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第八十六話 王都の空気は俺には合わない

「それじゃあ妾に付いてくるんじゃぞ。シェリルは決して一人になるんじゃないぞ」


 俺達は外に出ると王都を目指して歩く事になった。ツバキが先頭で俺が後ろ、シェリルが間に挟まれる感じだ。


「ところでジュンよ。次の修行は妾の魔力によって勝ち負けを変えるんじゃぞ。もちろん妾はジュンの手を見て変えていくからな」


 今までの修行が合わさってしまった。そしてさらに絶望的な言葉をもらう。


「それができたら、今度は両手じゃぞ。ここまでクリアしたら褒美に妾をくれてやるぞ♪ こんな美女がご褒美ならやる気も出るじゃろ」


 ツバキは以前の仕返しとばかりに、妖艶な雰囲気を醸し出してきた。さすがに俺もたじろいでしまう。


「ツバキお姉ちゃんがご褒美? じゃあ私もご褒美になる」

「そうじゃな。二人とも娶ってもらうとするか。それとシェリルも次の修行は一気に難しくなるが、成功したらジュンに褒美を出してもらおう。何か欲しい物はあるか?」


 俺を半ば無視をして話が進んで行く。


「じゃあ大きいお家が欲しい。泳げるくらいのお風呂や、夢で会った子達とも遊べるような場所が欲しいの」

「それはいいの。ではジュンに頑張ってもらうとするか」

「うん」


 断れる雰囲気ではない。そしてご機嫌なシェリルを見ると話も遮れないので、王都に着くまで俺はツバキとシェリルの話を聞き続けた。


「そろそろ王都じゃな」


 少し先には大きな城塞が見えてきた。その大きさには度肝を抜かれる。


「凄い大きさだな。壁も強固そうだ」

「壁もそうじゃが結界も張られておるぞ。それと門には門番もおって入場する者を確認しておる。身分証の提示が必要になるぞ。無い場合は簡単な検査と大銅貨三枚で入れるがな」


 俺のギルドカードって使えるんだろうか?

 そんな疑問が頭をよぎったが、ツバキの言葉で解決となる。


「まあ今回はシェリルの事もあるからの。妾の立場を利用して通らせてもらう」


 巫女の立場は強いという事なのだろう。

 王都に近づくにつれてシェリルの元気がなくなっていく。


「シェリル大丈夫か?」

「…うん」


 明らかに気落ちしている。余程王都に行くのが不安なのか、さっきから俺の服を掴んで離す様子がない。そして門の所まで来ると俺がシェリルを抱っこしている状況になった。


「王都に入ったら妾の友人の家に向かう。シェリルよもう少しだけ我慢してくれ」


 門の所は本当にツバキのおかげですんなりと通してもらえた。そして俺達は王都に足を踏み入れた。


「…人が多いな」


 この言葉には二つの意味がある。一つは単純に人の数が多いという事。もう一つは獣人などを見ないという事だ。


「ここはエリート意識の強い者が根付くからな。……街のはずれの方やスラムには色んな者達が住んでいるがな」

「そうか。冒険者はどんな感じなんだ?」

「同じようなものじゃ。全員とは言わんが王都という事で、他の地域から来る者を見下す傾向が

あるな」


 それじゃあギルドに行くのは止めるか。面倒事は少しでも避けた方が良いしな。

 そのままツバキの後を付いて行くと、段々とのどかな雰囲気に変わってくる。


「この辺は落ち着いた雰囲気なんだな」

「街も栄えているのは中心部だけじゃ。目に見えないところまでは手入れが行き届かないからの。…着いたぞ。ここじゃ」


 案内されたのは少し大きい一軒家だ。


「シズク、妾じゃ。開けてくれんか」


 声をかけるとドアが開いて、中から出てきた人がツバキに抱き着いている。


「いらっしゃいツバキ♪ 待ってたわよ」

「相変わらずじゃな。ところで話があるのじゃが、この者達も中に入れてくれんか」

「あら、ツバキが誰かと一緒なんて珍しいわね。いいわよ二人も一緒に中に入って」


 シズクさんは快く俺達を中へと入れてくれた。

 そしてツバキが俺達の事を簡単に紹介し、シェリルと出会った時の状況を話すと、シズクさんは何か考えだした。


「話を聞く限り、エルメシア教の孤児院の子かしらね。私達の方で預かるのは構わないけど、話を通さないといけないわ」

「魔物について心当たりはあるか?」

「残念だけど特にないわ。だけど話を聞く限りこの辺りでは出ないタイプの魔物ね。ちょっと調べてみるわ」


 ツバキの頼みでシズクさんは力を貸してくれるようだ。

 そして不安そうなシェリルに笑顔で近づいていく。


「私はシズクよ。よろしくねシェリル。今までよく頑張って来たわね。今はゆっくり休みなさい」


 そう言いながら不安そうなシェリルを抱きしめる。シェリルは驚いた顔をしながらもシズクさんに抱き着いた。


「さすがはシズクじゃの」

「お母さんと言った感じだな」

「その解釈であっているぞ。シズクはロクサーヌ教の巫女だからな。ロクサーヌ教の巫女は母性が強い者が多いのじゃ」

「はー、シェリルも安心しきっているもんな」


 王都に来たことで精神的な疲労が溜まったのだろう。シェリルはシズクさんの腕の中で眠りについていた。


「寝ちゃったわね。起こさないように静かにお喋りでもしましょうか」

「それがいいの。中々面白い話もあるから話題が尽きることは無いじゃろうしな」

「あら、期待するわよ」


 挑発的なツバキに、シズクさんも受けて立つと言った表情だ。


「この男じゃがな。シズクと同じ渡り人じゃ」

「あら、そうなのね♪ 私は北海道出身だけど貴方はどこなの?」


 シズクさんは日本人らしい。


「俺は出身は岩手ですよ。ですが宮城の方に就職して一人暮らしをしてました」

「岩手なら孫の家族がいたわ。懐かしいわね。曾孫もいたから何度か行ったわ」

 ……曾孫?


「え? 失礼ですけど、シズクさんって何歳の時にこの世界に来たんですか?」

「八十歳の時ね。いやー、畳の上で大往生したと思ったんだけどね。死んだと思ったら別の世界に転生するなんて思わなかったわよ。でも不老不死の能力はいらなかったわね。もう二百年も生きているけど別れがきついのよね」


 二百年? 今から二百年前だと江戸時代だよな。北海道っておかしくないか?……時間の流れが違うという事にしておくか。


 疑問が出てきたが考えてもしょうがないので隅に置いておくことにした。いずれは日本に帰りたいなら重要かもしれないが、帰れるわけではないからどうでもいいな。


「ねえ、そんなことよりも貴方の能力ならカップ麺やレトルト食品も出せたりするの? ジャンクフードが食べたいんだけど」

「出せますけどジャンクフードでいいんですか?」

「いいのよ。たまにああいうのが食べたくなるのよ。それに味も結構いいじゃない」


 そういえばウォーレン様の屋敷で会った時もカップ麺を強請られたな。大漁に渡しておくか。


「保存できるなら色々渡しますよ」

「本当? アイテムボックスがあるから沢山頂戴。支払いは金貨でいいかしら?」

「金貨よりも何か珍しい素材やアイテムがあればそちらの方が」

「素材ならそこに余っているのがあるけどどうかしら?」


 調べさせてもらうと、どれもが十万ポイント以上の物だった。そんな素材がいくつもある。俺はシズクさんに言われるがままに商品を渡すことにした。


「いやー。ポテチとコーラとか最高ね」

「食べていたんですか?」

「しょっちゅう食べていたわ。孫や曾孫と一緒に色んな味の食べ比べなんかもね」


 意外な気もするが、喜んでくれたようで何よりだ。


「それじゃあ俺はそろそろお暇させてもらうよ」

「何を言っていおるんじゃ? お主がいなくなったらシェリルが悲しむぞ。しばらくは付き合わんか。それに修行がまだ終わっとらんぞ」

「そうね。私も話をしたいしね」


 そんな訳で俺はシズクさんの家にお世話になる事になった。

 しかし俺はいつになれば帰る事ができるのだろうか?

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