第七十五話 お買い物
昨日のサクスム家訪問以降、シェリルの機嫌が良くなってきている。ベル達にもそれが伝わっているのかどことなく嬉しそうだった。
今日はとりあえずギルドに向かったが、予想通り連絡は来てなかったので適当にぶらつくことにした。
「どこに行くかな?」
「クロス達の所はどうだ? ベル達の服を確認するのだろう」
「そうだな。そうするか」
ベル達は自分達の服ができるかもしれないと聞いて喜んでいた。これで従魔用の服を作れる人はいないと言われたらどうしようか不安になりながらも、クロスさん達の店に着いた。
「おうジュン。話は聞いたぜ。お前凄え事したんだってな」
食事会以降会っていなかったが、クロスさん達はいつも通りに接してくれている。
「やっぱり噂になりますよね」
「そりゃそうだろ、ダンジョンの最高到達階層の更新に邪竜討伐、それにあのエルメシア教の司教を脅したんだからよ」
豪快な笑いと共にクロスさんに背中を叩かれた。
「ところで従魔がまた増えてないか。可愛いけどよ」
パッチさんがメアを抱き上げて挨拶をしている。メアはベル達に事前に聞いていたようでそのままパッチさんの頭を叩きだす。
「いつもすみません。その子はメアと言います」
「良い名前だな。だが気を付けろよ。エルメシア教は黒猫を嫌っている。一般の人や冒険者の中にも黒猫は不幸の象徴と考えている奴も少なくないからな」
メアの頭を撫でながらバーンさんは俺に忠告をしてくれた。
「分かりました気を付けますね。ところでちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「何だ?」
「ベル達にも礼服を作ってくれる人っていませんか?」
三人は微妙な顔をする。
「やっぱり難しいですよね」
「いや、いるにはいるんだが、中々個性的な奴だ。ガーベラの服屋という店に行ってみろ。作ってくれるかもしれん。俺達から紹介されたと伝えればいい」
「分かりました」
何を渋っているのか疑問だが行けば分かるだろう。そしてさっそく移動しようと思ったのだが、ムギとメアが俺を引き留める。
「どうした?」
「ピヨヨー」
「ニャー」
欲しい物があるようで必死に訴えてきている。そして、ベル達が近づいてきて腕輪をアピールしてきた。
「そっか。お揃いで欲しいよな。気が付かなくてごめんな。パッチさん。従魔用のアイテムボックスのリング型ってありますか?」
「余裕であるぜ。ついでにもう一つか二つ買っていけ。お前なら多分従魔が増えそうだからよ」
「私もそんな気がするぞ」
シェリルにも言われたので予備を含めて四つ買う事にした。ムギにとってはアイテムボックスのリングは意味が無い物だが、皆とのお揃いは嬉しそうだった。
「たぬぬ」
そして今度はコタロウが俺を引っ張る。
「…これが欲しいのか?」
「たぬ」
コタロウが示したのは大太刀だった。これはちょっとな。
「コタロウ。欲しいのは分かるけど、使うのが難しいじゃないか」
「たぬ~」
見るからに残念そうに落ち込むコタロウだった。だがそこにクロスさんが声をかけてきた。
「何だコタロウは刀を使いたいのか?」
「たぬ」
「人に変化が出来ないと使うのは難しいと思うができるのか?」
「たぬ」
コタロウはクロスさん達の前で変化を見せた。その変化を見たパッチさんが俺に声をかけてきた。
「お前達、子供作ったんだな」
「コタロウの変化ですよ。目の前で見たでしょ」
「いやー、そうだけどよ。今の姿で最初から来られたら俺はそう判断しそうだ」
冗談交じりで俺達は喋っていたがクロスさんは真剣だった。
「その姿で持てるか」
大太刀をコタロウの手に渡す。クロスさんが手を放すとコタロウはふらついて何とか持てているような状態だった。
「残念だが、今のコタロウにその武器を売る事は出来ないな。今の状態で使ったら仲間を傷つける可能性がある」
「たぬ~」
コタロウも自分で持ってみた使えない事が分かったようだった。まあ買っておいて使えるように訓練するという方法もあるが、それなら使える武器で訓練しておいた方が良いだろう。ダンジョンで手に入れたら話は別だが、使えない武器を買うのはあまり好きではない。
落ち込むコタロウだったが、クロスさんの次の一言で元気を取り戻す。
「どうしても武器が欲しいなら俺が一本作ってやろうか?」
「たぬ!」
顔を上げてクロスさんを見つめる。
「まあジュンの許可が必要だけどな」
コタロウは俺に近づいてきてペコリと頭を下げる。そしてベル達も一緒に頼み込むように頭を下げてきた。
「貴様はどうするんだ」
クスクス笑っているシェリル。俺の答えを分かっているのに聞いて来ているんだよな。
「もちろん許可するよ。コタロウに合わせて作ってくれるなら断る理由は無いしな」
喜びだすコタロウ達。そんな彼らをさらに喜ばす言葉がバーンさんから出てきた。
「それならついでに、全員分のスカーフでも用意しようか? ベルとコタロウは今も付けているが、それよりもいい物をお揃いで作ってやるよ」
狂喜乱舞とばかりに踊り始めた。その様子を俺達は笑って見ていたが、俺は三人にある提案をする。
「それなら使いたい素材はありませんか?」
俺は竜を含めてダンジョンで手に入れた魔物達の素材を見せる。三人の目が点になっていた。
「い、いやこれって。竜…だよな」
「他にも高ランクの魔物の数々」
「…血・涙・涎もあるのか。アイテムの幅が広がるな」
ただそこでクロスさんが代表として俺に声をかけてきた。
「ジュン。悪いが俺達にこの素材を買う金は無い。どこか大手の店かギルドに売った方が良いぞ」
「いえ、これでコタロウの刀やスカーフを作って欲しいんです。余った素材は技術料として受け取って下さい」
「……俺達にはプラスしかない話だが、お前は損になるぞ」
「俺は一番信頼している店がここですからね。ギルドはセルシオさんを信頼していますけどトップがあれですからね。納品したら教会に流されそうで嫌なんですよね」
その後もやり取りが続いたら結局俺の意見を受け入れてくれた。その代わりに良い装備が出来たり手に入った場合は俺達に優先的に売ってくれるそうだ。
そんなやり取りが終わると、俺達は紹介してもらった“ガーベラの服屋”へと向かう。
「この辺のはずなんだけど」
「あれじゃないか。看板が出ているぞ」
「お、本当だ」
見つけた店に入ると“チリン チリン”と音が鳴った。
「いらっしゃいませ」
そう言って出てきたのは、女性のように化粧をしている筋骨隆々の男性だった。所謂オネエなのだろう。
「クロス達から紹介されてきた。この子達に礼服を作ってもらいたいのだが」
驚く俺を置いてけぼりに、シェリルは何事も無いように話を進めていった。
「あらクロス君達の紹介なのね。良いわよ。こんな可愛い子達の服を手掛けられるのは私も嬉しいわ」
「キュキュー♪」
「たぬぬ♪」
「ベアー♪」
「ピヨ♪」
「ニャー♪」
ベル達は喜びガーベラさんにお礼を言う。ガーベラさんはくねくねしながらベル達を撫でていた。
「そうだ。ジュン君とシェリルちゃんの分もどう?」
「俺達の事を知っているんですね」
「もちろん。クロス君達によく聞いていたのよ。まあジュン君・ベルちゃん・コタロウちゃん以外は最近聞いたんだけどね」
そう言ってウィンクしてくる。
「ありがたいですけど俺達は礼服を持っているので」
「その礼服は既製品? オーダーメイド?」
「既製品ですけど」
「それなら作った方が良いわ。魔法の力で寸法が合うようになっているけど、最初からその人専用に作られた服は違うのよ。それに貴方達は今後貴族や王族に会うかもしれないから今何着か作っておくべきだわ」
確かに邪竜討伐の実績で王都に呼ばれるだろうとセルシオさんが言っていたんだよな。もしかしたらパーティーもあるかもしれないしあった方が良いのか?
「ジュン。ここは作った方が良いだろう。今後の事を考えると必要になるかもしれん」
「…そうだな。それじゃあお願いします」
「任せなさい。まずは寸法を測るから別室に移動するわ。シェリルちゃん達は別のスタッフが、ジュン君は私が測るわね」
有無を言わさず別室に連れて行かれた。
「あら、薄着だと立派な体が分かるわね。きちんと鍛えられているわ♡」
一瞬悪寒を感じたが、別にベタベタ触ってくるわけではないので気にしないでおこう。
「ところで服に使える素材を持ってたりするかしら? それによって値段も変わってくるわよ」
「どれが使えるか分からないので見てもらっても良いですか。どうせなら皆の魅力を最高に引き出す服を作ってください」
「任せない。腕がなるわね」
採寸の後、俺が素材を見せていくとガーベラさんはかなり興奮していた。竜の素材を含めて色んな素材を買い取ってくれたので、俺達の服の料金はタダになった。それぞれに三着ずつ作ってくれるらしい。
「それじゃあ一ヵ月程時間を貰うわね」
「ええ。期待しています」
ガーベラさんや店員の皆さんに見送られて俺達は帰路につく。
「今日は結構買い物したな」
「金は一切使わず物々交換だったがな」
「まあ両者納得だしいいんじゃないか。まだまだ素材は残っているし」
話をしながら歩いていると急に空が暗くなって皆が空を見上げた。
「何だあれ?」
そこには巨大な船が空を飛んでいたのだ。
「聖王国の魔導船だ。聖女や大司教。それに護衛の兵士や冒険者達が乗っているのだろう」
聖王国の人間が増えるのは嫌な気分になるが。あの魔導船は欲しくなるな。
「いいな。俺も欲しい」
「貴様はもう持っているだろ。忘れたか」
……あ。そうだった。確認を後回しにしていたからすっかり忘れていた。
「…帰ったら確認するか」
俺は期待に胸を膨らませながら隠れ家に戻るのだった。




