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第八話 月光樹

「さあ次はどこに行くかな」


 屋台で買い食いをしながら俺達はまた街を見回っている。とりあえず言えるのは屋台の飯は安くてガッツリ食えるという事だ。味もそれなりだから文句はない。


「ベル達はどこか入ってみたい店はあるか。…料理屋はまた今度だからな」

「キュ」


 若干ベルが不貞腐れた気がするが気にしないでおこう。

 そんなやり取りをしながら歩いていると、ベルが俺の髪の毛を引っ張てアピールしてきた。


「キュキュ。キュキュ」

「あの店に行きたいのか?」

「キュー」


 ベルが強く興味を惹かれているのは緑溢れる外観をしているお店だ。そこには“薬屋”と書かれた看板が立てかけられている。


「薬屋なら俺も見る価値があるしな。早速寄ってみるか」


 俺が言い終わると同時に、ベルはコタロウを誘って一緒に駆け出していく。そして店の外に置かれている植物などを眺めていた。


 ベル達の後を追って植物を眺めてみる。薬屋と書かれているが、普通の観賞用の植物や花も多く置いてあるようだ。数秒ごとに花弁の色を変える物もあったりして見入ってしまっていた。

 その間にもベルとコタロウは店の中に突入していたので慌てて追いかける。


「いらっしゃい」


 店内にはお婆さんが一人カウンターに座っていた。よく見ると耳が長いからエルフかもしれないな。

 そんなお婆さんは店内で喜びの声を上げているベルとコタロウをニコニコと見ていた。


「すみません。騒がしくて」

「構わないよ。アンタの従魔は元気いっぱいだね。良い事だよ」


 お婆さんは孫を見るような目だった。とりあえず物だけは壊さないようにだけ言っておき、俺はポーションの類を確認する。下級系は店内に置かれているが、中級以上は直接注文が必要なようだ。ただ値段は書いていてくれる。


「下級は大銅貨だけど中級は銀貨以上か。上級なんて大銀貨どころか金貨が必要な物もあるのか」


 それだけ高いとどんな時に使うべきか迷いそうだな。

 そう思いながら見続けていると、近くにはポーションのセットも売ってあった。


「へー、駆け出しの冒険者用のセットか。色々な下級ポーションが入って銀貨一枚と大銅貨五枚か。買っておくかな」

「キュキュー!! キュー!」

 

 突然ベルが俺の事を慌てて引っ張ろうとする。何かあったのかと思いベルに付いて行くと、小さい苗木の場所に案内された。そしてベルはしきりに一本の苗木を俺に渡そうとしてくる。

 渡された苗木は他の物と同じだが、不思議と俺の手に馴染むような感覚もある。


「これは何だよ?」

「それは“ランダムツリー”だよ。どんな樹になるかは育ててみないと分からない物さ。まあほとんどが木材用の樹にしかならないけど、稀に珍しい果実や素材がとれたりするよ」


 運の要素満載だな。だがベルがこれだけ必死なら買っておくか。隠れ家の裏庭は果てしなく広いからな。そんな樹になっても影響は無いだろう。

 この時の俺はこんな風に軽く考えていた。だがこの判断が後に俺に大きな影響を及ぼすことになる。


「これはいくらですか?」

「銀貨一枚だよ」


 それなら大丈夫だな。


「コタロウは何か欲しい物はあるか?」

「たぬぬ」


 コタロウは首を横に振る。興味はあるが欲しいとまではいかないようだ。

 俺は先程のポーションのセットも持って来て、ランダムツリーと一緒に購入した。


「ケガには気をつけるんだよ。小さい傷でも大事になる事があるからね。体を労わる事は忘れちゃいけないよ」

「はい。ありがとうございます」


 俺達は薬屋を後にする。そしてベルが早くランダムツリーを植えたいようだったので隠れ家へと戻る。


「キュキュー」

「たぬぬー」


 ベルとコタロウは隠れ家に入ると裏庭へと駆け出していく。

 元気いっぱいだなと思いながら俺も走って二匹を追いかけた。


「キュキュキュ!」


 少し離れた場所で、ベルが地面を指差している。


「ここに植えたいのか?」

「キュー」


 土魔法で穴を掘るとそこに苗木を植える。

 魔法を使ったのでとても簡単に終わってしまった。俺とコタロウは部屋に戻ろうとしたのだがベルはその場から動かない。


「まだ何かあるのか?」

「たぬ?」


 俺とコタロウが声をかけても聞こえていない様子だ。それ程までにベルは集中している。

 もう一度声をかけられる雰囲気ではなかったので、俺とコタロウはベルを黙って見ていた。


「キュ!!」


 ベルが大きく鳴くと苗木が光り出してどんどん大きくなっていく。


「何だよこれは!?」

「たぬ♪」


 驚く俺とは対照的にコタロウは楽しそうにその樹を見ている。そしてその樹は淡い青色の光を放つ大樹へと育ち、その樹を中心に周りにはドーナッツ型の少し大きい池ができた。当然俺達の足元はびしょびしょだ。

 だけど何とも言えない神秘的な光景だと思った。


「この樹はいったい?」


 葉っぱや小枝、そして瓶に水を詰めて確認してみる。


 “月光樹の葉”

 薬の材料になる。傷と魔力の回復を促す。


 “月光樹の小枝”

 武器や防具の素材に使える。魔を上昇させる効果を持つ。


 “月光水”

 月光樹の周囲に湧き上がる水。体力・魔力を大きく回復させて傷も癒す。状態異常を直す効果もある。


「“月光樹”って言うんだな。この“月光水”があればポーションを買う必要が無かったな。……うん?樹にも何かあるな」


 よく見ると月光樹の窪みにも水のような物が溜まっていた。触ってみると少し粘り気がある。樹液か?

 こちらも瓶に詰めてみる。池の水と違って量がとれないかと思ったが、取ったら取った分だけまた湧き出している。


 “月の雫”

 月光樹から生成される樹液。量は取れないが絶大な効果があり大金で取引される。体力・魔力を大きく回復させ、欠損部位でも再生させる。状態異常だけでなく呪いにも効果がある。エリクサーの材料の一つ。


 これはとんでもない物だな。今後の冒険がしやすくなったが、絶対に人にバレちゃいけない物の類だな。使用する時はバレないようにしよう。


「キュー♪」

「たぬー♪」


 俺が考え事をしていると、ベルとコタロウは池の中で遊び始めていた。

 楽しそうだとも思ったが、この水は回復薬としてお世話になるからあまり遊ぶのは良くないと思い、二匹に声をかける。


「遊ぶなら温泉に行くぞ。今日はもうさっぱりとしてから休もうぜ」


 すぐにベル達は俺の側へと駆け寄ってくる。そのまま俺達は温泉へと向かう事にした。そして浴室に入るときにちょっとした変化に気が付いた。看板の説明が増えているのだ。


 “月光樹の魔力により効果が上昇しています”


 何か月光樹の恩恵が凄まじいな。

 とりあえず俺達は温泉を満喫する事にした。ベル達は先程の続きとばかりにお湯を掛け合ったりして遊んでいる。そして最近のお気に入りは洗面器の船で遊ぶことのようだ。俺は楽しそうにしている姿を眺めながら、明日のために疲れを癒すことにした。

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