれた特別な小瓶ですからね。巫女様達でもすぐには出てこれませんよ。…後はアンタを殺せば終わりだね」

「それなら俺にやらせてくれよ。コイツには恥をかかされたからな!」


 男と女の魔力が一気に跳ね上がる。どうやらあの小瓶は特別製なようで三本目はないらしい。


「死ね!」


 力や速さは上がったが技量が上がったわけではない。向かってくる男の攻撃を躱して足を引っかけ、バランスの崩れたところにを鋼雲”で思い切り叩き潰してやった。


「痛えじゃねえか」

「…生きているのか」


 遠慮なく殺すつもりで叩き潰したので、床には穴が空いているのだがそれでも男は平気なようだった。


「ちょっと、それじゃあ時間がかかるじゃないか。早く終わらせないと怒られるんだよ」

「うるせえ。分かっているよ」

「時間が無いんだから早く済ませなよ。ほら」


 女はシェリルにナイフを当てる。


「言っておくけど、生きていた方が都合は良いけど死んでも問題ないからね。アンタが動いたらこの子は殺すから」


 女は蛇の様な目をして睨みつけてきた。俺は武器を仕舞ってその場に立っているしかなかった。


「これなら簡単に殺せるでしょ。五分間だけ待ってあげるから、これが最大限の譲歩だからね」

「五分あれば十分だ」


 男は俺に殴り掛かってくる。


「おら! 死ね!」


 俺はサンドバック状態だ。感覚魔法で痛覚を消してただただ耐え続ける。


「全然倒れないじゃないか。もうこの蛇も使いなよ。精神的にぶっ壊せるよ」

「それじゃあつまんねえだろ!」

「全く」


 どうやらあの蛇は精神系の攻撃が得意らしいな。

 俺は女の近くに佇む蛇に目を向けると、シェリルが目を覚ましたことに気が付いた。

 シェリルは眠らされていただけで縛られてはいなかった。聡いシェリルは状況を把握したのか何かをしようとした。


「きゃあ!?」


 シェリルは女の顔に火の魔法を使っていた。不意打ちをくらった女はよろけてシェリルから距離を取る。男も女の方に気を取られて俺から意識を逸らした。


 俺はすぐに“暴風鴉”に持ち替えて男を切り裂いた。


「ぎゃああああ!?」


 そしてそのまま女にも切りかかる。


「死ね」


 殺すつもりで振り下ろす。だが蛇が女の盾になる。だが風を纏った暴風鴉の威力はレベルが違う。蛇諸共女の体に致命傷を与えた。


「ああああああ!? 私の顔や体に傷を!? それによくも私のパートナーを!」


 人の執念の恐ろしさを俺はここで感じた。女と男の体に蛇が集まっていく。俺はシェリルを抱き上げるとすぐにその場を飛び退いた。小屋は轟音とともに崩れ落ちる。


「アイツは確か」


 そして崩れた小屋から変わり果てた姿の男女が現れた。どちらも下半身が大蛇で腕が六本に増えている。そして女の方は顔に蛇の鱗が付いている感じだが、男の方は完全に蛇の顔だ。


「ああああ!? 私が化け物に!? ……このクソガキがいなければ!!」

「コトスコロスコロス」


 俺はため息をついた。


「お前らとは変な縁があったんだな。女の方はシェリルが倒していたから見ていないが、恐らくお前だったんだろうな」


 ダンジョンジョンで襲ってきた蛇騎士の正体に今更気が付いた。


「まあ、これなら勝てるな」


 蛇女と蛇騎士は生きてはいるが、先程の傷が酷いようで動く事は出来ない。止めを刺そうとした時、後ろから声が聞こえた。

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